夏休みのレジャーと言えば、海水浴を挙げる人も多いのではないでしょうか?中には、子供に良い経験をさせようと近場の海水浴場へと家族で繰り出す方もいるでしょう。
そんな海水浴場で気をつけなければならないのがクラゲ(海月)です。多くの方が、注意していれば大丈夫、刺されなければ問題ないと安易に考えているようです。しかしながら、そこはクラゲも野生の生物ですから、人間がいくら注意をしていてクラゲに皮膚を刺されてしまうことがあるのですね。
そして、クラゲは様々な種類が存在し、毒性の弱いクラゲもいれば、猛毒レベルに毒性が強いクラゲもいるのです。クラゲに刺されると、予期しない痛みなど様々な症状が現れるので、冷静さを失い間違った対処をしてしまいがちです。
そこで今回は、海水浴場でクラゲに刺されても冷静に対処するためにも知っておくべきクラゲの生態や種類、刺された際の応急処置や対処方法について、ご紹介したいと思います。
日本沿岸で見られる主なクラゲの種類と危険性
日本沿岸には様々な種類のクラゲがいて、毒性の弱いクラゲもいれば、猛毒レベルに毒性が強いクラゲもいます。そして、クラゲの種類によって、現れる症状も少しずつ異なります。
それゆえ、刺された際に適切な応急処置や対処をするには、予めクラゲについて最低限の予備知識が必要となります。そこで、日本沿岸で見られる主なクラゲの種類とその危険性について、ご紹介したいと思います。
クラゲとは?
クラゲは、刺胞動物門という分類に属する動物の中で、特に淡水中あるいは海水中に生息して浮遊し漂っている種の総称、と定義されます。
刺胞動物とは、刺胞と呼ばれる毒液を注入する針(毒針)を備えた動物のことで、クラゲのほかにイソギンチャクなども含まれます。刺胞動物は、刺胞によって身を守り、刺胞によってエサの確保をしています。
クラゲのほとんどが、ゼラチン質と水分で構成されるため、柔らかで透明な体をしています。また、クラゲの多くが傘形をしており、下部に刺胞細胞を備えた触手が垂れ下がっているのも大きな特徴の一つです。クラゲは基本的に脳や眼を持ちませんが、体内に神経や筋肉は存在しています。ただし、筋力は弱いため、水の流れに逆らうことはできず浮遊するのみです。
主なクラゲの種類とその毒性
日本列島は南北に長く、地域によって生息するクラゲの種類も少しずつ異なります。様々な種類のクラゲの中で、特に海水浴をする夏の時期に日本沿岸で見られるクラゲをご紹介します。
ミズクラゲ
ミズクラゲは日本沿岸で見られる最も一般的なクラゲで、砂浜に打ち上げられている光景も良く見られます。ミズクラゲは傘の形が丸くキレイなので、観賞用としても人気で多くの水族館でも展示されています。
ミズクラゲの毒性は弱く、人がミズクラゲに触れても無害の場合が多いのですが、肌の弱い人や子供には痒み(かゆみ)が生じる場合もあります。
アンドンクラゲ
アンドンクラゲは電気クラゲとも呼ばれ、お盆の時期になると日本沿岸に姿を現すことで有名です。アンドンクラゲは、傘の部分が直径3cm程度と小さいのですが、行灯のように立方体に近い傘から長い触手が垂れているのが特徴です。また、体の透明度が高いので、近くにいても気づきにくいのも特徴です。
アンドンクラゲの毒性は弱い部類に入りますが、刺胞細胞の針で刺されるとビリビリという鋭い痛みが走り、患部はミミズ腫れになります。
カギノテクラゲ
カギノテクラゲは岩礁や沿岸部の海藻の間に生息する特徴があるので、磯遊びをする際に注意しなければならないクラゲです。カギノテクラゲの傘は直径15cm程度で、触手の先端が鉤状に折れ曲がっているのが最大の特徴です。
カギノテクラゲの毒性は強い部類に入り、刺された直後の痛みは大したことありませんが、1時間ほど経過すると激しい痛みや痺れが現れ、咳・鼻水・吐き気・頭痛・筋肉痛などの全身症状も現れます。最悪のケースでは、呼吸障害が発生し血液中の酸素濃度が低下することにより、皮膚・粘膜が青紫に変色するチアノーゼが現れます。
カツオノエボシ
カツオノエボシも電気クラゲと呼ばれ、春から夏に熱帯地域の海から海流に乗って主に日本の太平洋岸にやってきます。カツオノエボシは直径10㎝程度で、青色の透明な浮き袋で海面に浮かんでいるのが特徴です。
カツオノエボシの毒性は強く、非常に長い触手の毒針で刺されると、刺された瞬間から強烈な激痛が走ります。刺された患部はミミズ腫れとなり、激痛も長く続きます。2度目に刺されるとアナフィラキシーショックによりショック状態に陥り、死に至る可能性もあります。
アカクラゲ
アカクラゲは日本近海に広く分布するクラゲで、しばしば砂浜に打ち上げられることもあります。アカクラゲは直径12㎝前後で、名前の通り赤い色をしているのが特徴です。
アカクラゲの毒性は非常に強く、刺されると火傷のような強烈かつ鋭い痛みが走ります。また、アカクラゲが沿岸に打ち上げられて死んでいても、その死骸に毒性が残存するのも特徴の一つです。死骸が乾燥し粉末状になって空気中に拡散した場合、それを吸ってしまうとクシャミが止まらなくなることがあるとされています。
ハブクラゲ
ハブクラゲは日本では奄美や沖縄に生息が確認される熱帯性のクラゲで、5~10月に発生します。ハブクラゲは直径10cm程度で傘高15cmの立方体のような傘形にもかかわらず、触手は1mを超えるほど長いのが特徴です。
ハブクラゲの毒性は日本近海のクラゲの中では最大級で、刺された直後から猛烈な激痛が走ります。刺された場所はミミズ腫れとなり、6時間くらい経過すると水疱・水膨れに変化し、半日程度で患部が壊死を起こします。重症になるとショック症状で意識障害や呼吸困難が現れ、最悪のケースでは死に至る危険性があります。
クラゲに刺された際の応急処置と対処方法
このように日本沿岸には様々な種類と危険性を有するクラゲが存在するわけですが、それではクラゲに皮膚を刺されて被害にあった場合には、どのような応急処置や対処をすれば良いのでしょうか?
