房中術ってどんな効果がある?その方法や道教の考え方について知ろう!

房中術という言葉をご存知でしょうか?術という漢字から、何らかの武術かと思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

房中術とは古代中国から伝わるセックス技法とされています。古代中国からの様々な思想や宗教の教えなどを背景にしているともされています。

なんだか物凄い秘術のようなことを想像されるかもしれませんが、中国医学からすると実は至ってオーソドックスなことを述べているにすぎないのです。

房中術に関する学術的研究は、始まって間もありません。そこで、今回は房中術に関する概要とその背景について、まとめてみましたので参考にしていただければ幸いです。

房中術とは?

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そもそも房中術とは、何なのでしょうか?

房中術とは?

房中術とは、古代の中国から伝わる養生術の一つとされています。つまり、中国に古来から伝わる健康状態を良くするための方法論の一種が、房中術です。

では、具体的にどのように健康状態を良くするのかというと、「房事」を通じて健康状態を良くしていくのです。そして、「房事」とは男女の性交渉のことを言います。

そもそも「房」という漢字には、寝室という意味があり、寝室で行われる事である「房事」が性交渉やセックスを意味するわけです。そして、寝室の中で行われる術、すなわち「房中術」は、性交渉やセックスの技法という意味になります。

しかしながら、「房中術」が現代においてイメージされるセックス技法やセックステクニックと同じ意味を持つかというと、決して同じではありません。房中術の背景には、古代中国から続く様々な思想が取り込まれているために、現代でイメージされるセックス技法というよりも、健康法により近いと言ったほうが良いでしょう。

したがって、簡単に言ってしまいますと、房中術は男女の性生活・セックスを通じて健康になろうとする方法論であると言うことができるでしょう。

具体的な房中術とは?

具体的な房中術の内容としては、性行為に対して節度を保って、快楽に溺れることがないようにすることが必要であり、性行為は適度に楽しむものと捉えます。

男性は、快楽に溺れずに節度を保つことで、無用に精を漏らさないことが重要とされています。ここに言う精とは、精液を意味するのではなく、中国医学における気の一種です。気の一種である精的エネルギーがなくなると、病気になるとされるので、多数の女性と交わってはならないと考えます。ちなみに、気とは生命エネルギーというような、やや抽象的な概念になります。

また、性行為をするにあたっては、女性が十分に興奮した状態が必要とも述べています。これは前戯をして陰道、すなわち女性器の膣に愛液が満たされると陰の気が高まるので、そこで気の交換をすべきという考えです。

このように房中術は、男女の気の交流・交換を通じて、男女の心身が結ばれることを目的とするものと言えるでしょう。

房中術の文献について

房中術の文献として有名なのが、1973年に中国の湖南省で発掘された6点の文献です。この6点の文献は、「十問」・「合陰陽」・「天下至道談」・「胎産書」・「養生方」・「雑療法」です。これらの書物は、房中術や性医学を主要なテーマとして編纂されています。

これらの文献が発掘されたのは、馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)と呼ばれる墳墓遺跡で、紀元前2世紀(紀元前200年~紀元前101年)の間に作られたものとされています。

ですから、房中術自体や発掘された文献は、それ以前に成立していたということが分かります。

このような古代中国の房中術に関する文献は、散逸していることがほとんどで、馬王堆漢墓の発掘を契機に現代中国でも学術的研究が始まったという状態です。

一方で、日本の平安時代に編纂された日本の医学書「医心方」の中には、中国の房中術に関する文献が引用されています。すなわち「医心方」の中の房内篇において、「素女経」・「洞玄子」・「玉房秘訣」といった房中術に関する文献が引用されているのです。

ちなみに、この「医心方」は中国の唐の時代に存在した沢山の医学書を漢文で引用していて、中国では失われた文献が「医心方」から復元されるなど世界的にも文献的価値が高く、現在は文化庁が買い取り、日本最古の医学書として国宝指定されています。

房中術の背景にある陰陽五行思想

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房中術の背景には、中国古代の思想である陰陽五行思想が存在していると言われています。では、陰陽五行思想とは、いったいどんな思想なのでしょうか?

