私たちの身の回りには、数え切れないほどの細菌が存在します。口の中、皮膚…それだけではなく、例えばスマートフォンの画面なんかにも非常に多くの細菌が存在しています。目には見えないですが、細菌と一緒に生きているといっても過言ではないでしょう。
菌血症はそんな細菌がなんらかの原因で血液中に侵入してしまった状態です。これにより、しばし面倒な症状を発症することがあり、注意が必要です。
では、菌血症とはどのような病気なのでしょうか。原因や症状、その他のことについてもみていきましょう。
菌血症とは?
菌血症とは冒頭で述べたように、血液中に細菌が侵入している状態です。普段、血管は管ですから、閉鎖的な空間です。しかし、血管が破れてしまったりして、そこから細菌が侵入すると菌血症を発症します。
菌血症では基本的に重篤な症状を発症することはありません。それは体の免疫力が働き、細菌を除去するからです。普通に過ごしている分にはあまり気にする必要はないでしょう。
しかし、一方で体力が落ち、免疫力が低下していると些細な数の細菌の侵入でも重篤な症状を発症することがあります。特に高齢者や子供の菌血症は少々注意が必要でしょう。
菌血症の症状とは?
先に述べたように、菌血症ではほとんど気にするような症状を発症することがありません。ただ、高齢者・子供に限っては症状を発症することがあります。
具体的には38度以上の発熱、鼻水がみられます。一般的な風邪とも診断されることがあるため、それを菌血症を診断することは検査をするほかありません。
菌血症で見られる細菌とは?
菌血症で見られる細菌は2つしかありません。80%を占める「肺炎球菌」と残りの20%を占める「インフルエンザ菌」です。どちらの細菌も口の中に存在するとても身近なものです。
肺炎球菌はその名の通り、肺炎の原因になる細菌です。その他、髄膜炎や中耳炎、副鼻腔炎を招くこともあります。普段はあまり悪さをしない細菌ですが、免疫力が下がっていると様々症状を招きます。
インフルエンザ菌は菌血症を発症することで、体全身に拡散してきます。特に小児の場合は、抵抗力が弱いため、重症化しやすい傾向があります。
どちらの細菌にしても、小児や高齢者といった免疫力が低下している人に対して、重篤な症状を招くリスクがあります。また、後遺症が残ることもあるため、きちんとした予防が大切です。
意外に多い菌血症
発熱や鼻水症状がみられる子供は、病院へ行くと大体風邪といわれますよね。それは多くの人が病院で経験したことがあるかもしれません。
しかし、この原因がよく分からない風邪。実は菌血症によるものだ、という研究結果があります。このような状態を「潜在性菌血症」といいます。
潜在性菌血症は血液検査をして初めてわかります。風邪という曖昧な状態は菌によるもので、体が菌と戦っているために起こる症状の1つなのです。
しかし、たかが風邪という理由で採血をし、検査をするということはなかなかありませんから、菌血症と診断されることはなかなかありません。気が付いたら風邪は治っていますから、それほど深刻になる必要はないでしょう。
菌血症の原因とは
血管に細菌が侵入してしまう菌血症。その原因はとても身近なところにあります。例えば、歯磨き。強く磨きすぎてしまったり、糸ようじなんかを使ったりすると歯茎から血が出ると思います。このような簡単な出血から細菌が血管に侵入してしまいます。
歯磨きをするとき、いつも歯茎から出血する。ちょっとしたことで出血してしまう。このような人は菌血症のリスクが高いといえることができるでしょう。
歯磨き以外では、カテーテルや医療チューブの挿入の際の感染、傷口からの感染などがあります。出血するような状況であれば、菌血症のリスクがあると考えていいかもしれませんね。
免疫力の低下が悪化を招く
菌血症を発症しているとしても、体にきちんとした免疫力があれば、重篤化することはありません。しかし、反対に言えば、免疫力が下がっていると菌が悪さをしてしまうことがあります。
免疫は外部の異物から体を守るシステムです。しかし、このシステムはちょっとしたことで機能が低下してしまうことがあります。それは具体的に以下のことがあげられます。
不規則な生活
就寝・起床時刻が不規則だと、免疫力が低下することがあります。体はリズムをとって活動していますから、そのリズムが崩れてしまうと身体機能は落ちてしまうでしょう。
特に夜遅い時間に寝る。朝遅い時間に起きる。仕事でも子供の夜更かしでも、このような生活習慣はそれほど体に良い影響を与えることはないでしょう。
不規則な食生活
食べ物は私たちの体を作り、生命活動を維持するために重要なものです。健康的なものを食べれば、いつまでも健康にいることができますが、体に悪いものを食べれば、すぐさま病気になってしまいます。
