放っておくと、命にも関わる腹部大動脈瘤は、腹部中央の辺りにある大動脈が何らかの理由でふくらみ、それがどんどんと大きくなることです。これは進行してそのままにしておくと破裂する可能性があり、万一破裂した場合は、命にかかわります。
大動脈は身体の重要なところを流れており、身体中に血液を送り込む重要な役割を持っている血管です
さまざまな理由により、発症する訳ですが、後天的な理由によるものが多く、普段の生活習慣の乱れなどが大きく影響しています。
今回はその腹部大動脈瘤についてお伝えいたします。
腹部大動脈瘤とは
ほとんどが知らない間に進行し、通常は特に検査をするようなものではないので、発見が遅れることがほとんどです。これは大動脈が通常の血管の直径が1,5倍ほどの大きさにふくれてしまうことです。
運よく胸部X線検査で発見されることがあれば、すぐにでも対応できで施術などをしない保存治療ができますが、診断だけでは発見しにくいというのが実情です。
身体を流れる動脈、静脈
人間の身体には血管があらゆる所に網羅しており、栄養、酸素、老廃物などを運んでいます。
その中で動脈は心臓から出て酸素や栄養素を取り込み、全身にそれらを運ぶ役目を担っています。逆に静脈はその帰りみたいなもので、老廃物や二酸化酸素などをそれぞれきれいにする内臓を経由して、心臓にもどってくる役目を負っています。
心臓が鼓動するたびにこのような動きを行っており、命の根源ともいえる動きを死ぬまで行っています。
大動脈瘤
大動脈瘤には何種類かありますが、瘤とあるからには、そのふくらみが血管に見られることです。このふくらみのも何種類かあるのですが、その形状などによっても重症度が違ってきます。
ただ単に瘤ができているだけなら問題ないのですが、この部分に血栓といって血の塊や脂肪分などがこびりつくと、どんどんと詰まってきてふくらみ、やがて血管がやぶれるということが起きます。
しかも厄介なことに、このふくらんでいる時はほとんど自覚症状がありません。つまり、痛みもないし、重いということもあまり感じないので、知らない間に進行していてふくらんでしまい、ある日突然血管が破れるということになるのです。
時間が経てば、ある程度は治まるかもしれませんが、破裂すると当然内臓の中が血で溢れ、血液もきちんと流れないということになり、命の危険にさらされる訳です。
動脈瘤の種類
この動脈瘤がどの場所にできるかによって、名称がそれぞれ違っており、心臓血管外科や血管外科がある病院においてエコー検査やCT検査、音波検査などでその状態を確認します。
腹部大動脈瘤
お腹の部分の中央に位置する大動脈が、いろいろな理由により詰まってしまい、流れが悪くなってしまう病気です。そのほとんどは、自覚症状もなく知らない間に進行してしまいます。
この破裂を引き起こしますと、めまい、失神、脱力感などが自覚症状として現れ、普通ではいられない状態となります。
ごく稀なケースとして、腎動脈にも瘤ができることがあります。この場合も破裂などの恐れがあります。
大動脈基部拡張症
主に遺伝的要素が強いこの病気は、心臓と大動脈がつながっている部分が拡張してしまうことです。その結果、血液の逆流があるなど非常にやっかいなものであり、場所も心臓に近いこともあり、切開手術で対処する場合には非常に難易度が高いとされています。
この際に主に行われる手術が何通りかあります。Bentall手術やCabrol手術という人工血管置換手術となり、弁置換という人工弁にする心臓外科手術がその方法です。
また、David手術とYacoub手術は基部の弁を温存する方法で、それを実際に行った医師の名前が付いています。それぞれは状況にあった手術法を用います。
下行大動脈瘤
この部分は心臓から動脈が出てきて、腰の辺りで分かれる枝血管という部分までを下行大動脈といいます。別れた先は腸骨動脈といい、これは左右の二つあります。この部分に瘤ができてしまうことで、最初から手術とはならずに投薬による治療を主に行います。
手術の際には二股に分かれた人工血管を使います。この場合の手術はかなりの大掛かりのものとなります。血液を止めると同時に、人工心肺装置に置き換えて、血液を体外循環させます。今でこそ死亡率は激減していましたが、それこそ以前は確率的にも低い術でした。
上行大動脈瘤