そこで、クラゲに刺された際の応急処置方法や対処法について、ご紹介したいと思います。
落ち着いて海から出る
クラゲに刺されると前述の通り、ほとんどの場合で突発的な痛み・激痛が走ります。当然ですが海の中にいるため、ちょっと移動しようとするだけでも水の抵抗や波の動きによって身体の動きが制限されます。そのため、クラゲに刺されて予期しない痛みに襲われると、どうしてもパニック気味になりがちです。
海中でパニックとなれば、溺れるという二次被害の危険性もあります。また、クラゲに遭遇した場所にとどまれば、さらにクラゲに別の部位を刺されかねません。
ですから、海の中で痛みを感じてクラゲに刺されたと思った場合は、まずは落ち着いて冷静に海から出て陸上に戻ることが肝要です。近くに人がいれば、声をかけて助けを求めても良いでしょう。
患部の確認と洗浄
冷静に海から出て陸上に戻ったら、刺された場所や患部の状況を確認します。というのも、クラゲの触手が患部に巻きついたり吸着して残存している場合があるからです。
触手を取り除く
もしクラゲの触手が残存していた場合は、取り除く必要があります。取り除く際には、素手で直接取り除くことは絶対に避けましょう。クラゲの触手には、人が思っている以上に刺胞と呼ばれる毒針が無数に存在し、素手で取り除こうとすると被害が大きくなります。
ですから、手袋などの用意があれば理想ですが、用意がなければビニール袋・タオル・着用しないシャツなどで手を覆ってから処理するようにしましょう。
患部の洗浄
患部の洗浄をする場合には、必ず海水を使うようにしましょう。真水・水道水で洗ってしまうと、海水に近い成分のクラゲの体液と真水の塩分濃度の違いによる浸透圧がクラゲの触手の刺胞・毒針を刺激し、さらに毒素を射出させることになりねません。
ですから、患部の洗浄については、バケツ・空のペットボトルなどに海水を汲んで、その海水で洗い流すようにしましょう。触手を取り除く際も、海水を汲んだ容器の中に患部を浸しながら行うと良いでしょう。
食用酢を用いる民間療法
ちなみに、民間療法として食用酢を患部にかけて洗い流す応急処置方法が存在します。たしかに、アンドンクラゲとハブクラゲについては食用酢が毒素の射出を抑制する効果があるとされています。しかしながら、カツオノエボシについては逆効果で、食用酢が刺激となって余計に毒素を射出させることになります。
そもそも多くの人は、刺されたクラゲの種類を判別することが困難だと思います。また、海水浴に食用酢を持参している人は少ないと思います。
ですから、刺されたクラゲの種類が分からない場合は、食用酢を用いることは危険ですので止めましょう。
患部の冷却と速やかな病院の受診
患部の確認と洗浄を終えたら、多くの場合に患部に痛みが生じたり、患部が赤く腫れたりしているので、痛みの緩和をするために保冷剤や氷水で患部を冷やします。その上で、速やかに病院を受診するのが基本です。
毒性の弱いクラゲが原因と明らかな場合
原因がミズクラゲやアンドンクラゲなどの毒性の弱い部類のクラゲだと明らかな場合は、患部を冷やしながら、救護所に向かい消毒薬で患部を消毒しましょう。その上で、救護所で抗ヒスタミン薬(抗ヒスタミン軟膏)やステロイド成分の含まれる抗炎症薬といった外用薬を塗布して経過観察しても良いかもしれません。
抗ヒスタミン薬・ステロイド系抗炎症薬
ヒスタミンとは、アレルギー反応や炎症が現れる際の介在物質として人の体内で合成されます。そのため、抗ヒスタミン薬を塗布することで、皮膚の炎症を抑制することができます。
また、ステロイドはアレルギー反応や炎症を効果的に抑制します。そのため、ステロイド成分を含む抗炎症薬を塗布することで、皮膚の炎症を沈静化させることができます。
ちなみに虫刺され薬の市販薬は、ほとんどが抗ヒスタミン薬かステロイド成分を含む抗炎症薬のいずれかに該当しますので、海水浴の際には念のためカバンに入れて持参しておくと良いかもしれません。「ムヒアルファEX」や「テトラ・コーチゾン軟膏」などの市販薬が有名です。
原因のクラゲが不明あるいは毒性の強いクラゲの場合
一方で、原因のクラゲの種類が分からない場合や原因が毒性の強いクラゲである場合は、自己判断で外用薬を塗布せずに、患部の冷却後は速やかに皮膚科の病院あるいは救急病院などを受診しましょう。そして、病院で医師の診断と治療を受けて、処方された薬剤を使用しましょう。
また、毒性の強いクラゲの場合や被害者が子供の場合などは、アナフィラキシーショックや症状の急変の可能性もありますから、救急車による搬送も検討しましょう。
アナフィラキシーショックとは?