陰陽思想

陰陽思想は中国の古代から存在する思想のことで、この世に存在するありとあらゆる事物を、陰と陽の二つに分類する考え方のことを言います。

陰陽思想における「陰と陽」は、お互いに対立する概念や属性を持つものの、お互いの存在があってはじめて自らの存在が成立するものとして捉えられます。

そして、陰には受動的性質のもの、陽には能動的性質のものが分類されます。

  • 陰:暗・柔・夜・冬・女・月など
  • 陽:明・剛・昼・夏・男・太陽など

例えば、日差しがあれば、日陰が生じて互いに対立する概念ですが、日陰は日差しがあってこそ生じるものであり、日差しも日陰があるからこそ明るさが映えるのです。

同じように、男(男性)と女(女性)は性という観点に立てば、能動的な男と受け入れる側の女として対立する属性を持ちますが、男女が交わらないと子孫が残らないのですから互いの存在に依存しているとも言えますね。

五行思想

五行思想は中国の古代から存在する思想のことで、全ての物は「木・火・土・金・水」の5要素を根源として成り立っているとする考え方のことを言います。

また、五行思想では、これらの5要素が相互に作用することによって、全ての物は循環するという考え方をします。そして、相互作用の仕方については、五行相克説と五行相生説の2通りの考え方があります。

五行相克説

五行相克説は、いわば5要素の相性が悪い順で相互に循環するという考え方です。具体的には、木~土~水~火~金~木という順番です。

  • 木は根を張って、土から栄養を奪い去る
  • 土は水を吸収する、あるいは土の堤防が水の流れを止める
  • 水は燃える火を消す
  • 火は金(金属)を溶かす
  • 金(金属)は木を切り倒す

五行相生説

五行相生説は、いわば5要素の相性が良い順で相互に循環するという考え方です。具体的には、木~火~土~金~水~木という順番です。

  • 木が燃えることによって火が生まれる
  • 火が燃えた後に灰が生じて、灰は土に戻る
  • 土の中から、いろいろな金属(金)が生まれる
  • 金属(金)が冷えると、水滴(水)ができる
  • 水が木の根から吸収されて、木が成長する

陰陽五行思想

このような陰陽思想と五行思想が結びつくことによって、陰陽五行思想が生まれます。陰陽五行思想は、歴史的には中国の春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)の間に生まれたと考えられています。

そして、陰陽五行思想は、陰陽思想と五行相克説・五行相生説をベースに発展して、十干十二支(じっかんじゅうにし)や暦などに反映されています。また、陰陽五行思想は、中国医学や風水などにも、その影響が及んでいます。

房中術と道教の関係

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房中術は、このように陰陽五行思想を背景にして、後漢の時代(西暦25年~220年)から徐々に道教の中に取り込まれていきます。

では、道教とは、どのような教えなのでしょうか?

道教

道教は、中国における三大宗教(儒教・仏教・道教)の一つとされています。道教は、もともと漢民族の土着的な宗教であって、道(タオ)を中心概念としています。

道とは、宇宙における根源的で滅びることの無い真理のことを言い、道教では各自が自分の努力で道を見出さなければならないとしています。欲望に囚われると表面的現象を知るだけだとして、宇宙や人生における道に到達する修行を求めます。そして、長生きすることが道を見出す修行の機会を増やすことになると考えて、錬丹術によって不老不死の霊薬(仙丹)を作り、不老不死となる仙人になることを理想とします。

また、拳法によって気を整えて心の安定を目指したり、瞑想をすることも道を見出す方法の一つとして考えられています。

錬丹術

錬丹術とは、道教の長生術、すなわち長生きするための方法論の一つで、不老不死の仙人になれる霊薬(仙丹)を作ることを言います。そして錬丹術は、外丹と内丹に分類されます。

外丹は、水銀などの鉱物を合成して丹薬を作り出すことを言います。しかしながら、現代人にとっては水銀が人体に有害であることはわかっていますが、当時の唐の皇帝が丹薬を服用して命を落とす例が複数あったとされています。

これに対して、内丹は外丹の失敗を受けて、長生きや不老不死の源を体の中に求めようとする考えです。いわば、人間の中に存在する気を原料として、体の中に丹薬を作ろうという発想が内丹であって、丹法とも呼ばれます。

内丹術(丹法)

内丹術は、万物の構成要素である気を原料にして体内に丹薬(内丹)を作るという錬丹術から転じて、体内に内在する気を活性化して生命力を高めることで道に到達しようとする一種の修行方法・修行体系とされています。

内丹術においては、人間は肉体と精神が密接に関連して生命として活動しているので、性(意識)と命(肉体)は分離できず一緒に修練しなければならないと考えます。この考え方を、性命双修と言います。性(意識)は、精・気・神の三つで構成されると考え、性命エネルギー(生命エネルギー)を蓄えることが修練となります。

修練は、基本的に一人で修行する禁欲的なもので、瞑想や拳法を行うことで性命双修を目指します。内丹術には様々な流派が存在しますが、このように一人で修行をする流派のことを清修派と呼び、主流を形成します。