免疫力の低下も、そんな体に悪い食べ物を食べることで起こる1つの悪い例でしょう。体調不良を訴える人ほど、普段の食生活が悪いということもありますから、十分注意したいものです。
心的なストレス
体は不思議なもので、心とつながっています。どんなに良い食習慣、規則正しい生活をしていても、心の何処かに悩みや不安、ストレスを抱えていると病気になってしまいます。
心的なストレスは菌血症だけではなく、あらゆる感染症にかかりやすくしてしまう恐れがあります。心身ともに健康でいることが、強い体を作ることに貢献してくれるのです。
菌血症の合併症
菌血症では、症状が進行するとしばし厄介な合併症を招くことがあります。それは、先に述べた免疫力が低下しているような状況であり、早急な治療が必要なこともあります。具体的には以下の合併症を発症します。
髄膜炎
脳は薄い髄膜という膜で覆われています。この髄膜に細菌が感染し、炎症を起こしてしまう病気を髄膜炎といいます。髄膜炎ではかなり深刻な症状を発症することがあります。
菌血症によって体に細菌が入ると、初期症状として高熱や皮膚の出血班がみられます。この段階でかなりおかしいと思うでしょう。症状は深刻です。
その後、髄膜炎に発展。頭痛、吐き気、発疹、硬直などの症状がみられます。ショック状態となると命の危険性もあるため、とても注意が必要な病気といえるでしょう。
詳しくは、髄膜炎に大人がかかるとどんな症状?治療方法は?を読んでおきましょう。
心内膜炎
心臓の血流を制御する心臓弁に炎症ができる病気です。心内膜炎を発症する原因の一つが、もともと心臓弁に疾患があるケースです。心臓弁に細菌が蓄積・繁殖してしまうことで炎症を起こしてしまうのですね。
心内膜炎では高熱、心拍の上昇が主な症状です。また、強い疲労感や心臓弁の損傷などがみられます。症状は数ヶ月以上続くこともあるため、早急な対応が必要です。
心臓弁で形成された細菌の塊が血栓となって、他の病気を合併することもあります。特に脳梗塞や心筋梗塞は血管にこれが詰まることで起こるため、予後の治療も欠かせないでしょう。
骨髄炎
骨髄炎とは骨に細菌が感染し、化膿性の炎症を発症する病気です。骨の内部には骨髄と呼ばれる組織があり、血液が豊富に流れています。症状を放置すると、後遺症も残ることもあるので注意が必要です。
骨髄炎は骨折や手術による細菌感染がきっかけとなって起こることがあります。直接、細菌が骨髄に感染してしまうのですね。症状として発熱や倦怠感を始め、食欲不振、全身の痛みなどを発症します。
関節炎
関節に細菌が感染し、炎症を起こしている病気です。関節に激しい痛みを感じたり、腫れなどがみられます。膝の関節に好発し、続いて股関節が多いです。
合併症の恐怖
菌血症では異物である細菌が体に入ってしまうことで合併症を発症します。合併症の中には、もともと持っていた体の病気がきっかけでより大きな病気を招くことがあります。
また、一方で骨や関節といった動作に欠かせない部位の炎症を招くこともあります。これは当たり前の生活をしていくことを困難にする可能性があるでしょう。
菌血症とは言ったものの、もともと持っている病気や放置することは重症化の危険性があります。体に異常が出たときは速やかに対応するようにしましょう。
菌血症と敗血症の違いは?
菌血症にはしばし似たような病気があります。それは敗血症。敗血症とは臓器で起こってる炎症の原因菌が多臓器にまで拡大し、全身性の症状をを招く病気です。
菌血症とは細菌感染という部分で似ていますが、その症状は大きく異なります。では、これら2つの症状の違いについて詳しくみていくことにしましょう。
症状の違い
菌血症では先に述べたように、それほど重篤な症状を発症することはありません。普段みられる症状としては風邪程度で、初期の対応をすれば十分治療することが可能です。
敗血症では全身の震え、高熱症状がみられます。また、症状の進行も早く、体温の低下を招くことがあります。この段階ではかなり症状が進んでいると考えられ、早急な対応が必要です。
原因の違い
菌血症では歯茎の出血やふとした際の怪我、手術やカテーテルといった場面での感染が主です。感染経路は日常生活の中でも起こり、簡単に細菌が入り込んでしまうことがあります。
敗血症では主に肺や腎盂、腎臓などにもともと炎症症状がみられ、その原因菌が全身に渡ることで発症します。敗血症と合わせ、炎症症状を抑える必要があり、治療が必要です。
治療の違い
菌血症では重篤な症状を発症しない限り、自然に治癒していきます。症状が長引くこともありますが、睡眠をとり、きちんと体を休めればそれほど心配する必要はありません。
敗血症では深刻な症状を発症するため、早急な治療が必要です。抗菌薬の投与のほか、昇圧剤、酸素の供給なども行います。治療をいかに早く行えるかが重要です。
菌血症の予防のために
