普段から特に理由も無いのに心配事や不安を感じている事はないでしょうか。その不安が自分では制御できない程に大きく、期間が6ヶ月以上続く場合には全般性不安障害(GAD:Generalized Anxiety Disorder)という病気になっているかもしれません。
全般性不安障害はパニック障害の3倍以上の患者数が存在するとされ、中には日常生活に障害をきたす場合もあります。単に「自分は不安に感じやすい性格だから」と思っていた人も、れっきとした病気の可能性もありますので、その不安の原因を少し掘り下げて知っておきましょう。
全般性不安障害の特徴
1000人に60人程度が経験すると言われ、決して稀な病気ではありません。また、一般的には10代で発症する事が多い病気です。男性よりも女性に多く見られ、その数は2倍以上と言われています。
薬物を常用していた事がある人で、尚且つその人の家族が全般性不安障害になった事がある場合には、発症する可能性が高くなっています。他にも、一度全般性不安障害を経験した人は慢性化しやすい傾向があるなどの特徴を持っており、適切な治療が必要となる場合もあります。
全般性不安障害の症状
どのような症状が続く場合に、全般性不安障害と診断されるのでしょうか。アメリカ精神医学会によってつくられる、「精神障害の分類と診断の手引き(DSM)」によって定義されていますのでご紹介します。
1.仕事や学業、将来、天災、事故、病気、などのさまざまな出来事または活動について、過剰な不安と心配がある。しかし、その原因は特定されたものではない。
2.不安や心配を感じている状態が6ヶ月以上続いており、不安や心配がない日よりある日のほうが多い。
3.不安や心配は、次の症状のうち3つ以上の症状を伴っている。
- そわそわと落ちつかない、緊張してしまう、過敏になってしまう
- 疲れやすい
- 倦怠感
- 動悸・息切れ
- めまい・ふらつき感
- 手中できない、心が空白になってしまう
- 刺激に対して過敏に反応してしまう
- 頭痛や肩こりなど筋肉が緊張している
- 眠れない又は熟睡した感じがない
DSMでは、以上のように定められています。又、その他の現れやすい症状として・・・
- 精神症状・・・注意力の散漫、記憶が悪くなる、根気がなくなる、人と会うのが煩わしくなるなど
- 身体症状・・・悪寒や熱感、震え、痙攣、吐き気、頻尿などの症状が見られる事があります。
症状の特徴
他の不安障害(パニック障害など)と比べ、症状がズルズルと長引く特徴があります。また、発症時期が明確に分からず、人によっては数年の周期で慢性的に繰り返し発症する事もあるようです。
例えば、「20代の後半ぐらいの時から不安に感じる事が増えてきた気がする」といったように、発症時期や原因もハッキリ分からず、症状が重くなったり反対に軽くなったりを繰り返して、少しずつ病気が悪化してしまう事があります。この経過の途中には症状が和らぐ時期があるために、病気だとは考えず(思い込みや気持ちの問題だと考えてしまうため)医療機関への相談や検査へ出向かない人が多いようです。
基本的にパニック障害などは症状の悪化が顕著で、ある日急に恐怖を感じ発作を起こすといった事もあり、病気ではないかと疑いが持たれやすいのです。ですが全般性不安障害ではその特徴から病気の存在に気が付きにくく、治療が行われないまま病気が進行し日常生活に支障をきたすようになっている事があるようです。
全般性不安障害の原因
全般性不安障害が発生する原因やきっかけをご紹介します。
発症の原因
脳内の神経伝達物質(GABAやセロトニンなど)が関与していると言われています。また、脳にある扁桃体(へんとうたい)の働きが、過剰に活性化されている事が確認されています。
この扁桃体は不安や恐怖、ストレスなどに大きく影響する部位であり、過剰な活性化により不安や恐怖を感じやすくなると考えられていますが、未だ全般性不安障害のハッキリとした原因はわかっていません。
きっかけ
離婚や別居、離職、慢性疾患など、その人にとってのストレスが慢性的に続いた時に発症のきっかけになる事が多いと考えられています。また、過労や睡眠不足など身体的な条件がきっかけとなる事もあるようです。
発症しやすい人のタイプ
心配性だったり、神経質で細かい事まで気になるような人は全般性不安障害を発症しやすいと言われています。また、周りの環境によっても発症しやすい人がいると考えられ、家庭環境に問題があったりなど、幼少期から不安が大きい環境にいた人などが一例として挙げられます。
また、これらのタイプに当てはまる人は、他の不安障害も同様に発症しやすくなっているようです。
遺伝
100%受け継がれる訳ではありませんが、遺伝による影響も報告されています。一卵性双生児での研究結果では80%程の一致率が見られるとの結果がでています。
全般性不安障害の検査
日本ではあまり知られていない病気である事や、病気であると疑われにくい事から、内科などで身体的な症状に対しての検査を受けてしまい、異常が見つからず検査や治療が長引くといった問題点が挙げられます。