一方で、複数で修行をする流派のことを双修派と呼び、その一部が房中術を取り入れ、男女二人で修行をする考えが展開されました。ちなみに、房中術は陰丹とも呼ばれるようになります。

道教における房中術

道教における房中術は、錬丹術と同様に長生術の一つとして位置づけられていたと考えられています。

外丹の服用が最も高い価値があるとされていましたが、房中術にも長生の効果があるとして人は陰陽の交わり、すなわち男女の交わりを絶ってはならないとしています。このように陰陽五行思想を背景にして、道教における房中術は快楽を目的とすることなく、節制を求めて、男女の気の循環や交換に力点を置いています。

しかし、房中術は時代が進むに連れて、長生術としての本来の目的から外れて単なる享楽や淫蕩に陥ったこともあり、性欲に厳しい態度をとる仏教から批判を受けます。そして、房中術は表舞台から徐々に消えていき、道教の一部で秘術として残るにすぎない存在となっていきます。

中国医学に残る房中術の名残

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中国医学は、歴史的に陰陽五行思想の影響を受けたり、道教に密接な関与を受けながら発展してきています。そして、中国医学には、房中術の名残も残っています。

中国医学の特徴

中国医学の特徴は、人間自身に内在している自然治癒力を高めるという治療を行います。そのため、自然界に存在する天然の薬効成分を生薬として用います。ちなみに、この生薬について日本で独自に発展したのが漢方医学で、中国医学と漢方医学は異なります。

また、中国医学のもう一つの特徴は、病気になる前段階で治療するという予防医学的な考えがあることです。

中国医学における予防医学

中国医学における予防医学的な考えが顕著に現れるのが、未病を治すという考えです。そして、未病を治すを実践するのが、食養生、気功、性養生です。

食養生は、医食同源という言葉に代表され、食物が精になって気が充実して肉となり力が出るので、食事の摂り方に気をつける考えかたです。

また、気功は、太極拳のような一定の動作を行うことで気や血の巡りを改善する方法です。

さらに、性養生は、理にかなった性生活は健康に寄与するけれども、誤った性生活は精や気を消耗するので健康に悪いとする考え方です。性的エネルギー(性エネルギー)を無用に用いることをしない点で、房中術の名残とも言えます。

日本への影響

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陰陽五行思想や道教などの考えは、日本にも大きな影響を及ぼしています。そして、ある時期には房中術に類似した考えも展開されましたので、参考としてご紹介します。

陰陽道(おんみょうどう)

陰陽五行思想は、仏教や儒教の伝来とともに5世紀頃に日本に伝わったとされています。陰陽五行思想は、天文学、暦、占いなどと密接な関係があるため、自然界の災厄や人間の吉凶を判断する技術として浸透します。この災厄や吉凶を判断するのが陰陽師で、日本で律令制が敷かれると陰陽師は国家管理とされます。

平安時代に御霊信仰(天災が怨霊の仕業と恐れる考え)が広まると、道教の方術の考えなどを取り入れて、日本の陰陽道は独自の呪術や占術の体系として発展することになります。

真言立川流

真言立川流は、密教の真言宗の一流派です。平安末期の仁寛が流祖とされます。

真言立川流の特徴は、真言宗の常用経典である理趣経を拡大解釈することで、本来性欲に否定的な仏教にも関わらず、男女陰陽の道・男女交合を説く点にあります。つまり、陰陽道の陰陽五行思想を取り入れて、男女が性交・セックスすることによって、真言宗の本尊である大日如来と一体となれると考えるのです。このような点は、房中術に類似したものと言えるでしょう。

ただし、真言立川流は南北朝時代に入ると弾圧を受けて、徐々に衰退していきます。

まとめ

いかがでしたか?房中術に関する概要とその背景について、ご理解いただけたでしょうか?

房中術は、古代中国の陰陽五行思想を背景に、男女の気の交流・交換を通じて、男女の心身が結ばれることを目的とするものです。中国の思想を背景にしているだけで、現代の人間でも十分に納得のできる極めてオーソドックスな性行為に関する考え方と言えるでしょう。

しかしながら、その後の道教などに取り込まれていく過程で、少しずつ変容して、淫蕩や享楽の原因が房中術ということにされていきます。そのため、道教における房中術は、表舞台からは消えてしまったのです。

とはいえ、中国医学における性養生という概念などに、房中術の名残が見えます。理にかなった性生活は健康に寄与するのに対して、誤った性生活は精や気を消耗するので健康に悪いとする考え方ですね。

情報が氾濫し、欲望がうごめく人間社会では、このような性行為の本質がどうしても忘れられてしまう傾向がありますよね。本記事を契機に、自らの性生活について一考してみるのも良いかもしれませんよ。

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