アルコール性肝障害は、お酒が原因となる肝臓の障害全般を指します。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれることもあり、自覚症状が現れた時には既に症状が進行していて治療ができない状態ということもよくあります。
肝臓が、アルコールによってどのように障害を受けていくのか、どのような自覚症状が現れてくるのかを知っておけば、重症化する前に気づくいて対応することができます。
この記事の目次
アルコール性肝障害の原因は「お酒(アルコール)」です
お酒を飲んだ際に、体内に入ったアルコールの約90%は肝臓で分解されます。このアルコールは最終的には水と二酸化炭素に分解されますが、無毒化する際に、有害な中間体として「アセトアルデヒド」が発生します。
「アセトアルデヒド」は、二日酔いの原因物質として有名で、頭痛・吐き気・発汗などの症状を引き起こします。この「アセトアルデヒド」はタンパク質やDNAなどに結合して、様々な疾病の原因となることが指摘されています。
長期間・大量に飲酒することで、アルコール自身やアセトアルデヒドなどが肝臓を損傷させ、炎症や細胞の壊死、そして肝硬変へと症状が悪化していきます。症状が現れる順番に見ていきましょう。
初期:アルコール性脂肪肝
アルコールの分解は肝臓に負担をかけることになりますが、損傷した部分は再生されて正常な状態に戻ります。しかし、大量のアルコールを処理している間、肝臓はアルコールの分解を優先させ、脂肪の分解・胆汁の生成などの本来の働きが機能していません。このため、大量のアルコールを長期間に渡って摂取し続けると、脂肪の分解が滞り、肝細胞内に脂肪が過剰に蓄積され続けて「脂肪肝」となります。
「脂肪肝」とは、肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積した状態です。アルコールも原因になりますが、それ以外にも肥満や糖尿病の方はリスクが高いので注意が必要です。
中期:アルコール性肝繊維症
さらに症状が進行していくと、肝臓の損傷した部位を修復するために血小板などの血球成分などが凝集します。凝集した部分にコラーゲン繊維が付着して、肝細胞の繊維化が起きます。
(皮膚で例えるなら、かさぶたができた状態です)本来は臓器を修復するための機能ですが、コラーゲン繊維による修復が増加することで、滑らかだった肝臓の表面はゴツゴツしてきます。肝臓は硬く小さくなっていき機能障害を起こします。この状態を「繊維化、繊維症」と呼びます。
急性症状:アルコール性肝炎
常習飲酒者の飲酒量が急激に増加することで、肝細胞が変性・壊死し炎症を起こした状態です。脂肪肝から肝硬変へと至る中間段階と見なされることが多く、肝炎を繰り返すことで肝臓の硬化が進行していきます。
末期:アルコール性肝硬変
肝臓が完全に硬化してしまい、血液循環が滞るようになります。血液循環が悪くなると、肝臓が本来の機能を果たせなくなる「肝硬変」へと至ります。
どれくらいの量と期間お酒を飲むと危険なの?
継続的な飲酒が、肝臓に回復不可能なダメージを与えることは既に説明しました。それでは実際に危険となる飲酒量はどのくらいなのでしょうか?アルコール摂取量は、飲んだお酒の種類に関係なく、アルコール度数と飲酒量から純アルコールに換算してグラム表記します。
・摂取量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)
欧米では、アルコールのADI(Acceptable Daily Intake、1日当たりの許容摂取量)は30g程度だと言われています。白色系/黒色系と黄色系人種では、持っているアルコール分解酵素の活性が大きく異なります。白色/黒色系ではほぼ100%持っているADH2というアルコール分解酵素活性が、黄色系人種では、低いか全くないかのどちらかの人が約40%もいます。
さらに、黄色人種の方が白色系/黒色系より体格も小さいため、30gでも安全だとは言えないと考えられています。ちなみに国と厚生労働省が進めている「健康日本21」に記載されている目標値は、20g/dayとなっています。
アルコール20gがどの程度の量かというと、ビールでは500mL(中びん1本)、日本酒では180mL(1合)、ウイスキーでは60mL(ダブル一杯)、焼酎では110mL(0.6合)が目安です。通常の宴席ではもっと大量のアルコールを摂取すると思いますが、20gは毎日飲むことを想定している数値です。一時的に超過しても問題はありません。しかし、超過し続けると問題となってきます。
アルコールの飲みすぎを知らせるサインでもある「アルコール性脂肪肝」は、日本酒5合(アルコール約100g)を5週間飲み続けるだけでなってしまうと言われています。「アルコール性脂肪肝」は自覚症状がないため、血液検査などで異常を指摘されるまで気が付かないことがほとんどです。肝臓が「繊維化」してしまうと、治療が長期間になり肝臓へダメージが残ることもありますので、「脂肪肝」の状態で発見し、減酒・禁酒することが重要です。
