現代の日本社会において、過労死は決して他人事ではありません。
働きすぎたために尊い命が失われてしまう痛ましいニュースは後を絶ちません。自分だけでなく、周囲にいる人たちにも、過労死の可能性はあります。今は大丈夫だと思っていても、いつ襲ってくるかわからないのが過労死の危険です。
ここでは、大切な命を失わないための、過労死の前兆をご紹介します。
過労死とは
まずは、過労死について知っておきましょう。
過労死と呼ばれるものは?
長期間にわたって長時間の残業を続けたり、休日なしで勤務し続けた結果、労働者が精神的・肉体的な負担によって、脳出血、くも膜下出血、心筋梗塞、狭心症などで死亡してしまうことを、過労死といいます。
また、過労が原因で労働者が自殺した場合も、過労死とされます。
労働時間の規定
労働基準法によって、労働時間は1日につき8時間まで、1週につき40時間までと制限されています。また、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合には1時間以上の休憩を与えなければならない、と定められています。
休日については、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない、とされています。
さらに、この労働時間の上限も、原則として1年間につき360時間と定められています。これらを大幅に超えた労働時間が過労死を引き起こします。
過労については、過労による症状を紹介!めまいや発熱は危険のサイン?を読んでおきましょう。
「過労死ライン」
平成13年12月12日、厚生労働省労働基準局長によって「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」が通達されました。この通達を受けて、労働基準監督署は脳疾患と心臟疾患の労災認定の目安となる労働時間を定めました。
これが一般的に「過労死ライン」と呼ばれるものです。この過労死ラインを超えて労働をした場合に、脳疾患や心臓疾患にかかりやすいとされています。
過労死ラインは、
- 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働
- 発症前1か月間におおむね100時間の時間外労働、または、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働
となっています。
ここでの時間外労働とは、労働基準法に定められた「1日8時間、1週40時間」以外の労働を指しています。
また、過労死を引き起こす要因として、
- 業務による異常な出来事(極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の精神的負荷を引き起こす突発的または予測困難な異常な事態)(緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的または予測困難な異常な事態)(急激で著しい作業環境の変化)
- 短期間の過重業務(具体的な要因として、労働時間、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務・深夜勤務、温度環境や騒音や時差といった作業環境、精神的緊張を伴う業務)
- 長期間の過重業務(過労死ラインとされる時間外労働)
が挙げられています。
参考サイト:長時間労働と労災認定との関係(脳、心臓疾患)
過労死とされる疾病
過労死と認定される疾病には、以下のようなものがあります。
脳血管疾患
脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症が労災認定の基準となっています。また、よく聞く「脳卒中」とは、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞を含んだ脳の症状です。
前兆としては、
- 激しい頭痛
- 吐き気
- 嘔吐
- 意識を失う
- けいれん
- 手足の麻痺、しびれ
- 片方の手足だけがしびれる
- 強いめまい
- しゃべりにくい、ろれつが回らなくなる
- 人の話していることがよく理解できない
- 歩きにくい
- 立っていられなくなる
- 視界が狭くなる
- 物が二重に見える
- 文字を思うように書けない
などが挙げられます。
脳血管疾患の疑いがあるときは、脳神経内科、脳神経外科を受診してください。
虚血性心疾患等
心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、解離性大動脈瘤が労災認定の基準となっています。
前兆としては、
- 激しい胸の痛み
- 圧迫感
- 肩の痛み
- 背中の痛み
- 前胸部の痛み
- 左腕の痛み
- 左手小指の痛み
- 足の痛み
- 呼吸困難
- 冷や汗
- 吐き気
- 嘔吐
- 意識障害
- 腹痛
などが挙げられます。
虚血性心疾患の疑いがあるときは、循環器内科を受診してください。
過労による自殺
労災認定の基準にはありませんが、過労によってうつ病などの精神障害を発症して自殺した場合や、うつ病などの発症はなくても過労を苦にした自殺などは労災と認定されることがあります。
うつ病の前兆としては、
- 憂鬱な気分
- 食欲の減退、または増加
- 睡眠障害(不眠、または過眠)
