お腹の痛みに襲われたことは誰しも1度や2度はあると思いますが、ただ単に腹痛と言っても上腹部・みぞおちの痛み、わき腹の痛み、下腹部の痛みなど色々な場所に痛みが発生します。そして、お腹の痛みの原因を探るには、基本的には痛みの発生している場所の近くに存在する臓器の異常や病気を疑うことになります。
しかしながら、腹部には様々な臓器が存在していますので、疑われる臓器の異常や病気も多岐にわたります。ましてや、下腹部においては、臓器のほかに生殖器も存在するため、疑われる異常や病気の数も多くなるほか、男女で検討すべき異常や病気が異なることもあります。
そこで今回は、お腹の痛みの中でも「右下腹部」の痛みに絞り、その原因や治療方法について、それぞれ簡単にご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
女性のみに現れる右下腹部の痛み
そもそも女性の下腹部には、膀胱・尿管などの泌尿器系や大腸・小腸などの腸管のほかに、女性特有のものとして子宮・卵巣などの生殖器が存在しています。
そこで最初に、女性の右側の下腹部に現れる痛みで、女性特有の痛みの原因として疑われる異常・病気について、ご紹介したいと思います。
月経前症候群(PMS)
月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)は、排卵後で生理の始まる10日から14日程度前から様々な症状が生じるものの、生理が始まると同時にそれらの症状が消失することが特徴的な症候群のことです。
この月経前症候群の様々な症状の一つに、便秘・下腹部痛・腹部膨満感などといった腹部症状があります。
月経前症候群における下腹部痛の原因
月経前症候群を引き起こす原因は、排卵前後を境にして女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)のホルモンバランスが変化することだと考えられています。
排卵後は、卵胞ホルモン分泌量が減少し、黄体ホルモン分泌量が多くなります。そして、黄体ホルモンには妊娠しやすくするために子宮の収縮を抑制する作用があり、その作用が子宮周辺に存在する大腸にも作用して大腸の動きが低下します。その結果として、大腸内に便が停滞して便秘症状が生じ、それに伴いガスが溜まり下腹部痛・腹部膨満感が生じるのです。
ちなみに、月経前症候群の様々な症状は、基本的にホルモンの作用を要因とした生理現象であって病気ではないのですが、症状が重く日常生活に大きな影響がある場合は治療対象とされます。
月経前症候群における下腹部痛の治療法
月経前症候群における下腹部痛は、基本的に生理周期に伴う一時的な便秘に伴うもので、生理が始まると自然に便秘症状とともに改善するのが通常です。
それでも、下腹部痛が続く場合は、十分な睡眠・バランスの良い食事・適度な運動などによって、ホルモンバランスを整えましょう。また、意識的に水分を摂取することで、便が大腸内で停滞しないように心掛けましょう。
生理痛(月経痛)・月経困難症
生理痛は、女性の生理中に発生する痛みのことで、下腹部や腰に痛みが現れます。この生理痛が酷くて日常生活に大きな影響がある場合を月経困難症と言います。
生理痛を含む月経困難症には、その原因に応じて機能性月経困難症と器質性月経困難症に分類することができます。
機能性月経困難症の原因
機能性月経困難症は、子宮などに病気がなく、女性ホルモンのバランスが乱れることが原因となる月経困難症のことです。
そもそも生理痛の原因は、妊娠が成立せず生理となる際に分泌されるプロスタグランジンというホルモンです。
プロスタグランジンには、妊娠準備のために厚くなっていた子宮内膜を体外に排出するために、子宮を収縮させる作用があります。このプロスタグランジンは出産の際の陣痛の要因でもあり、プロスタグランジンが過剰分泌されると生理痛が酷くなります。
そして、プロスタグランジンが過剰分泌される原因が、女性ホルモンのバランスが乱れて、卵胞ホルモンや黄体ホルモンの分泌量に過不足が生じることだと考えられています。というのも、プロスタグランジンの分泌には黄体ホルモンが関与しているからです。
機能性月経困難症の治療法
機能性月経困難症の治療は、基本的に薬物療法・ホルモン療法によって症状を緩和する方法がとられます。
鎮痛剤の服用で痛み自体を緩和したり、経口避妊薬でもある低用量ピルなどのホルモン剤でホルモンバランスの安定を図ります。