「脂肪肝」や「肝炎」などの症状が現れたにも関わらず、継続的に毎日大量飲酒(アルコール100g以上)した場合、男性で20年・女性では13年程度で「肝硬変」に至るといわれています。男性では40歳以上、女性では35歳以上から発症率が高くなります。
男性と女性でアルコールの影響が違う訳
ではなぜ男性と女性では、アルコールの影響が異なるのでしょうか?同量のアルコールを摂取しても、女性の方が血中濃度が高くなる傾向にあります。主に身体の男女差に由来しているので、大柄な女性でも小柄な男性よりもアルコールの影響を受けやすいことが分かっています。
最近の研究では、「乳がん」の発症率が高くなることもわかってきました。女性は男性よりもアルコール摂取に慎重になる必要がありそうです。
理由1:筋肉量
肝臓で処理しきれなかったアルコールは、筋肉などでも吸収・分解されることになります。一般的に男性のほうが女性よりも筋肉量が多く、筋肉量の少ない女性は、男性よりも血液中のアルコール濃度が高くなる傾向があります。
理由2:肝臓の大きさ
肝臓は体重の約3%と、人体でも大きな臓器です。肝臓の大きさは体格に比例するため、平均的な重量は女性で1,000~1,200g、男性は1,200~1,400gとなり、女性は体格が小さい分だけ肝臓も小さくなります。大きな肝臓はより多くのアルコール処理が可能となるため、女性は男性と同じ量のアルコールを摂取した場合、分解する速度で負けてしまいます。そのため、血中のアルコール濃度が男性よりも高くなる傾向があります。
理由3:脂肪量
年齢によって多少基準値は異なりますが、男性の体脂肪率は14~20%・女性は20~28%が標準とされています。アルコールは筋肉には取り込まれ易く脂肪には取り込まれにくい性質があります。よって脂肪量の多い女性は、男性と同じ量のアルコールを摂取しても、血液中のアルコール量は多くなってしまいます。
理由4:体重
血液の量は体重に比例します。男性で体重の8%、女性で体重の7%が標準的な数値となります。体重が同じでも、男性のほうが女性より体内の循環血液量が多いことがわかります。この血液量の差が、同量のアルコールを摂取した際の、女性の血中アルコール濃度が高くなる理由です。
アルコール性肝障害の自覚症状
肝臓に異常があっても、初期段階では肝臓だけに特徴的な症状がでる訳ではありません。初期段階では、風邪や疲労と似たような症状があります。
症状が進行して明らかな自覚症状が現れてきたら、かなり症状は進行していると考えられます。初期症状の段階で、疑いを持って血液検査をしてみることが重要です。明らかな自覚症状が現れていたら、直ぐに受診して治療を開始してください。
初期症状
- からだがだるく、疲れやすい
- 食欲がない
- 微熱がある
- 脂っぽい食べ物が食べられない、食べてももたれる
- 少しの運動で息が上がる
- 理由もなく全身がかゆい
- こむら返りがよく起きるようになった
- 突然お酒が飲めなくなる、飲みたくなくなる
明らかに肝臓に異常がある際の自覚症状
- 白目の部分が黄色くなる、全身が黄色くなる(黄疸)
- 尿が濃い黄色になる
- 手のひらが赤くなる
- 出血しやすく、血も止まりにくくなる
- 男性なのに乳房がふくらんでくる
肝機能に関連する検査項目の読み取り方
血液検査をした際に、結果をじっくりと読んだことのある人は少ないのではないでしょうか?総合判定と再検査の有無だけしか見ないという人がほとんどだと言われています。
でも少し待ってください、。もしあなたが毎日お酒を飲むのであれば、肝臓に関連する3つの数値だけでも注意して確認するようにしてみてください。毎年上昇傾向にあるようであれば、肝臓に負担がかかっているサインです。生活習慣を見直した方がよいかもしれません。
この3項目の単位はIU/L(International Unit/Litter)です。
AST(Aspartate Aminotransferase) アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
以前はGOT(Glutamic-Oxaloacetic Transaminase、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)と記載されていましたが、国際的にASTに統一されました。
この酵素はアミノ酸代謝に重要な役割を果たす酵素で、心臓・肝臓・筋肉など多くの臓器に存在します。外傷や細菌・ウイルス感染によって組織が破壊されると血液中に漏出します。基準となる範囲は以下の通りです。
低値 標準範囲 軽度高値 中度高値 重度高値
ー8 8ー30 30-100 100-500 500-
ALT(Alanine Aminotransferase)アラニンアミノトランスフェラーゼ
以前はGPT(Glutamic-Pyruvic Transaminase、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)と記載されていましたが、国際的にALTに統一されました。
この酵素もアミノ酸代謝に重要な働きをする酵素ですが、そのほとんどが肝臓に存在します。肝臓が損傷すると血液中に増加する酵素なので、肝細胞に障害があるかどうかを調べるための重要な項目です。
低値 標準範囲 軽度高値 中度高値 重度高値
