体に起こる障害は様々あります。生まれながらにして四肢がなかったり、骨の形成に障害があるなど目で見てわかる障害。一方で、脳そのものに障害があるケースもあります。
トゥレット症候群はそんな脳機能に異常が起こり、伴って様々な症状を発症する障害です。外見上、障害があるようには思えませんが、行動や仕草、言葉に異常をみることができます。
では、トゥレット症候群とはどのような障害なのでしょうか。原因や治療法にはどういったものがあるのでしょうか。これらのことについて詳しくみていきましょう。
この記事の目次
トゥレット症候群とは
トゥレット症候群は脳機能に障害がみられる病気です。主にチックと呼ばれる症状を発症します。脳内の神経伝達物質である「ドーパミン」の過剰分泌が原因といわれています。
トゥレット症候群は1000人〜2000人に1人の割合で発症します。年齢は平均して7歳。小学校に入るか入らないか程度の児童が主な層です。男児の方が女児より発症する確率が高くなっています。
トゥレット症候群の症状とは?
トゥレット症候群の主症状とは「チック」と呼ばれる症状です。チックとはさらに音声チックと運動チックに分けられ、以下のような症状が起こります。
音声チック
咳払いや鼻をならすといった症状が過度に頻発する状態を音声チックといいます。本人が意図しているわけではなく、突発的に症状を発症します。その他、奇声を発する、動物のような声を出すといった症状もみられます。
音声チックは症状が進行すると、奇声が止まらない、大声を出すようになる、不謹慎・汚い言葉を発するようになる、他人の言葉を反復するなどの症状がみられます。本人のみならず、周囲へ大きな負担がかかることもあります。
運動チック
まばたきや首を振る、白目をむくといった動作が突発的に起こります。その他、ジャンプ、人や物を叩くといった動作も見られます。
運動チックは症状が進行すると、普通の動作では考えられないほど強い首の振りを見せたり、瞬間的な痙攣が頻発するといったことがみられます。これら症状は全て、本人が意図しているものではなく、体が勝手に動いてしまっています。
チックに共通すること
音声・運動チックがトゥレット症候群の主症状ですが、これらには共通点があります。それは意図しない症状であるということ。不規則な動作をしたり、汚い言葉を発するというのは一見して本人の意思に見えますが、そうではないのです。ここがトゥレット症候群のポイントといえるかもしれません。
本人の意思とは関係のないチック症状はしばし、周囲の人から理解を得ることが難しいことがあります。ふざけているようにも思えますし、人によってはかなりの不快感を受けることもあるでしょう。
ただ、トゥレット症候群をきちんと理解すれば、そのような意思はないことがわかります。そこがとても難しいところであり、患者さんが最も辛い部分なのだと思います。
トゥレット症候群の原因とは?
トゥレット症候群の原因は先に述べたように、ドーパミンにあります。ドーパミンは脳の神経伝達物質の1つで、トゥレット症候群はこの物質が大量に分泌されることが原因といわれています。
では、ドーパミンとはどんな物質なのか。具体的には人のやる気や意欲を司っている物質です。人がなにかをしようと思ったとき、脳内で分泌され、行動を起こさせるのです。
例えば何かに集中している時、時間の経ちが早かったり、お腹が空かなくなることってありますよね。これもドーパミンの一効果なのです。とても身近な物質なのですね。
トゥレット症候群ではドーパミンが意図せず、常に分泌されてしまっているため、チック症状がみられるのではないか、と考えられています。
「愛情不足」が病気の原因だった?