器質性月経困難症の原因と治療法
器質性月経困難症は、子宮などの婦人科疾患が原因となる月経困難症のことです。婦人科疾患は、それ自体で下腹部痛などを生じるほかに、生理不順なども引き起こします。器質性月経困難症を引き起こす病気として具体的には、子宮筋腫・子宮内膜症などが挙げられます。
器質性月経困難症の治療法は、基本的に痛みの原因となる婦人科疾患を治療することが、結果として痛みの抑制・緩和につながります。
子宮筋腫
子宮筋腫は、もともと平滑筋という筋肉が層状になった組織が袋のような構造になっている子宮において、その子宮の平滑筋に発生する良性腫瘍のことです。
子宮筋腫の原因
子宮筋腫の原因は、未だ明確に解明されていません。ただし、子宮筋腫が発生して大きく成長していくには、女性ホルモンのうち卵胞ホルモンの影響が大きいとされています。
子宮筋腫の発生当初は、それほど自覚症状が現れませんが、その成長に連れて下腹部痛・生理不順などの症状が強くなっていきます。
子宮筋腫の治療法
子宮筋腫の治療法は、主に薬物療法・ホルモン療法と手術療法のいずれかになります。
薬物療法・ホルモン療法では、薬剤・ホルモン剤を投与することで女性ホルモンの分泌を抑制し、一時的な閉経状態を作り出して子宮筋腫の成長を抑えます。ただし、更年期症状や血栓症などの副作用が現れる可能性もあるので注意が必要です。
手術療法は、妊娠希望がなければ子宮全摘術で子宮を全部摘出し、妊娠希望があれば子宮筋腫核出術で子宮筋腫を1個ずつ全て取り除いていきます。近年は、開腹手術ではなく腹腔鏡を使った負担の小さい手術方式が主流になっています。
子宮内膜症
子宮内膜症は、本来ならば子宮内で厚くなる子宮内膜が、骨盤内の子宮以外の部位に定着して厚くなる病気のことです。
子宮内膜症の原因
子宮内膜症の原因も、子宮筋腫と同様に未だ明確には解明されていません。ただし、子宮内膜の細胞は卵胞ホルモンによって増殖して厚くなりますから、子宮外の部位でも卵胞ホルモンによって増殖し大きくなっていきます。
子宮内膜症では、発生した部位にもよりますが、多くは下腹部痛・性交痛・生理不順などの症状が現れます。
子宮内膜症の治療法
子宮内膜症の治療法も、子宮筋腫と同様に薬物療法・ホルモン療法と手術療法となります。
薬物療法・ホルモン療法は、基本的に子宮筋腫と似ていて薬剤・ホルモン剤の投与により、女性ホルモンの分泌を抑えて子宮内膜が大きくなることを抑制しますが、同様に副作用が現れる可能性に注意をする必要があります。
手術療法は、妊娠希望がなければ子宮内膜焼灼術でマイクロ波により子宮内膜を焼いてしまいますが、妊娠希望がある場合は子宮内膜掻把術で増殖した子宮内膜を掻き出します。
子宮付属器炎
子宮付属器は卵巣や卵管のことを言い、子宮付属器炎とは卵巣や卵管が炎症を生じる卵巣炎や卵管炎のことを言います。
子宮付属器炎の原因
子宮付属器炎、すなわち卵巣炎・卵管炎の原因は、卵巣や卵管に細菌が侵入して細菌感染することです。卵巣や卵管は子宮の左右に存在しますから、右側の卵巣や卵管が炎症を生じれば右下腹部に痛みが現れるほか、細菌感染による発熱・嘔吐といった症状が現れることもあります。
子宮付属器炎の治療法
子宮付属器炎の治療法は、体内に侵入した細菌を排除するための抗生剤・抗生物質の投与が基本です。多くは抗生剤・抗生物質の投与で回復しますが、炎症が慢性化すると手術を検討しなければならない場合もあります。
その他の原因
その他に女性のみに現れる右下腹部の痛みの原因として、妊娠による場合が考えられます。妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期と胎児が大きくなるに連れて、子宮の筋肉が伸長するために、チクチクとした痛みが下腹部に走る場合がありますが、この場合は特に問題はありません。ちなみに、子宮外妊娠の場合にも下腹部痛が生じることがあり、こちらは産婦人科で適切な処置を受けなければなりません。
また、子宮頸がん・卵巣がんなどによっても下腹部痛が現れることがあります。ただし、いずれも初期症状は現れにくく、下腹部痛などの自覚症状が現れる時期には相当程度に癌が進行している危険性があります。それゆえ、定期的に婦人科の病院で検査を受けておくと良いでしょう。
男性のみに現れる右下腹部の痛み
それでは男性のみに現れる右下腹部の痛みには、どのようなものがあるのでしょうか?
