多発性骨髄腫という疾患を知っていますか?この疾患は血液のがんのひとつで、骨に異常を及ぼす特徴のある疾患です。
またその症状はさまざまで、なかなか発見されにくいといわれています。そんな多発性骨髄腫についてまとめてみました。
この記事の目次
多発性骨髄腫とは
多発性骨髄腫とはどんな疾患なのでしょう?
私たちの身体では、骨の中にある骨髄という場所で血液がつくられています。骨髄では、血液の大元である造血幹細胞からいくつもの細胞に分化し、成熟した結果、赤血球や白血球、血小板になって血液中に送り出されます。
その中でも白血球は、いくつかの働きをもつ細胞に分かれているのですが、その中のひとつにBリンパ球という細胞があります。このBリンパ球は、身体の中に侵入してきた細菌やウィルスなどの病原体を見つけると、形質細胞という細胞に変化し、免疫グロブリンという蛋白質を作り、病原体を攻撃して身体を守るという役割を持っています。そしてその後、抗体がつくられるのです。
多発性骨髄腫は、この形質細胞に異常が起きて、増殖し始める疾患です。増殖した形質細胞は、骨髄腫細胞と呼ばれ、この細胞からつくられる免疫グロブリンはM蛋白と呼ばれます。正常な形質細胞からつくられる免疫グロブリンに比べ、増殖した骨髄腫細胞からつくられたものは異物を攻撃し、抗体をつくる能力がありません。さらにどんどん増殖することで、免疫力も低下し、身体にさまざまな影響が出てきます。
さらに普通の健康な身体で、骨髄の中の形質細胞の割合はおよそ1%程度ですが、この多発性骨髄腫を発症すると、骨髄腫細胞がどんどん増殖し、ついには骨髄内すべてを占めるようなこともあります。
患者の多くは50代以上の男性ですが、稀に30代や40代といった若い年代でも発症することがある疾患です。患者数は、女性より男性のほうが多いとされています。
多発性骨髄腫の症状
では具体的に多発性骨髄腫の症状を見ていきましょう。
多発性骨髄腫では、正常な血液よりも、異常な骨髄腫細胞が増殖しつづけ、血液中を占拠することで、正常な血液細胞の役割が果たせなくなります。さらに骨に障害が出てきます。同じような血球の減少で、血液のガンといわれる、白血病などがありますが、骨に異常をきたすのは、この多発性骨髄腫だけです。
骨の異常
異常な増殖をする骨髄腫細胞は、無能な免疫細胞を増殖するだけではなく、骨を壊す物質を出すといわれています。また他の細胞に骨を溶解する物質を出すように命令する、などの働きをします。
そのため骨髄腫細胞が増殖するにしたがって、骨までもろくなっていき、痛みなどが出てくるほか、骨粗しょう症などの症状を発症するのです。そしてさらに病状が進行すると病的骨折といい、少しの力を加えるだけで骨が折れるという状態になるのです。
自覚症状では、骨の痛みを感じる人が多く、さらに原因の分からない骨折や骨の成分であるカルシウムが血液中に溶け出す状態の高カルシウム血症が原因の脱水症状や意識障害、精神障害などが起こります。
血液の異常
骨髄腫細胞が増殖し続けることで、正常な血球が減少することになります。すると、赤血球が減少して貧血になったり、白血球が減少して抵抗力が落ち、様々な疾患に罹る、血小板が減少して血が止まらなくなるなどのさまざまな症状がでてきます。
貧血が悪化してくると、動悸や息切れ、めまいや倦怠感などがでてきます。
腎機能の低下
骨髄腫細胞が作り出すM蛋白が腎臓に影響を及ぼします。M蛋白が腎臓に溜まることやカルシウムが骨に溶け出す、高カルシウム血症、さらにそれが原因の脱水症状や治療の薬などの影響で、腎機能が低下します。さらに症状が悪化すると、むくみや吐き気、尿蛋白の増加などが起こってきます。
そのほか
血液中にM蛋白が増えることで、血液の粘度が高くなります。すると頭痛や皮膚、粘膜からの出血、また視覚障害などの症状が起こります
多発性骨髄腫の原因
では、多発性骨髄腫の原因は何が考えられるのでしょうか?
実は原因がはっきりと分かっていないのが現状です。骨髄腫細胞には、染色体の異常や遺伝子の異常などがあることが分かっています。またその異常の原因として、放射線被爆やダイオキシン、化学薬品などの影響なども考えられていますがはっきりと分かってはいません。
多発性骨髄腫の検査や診断
では、このような多発性骨髄腫はどのように発見されるのでしょうか?診断までにどのような経緯をたどるのでしょうか?