トゥレット症候群の研究がまだ未熟だった頃、障害の原因は母親の愛情不足だという考え方がありました。子供とのふれあいが少ないことが病気の原因だと考えられていたのです。
その背景にはチック症状がストレス・不安を元にして発症するということがありました。子供がストレスを感じるような生活をしているからチック症状が起こる。そう考えられていたのです。
しかし、研究が進み、トゥレット症候群は脳内物質の異常によって発症することがわかりました。単なる愛情不足や育て方の問題ではなく、障害として捉えられるようになったのです。
愛情不足が病気の原因と言われてきた母親にとっては、かなりの精神的な負担があったでしょう。自分に病気の原因がある。そう思ってしまうのはとても辛いものです。
一方で大人のトゥレット症候群は…
子供にみられるトゥレット症候群は大人でも発症することがあります。チック症状がみられ、周囲に理解を得ることが難しい言動をとることがあります。
ただ、大人のトゥレット症候群の場合、原因は子供のケースとは異なり、慢性的なストレスが引き金になっていると考えられています。
仕事や家庭内で大きなストレスがあり、それが長く続いていると、トゥレット症候群を招くことがあるのですね。この場合、精神的にもかなり大きなストレスがかかっているかと思います。
ストレスは万病の元でしょう。トゥレット症候群だけではなく、様々な病気を招くことがあります。精神的なストレスがかかっているのであれば、早期に解消するようにしましょう。
トゥレット症候群の合併症
トゥレット症候群ではチック症状だけではなく、しばし合併症を発症します。具体的には以下のことがあげられます。
脅迫症
強い脅迫概念にかられる状態です。例えば体の汚れがとても気になり、何度も手を洗ったり、体を強く洗うなどの症状がみられます。皮膚がかえって弱くなり、湿疹や炎症が起こることがあります。
症状が進行すると、自傷行為まで発展することがあります。自分で体を傷つけてしまうため、目を離せない状況となり、周囲の人の精神的負担も大きくなるでしょう。脅迫症はトゥレット症候群の中でも3割の人にみられます。
ADHD
ADHDという言葉を聞いたことがある、という人は多いのではないでしょうか。ADHDは注意欠陥・多動性障害と呼ばれる障害で、トゥレット症候群と合併することが多いです。
ADHDの主な症状は多動性(落ち着きがない)、衝動性(順番が待てない)、不注意(気が散りやすい)の3つがあります。生活の中で人と話すことが難しかったり、作業を続けられなければADHDの可能性があるかもしれません。
詳しくは、ADHDは遺伝するの?実は原因すら解明されていなかったを参考にしてください!
睡眠障害
不眠や過眠。また、1日を周期的なリズムで過ごすことができない状態を睡眠障害といいます。トゥレット症候群では好発する症状です。
学習障害
何かを学んだり、理解する行動において障害が出てしまう状態です。学校の授業を理解できない、四則演算が難しい、文字を書く能力が低いといった症状がみられます。
自閉スペクトラム障害
自閉スペクトラム障害は他者との関わり方に、なにかしらの異常が発症する障害です。感情の表現が難しいといった特徴があり、周囲に打ち解けられないといったことが起こります。
特徴的な症状として言葉が不自由である、相手の立場に立つことが難しい、興味の幅が狭く深い、といったことがあげられます。
不安
トゥレット症候群では自分の意図しない言動をしてしまいます。このため、他者から理解されることが難しく、強い不安を感じるといったことが起こります。
抑うつ
不安と同様に、他者からの理解されることが難しく、自分を責めてしまうことがあります。これが抑うつといった状態につながり、物事に対して消極的、閉鎖的になります。
怒り発作
突発的に感情が爆発することがあります。人やモノにあたり、破壊することもしばしみられます。些細なきっかけが引き金となり、衝動的に発作がおこります。
合併症の原因
トゥレット症候群における合併所は多岐に渡します。しかし、その原因は症候群をきっかけとした、外部要因によって引き起こされることがしばしばあります。
それは具体的に言うなら、社会からの拒絶や隔絶があるでしょう。病気を理解されないがゆえ、自分の殻にこもってしまう。このようなことが他の心の病気等を招くきっかけとなっているのです。
例えば不安や抑うつ状態は他者との関係性が保たれていなければ、健常者でも発症することがあります。自分に非がないのに、責め続けてしまうと心は病んでしまうでしょう。
トゥレット症候群ではこのような合併所を防ぐためにも、家族をはじめとする周囲の人の理解が重要です。難しいことかもしれませんが、受け入れることが大切なのです。
トゥレット症候群の治療とは?