ー4 4ー45 45ー100 100-500 500-
γ-GTP(Gamma Glutamyl Transpeptidase)ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ
この酵素は、肝臓・腎臓・膵臓などに多く含まれています。解毒作用に関連している酵素で、アルコールや薬物を服用していると高値になる傾向があります。肝臓や胆管の細胞が損傷した際に血中に流れ出すため、肝臓や胆管の損傷度合を調べる項目となります。
低値 標準範囲 軽度高値 中度高値 重度高値
男性 ー10 10ー50 50ー100 100-500 500-
女性 ー6 6ー32 32ー100 100-500 500-
検査結果からわかること
- 検査結果:AST↑ ALT↑ 肝臓に損傷や異常あり、精密検査が必要
- 検査結果:AST正常 ALT↑ 肝臓がん、脂肪肝、肝硬変、肝炎などの疾患
- 検査結果:AST↑ ALT正常 心筋梗塞、細菌・ウイルス感染症など肝臓以外の疾患
- 検査結果:γ-GTP↑(100以下) 軽度の脂肪肝、生活習慣改善で正常値へ
- 検査結果:γ-GTP↑(100以上) 脂肪肝、胆管炎などの疾患、精密検査が必要
肝臓の異常で真っ先に疑うべきは、アルコール性肝障害ではなくウイルス性肝炎
肝臓で異常が発見された場合、その約70%はウイルス性肝炎です。飲酒が直接の原因となる、アルコール性肝障害は約5%程度しかないと言われています。
近年では、アルコール性肝障害と考えられていた患者の中にもC型肝炎のマーカーが陽性となるケースが増えてきていて、今後の研究によってさらに増加する可能性があります。
C型肝炎ウイルスのキャリア(感染しているが発症していない持続的感染者)は、お酒を飲むことで症状が急激に悪化する可能性があるので注意が必要です。ここでは肝炎ウイルスについて簡単に触れておきます。
A型肝炎
主に水や食品を介して感染します。日本国内では、衛生状態の改善によって患者数が激減しています。
そのため、若い世代ではA型肝炎ウイルスの抗体を持っておらず、輸入食品や海外旅行で発症する事例が多く報告されています。慢性化することが少ないことも知られています。
詳しくは、A型肝炎とは?症状や原因、予防接種の必要性について知ろう!を参考にしてください!
B型肝炎
感染者の血液や体液を介して感染します。遺伝子型(ジェノタイプ)によって、大きく特徴が異なることが知られています。日本国内では、母子感染防止のためのワクチン接種や感染防止対策の強化によって感染者は激減しました。
国内で感染が多いのは、ジェノタイプBとジェノタイプCで、通常は健康な成人が感染しても慢性化しません。しかし最近、慢性化しやすい欧米型のジェノタイプAが性的接触などによって国内でも増加傾向にあります。
詳しくは、b型肝炎の予防接種に副作用はあるの?対処方法や注意点を紹介!を読んでおきましょう。
C型肝炎
主に血液を介して感染します。以前は輸血や血液製剤による感染が大きな問題になっていましたが、高感度C型肝炎ウイルス検査ができるようになってからは、それらによる感染は激減しました。性的接触による感染例は少ないですが、ピアス穴を開ける際の不衛生な処置や入れ墨用の針の不衛生な扱い、覚せい剤など注射の回し打ちによって感染します。全感染者の約70%が慢性化してウイルスのキャリアとなります。その後20年で約40%のキャリアが肝硬変となり、肝硬変を発症した患者の約7%が肝がんとなります。
日本では、年間約3万人以上の方が肝がんで亡くなっていますが、そのうち約80%はC型肝炎ウイルスが原因となっています。
詳しくは、C型肝炎は完治するの?症状や治療方法を紹介!を読んでおきましょう。
D型肝炎
B型肝炎ウイルスに感染している人のみが感染します。多重感染によって肝炎の症状がが増悪することが知られています。
E型肝炎
主に水や食品を介して感染します。イノシシ、シカなどの野生動物のレバーや加熱が不十分な肉を食べることによる感染例が多く報告されています。慢性化することはありませんが、妊婦が感染すると重篤な症状が発生することがあります。
まとめ
アルコール性肝障害は治る病気です。それにはまず断酒することが必要となります。一定期間お酒を断ち、適度な運動をするだけで症状は劇的に改善します。
脂肪肝であれば、断酒1ヶ月程度、飲酒量を抑えて休肝日を設ければ3か月程度で肝機能は回復します。
肝繊維症になると症状に個人差が大きくなるので何とも言えませんが、6ヶ月程度の断酒で機能は回復してくるといわれています。
肝硬変になってしまった場合でも、あきらめることはありません。残念ながら治癒することは難しいですが、生活改善と適切な治療を組み合わせることで、肝臓の機能を10~20年程度維持することができます。
血液検査において、AST・ALT・γ-GTPに異常が見られたら、まずはお酒をやめてみてください。それで数値が正常に戻れば、明らかにお酒が原因です。お酒をやめても数値が戻らない場合は、なるべく早く受診するように心がけてください。
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