「『これから、お客さんとの重要な会議。プレゼンどうしよう⁉︎』と、心臓がドキドキして止まらない」、あるいは、「憧れの彼と初めてのデート。広場で待ち合わせ。でも、人の集まる広場は、緊張しすぎて胸が苦しい・・・」とか、「会社の取締役からの呼び出し。動悸がはげしくて汗が止まらない> <」などなど、苦しい経験をされた方も多いのではないのでしょうか。
そんな方は、もしかすると「気のせい」ではなく、「パニック障害」という病気の可能性があります。
今日は、そんなあなたのために、パニック障害についてお話ししたいと思います。
パニック障害とは
パニック障害は、突発的に発症する激しい動悸や頻脈(ひんみゃくー脈拍が異常に多くなる症状)、呼吸困難、胸の不快感、めまいなどの身体的な異常を伴いながら、精神的に「このまま死んでしまうのでは?」という強烈な恐怖感や不安感に襲われてしまう怖い病気です。
通常、このような症状は、ずっと継続されるものではなく、早いときには約10分ほど、長いときでも約1時間ぐらいで治ります。
このような症状は、「パニック発作」と呼ばれており、救急車で病院に搬送されて医師の診察を受けるときには、すでに発作が治り、血液検査や心電図検査などの医療検査をしても異常が発見されないことが少なくありません。
そのため、ときに「気のせい」とされて、病気を見過ごしてしまうことも多くあるようです。
しかし、このようなパニック発作は、繰り返し、継続して発症します。検査で身体的異常が見受けられないのにもかかわらず、パニック発作を発症しても見過ごされることが多々あり、特に初診のときなどはその傾向が顕著なようです。
パニック障害の症状
- パニック発作
- 予期不安
- 広場恐怖
- 3大症状スパイラル
- 慢性的パニック発作
- うつ病に
パニック発作
パニック発作は、通常、10分から1時間ぐらいで治ることが多いようですが、いくつもの症状がありますので、代表的な症状をご紹介いたします。
パニック発作の身体的症状①
まず、代表的な症状として、突然現れる激しい動悸です。心臓がドキドキして、ときには胸が苦しくなることもあります。
また、心臓の鼓動が早くなるので、呼吸が早くなって息苦しくなり、まるで呼吸できなくなるかのような感覚に襲われます。ときには、手足が震えたり、息がつまるような感覚に陥ります。
パニック発作の身体的症状②
さらに、じっとりとした汗をかくなどの発汗が現れるときもあります。患者さんは、重要な会議や大切な試験などで、過度の緊張から無駄な力が入りすぎている状態です。
すると、患者さん自身が思い描いているような展開から外れていくにつれ、「どうしよう!?どうしたらいいんだろう!?」とパニック状態に陥ります。
その結果、なぜか身体中から汗が湧き出てきて、まるで「冷汗をかく」かのような状態になります。
パニック発作の身体的症状③
上記のような身体的な症状が出ると、そのうちにめまいを感じたり、精神的に不安定な状態に陥ります。そして、血の気が失せるような、頭が軽くなる感覚に襲われます。
すると、吐き気をもよおしたり、腹部に不快感を覚えたりするだけではなく、身体に、さむけやほてりを感じるようにもなります。
精神的症状
このように、身体的症状が知覚異常にも達すると、精神的にも異常を感じるようになります。まるで、自分が現実世界に存在していないかのように感じる非現実感を覚えたり、「まるで、自分が自分ではない」ように感じられる離人症のような症状が現れます。
すると、患者さんの心のうちに、「自分は、常軌を逸してしまっているのではないだろうか?」あるいは「気が狂ってしまう」などの疑問が生じ、己の死への恐怖感に襲われます。
予期不安
パニック発作を何度も繰り返すうちに、患者さんの心のうちには「また、発作が起きたらどうしよう!?」という恐怖感や不安感が生じます。
このような恐怖感や不安感は、「予期不安」と呼ばれています。患者さんの心に、予期不安が生じると、「次に発作が起きたらどうしたらいいの!?」から「過去に発作を起こしたことがある場所や状況」に、不安となる対象が少しずつ広がっていくことになります。
その結果、患者さんの日常生活に支障をきたすことになります。
広場恐怖
「予期不安」が昂ずると、逃げる場所のないような場所でパニック発作を発症する不安感や、パニック発作を、他人など大勢の方々に見られることに羞恥心を感じるようになる「広場恐怖」を覚えるようになります。
そして、そのような不安感や羞恥心が、過去に発作を起こした場所や助けを求めることができない場所を避けようとする「回避行動」として現れます。
例えば、バスや電車、船、飛行機などの公共交通機関や、駐車場や市場、橋などの開放空間、あるいは逆に、劇場や映画館、エレベーターやトンネルといった閉鎖的空間などの場所や状況は、パニック発作を引き起こしやすいと言われているようです。
また、人気店に行列になって並んでいたり、雑踏の中にたたずんでいるとき、あるいは、外出恐怖と呼ばれる1人での外出や留守番などの状況でも、パニック発作を起こしやすいようです。
3大症状スパイラル
「パニック発作」が「予期不安」をあおり立て、「広場恐怖」となると、またさらに、「パニック発作」が引き起こされることになります。そして、また「予期不安」にかられて、「広場恐怖」を募らせる結果となってしまいます。
このように、3つの症状が、まるで「負の螺旋階段」のようにぐるぐると悪循環し始めると、患者さんは次第に外出を避けるようになり、日常生活に支障をきたす原因となるのです。
慢性的パニック発作
パニック発作が、慢性的に発症するようになると、急性に比べて症状が穏やかになり、継続して発症するようになります。日常的な不安感や、現実感が感じられなくなり、自分を他の自分自身で見つめる離人症などの症状が現れます。
そして、鳥肌や偏頭痛、動悸、視界不良、息苦しさ、首の痛み、脳が浮くなどといった自律神経系の症状を引き起こしてしまうこともあります。
うつ病に
パニック障害の3大症状である「パニック発作」、「予期不安」、「広場恐怖」が悪循環して慢性化し、自律神経系に異常をきたすと、今度は精神疾患、すなわち「うつ病」を併発することがあります。