本人や周りの人に心当たりがあれば、早期に心療内科や精神科での検査を実施する事が重要です。
全般性不安障害の治療
検査で全般性不安障害と診断された場合、どのように治療を進めていくのでしょうか。
生活習慣の改善
まずは普段の生活習慣を見直しから始めましょう。何気なく行っている日常生活での問題点は、自分では気が付きにくいかもしれません。
主治医や家族と相談しながら、不安を悪化させる生活習慣を改める事で症状の緩和に努めます。気持ちを不安定にさせる行動の具体的な例と対策法をご紹介します。
睡眠不足
睡眠不足は気持ちを不安定にさせる要因の一つです。また、生活リズムの乱れが続いている場合にも気持ちが不安定になりやすいと言われています。夜ふかしや、昼夜逆転の生活は控えるようにしましょう。
偏った食生活
過度なダイエットや、偏った食生活などにより脳に必要な栄養素が不足すると気持ちが不安定になりやすくなります。一日三食バランスの良い食事を心掛け、気持ちも身体も健康な状態を保ちましょう。忙しい時は軽く間食を摂って栄養補給をするなど、自分なりの工夫をする事もポイントです。
運動不足
適度な運動をして身体を動かす事は前向きな気持ちになる他、睡眠の質を向上させる事に繋がるとされています。成人で定期的な運動習慣を持つ人は多くないと言われていますので、忙しい中でも意識して身体を動かす習慣を身に付ける事が大切です。
ストレス
ストレスが気持ちを不安にさせるキッカケになっている事もあります。一人で抱え込まず、家族や友人、主治医に相談し、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
過度なアルコールの摂取
アルコールの過剰摂取は精神状態を不安定にさせる事に繋がります。また、ストレスなど他の原因で気持ちが不安定な場合に、アルコールで紛らわそうとして依存症になりやすいと言われています。そういった悪循環に陥らないように、まずは飲酒の量を一度見直す事が大切です。
薬物療法
薬による治療では主に、抗うつ剤が使用されます。また、あまり効果が見られない場合は抗不安薬や漢方薬を併用する事もあります。
抗うつ剤
抗うつ剤は神経伝達物質であるセロトニンを増やし、脳にある扁桃体の過剰な活動を抑える事で不安を和らげます。
その中でも第一選択薬として「選択的セロトニン再取り込み阻害役(SSRI)」と呼ばれる薬が使用されます。SSRIにはエスシタロプラム、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンの4種類があり、この内のいずれかを用い治療を行います。SSRIによる効果が見られない時、何らかの理由で使用出来ない時にはSNRI、NaSSA、三環系抗うつ剤などの薬が用いられる事もあるようです。
また、抗うつ剤は吐き気などの副作用がでる可能性がある事から、少量での服用から始める必要があるため、効果が見られるまで時間がかかる事が多いという特徴があります。
抗不安薬
効果が高い薬物治療の薬としてベンゾジアゼピン系の抗不安薬が挙げられます。一例としてロラゼパム、ジアゼパム、ブロマゼパムなどの薬があり、その特徴は「即効性」です。時間がかかる抗うつ剤とは違い、抗不安薬は早いもので数十分で効果が現れるものもあるようです。
抗不安薬には依存性、耐性がつくと言うデメリットがあります。全般性不安障害の患者はアルコールや薬物への依存度が健常者よりも高い傾向にある事からも、抗不安薬の長期の服用は控える必要があります。抗不安薬は一時的、頓服的な服用によってスムーズな治療を行う為に用いられます。
精神療法
薬物療法などで症状がある程度改善されれば、精神療法による治療も効果が期待できます。副作用も小さく安全性が高い事や、再発予防の効果が大きいという特徴がありますが、治療に時間がかかってしまうといったデメリットもあります。
認知行動療法
認知行動療法はCBTとも呼ばれ、全般性不安障害の患者にとって、とても有効な治療法とされています。
その人の物事への認知(とらえかた)を変える事で、不安を軽減する療法です。医師や理学療法士と共に、自分が不安に思う気持ちが発生しやすい状況やメカニズム、考え方のクセ(自動行動)などを客観的に判断し、その予防法や対処法を考えていきます。
まとめ
不安障害について簡潔にポイントをまとめました。
- 心配事や不安に思う気持ちが続き、日常生活に支障が出るような状態になる事がある病気です。
- 全般性不安障害と診断されるには、症状や症状が続く期間(6ヶ月以上)に基準が定められています。
- 原因として生活習慣や遺伝神経伝達物質の関与などが考えられます。
- 主に薬物療法と精神療法の二種類の方法(又はそれらの併用)での治療が行われます。
【最後に】
不安や心配事は誰にでもあり、それ自体が病気だとは考えにくい事かもしれません。ですが長期に渡ってその気持ちが変わらなかったり、日常生活にも影響があるような状態ならば、医療機関へ相談へ行く事を選択肢に入れる必要があります。一人で抱え込まず、適切な治療を行い心と身体の健康を手に入れましょう。