心臓や脳に近いこともあり、この部分に瘤ができることは、他の部分にも増して危険性が高いと言えます。下行、上行、弓部の三個所は胸部大動脈にあたり、腹部とは分けて考えます。
弓部大動脈瘤
胸部の大動脈瘤では最も発生率が高いもので、やはり動脈硬化が原因となるのがほとんどです。ここに瘤ができた場合には脳梗塞を併発することが多いため、治療は慎重に行うと共に、人工血管での対処となり、状況によっては心臓の弁に異常などがある場合は人工血管や人工弁の交換などの外科治療を行います。
以前は脳梗塞、脳障害の併発が多かったのですが、脳と脳血管を守る治療法も合わせるようになってから、死亡率も現在では数%と減少しています。そういう意味では治療成績も格段にアップしています。
胸部大動脈瘤
心臓近辺にある大動脈に瘤ができるもので、これもやはり気づきにくく症状も出にくいとされています。特徴としては声がかすれるなど、声帯に異常を感じることがあります。また、気管に圧力がかかることもあり、その場合は呼吸困難が起きたり、食道へも圧力がかかり物を飲み込みにくい症状が出ることもあります。
破裂の際には、心臓など循環器への影響も考慮し対処することが重要になります。
動脈瘤の形状、形態など
瘤の形や血管のふくれ方も種類があり、その形状、形態で対応も若干違ってきます。
紡錘状
大動脈の血管の壁が全体的にふくらむ状態です。通常の見え方だと、風船のようにぷくっとふくらんでいる状態です。
嚢状(ほうじょう)
大動脈の血管の壁の一部分がふくらんだ状態で、血管の片側だけがふくらんでいます。一方的な圧がかかることにより偏ったふくれ方になっています。
真性
大動脈の血管の中は、膜があり、外側から外膜、中膜、内膜との三層からなっています。この三層ともふくらんで、径が均等な状態を真性大動脈瘤といいます。
仮性
大動脈の三層ではなく、一層のみとか二層のみがふくらんでいる状態を仮性といいます。
解離性
血管の一番内側の膜が亀裂して血液がその血管壁に入り込むために、膜が剥がれてふくらみ、瘤が出来るものです。
腹部大動脈瘤の原因
いろいろな原因が絡み合うこともあり、その判断が難しいこともあります。ですがそのほとんどが動脈硬化症や高血圧に因るものとなっています。
動脈硬化
原因の一位二位がこの動脈硬化です。年齢と共に、動脈が硬化していくんのですが、普段の生活習慣がみだれたり、喫煙の習慣などがあると、かなり年齢に関係なく若い人でも動脈硬化が始まっている人もいいます。
ストレス
大きな病気のその背後にはほとんどといっていいほど、このストレスが絡みます。そして厄介なことにストレス単体では発症することは少なく、必ず他の病気も弊害として発症します。
高血圧
血圧が高いと血管内の血流に勢いが増し、血管に血液が当たることにより、血管がダメージ受けやすくなります。よって、この高血圧を改善することが望ましいと言えます。
喫煙
これも他の病気を引き起こす原因の一つとして必ず出てきます。吸っている煙自体に有害なものた大量に含まれている上、身体に必要な成分を排出もしくは浪費することにより、動脈硬化の度合いが非常に強く出ます。やはり喫煙自体を止めるべきと思います。
糖尿病
多くの合併症を引き起こす糖尿病ですが、動脈硬化の根源でもあります。特に血流障害などで動脈壁が弱くなる一方、動脈解離も起きやすくなります。
今現在が状態の悪い人は、悪化させないようにすることが肝心です。
高コレステロール血症
血中コレステロールが高いと動脈硬化を引き起こしやすくなります。コレステロールはある程度身体には必要で、悪玉善玉と分けられていますが、双方とも必要なものです。
特に悪玉が多いと問題になりますが、その比率が善玉1に対し悪玉1,5の比率であれば、まったく問題ありません。逆に悪玉が少な過ぎてもいけないのです。無理にコレステロールを減らす必要もありません。
遺伝子因子
遺伝子による影響も考えられます。また、家族の中にその要素を持っている人がいると、かかりやすい傾向にあります。この家族歴というのは、血縁の者が過去にかかったことがあったり、現在かかっている病気のことです。
親とその子は遺伝子を半分引き継いでいますから、特定の病気にかかるリスクも必然的に似てきます。家族にその病気にかかった者がいると、その他の人もかかる可能性が高いということをあらわしています。