その場合、パニック障害治療に加え、今度は「うつ病」の治療も必要となってきます。
パニック障害の原因
脳内には、神経伝達物質と呼ばれている複数の神経の間を流れる物質がいくつかあり、外界からの刺激に応じて、多種多様なはたらきをしています。
残念ながら、パニック障害のメカニズムは、未だにはっきりと明らかにはされていませんが、恐怖や不安に関係している神経伝達物質である「ノルアドレナリン」と、興奮などを抑制する神経伝達物質である「セロトニン」の間のバランスが崩れるために発症するのでは、と推測されています。
その理由は、脳内にセロトニンが増加するような治療を施すと、パニック障害の症状が改善されることによるものです。
パニック障害の治療
パニック障害の治療には、主に薬物療法と心理療法が用いられています。
これから、それぞれについてお話ししたいと思います。
- 薬物療法
- 心理療法
薬物療法
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- 抗不安薬
- 三環系抗うつ薬
- 薬物療法の進め方
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
SSRIは、日本語にすると、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」と言います。パニック障害に最も多く用いられている治療薬は、パロキセチンとセルトラリンですが、服用し始めてから、効果がではじめるまでに2〜3週間程度の時間を要します。
これらのや治療薬には、脳内のセロトニンを増加させる効果があります。
ただ、副作用として吐き気や眠気がありますので、注意が必要です。とはいっても、抗不安薬ほどの副作用ではありません。
抗不安薬
パニック障害には、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が使用されています。SSRIの使用が一般的になる前は、パニック障害治療薬の主流でした。
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、即効性が認められていますが、依存性や習慣性などの副作用が、SSRIよりも強く現れるという服用上の難点もあります。
三環系抗うつ薬
SSRIや抗不安薬では、効果が見られない場合、三環系抗うつ薬が使用されるときがあります。ただ、便秘や眠気、喉の渇きといった副作用が他の薬剤に比べて強いため、三環系抗うつ薬は、他の薬剤が効かないときに使用されているようです。
薬物療法の進め方
薬物療法は、副作用や即効性の問題から、その処方や服用にもある程度決まった進め方があります。SSRIは、1週間を単位として少しずつ増量していきます。そして、パニック発作を抑制することができる服用量を1〜2年程度かけて服用します。
その後、パニック発作が治まり、再び発症することのないように、漸次服用量を減らしていく方法が採られています。
基本的に、患者さんが自分で薬剤の服用量を増やしたり、減らしたりする調整をすることはありません。薬の服用量を減らすときには、医師の指示に従って患者さんの容体を踏まえつつ、服用量を調節していくのです。
突然、SSRIの服用をやめたりすると、めまいや電気ショックのような感覚などの中断症状が、副作用として現れることがあります。従って、SSRIは、医師の指示を守って、適正に服用する必要がある薬です。
ときに、眠気やめまいなどの副作用が出ることがあるようですが、医師の指示どおりに薬を服用していれば、比較的安全な薬のようです。
ただ、アルコールには、SSRIの副作用を増進することがあるようですので、服用している間は、アルコールの摂取は控えましょう。
心理療法
- 認知行動療法
- 自律訓練法
認知行動療法
患者さんが誤っている認知行動習慣を少しずつ軌道修正して、正しい認知行動習慣を身につけてもらえるように治療する方法です。
例えば、「広場恐怖」で人が大勢集まるような駅前広場に行くことができなくなってしまったような場合、最初にまずは広場へ向かう道筋の途中まで行き、そこから少しずつ広場に近づいていき、次に広場の見えるような広場の手前まで行き、最後に広場にたどり着くといった療法です。
段階的に、少しずつパニック障害となる不安のプロセスを取り除いていき、改善、克服していって、誤った認知行動を正しい認知行動に導いていく方法です。
自律訓練法
パニック障害を患っている患者さんは、パニック発作を起こしてくとも、比較的正常者よりも高い緊張感にさらされ、維持していることがわかっているようです。
したがって、あたかも糸がピンと張り詰めているかな状態が続いているので、普通であれば何事もないような出来事であっても、患者さんにとっては大変つらい出来事なのです。
その結果、張り詰めていた糸がプツンと切れて、パニック発作を起こしてしまうのです。そのため、心と身体をリラックスさせる方法を身につけてもらうようなトレーニングをしてもらいます。
日頃から、緊張している精神状態をリラックスした状態に戻すために、自律訓練法は非常に重要視されています。
まとめ
パニック障害は、心や性格に起因する病気ではなく、100人に2、3人の割合で発症する可能性のある脳の病気です。ただ、決して不治の病ではありません。
医師の指示通り、きちんと薬を服用して、適切な心理療法を受ければ、治癒する可能性のある病気です。
心当たりのある方は、決して一人で抱え込んで悩み込んでしまうのではなく、勇気を出して精神科や心療内科を受診して、医師に相談してみましょう。
少し時間がかかってしまうかもしれませんが、長い目で見れば、それも一つの通過点。少しずつ頑張っていると、「気がついたら治っていたね」と振り返る日がきっと来ますよ。
“Those who believe shall be saved.”
「信じる者は救われる」さあ、勇気を出して、一歩踏み出してみましょう。