- 興味や喜びの喪失
- 疲れやすさ
- 気力の減退
- 思考力や集中力の低下
- 精神運動の障害(イライラして足踏みをする・落ち着きがないなどの「強い焦燥感」、身体の動きが遅くなる・口数が少なくなる・声が小さくなるなどの「運動の制止」)
- 強い罪責感 ・自殺への思いが強くなる
などが挙げられます。
うつ病の疑いがあるときは、精神科、心療内科を受診してください。
過労死を防ぐために
過労死を防ぐ方法について知っておきましょう・
本人にできること
1.医療機関を受診する
医療機関を受診することで自分の身体を治療し、過労死を防ぐことができます。また、医療機関によって「過労」と認められた場合には、雇用主に自分の状況を客観的にわかってもらえるきっかけになり、労働条件を変えられる可能性があります。
過労死の危険を感じたら、速やかに医療機関を受診することをおすすめします。
2.産業医に相談する
会社の中に、健康・安全衛生を担当する「産業医」という医師がいる場合、相談することで労働条件が変えられる可能性があります。
産業医は、従業員からの長時間の勤務による体調不良の訴えがあった場合に、会社や職場に業務体系の改善を求めたり、訴えを起こした本人をの配置転換を行うように働きかけることができます。
職場に産業医がいる場合は、まずは相談してみましょう。
3.組合を通じて会社と交渉する
交渉の結果、労働条件が改善される可能性があります。
交渉の際には、データが必要ですので、毎日の残業時間と成果などの記録をとっておくと良いでしょう。タイムカードもデータとなります。
4.正規の残業代を請求する
会社では、コストカットをしたいがために、残業代を払わないまま長時間労働をさせている場合があります。請求が認められて労働者に正規の残業代を払わざるをえなくなれば、会社側は長時間労働をさせることを控える可能性があります。
5.労働基準監督署に報告する
いわゆる「内部告発」です。労働基準監督署に報告を行い、雇用主を指導してもらうことができます。この際にも、タイムカードや残業時間の記録などのデータが必要となります。
しかし、この方法は、報告した本人が退職に追い込まれる可能性があります。匿名で報告することも可能ですが、退職の可能性は否定できません。
また、報告をしても労働基準監督署が多くの案件を抱えているときや、報告の内容の重要度によっては、労働基準監督署が指導に乗り出してくれない場合もあります。
6.弁護士の無料電話相談を利用する
平成26年に施行された「過労死等防止対策推進法」により、弁護士が過労死に関する無料電話相談を開始しました。この電話相談は全国ネットワークで行われています。弁護士に過労死、過労自殺、労災等の相談をすることができます。
7.退職する
思い切って退職するのも、過労死を防ぐ一つの手段です。自分で納得できない、周囲の理解が得られないなど、退職できない理由もあるかと思いますが、最終的に大切なのは、自分の命です。
退職することも選択肢の一つとして考えておきましょう。
周囲にできること
1.体調の変化に注意する
周囲から見たら明らかに過労である場合にも、本人は体調不良を感じていない場合があります。また、本人は死に至るほど疲れていると感じていない場合や、過酷な労働状況に慣れてしまっている場合もあります。これは、過酷な労働が長期間続くことで、体の中の疲れを感知する機能が壊れてしまうことがあるためです。
顔色は悪くないか、睡眠は足りているか、急激な体重の変化はないか、食欲はあるか、などの体調の変化を、本人に代わって周囲が注意して見ていくことが大切になります。
また、本人が「自分は大丈夫」「まだやれる」「自分が仕事に行かなければ(代わりはいない)」「休んではいられない」などと言うことがあれば、かなり危険な状態といえます。早期に医療機関を受診するように勧めましょう。
2.本人にストレスを与えない
本人にストレスを与えないようにすることも大切です。過労による苦しみの上に、周囲からストレスになるようなことをされては、ますます苦しくなってしまいます。本人がなるべくリラックスできるように気を配りましょう。
3.自分はいつでも味方であると伝え続ける
本人が過労で体調が悪いとき、もう駄目かもしれないと思ったとき、退職したいと思ったときなどに、本人を責めたりせず、ゆっくりと体調を戻していいと言えるように、自分はいつでも味方だというメッセージを伝え続けましょう。
言葉にしなくても、行動などで伝え続けることも、苦しんでいる本人にとっては支えになります。
4.本人に代わって労働基準監督署に報告する
本人に代わって第三者が匿名で情報提供をすることもできます。やはりデータが必要となりますので、本人が記録をとっていないようであれば、代わりに残業時間の記録などをとったり、本人にタイムカードについて訊ねてみましょう。
まとめ
命はかけがえのないものです。会社にとって代わりの労働力はいくらでもいますが、人間の命には代わりがありません。
働く人にとって大事なものは、まず自分の体と家族、次が仕事です。大切な命を失わないように、過労死の前兆がないか十分に注意してください。少しでも前兆が見られた場合には、速やかに医療機関を受診するか、しかるべきところへ相談し、かけがえのない命を守ってください。
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