男性の下腹部には、膀胱・尿管などの泌尿器系や大腸・小腸などの腸管のほかに、男性特有のものとして前立腺が存在しています。
そこで、男性の右側の下腹部に現れる痛みで、男性特有の痛みの原因として疑われる異常・病気について、ご紹介したいと思います。
前立腺炎
前立腺炎は、前立腺が何らかの要因によって炎症を生じる病気のことです。前立腺は膀胱の下に隣接して、尿の通り道である尿道を取り囲むように存在します。
前立腺炎の原因
前立腺炎の原因は、女性の卵巣炎などと同様に、主に前立腺に細菌が侵入して細菌感染することだとされています。前立腺が細菌感染により炎症を生じると、まず排尿障害(頻尿・排尿痛・残尿感など)の症状が現れます。その他に細菌感染による発熱、場合によっては下腹部痛が現れることもあります。
前立腺炎の治療法
前立腺炎の治療法は、体内に侵入した細菌を排除するための抗生剤・抗生物質の投与が基本となります。
前立腺肥大症
前立腺肥大症は、前立腺が何らかの要因によって肥大化する病気のことです。
前立腺肥大症の原因
前立腺肥大症の原因は、未だ明確に解明されていません。ただし、前立腺肥大症は60歳前後の男性に好発し、それ以下の年代では発症が少ないので、加齢と男性ホルモンの影響が指摘されています。
前立腺肥大症が発症すると、最初は頻尿の症状が現れます。しかしながら、前立腺の肥大化が進むに連れて尿道を圧迫していくため残尿感が現れ、最終的に排尿が出来なくなります。排尿が困難になっていくと、膀胱に尿が溜まり下腹部痛を生じることがあります。
前立腺肥大症の治療法
前立腺肥大症は、排尿ができ日常生活に影響がなければ、通常は経過観察をします。しかしながら、排尿が困難になり日常生活に影響がある場合は、いくつかの治療の選択肢があります。手術による前立腺肥大部の切除、尿道を確保する金属製の尿道ステントの留置、薬剤投与による尿道圧迫の弛緩、薬剤投与による前立腺の縮小などです。
男女双方に現れる右下腹部の痛み
ここまで女性特有あるいは男性特有の右下腹部の痛みについて、ご紹介してきました。しかしながら、当然ですが右側の下腹部に現れる痛みの原因が、男女双方に共通する場合もあります。そこで、男女双方に現れる右下腹部の痛みの原因として疑われる異常・病気について、ご紹介したいと思います。
虫垂炎(急性虫垂炎)
虫垂とは、小腸と大腸の接合部に存在する盲腸から細長く飛び出た器官のことです。そして、虫垂炎は、この虫垂が炎症を生じる病気のことです。
小腸と大腸の接合部に存在する盲腸・虫垂は、ちょうど人の右下腹部にあたります。
虫垂炎の原因
虫垂炎の原因は、未だ明確に解明されていません。ただし、何らかの理由で虫垂に細菌が感染していることは確実で、細菌感染によって炎症状態となる細菌感染性の疾患です。
虫垂炎は当初みぞおち付近に痛みが出るものの、炎症の進行とともに右下腹部に痛みが移動するとされています。
虫垂炎の治療法
虫垂炎の治療法は、手術による虫垂の切除が基本とされています。ただし、炎症初期で軽症の場合には、抗生剤・抗生物質の投与によって経過観察をする場合もあります。
虫垂炎が重症化すると、炎症が虫垂から腹膜にも広がり腹膜炎を起こすこともあります。腹膜炎の発症は、生命に関わりますので早期の治療が重要です。
感染性腸炎(急性腸炎・急性胃腸炎・急性大腸炎)
人の下腹部には、小腸や大腸が存在しています。そして、下腹部に痛みが現れる際に最初に疑われるのが、感染性腸炎です。
感染性腸炎の原因
感染性腸炎の原因は、小腸や大腸が細菌あるいはウイルスに感染することです。小腸や大腸が細菌感染・ウイルス感染で異常を生じる場合は、消化器系全般で異常を生じることが多く、急性胃腸炎とも呼ばれます。
感染性腸炎では、腹痛・下腹部痛のほか、細菌感染による発熱・嘔吐・下痢などの症状も現れます。また、腸管出血性大腸菌O157・赤痢菌・ノロウイルスなど重篤な症状を引き起こすものもありますので、注意が必要です。
