誰もが日々受けるストレス。このストレスは脳に大きな影響を与えます。そしてこのことで「自律神経失調症」や「うつ」をはじめ様々な症状が生じる可能性があります。しかし現代社会を生きる私たちにとって、ストレスは切っても切り離せないものです。
ストレスが脳に与える影響を知り、うまく解消していく方法を一緒に探っていきましょう。
ストレスが脳に与える影響
ストレスを受けたとき脳はいろいろな部位が反応し活動します。どのような反応があるのか一緒に見ていきましょう。
ストレスを受けたときの脳と体の反応
ストレスを受けたとき、人はどのようになるでしょう。たくさんの人の前で話さなくてはいけない時、就職の面接を受ける時、または上司にきつく注意されたとき、夫婦喧嘩をした時など私たちの周りにはたくさんのストレスがあります。
脳におきる原始的な反応
ストレスを受けると緊張しすぎて頭が真っ白になったり、とっさに言葉が出てこなかったり、汗をかいたり、心臓がドキドキしたりという体の変化が生じます。「パニくった」などと最近は表現する人もいます。これはすべてストレスという危険を感じた脳からの「指令」で体に起こった防御反応なのです。
危険な目にあったときとっさの行動ができるように、血圧を上昇させ、心拍数をあげているわけです。目の前に突然車が来たら誰しも驚いて飛びのきます。この時はいろいろ思考しているわけではなく、とっさに身を守る行動しています。
つまり汗をかいたりドキドキしたりするのは、人間がすぐ行動できるために「脳に起きている原始的な反応」なのです。
視床下部が働く
ではこの反応の仕組みを見てみましょう。
ストレスを感じると脳にある扁桃体(大脳辺縁系)が反応します。そして神経伝達物質を通じて、視床下部からの指令で交感神経からノルアドレナリンが分泌されます。このことで体の中の器官は「ストレスを感じている=緊急事態発生」であることを察知します。
そして交感神経の緊張により副腎髄質からアドレナリンが分泌されます。ドキドキしたり汗をかいたりするのは交感神経が活発になっているからなのです。
また、「脳下垂体」という部分から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され、これにより副腎皮質からコルチゾールというホルモンが分泌されます。コルチゾールはストレスから身を守るためのホルモンです。
ストレスに深くかかわる扁桃体と海馬
扁桃体は神経細胞の集合体で、記憶をつかさどる「海馬(かいば)」とつながっています。海馬とは情報を常にやり取りしていて、情動や快不快の判断、または好き嫌いの判断、恐怖の記憶形成などに重要な役割を持っています。
強いストレスを感じて緊張したり不安をもったりすると、この扁桃体が過剰に働いてしまうのです。
ストレスが続くことの脳への影響
一時的なストレスは誰にでもよくあることですが、ストレスの解決法が見つからなかったり、絶えずストレスが続いたら心配ですよね。そうなると脳はどうなるのかも見てみましょう。
ストレスで脳の前頭前野の機能が低下
最近の研究では、ストレスが続くことによって脳疲労を起こし、さらに脳の前頭前野に影響を受けることがわかってきました。脳の前頭前野はどういう働きをしているのか見てみましょう。
脳の前頭前野とは
おでこの後ろには「前頭葉」があります。ここに前頭前野があります。人間の前頭前野は大脳の約30パーセントを占めています。他の哺乳類ではチンパンジーで約10パーセント程度ですからどれだけ人間の前頭前野が発達しているかがわかります。
人間がなにか考える、計画を立てる、意思決定をする、記憶するのはこの前頭前野があるからなのです。
また、感情のコントロールを抑える働きもあり、たとえ頭にくることがあっても怒鳴ったり殴ったりという「キレる」ことを抑えてくれます。前頭前野が脳の中でも大切な部位だということがよくわかります。
前頭前野はゆっくりと成熟する
前頭前野の発達はゆっくりで、20歳ごろになってようやく成熟します。また老化に伴う機能低下が最も早く生じる部位でもあります。
前頭前野に大きな損傷を受けた人が、知性的な行動が取れなくなることや段取りが必要な料理などができなくなってしまうことはよく知られています。
ストレスを受け続けると前頭前野の機能が低下
ではストレスが続くと、前頭前野はどうなるのでしょうか。「ストレスがあったときは思考をせずとっさに行動できるようにする」と先に説明しました。つまり前頭前野は機能を停止しているのです。前頭葉への血流は減少し、ストレスが続くと機能停止も続いてしまうのです。
先ほど説明したノルアドレナリン、またドーパミンなどの神経伝達物質も放出され、前頭前野でその濃度が高まると、神経細胞感の活動も低下していきます。さらにコルチゾールが血液中に増加していくと前頭前野の働きはさらに弱まってしまいます。そして自制心や、深く考えたり冷静に思考したりする能力が低下していきます。
扁桃体への血流が増加
慢性的なストレスを人が受けていると、扁桃体への血流は増加したままになり興奮した状態が続きます。このことがまたストレスを呼ぶという悪循環になり、休息がとれずリラックスもできなくなります。
そして扁桃体の樹状突起は拡大していきます。普段は前頭前野で抑制している、衝動的な行動や感情が強く出るようになってしまいます。また不安を覚えるようになったり、やけ食いやお酒に走ったり、浪費したり、という行動が増えてしまうのです。
セロトニンの減少
ストレスにさらされることでセロトニンも欠乏してしまいます。セロトニンは「幸福ホルモン」「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質で、身体や精神の安定に関与しています。
セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンが暴走するのをおさえていますが、不足してしまうとキレやすい、不安を覚えやすい、うつ病になりやすいなどの悪影響があります。また不眠症や依存症、摂食障害の原因となる可能性があります。
脳がストレスを受けることで起きる症状・病気
ストレスが続くと脳の前頭前野の活動が弱まり、扁桃体が活発化します。そしてセロトニンが減少します。こうなると様々な機能低下や体調不良、病気を引き起こします。
どのようなものがあるか説明しますね。
自律神経失調症
自律神経系に影響を及ぼすため「自律神経失調症」になる可能性が強まります。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があります。
「交感神経」は、昼間活動しているときに活発になります。またストレスを受けているときや緊急のときにも働きます。心拍数が増え、血圧も上昇します。また瞳孔が拡大、呼吸も早くなります。
「副交感神経」は夜眠るときやリラックスのときに優位になります。心拍数は減り、血圧は低下し、瞳孔も縮小し呼吸もゆっくりになります。眠るときは副交感神経が優位になります。
ところがストレスを受け続けていると交感神経が優位になったままで、リラックスができなくなってしまいます。交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、切り替えもうまくいかなくなります。
そうなると熟睡できなくなったり、動悸がしたり、わけもなく不安になったりします。また胃の調子が悪くなったり、めまいがしたりと心身ともに様々な症状に悩まされることになります。
睡眠障害
「明日は大事な試験があって緊張して眠れない」これは誰しもが経験したことがあるのではないでしょうか。このように一時的なものなら、身体にも脳にも大きな影響はありません。しかしストレスが長く続くと睡眠障害となってしまいます。
自律神経失調症で交感神経が優位になっていると、夜になっても体も心もリラックスできず深く眠ることができなくなります。ベッドに入ったのに全く眠れない、そして昼間仕事中にうつらうつらしてしまう、など社会生活にも影響がでてきてしまいます。
そのほか「夜中に何度も目が覚めて、もう一度寝ようとしてもそのまま眠れなくなる」「ものすごく朝早い時間に目覚めてしまい、昼間も頭がぼーっとしている」「寝たつもりなのに昼間異常に眠い」など様々な症状が生じます。
この逆で、「とにかく1日中寝ていたい、寝ている」という過眠の状態になってしまうこともあります。こういった睡眠障害はうつ病の症状としても現れることがあります。
不安障害
ストレスがきっかけとなって、いろいろなことに不安を覚えるようになることがあります。不安は誰にでもあるものですが、不安感が異常に高まり日常生活に支障をきたすようになると、「不安障害」となる可能性があります。
よくわからない不安に悩まされる「全般性不安障害」や人前で話すことができない、目上の人と話せない、会食ができない「社会不安障害」などがあります。
また、突然激しい動悸に見舞われ呼吸ができない、このまま死ぬのではないかという恐怖に襲われる「パニック障害」などがあります。特定の場所や電車で症状がでてしまうと、「また同じ症状がおきるのではないか」と同じ場所に行けなくなるなど様々な支障がでてしまいます。
極度の高所恐怖症や、閉所恐怖症なども一種の不安障害です。このように過剰な不安や恐怖を覚え、生活に支障をきたすようになるのが「不安障害」なのです。
これは扁桃体のはたらきが強まりすぎていて、セロトニンが減少してしまうことが原因の一つです。またパニック障害ではノルアドレナリンの増加が指摘されています。
うつ病
ストレスの長期化はうつ病の原因にもなる可能性があります。原因となるストレスは必ずしも1つとは限りません。また、昇進や結婚など一見いいこともストレスとなる場合もあります。セロトニン、ノルアドレナリンが減少して、抑うつ気分や意欲の低下などが見られます。
また好きだった趣味やテレビに興味がなくなり、人と会うのが面倒になったり、外見にも構わなくなったりします。食欲不振や、逆に食べ過ぎてしまう、息苦しい、睡眠障害など体の症状が一緒に起こることもあります。
依存症
ストレスによってセロトニンが減少して、「依存症」に陥ってしまうこともあります。お酒やたばこ、薬物、カフェインあるいはギャンブルやネットなどに依存してしまうことがあります。
ストレスを受けると、解消手段として快感を得られるドーパミンを分泌させるようになります。これはお酒を飲んだり、タバコを吸うことで分泌され快感を覚えたり。気持ちが一時的にでも落ち着いたりするのです。このため、ふたたびドーパミンを分泌させたくて人は依存症になっていってしまうのです。
物忘れ
ストレスによって「物忘れ」が増えることがあります。ただし物忘れが増えているときは、原因が睡眠不足など生活習慣の乱れからくる場合がありますので、まずは生活習慣を見直しましょう。
それでも解消できない場合、過度のストレスからきていることもあります。あまりに物忘れが頻繁な時は専門医を受診するようにしましょう。
飛蚊症
飛蚊症もストレスによって生じることがあります。
ただ飛蚊症はほかに目の病気である可能性があるので、自己判断せずに眼科に早めに行くようにしましょう。
脳のストレスを解消する方法!