多発性骨髄腫の症状である、背骨や腰骨の痛みや病的骨折、貧血や出血、免疫力の低下などの自覚症状があればよいのですが、無自覚で健康診断などの尿検査や血液検査で見つかることもあります。
検査では、いくつかの検査をし、骨髄腫細胞の有無を確認するだけでなく、合併症などの可能性を考え、全身の臓器について検査をします。
尿検査
多発性骨髄腫の患者の尿では、M蛋白のひとつである、ベンスジョーンズタンパクという蛋白質が確認できるので、この有無を調べます。また腎機能がきちんと正常に働いているかどうかも確認するために、全尿検査という、24時間中の尿をすべて検査するという方法をとります。
血液検査
血液検査では、赤血球やヘモグロビン、白血球や血小板などの数値を測り、造血機能がきちんと働いているか調べます。
また多発性骨髄腫の進行や腎機能障害の状態を、免疫グロブリンの量、M蛋白質の量、カルシウムの量などで調べます。
骨髄検査
骨髄の検査では、骨髄液を採取して顕微鏡などで、骨髄腫細胞の有無や形などを調べます。局所麻酔をした後、腰骨又は、胸骨に針を刺し、骨の中にある骨髄液を採取します。
採取には、かなりの痛みを伴います。また腸骨にも針を刺し、骨髄組織を採取します。この検査では、腫瘍細胞の種類や悪性度などを調べます。
画像検査
CT検査やX線検査,MRI検査やPET検査なども行います。
CT検査では、全身への影響や骨の状態を調べ、X線検査やMRI検査では、頭蓋骨や肋骨、脊椎骨、四肢骨などに円形の穴があるか、また病的骨折などの有無を調べます。またPET検査では、ブドウ糖ががん細胞に集まる性質を利用し、同じような物質でがん細胞の有無や位置を検査します。
またこのような検査には、時間がかかることが多いのですが、医師や医療機関と協力し、早期発見に向けて、疾患について正しく理解し、検査を受け、スムーズに治療を受けられるように努力しましょう。
多発性骨髄腫の進行度(ステージ)
一般的には、多発性骨髄腫という疾患は慢性化することが多く、緩やかに進行します。
進行にはステージというがんの進行を表すものがあります。この多発性骨髄腫には、腫瘍の量、その後の経過の可能性によって、I期、II期、III期の3つのステージがあります。
特に血清β2ミクログロブリンと血清アルブミンという物質は重要で、この数値が高いほど、経過が悪くなるといわれています。
I期
- 血清β2ミクログロブリンが3.5g以内
- 血清アルブミン3.5mg以内
I期は、骨髄腫細胞やM蛋白などがあるものの、その症状はあまりなく、通常の生活や不便なことがない場合に診断されます。治療などは行わず、定期健診や定期的な血液検査などをし、経過観察を行います。
II期
- 血清β2ミクログロブリンが5.5g以内
- 血清アルブミンが5.5mg以内
II期はM蛋白の数値が高く、貧血や骨に異常が見られ、血中のカルシウム濃度の高くなっている場合です。このころから治療が始まります。
III期
- 血清β2ミクログロブリンが5.5g以上
- 血清アルブミンが5.5mg以上
III期もII期と同じようなM蛋白数値の上昇や貧血、骨の異常、血中カルシウム濃度の上昇などがある場合です。
多発性骨髄腫の治療法
多発性骨髄腫と診断され、その症状が現れてくると、治療が始まります。
化学療法
多発性骨髄腫の最初の治療は、病気の進行を遅らせるために、骨髄腫細胞を破壊する化学療法を行います。化学療法は、その効果もありますが、反対に副作用などのデメリットもあるので、医師と患者の信頼関係を築き、丁寧な説明のもと、患者の体調に合わせて行います。
主な薬は、
レナリドミド
この薬は、は多発性骨髄腫の患者に対し、とても有効であると認識されています。
ボルテゾミブ
この薬は、骨髄腫細胞の増殖を抑制するものです。静脈への点滴や皮下注射で投与されます。
サリドマイド
1950年代に妊娠中の退治への先天異常を起こす薬として販売中止になった薬ですが、多発性骨髄腫には有効な治療薬であることが確認され、2008年に再度承認された薬です。現在も妊娠中の患者には使用が禁止されています。男性患者に対しては、避妊を徹底することを強く求めています。
その他
すでに既往症や合併症があるためにレナリドミドやボルテゾミブ、サリドマイドを使用できない場合には、MP療法やデキサメタゾンというステロイド薬の大量投与、VAD療法を行います。
放射線治療
多発性骨髄腫は、放射線がよく効くといわれています。その効果は、腫瘤の縮小や疼痛の緩和です。60歳以下の患者では、大量の化学療法を行った後、このような放射線治療を行うことが多いのですが、65歳以上の高齢者では、体力的な問題もあるため、大量の化学療法は行わず、放射線治療をすることもあるそうです。
疼痛緩和
骨の異常による局所的な疼痛に関しては、多くが少量の局所放射線治療で効果が得られるといわれています。
腫瘤の縮小
腫瘤がつくられている場合、局所的な放射線治療で、腫瘤の縮小が望めます。
自家末梢血幹細胞移植療法