菌血症はちょっとした出血から発症することがあります。それは特に歯磨きの際の歯茎からの出血、はたまた何処かにぶつけて皮膚から出血してしまったということも十分発症原因になるでしょう。
もちろん、過度に心配する必要はありません。体にきちんとした免疫力があり、侵入した細菌に対して正常な反応ができれば、大事に至ることは稀でしょう。
しかし、どんなに気をつけていても、万が一重症化してしまうこともあります。高齢者、子供、心臓弁に異常がある。全く重症化しないとは言い切れない菌血症の合併症を予防するためには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。具体的には以下のことがあげられます。
歯のケアを怠らない
歯のケアをきちんとしている人は意外と多くないのかもしれません。毎日の歯磨きは当たり前の習慣化と思いますが、定期的に歯科に通っている、と答える人はそう多くないでしょう。
歯の健康は日々の歯磨きにプラスして、定期的な歯科検診が必要です。歯の状態は自分ではなかなかわかりませんし、異常があっても気付きにくいのが歯というものです。
歯磨きといった些細なことで歯茎から出血させないためには、歯の健康を維持することが大切です。歯磨きはきちんと毎日することは大前提ですが、プラスして半年〜1年に一度は歯科にかかるようにしましょう。
傷口はすぐに処理をする
ふとしたときに怪我をしてしまったとき、その処置をしない人がいます。せいぜい水で洗って、そのまま放置する。確かにかさぶたができて、治ることは治るのですが、それでは不十分です。傷口から細菌が入り、菌血症になる可能性があるでしょう。
流血を伴うような怪我をした時は、傷口の消毒を忘れないようにしてください。多少面倒を思っていてもきちんとすること。そうでなければ、より面倒な症状を招くこともあるので注意です。
ワクチン接種を受けること
菌血症では肺炎球菌が原因となることが多いです。そして、この肺炎球菌は予防接種を受けることで、症状の悪化を防ぐことができます。感染しても重症化することはなくなるのですね。
特に菌血症は3歳未満の小児に発症しやすいため、この時期までに予防接種を受けることが望ましいでしょう。発症してからは、当然ですがその処置には多くの労力を要してしまいます。
予防接種を一つ受けるだけで、病気の脅威に怯える必要がなくなる。これはとても重要なことだと思います。とても簡単なことですから、忘れず受けるようにしてくださいね。
免疫力を落とさないことも大事
先に述べたように不規則な生活をしていると、体の免疫力が低下します。このような状態では、細菌が侵入しても体は対抗することができず、細菌の繁殖を許してしまうなんてこともあるでしょう。
免疫力というのは、規則正しい生活、バランスの良い食事から形成されます。反対に不規則で、体に悪いものばかり食べていると、体はいとも簡単に病気になってしまうのです。
菌血症の予防と合わせて、免疫力を落とさないための生活も意識してみてください。これを意識することは、あらゆる病気の予防にもつながることでしょう。
菌血症の治療とは
基本的にあまり治療をする必要のない菌血症ですが、症状が重症化すると治療の必要性があります。高熱が幾日も続いたり、意識が朦朧とするようであれば注意が必要です。
菌血症の治療では、点滴による抗生物質の投与を行います。体内に入る細菌を殺す役割があり、早期に症状を緩和することが期待できるでしょう。
その他、合併症がある場合はその都度それに適した治療を行なっていきます。例えば敗血症を合併しているようであれば、抗生物質の投与のほか、他薬の投与、呼吸器の装着のような救命措置が行われることもあります。
心内膜炎のような心臓に深刻な症状を発症しているようであれば、その対応もまた早急でなければならないでしょう。命の危険もあるため、十分な注意が必要です。
まとめ
菌血症は普段過ごしている分にはそれほど重篤な症状を発症することはありません。むしろ、血液内に細菌が存在しながらも、普通に過ごしている人もいるかもしれません。
ただ、一方で赤ちゃんや小児、高齢者にとっては些細な細菌でも気をつけなければならないことがあります。体の抵抗力が小さかったり、体の免疫力が低下しているとどうしても病気にかかりやすく、また悪化しやすいのです。
そのためにできることは、実は病気にかかる前から始まっています。予防接種はもちろん、体の機能を下げない生活、衛生的な環境。これらが病気のかかるかからないかを決めているのです。
菌血症を始め、病気にかからないためにどういった生活をすればいいのだろうか。そして、子供や身近な高齢者のためにどういったことをすればいいのだろうか。そう考え続けることが、病気を遠ざけてくれるのでしょう。
病気にかかってから対処するのではなく、かからないようにする。これは、いつまでも健康にいるためにとても大切なことだと思います。ぜひ、生活の中で行動してみてくださいね。