男性
やはりこの動脈瘤は圧倒的に男性が多いということになっています。比率であらわしますと、おおよそ7対1ぐらいということです。
なぜ男性の率が高いかどうかの理由は解明されていません。血管の柔軟度が影響をしているものと考えられると同時に、糖化も影響していると考えられます。
糖化とは炭水化物を大量に摂取すると、糖となって蓄積されます。炭水化物を多く摂取すると、老化が進行しやすくなります。これが身体中のあらゆる部分に現れます。当然血管も老化し固くなることで動脈硬化となる訳です。
最近は炭水化物ダイエットなるものがありますが、これは炭水化物を控えることにより老化を抑えると言われていますが、まさしくその通りで炭水化物は男性が多く取る傾向にあるのもうなずけます。
また、男性は特に、喫煙率が高く、食べ物も外食が多く、飲酒の習慣がある人が多いので、そういう事柄が積み重なって男性の罹患率が高くなるといっても過言ではありません。
60歳以上
年齢を重ねることはいわゆる老化ということですから、当然血管も年を取り、柔軟性を失っていきます。高齢者はそういう意味でも必然的に動脈瘤も出来やすいと考えられます。
腹部大動脈瘤の症状
動脈瘤に関しては、似た症状を引き起こしますが、主に腹部大動脈瘤についての症状を挙げます。
めまい
血流が悪く、必要なところへと血が流れないなどの影響でめまいを起こします。
ある意味、貧血に近い状態ともいえます。瘤が破裂した場合は同然、めまいどころか意識を失うこともあります。
動悸
血流が悪くなっていることが一因として考えられます。血液は酸素を身体の隅々まで運び、身体の活動を活発させる元になります。
この血流が悪いと酸素の運搬率も落ちますので、酸素不足が生じます。そのために少しの運動や歩行だけでもすぐ疲れるとか、息切れがし、これが動悸とつながります。
腰痛
直接的には影響がないと思われる部分ですが、大動脈瘤では腰痛を伴うこともあります。腰痛の内、背骨から腹部にかけての腰痛を感じ、鈍痛、しこりがある時は要注意です。
お腹の張り
大動脈がふくれていることで、お腹の張りを感じます。実際には、何が原因かわからないことも多く、特に肥満体質の方で腹部に脂肪がついている場合は、非常にわかりにくい症状といえます。
腹部大動脈瘤の治療法
発見もなかなか難しいのですが、この瘤は一度ふくらんでしまったら、何をしてももとの血管には戻りません。このほとんどが当然、手術適応しているかの治療方針を確認してからとなり、手術治療となります。緊急手術での対応を早くしないといけないケースがほとんどです。
降圧剤の投与
高血圧の人はほぼ処方されることになります。とにかく瘤の破裂は避けなければいけません。そのためには血圧コントロールが必要となります。これは破裂を避けるためだけではなく、瘤がふくらむというそのスピードも遅らせる効果もあります。
多少のふくらみの瘤があっても、破裂さえしなければそれほどの心配をすることはありません。その場合は、開腹手術をすぐに行うのではなく、経過の観察を行いながら、手術方法の見当をして、その手術の適応も考慮して上での実施となります。
瘤が発見されて、そのままでいることはおそらくないのですが、これが成長し大きくなるようであってはいけません。
ステントグラフト治療
瘤の部分に人工的なパイプをはめ込むことにより、瘤の部分を強化、破裂を防ぐというものです。足の付け根からカテーテルという血管内をチューブで通して、疾患の部分へパイプを運びこむ手術となります。
ステントグラフト手術は身体を切ることなく血管を人工血管に変えることなく保存的治療となることから、安全性があり、破裂頻度も減り、入院期間も圧倒的に短くすることができます。主に外科手術での治癒の適応基準に合っていることが条件となりますが、非常に有効な方法です。
このステント治療は血管内に特殊なパイプを入れることでは心筋梗塞や狭心症でも行われる方法です。
手術
手術による治療法は、動脈瘤の大きさなどにより違ってきますが、瘤のできた血管をそっくり人工血管に換える治療方法です。手術技術の向上により、成功率も高まり、人工血管の材質は耐久性のあるものなので、人工血管置換術をすることにより、ほぼ半永久的に耐用できます。
ただ風邪などから感染症にかかりやすいというデメリットはありますが、現在では重症患者に対してはこの方法が有効です。