自家末梢血幹細胞移植療法とは、大量の抗がん剤の投与で、正常な血液細胞をつくる機能が失われる可能性があるので、事前に自分の血液を造る元になる造血幹細胞を保存しておいて、大量の抗がん剤治療の後にその保存していた造血幹細胞を元の身体に戻し、血液をつくる機能を回復させる方法です。
自家末梢血幹細胞移植療法では、多発性骨髄腫を完治させることは難しいのですが、効果が長期間続くことが分かっています。
合併症に対する治療
多発性骨髄腫の合併症には、それぞれ次のような治療がおこなわれます。
①急性腎不全
血液透析
②肺炎や敗血症
抗生物質による薬剤療法
③病的骨折や脊髄圧迫症状
外科手術などの治療
④高カルシウム血症
骨を溶かす細胞を抑制する効果のある薬などの薬剤療法
⑤過粘稠度症候群
血しょうの交換
などがあります。
支持療法
支持療法とは、治療に伴う副作用や合併症の予防を主とした治療法です。血液のがんに対しては、この治療法の併用がとても有効です。
白血球の減少によって、様々な病原菌に感染しやすくなります。それらの予防のため、抗生物質や抗ウィルス薬、抗真菌薬などの使用や、貧血に備えて輸血、さらに血小板の減少による流血を防ぐための血小板の輸血、などです。
自分に合った治療法を
多発性骨髄腫では、その治療法もさまざまです。また程度によって、症状もさまざまなので多発性骨髄腫と診断された場合には、担当医ときちんと話し、疾患についての理解を十分にした上で、治療について相談していきましょう。がんと診断されても、日常生活は続くのです。治療も長期間に渡ることになります。医療機関や医師に自分の疾患について丸投げせず、きちんと疾患と向き合い、前向きに治療を選択していくことが大切です。
そのためには、分からないことや、疑問に思うこと、または治療法などのメリットやデメリットなど、積極的に質問しましょう。また最近では、セカンドオピニオンを選択する人もいます。セカンドオピニオンは決して医療機関にとって悪いことではないので、セカンドオピニオンを望む旨を遠慮せずに聞いてみましょう。
また、がん治療においては、疾患の治療だけでなく、治療に対する精神的なケアも大切な要素となっています。看護師や医療スタッフ、ガン支援スタッフなどに相談することも可能です。医師とは違った角度からのケアを望めます。
多発性骨髄腫の治療後の生活
多発性骨髄腫の治療後は、体力の低下や免疫機能の低下などから、さまざまな副作用に悩まされることがあります。脱毛をはじめ、吐き気や嘔吐、口内炎や下痢、便秘、異常な倦怠感や手足のしびれなどの末梢神経の異常です。そのため治療後も定期的な通院が必要となります。
しかし、だからといって、ずっと安静にしている必要はありません。症状が出なければ、日常生活をいつもどおり行うことが必要です。健康的な食事や適度な運動も行いましょう。ただしその際には骨折などに気をつけましょう。また姿勢や行動によっては、弱っている骨に圧迫骨折など、影響が出ますので、気をつけましょう。
また免疫力の低下からくる感染症にも気をつけましょう。ウィルスや菌に対して弱くなっていることを自覚し、調子が悪いなと思ったら、早めに医療機関に受診するようにしてください。さらに腎機能を低下させる脱水症状にならないように、水分制限のないかぎり、日頃から水分補給を心がけましょう。
社会復帰
多発性骨髄腫の患者さんの中には、若い人に限らず、最近では高齢者でも仕事をして、社会で活躍している人が沢山います。社会復帰にはどのようなことに注意すればよいでしょうか?
社会復帰については、多発性骨髄腫を発症する前のようにはいきませんが、一般的な日常生活のリズムに戻していくことは可能です。体力の回復と共に、抗がん剤の副作用も段々と改善されていくことでしょう。最初は少しずつ、だんだん外出や軽い適度な運動など、できることを広げていくのがよいでしょう。仕事も体力に不安がなくなったら、少しずつ初めてもよいでしょう。
ただし、多発性骨髄腫であったことを十分に理解し、再発予防や治療後の感染症などの防止のために、マスクをするなどしましょう。また人ごみなどへの外出には気をつけましょう。そして職場では、疾患のことをきちんと伝え、理解をしてもらい、無理のない仕事量にし、体力などが回復するまでは就労時間の短縮などを求めてもよいでしょう。
周囲の理解を得ること
治療後には、定期的な医療機関への受診が必要ですが、そのほかは体力、免疫力などの面に気をつければ、普段と同じような生活を送ることは可能です。しかし感染症にかかりやすいことや、体力の低下、骨の弱さなど、他の健常者と同じようにはいかないときもあります。
そのような時に、周囲の人の理解を得ていると、日常生活がとても楽になるといいます。疾患のことを理解してもらえるように、謙虚な姿勢で臨めば、家族をはじめ、周囲の人も快く助けてくれるでしょう。家事や育児、仕事など、遠慮せずにお願いしてみてはいかがでしょうか?ストレスも軽減され、体力回復にも効果的です。
まとめ
いかがでしたか?多発性骨髄腫は、知らない間に起こる血液のがんです。この疾患は早期発見が必ずしも治療に有効に働かないといわれますが、早期発見で、治療の可能性が広がることもあります。定期的な検診などを行うのも有効な手段です。