トゥレット症候群の原因は脳内の神経伝達物質の過剰分泌でした。治療では、その物質を阻害したり、働きを抑制するということがポイントになります。
その治療法として薬物療法があります。ドーパミンの分泌を抑える薬剤を投与し、チック症状を抑えることができます。ただ、副作用のリスクもあり、医師と十分な相談が必要でしょう。薬の種類として以下のものがあげられます。
ハロペリドール
チック症状に効果的な薬です。服用した人の70〜80%に効果があります。副作用として強い眠気があるため、寝る前に服用したり、量を調整する必要があります。
クロルプロマジン
ハロペリドールを服用の際、眠気が強く、日常生活に支障が出る時、クロルプロマジンに切り替えることがあります。チック症状を抑える効果があります。
治療には家庭環境の整備も必要
薬物療法を行わず、周囲の環境を整備することで症状が緩和されることがあります。これは家庭環境、社会環境といった全体的な整備が必要です。
例えば家庭環境では親自身の病気への理解がポイントとなります。病気への理解があれば、対応が変わり、環境が徐々に変わっていくことがあるのです。
訳も分からず子供に対して拒絶をするのではなく、1つの障害であることを認めることができれば、子供との関係は良好なものになります。そして、周囲にも理解してもらうことも大切。
閉じ込めてしまうこと、拒絶してしまうことは簡単です。しかし、それは障害とは別に、心に傷を負わせてしまうこともあります。そうなると、その傷は一生涯つきまとうかもしれません。
まずは家庭からその理解を広めること。それがトゥレット症候群とうまく付き合っていく方法なのかもしれません。
トゥレット症候群の予後
後発する年齢が7歳前後であるものの、症状はその後、回復していきます。中学生、高校生と年を重ねるごとに、症状は緩和していきます。
しかし、一方でチック症状が重症化し、全く快方に向かわないケースもあります。その場合は、引き続き治療を続けることとなります。場合によっては手術をすることもあります。
手術では脳内に電極を挿入する「深部脳刺激療法」という方法がとられます。トゥレット症候群の中でもかなり稀な治療法ですが、予後が悪い場合は選択肢の一つとして考える必要があります。
トゥレット症候群の社会的意義
自閉症やADHDといった障害は、今でこそ名前が広がってきていて、理解や知識がある人が増えているように思えます。しかし、一方でトゥレット症候群を知らないという人は未だ多いのかもしれません。
トゥレット症候群ではチック症状が主症状です。症状は周囲の人に対して非常に不可解で不愉快な気持ちにさせることがしばしばあります。
ですが、トゥレット症候群において最も理解しなければならないのは、起こる症状を本人が全く意図していないということでしょう。一方で最も難しい部分なのかもしれません。
ふざけているようにも見える仕草や暴言は、話している相手や周囲の家族を不愉快にさせるかもしれません。ですが、それは障害なのだと周囲の人が理解する必要があるのです。
障害者と健常者が触れ合う機会というのはなかなかあるものではありません。そこもまた1つの社会的な問題としてあるのかもしれませんね。
なかなか受け入れがたいことかもしれませんが、1つの障害として確かに存在します。そのことを受け入れなければ、誰もが安心して過ごせる社会を作ることは難しいでしょう。
意図しないことをしてしまう葛藤
チック症状は自分で止めることができません。しかし、その人の心の中では症状を止めたいという気持ちが強くあります。それが心的に大きな負担となっていることがあります。
また、トゥレット症候群の理解不足から周囲の人にからかわれたり、ひどい場合ではいじめといったことを受けることもあります。これはいわれのない被害であり、大きなトラウマを作る原因にもなります。
また、単にいじめをうけるだけではなく、様々な場面で不安を抱えているのも事実です。症状がもし公の場で起こったらどうしよう。なにも知らない人に見られたら、どう思われるだろう。そう思っている人も少なくはないのです。
一症状に苦しむだけではなく、自分の症状をどうしようもできない苦しみ。そして、人間関係の重圧に苦しんでいることもあるのです。
トゥレット症候群をどう受け止めるか
自分ではどうすることもできない障害を発症してしまう人がいます。それはトゥレット症候群だけではなく、数多くの障害があるでしょう。
社会としてこれらのことを考えるためには、まずきちんと理解をすることが大切です。それは一方的な偏見を捨て、一から障害を学ぶということでしょう。
自分の価値観で相手を図ることは、いじめや差別の元になりかねません。自分は自分、相手は相手であり、必ず違いがあります。根本的なことですが、とても重要なことだと思います。
その違いを受け止めることができれば、社会として障害を受け入れる第一歩が踏み出せるのかもしれません。そして、障害で悩んでいる人たちの気持ちを少しでも軽くすることができるのです。
大切なのは相互に理解すること。そして、一方的に決めつけないこと。このことがトゥレット症候群をはじめとする障害を考えるために必要なことだと思います。
まとめ
まだまだ広く知られていないトゥレット症候群。でも、この障害は確かに人を苦しめているのです。症状の改善はもちろんですが、最も必要なのは周囲の理解なのかもしれません。
まずは障害の存在を知ることから理解は始まるでしょう。どうして症状が起きているのか。どのように治療をしているのだろうか。相手の悩みは何なのだろうか。相手の立場に立つことはとても重要です。
そして、私たちに出来ることはなんなのだろうか。このことはあらゆる生涯・病気に共通する問いかけだと思います。一方的に拒絶するのではなく、相互により良い生活をすることはできないだろうか。
認知度の低い障害ゆえ、理解されにくい部分があります。ですが、きちんとした知識があれば、受け入れることはそう難しいことではありません。障害で悩んでいる人たちの声を聞くこと。そこから理解が始まるのです。