アナフィラキシーショックとは、重度のアレルギー反応のことです。多くの場合に全身性の皮膚症状が現れるほか、重症の場合には呼吸困難・失神・意識喪失など生命の危機に陥ることもあります。ハチ毒や重度の食物アレルギーなどが原因となることが多いのですが、クラゲに刺されることによっても発症する危険性があります。
基本的には過去にハチやクラゲに刺されたり、原因となる食物を摂取することにより、それらが体内の免役システムに異物と認識され抗体が作成されることに端を発します。そして、2回目に刺されたり、原因食物の摂取をすることにより、免疫システムが異物を排除しようと異常に暴走することになって、重度のアレルギー反応を起こすと考えられています。
クラゲに刺されないための予防方法
このようにクラゲに刺された際の応急処置方法や対処法について紹介してきましたが、せっかくの海水浴ですからクラゲに刺されないに越したことはありません。
そこで、クラゲに刺されないための予防方法・予防対策について、ご紹介したいと思います。
クラゲよけローションの塗布
ご存知の人もいるかもしれませんが、クラゲよけローション・クラゲ予防ローションという商品が複数市販されています。中には日焼け止めを兼ねているものもありますので、興味のある方はインターネットで検索してみてください。
ただし、注意しなくてはならないのは、クラゲよけローションを塗布しても、周囲にクラゲを一切寄せ付けなくするものではないということです。クラゲよけローションの仕組みは、クラゲに仲間だと勘違いさせる特別な成分が含まれていて、クラゲが近づいても仲間だと勘違いすることで攻撃を受けないようにするというわけです。
ワセリンの塗布
保湿剤として使われることのあるワセリンですが、ワセリンを肌に塗布することにより油膜を作ることで、クラゲの触手にある刺胞・毒針が皮膚まで刺さらない効果をもたらすとされています。
ただし、身体の露出部分にワセリンを塗布するとなると大量に必要になること、ワセリン塗布後はかなりのベタつきがあること、海水に浸かっていると徐々に油膜が剥がれていくので塗り直しが必要なこと、など複数のデメリットも存在します。
ラッシュガードの着用
ラッシュガードとは、日焼けを防止するための生地の薄い衣類のことで、形状はウェットスーツに似たようなものからパーカータイプのものなどバラエティに富んでいます。上半身のみ、下半身のみ、長袖、半袖、フード付きなど様々なタイプのラッシュガードが販売されていますので、自分の好みのものを選ぶことができます。
ただし、ラッシュガードはあくまでも日焼けの予防が目的であるため、クラゲ予防が目的の商品ではありません。ラッシュガードの生地は薄めなので、必ずしもクラゲの攻撃を全て防げるわけではありませんので、過信は禁物です。
まとめ
いかがでしたか?海水浴場でクラゲに刺されても冷静に対処するためにも知っておくべきクラゲの生態や種類、刺された際の応急処置や対処方法について、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、海水浴は夏休みのレジャーの代表格で、大きな海を目の前にすると心も自然と解放されてリラックスすることができます。しかしながら、海水浴場ではクラゲに気をつけなければなりません。特にお盆の時期以降の海には、様々な危険性を有するクラゲが多くなります。
クラゲに刺されてしまうと、せっかく心が解放されてリラックスしていた休日も、その対処に追われて暗転してしまいます。ましてや、クラゲに刺された際の応急処置や対処法についての知識を有するか否かで、休日の暗転度合いも歴然の差が生じるでしょう。
ですから、海水浴に出かける前に本記事などを参考にして、クラゲの危険性や応急対処法の知識を蓄えるようにしましょう。
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