術後は、この感染症にならないように体調の管理を含め、歯の治療にも十分な対応が必要となります。
腹部大動脈瘤の予防法
特に自覚症状がないまま進行しているため、予防をすることは不可能です。
ただし、普段からの心がけ次第で、瘤ができないような状態にすることは可能です。
食事
原因の多くは動脈硬化と高血圧です。これはある程度は食事でカバーできます。とかく人の身体というものはその人の食べたもので出来ているので、その食べ物をどうするかで変わってきます。体質というものもありますが、ほとんど人があまり気をつかわないで特に大人は食べたいものだけを好きなだけ食べていることにより、身体の不調を引き起こしているのも事実です。
添加物の入っているものを避け、身体にいい油をとることにより全く違ったものになります。ここでは細かくは書きませんが、健康志向のサイトには、十分な情報がありますので、是非参照にしていただきたいと思います。
禁煙
言わなくても解ると思いますが、これも絶対によくないものです。さらに、回りにいる人も副流炎として吸いこんでしまう危険があるので、政府を含め民間の団体や関係者は早々に対応していただきたいものと考えます。
タバコを吸い続けることで、血管が固くなり栄養素が無駄に使われます。よって、動脈硬化はもとより、血液内にも老廃物などが増え、なんらいいことはありません。
他の病気にも大いに影響するものですが、腹部大動脈瘤もその原因の一つで、止めることにより少しずつではありますが、変わってきます。
アルコール
適度のアルコールは気分をリラックスさせ、精神的にもよいとされます。ですが大量かつ頻繁に摂取することはよくありません。
過剰に摂取すると、血管の柔軟性が損なわれ、動脈硬化を引き起こします。特に飲酒とともに血圧が上がることが報告されています。よって、アルコールは、少量をたしなむ程度が理想的です。
ストレスの緩和
日々の仕事の疲れ、ゆっくりとせずせかせかとしたり、休みも十分でない時はかなりのストレスがたまります。ストレスはある程度は必要なものですが、現代は過剰にストレスを受けやすい社会となっています。
自分ではあまり感じていなくても、ゆったりと意識的にすることが血管を若く保つ秘訣でもあります。
腹部の保護
お腹を強打することは動脈硬化を起こしている人には危険であると共に、血管の壁がその衝撃により、虚血や剥離、傷により瘤が出来やすくなります。
また打撲により、血管が破裂することがあります。その他にもお腹をきつく締めるような服を着ない、ベルトもきつくすることは避けることが望ましいとされています。
これに関連して、重いものを無理して持ち上げることなども、血管に負荷がかかることで、腹部大動脈瘤が出来やすいとされています。
入浴などの生活習慣について
極端に温度の高下する状態になると、急に血液の流れが増えたり減ったり、血管への圧力がかかり過ぎ、破裂する危険性が高まります。お風呂に入る時の急激な温度の低下は血管が急激に縮まることになり、その反動で血流に勢いが増すなどの危険な状況になります。
また、トイレでの大便をする際の力みも危険です。これなども血圧が急上昇することにつながり、よくありません。当然普段から便秘気味の人にも注意が必要となります。
まとめ
いかがでしたか。今回は腹部大動脈瘤についての記事でした。
大動脈はどこも圧力がかかりやすい部分であるため、このような瘤が出来やすいとも言えます。血管が若々しい状態であれば、圧力がかかっても血管は血液が当たってもはじいてくれるのですが、動脈硬化などを起こしていると、圧がかかっているところは脆くなり、その状態が続くことにより何らかの影響を被ることは当然といえます。自身で気づきにくいということも非常に厄介な病気といえます。
主に生活習慣に乱れがある人が、特にかかりやすいと言える病気ではありますが、ほとんどの人は無知によりかかってしまう病気です。
特に現代はそのほとんどが食事の影響と言っていいでしょう。知らず知らずの内に、血管を老化させてしまっていることをきちんと認識することが重要です。そして、その認識をさらに予防へとつなげるようにしていただきたいと思います。
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