感染性腸炎の治療法
細菌感染の場合は抗生剤・抗生物質の投与が有効ですが、ウイルス感染の場合は抗生剤・抗生物質は効きません。
基本的には、細菌感染・ウイルス感染のいずれの場合でも、下痢による脱水症状の予防のための水分補給と、解熱鎮痛剤での発熱と腹痛への対症療法が治療の中心になります。
下痢止めについては、細菌・ウイルスの排出を妨げるため、なるべく用いないほうが良いとされますが、症状に応じて医師の判断に従うことが大切です。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、検査をしても大腸に異常が存在しないのに、慢性的な下腹部痛や下痢などの症状が現れる疾患です。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因は、未だ明確に解明されていません。ただし、精神的ストレスや生活習慣の乱れなどの影響・関連性が指摘されています。
過敏性腸症候群の治療法
過敏性腸症候群の治療法は、基本的にストレスの原因排除と生活習慣の改善をすることだとされています。加えて、大腸が異常な動きをしないようにする薬剤を投与をしたり、腸内環境の改善を図るために腸内細菌のうち善玉菌を増やす乳酸菌製剤などを投与します。
泌尿器系疾患
泌尿器系の疾患とは、例えば膀胱炎や尿路結石などの疾患です。いずれも下腹部痛の他に、排尿障害(頻尿・夜間頻尿・残尿感・排尿痛など)の症状を伴います。
泌尿器系疾患の原因
膀胱炎の原因は、基本的に尿道を通じて膀胱が細菌感染することです。そして、膀胱炎は、男性よりも尿道が短い女性に好発する傾向があります。
一方で尿路結石は、薬剤の副作用や前立腺肥大症の影響のほか、動物性タンパク質や脂肪に偏った食事など、原因は多岐にわたります。
泌尿器系疾患の治療法
膀胱炎の治療法は、基本的に体内に侵入した細菌を排除するために、抗生剤・抗生物質の投与が行われます。
一方で尿路結石の治療法は、主に薬剤によって結石の排出を促す薬物療法か、体外から音波による衝撃波によって結石を破壊する体外衝撃波結石破砕術が主流となっています。
その他の原因
その他に男女双方に現れる右下腹部の痛みの原因として、大腸癌(大腸がん)が疑われることもあります。ただし、大腸癌の初期症状は自覚しにくく、下腹部痛が現れる時には相当程度に癌が進行している可能性があります。大腸癌は出血を伴うので、定期健康診断などで便潜血検査を受けると早期発見の可能性が高くなります。
また、潰瘍性大腸炎では、慢性的な下腹部痛と慢性的な便通異常(便秘・下痢・血便など)が現れます。潰瘍性大腸炎は厚生労働省指定の難病で、原因は未だ解明されていません。潰瘍性大腸炎は、大腸癌の前癌症状である可能性も指摘されているので、注意が必要です。
さらに、大腸憩室炎(大腸憩室症)でも、下腹部痛が生じます。大腸憩室とは、便秘などが原因で大腸内圧が上昇して、大腸粘膜の一部が腸壁の外側に突出した部分のことです。大腸憩室炎は大腸憩室に便が溜まることで炎症を生じる病気です。大腸憩室炎の原因は、食生活の欧米化と加齢だと考えられています。
まとめ
いかがでしたか?右下腹部の痛みの原因として疑われる病気や、その治療方法について、ご理解いただけたでしょうか?
今回の記事では、右側の下腹部痛を生じる可能性がある病気や異常について、その概要を簡単に紹介することが主眼にありますので、どうしても原因や治療方法については言葉足らずな部分があるかもしれません。
ですから、下腹部痛が生じたり、下腹部に違和感がある場合は、インターネットで自分の症状に当たりをつけるだけでなく、躊躇せずに病院を受診して医師の診断を仰ぎましょう。その際の診療科は、内科・胃腸科・消化器内科、あるいは婦人科や泌尿器科になります。
関連記事として、
・右の脇腹の痛みの3つの原因とは!チクチクするのは病気の可能性も!
これらの記事も読んでおきましょう。