さまざまな症状が出る前に、ストレスは積極的に解消して脳の健康を保っていきましょう。そして前頭前野の働きを活発にし、セロトニンを増やしていきましょう。脳が健康であることは心身とも元気で健康であることです。
ストレスの解消方法・脳の回復方法や対処法を次にご紹介しますね。ストレスの解消は生活習慣病の予防にもなります。できそうなものから実践してみてくださいね。
超越瞑想
「超越瞑想」という瞑想方法があります。1日2回、20分程度瞑想することで、効果を得ることができるといわれています。無理に心をコントロールせずに自然にゆだねる瞑想なので努力をする必要がありません。
やり方はまず、座って目を閉じます。そして特に意味のない「マントラ」と呼ばれる言葉を頭の中で繰り返します。雑念が沸いてもそのまま放っておきます。そうしていくうちに雑念が消え瞑想状態に入っていきます。
帰還兵にも効果が
かつてアメリカでイラク戦争の帰還兵に超越瞑想をさせたところ、8週間でPTSD(心的外傷ストレス症候群)やうつ症状が50パーセント減少したというデータがあります。ベトナム帰還兵でも大幅な改善が見られたということです。
超越瞑想で、前頭前野が活性化し、扁桃体は落ち着くことでセロトニンも増加することが期待できます。興味のある方は指導を受けることもできるそうなので試してみてはいかがでしょうか。
アロマ
アロマも身近で、効果のある方法です。ストレスが溜まっているときなどに試してみるといいですね。選ぶアロマは好きな香りでいいですが、鎮静作用のあるアロマを選ぶとさらに効果的です。いくつかご紹介します。
ラベンダー
ゆっくりリラックスしたいとき、ぐっすり眠りたいときに効果的です。不安や心配事があるときにおすすめします。また頭の重いときや生理痛の時などにも香りでリラックスできます。入浴剤としてラベンダーを入れてもいいですね。
柑橘系(オレンジ)
気分が明るくなります。ぐっすり深く眠りたいときにも効果があるといわれています。緊張しているときや、気分を前向きに明るくしていきたいときに使ってみてはいかがでしょうか。ゆずにも同様の効果が期待できますよ。
カモミール
心身をリラックスさせてくれます。就寝前にカモミールのお茶を飲むとよく眠ることができます。リンゴのような香りを楽しみつつゆっくり飲みましょう。胃の調子が悪いときにも飲むことができます。ただしキクにアレルギーがある方は避けてください。
ゼラニウム
ゼラニウムは、ストレスで気持ちが落ち込んでいる時におすすめです。フルーティな香りで心が落ち着いて明るくなることが期待できます。
ローズ
ローズもストレスのある時に使いたいアロマです。気持ちが沈んでネガティブになっているときにおすすめです。入浴剤として使ってもいいですね。妊婦さんの使用は避けてくださいね。
呼吸法
ストレスが溜まっているときは知らず知らずのうちに、呼吸が浅く早くなっていることがあります。意識して深呼吸をするようにしましょう。呼吸に気を付けるだけでも、かなり効果がありますよ。
やり方は、「鼻から大きく吸って、口からゆっくり吐き出す」これだけです。ストレスが溜まって調子が悪いときは試してみてください。
運動
運動も効果的です。適度な運動はセロトニンを増やし脳疲労を回復します。散歩をするだけでも気持ちがすっきりするので、定期的に歩くようにしましょう。
筋トレより有酸素運動のウォーキングや水泳、ジョギングをはじめヨガなどが効果的です。自分のできそうなところから無理せずやっていきましょう。
まとめ
ストレスは誰にでもあるものですし、まったくないという状態はありません。しかし、つらいストレスが長期にわたって続くと、脳に悪影響を及ぼします。
脳の前頭前野の機能が低下し、扁桃体が活発になってセロトニンが減少するため様々な症状や病気を引き起こすことがわかりました。予防するためには、日々のストレスを上手に解消していくことが大切です。瞑想やアロマ、運動などを生活に取り入れてストレス解消していきましょう。
ただし調子が悪い、やる気が出ない、眠れないなどの症状がある方は、早めに専門医を受診して相談したり治療を受けることをおすすめします。
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