胃潰瘍を発症しても、最近では、手術をしない治療が増えているそうです。薬の発達などで、治療の選択肢が増えたからです。でもそのためには、初期での治療が必要です。痛みを感じたら、まずは症状チェックをしてください。
胃潰瘍の症状をチェック
胃潰瘍は症状が出やすい病気と言われています。下のチェック表の「□」に「✔」を付けてみてください。ポイントは「痛みを感じたときにこのチェック表を付ける」ことです。そして、「✔」が付いた症状をメモ書きして、医者に渡してください。胃潰瘍の治療では、症状に関する細かい情報が役立つからです。
□みぞおちが痛む
□みぞおちの左が痛む
□にぶい痛み
□突発的な痛み
□食事中に痛む
□食後に痛む
□空腹時に痛む
□胸焼け
□酸っぱいげっぷ
□吐き気
□血を吐いた
□便が黒い
□黒い血の下血
□食欲がない
□胃がもたれる
□背中が痛い
痛みの種類が示すものとは
いかがでしょう、いくつ付きましたでしょうか。正直に書いてください。例えば、ある日は「空腹時」に胃が痛み、別の日は「食後」に痛んだ場合、両方の「□」に付けてOKです。「空腹のときも食後も痛む」という情報が、医師の診察の助けになるからです。
例えば、同じ胃潰瘍でも、「急性胃潰瘍」は、突発的に痛みますが、痛みが治まるのも早いです。一方で「慢性胃潰瘍」は、空腹時に痛むことが多く、その痛みは背中にまで達することがあります。「痛み方を医師に知らせる」ことは、治療の第一歩と考えてください。
「胃潰瘍」とは?
胃潰瘍の「瘍」は「できもの」という意味です。「潰」は、訓読みだと「潰(つぶ)れる」と読みます。つまり「胃にできものができて、それがつぶれる」わけですから、文字だけでも、重い症状が想像できます。
胃酸と胃粘液のバランス
胃の中ににじみ出てくる「胃酸」は、食べ物とどろどろに溶かすくらい強力な液体です。もしなんの防御もなければ、胃酸を出している胃自体が、胃酸によって傷つきます。そうならないのは、胃の表面を「胃粘液」が覆っているからです。「胃粘液」が「胃酸」をブロックしているのです。
胃酸が少ないと食べ物の消化が進まないので、適量な胃酸は必要です。「胃酸」と「胃粘液」の量は、微妙なバランスを保っていないとならないのです。そのバランスをコントロールしているのが、自律神経です。
ですので、精神的ストレスなどによって自律神経が乱れると、そのコントロールがきかなくなり、胃酸が多く出てくる一方で胃粘液の量が減ってしまうのです。胃粘液のブロックがないので、胃酸が胃を攻撃してしまい、胃が傷つきます。これが胃潰瘍です。
薬とアルコール量が関係?
症状チェックとは別に、薬とアルコール量などについても、チェックする必要があります。それは、非ステロイド性抗炎症薬や、解熱消炎鎮痛薬、降圧剤という薬によっても胃潰瘍が引き起こされる可能性があるからです。また、アルコール、タバコ、コーヒーの飲みすぎも、胃潰瘍の原因になります。
そこで、チェック項目を追加します。これも医師に伝えてください。
□非ステロイド性抗炎症薬を服用している
□解熱消炎鎮痛薬を服用している
□降圧剤を服用している
□アルコールを飲む(週 □ 日くらい)
□喫煙する(1日 □ 本くらい)
□コーヒーを飲む(1日 □ 杯くらい)
胃に穴が開く
胃潰瘍の初期は、無自覚なことがあります。ですので、痛みが生じたら「初期から進行しているかもしれない」と考えられます。さらに悪化すると、潰瘍が胃の血管を傷つけるので、出血します。その血は、口から出ることもありますし、肛門から出ることもあります。
胃で出血した血が肛門から出る場合、小腸や大腸を通ってきますので、相当の時間が経過しています。その間に、元は真っ赤だった血が、真っ黒になってしまいます。それで重い胃潰瘍の方は、「黒い血」や「黒い便」が出るのです。
さらに悪化すると、胃に穴が開きます。この症状を「穿孔(せんこう)」といいます。「孔」は「穴」と同じ意味です。「穿(うが)つ」は「穴を開ける」という意味です。
穿孔すると、胃の内容物がお腹の中に漏れ出て、臓器に大きなダメージを与えます。腹膜炎という、別の深刻な病気を引き起こしかねません。
ピロリ菌との関係は?
胃の病気を調べると、必ず出会うのが「ヘリコバクター・ピロリ菌」です。患者が胃の異変を訴えると、それが胃潰瘍の疑いでも胃がんの疑いでも、消化器内科医はまず、ピロリ菌について考えます。しかし、一般の人には、その正体があまり知られていません。それは、胃とピロリ菌の関係が判明したのが、ごく最近だからです。
発見されたのは?
多くの医師や医学研究者たちは、「胃の中は強力な酸で満たされているので、菌などいるはずがない」と考えてきました。なので、胃潰瘍や胃がんなどの胃の病気は「ストレスが原因」という考え方が主流だったのです。
ところが1983年に、ピロリ菌が発見され、この菌が胃を攻撃していることが分かったのです。以来、大学病院や学会などが、さまざまな広報活動を行い、ピロリ菌の危険性をアピールしてきましたが、国民の理解度はそれほど深まっていないようです。ただ、印象的な名称なので、「ピロリ菌という名前は聞いたことがある」という方は多いようです。
余談ですが、「恐い菌なのに、名称がカワイすぎる」と言う方がいます。胃には入口と出口があります。「口」に近い「入口」を「噴門(ふんもん)」、「腸」に近い「出口」を「幽門(ゆうもん)」といいます。「幽門」は英語でpylorus「ピロルス」といい、ピロリ菌は幽門で初めて見つかったので、「ピロリ菌」と名付けられたそうです。
ピロリ菌のリスク
ある研究者は、ピロリ菌が胃の中にある人のリスクを、
①胃がんリスクが20倍になる、
②胃潰瘍を誘発する、
③慢性胃炎を誘発する
と指摘しています。日本人の50%がピロリ菌に感染していて、50代以降に限ると、感染率は70%に達する、という研究結果もあるそうです。
ピロリ菌の感染者のうち、胃潰瘍または十二指腸潰瘍を発症するのは5%程度です。しかし、胃がん患者の8割以上が、ピロリ菌を保有しているか、保有していたそうです。
進化する胃潰瘍の治療
胃潰瘍の治療といえば、かつては手術でした。胃が物理的に傷つき、血管が破れ、出血しているわけですから、お腹を開いて、胃にメスを入れる必要があったのです。しかし現代では、多くの病院が「胃潰瘍の治療で手術をすることは稀」と言っています。
内視鏡の進化について
胃潰瘍の手術が減った原因のひとつは、内視鏡の進化にあるといわれています。内視鏡は、「長くて細い管」の医療器具です。
口か鼻からその「長くて細い管」を差し込んで、奥へ奥へと送り込みます。内視鏡の「先端」が、胃潰瘍を起こしている場所に達したら、「先端」から「さらに細い器具」を出して、胃潰瘍の部分に接触させて治療するのです。
内視鏡の「先端」にはカメラとライトがついているので、暗闇の胃の内部であっても、医師は画像を見ながら治療することができるのです。つまり、「内視鏡の発達」の意味は、「手術とほぼ同じようなことができる」ということです。
ただ残念ながら、「まったく同じ」ではないそうです。内視鏡では止められないくらいの大量の出血があったり、胃に大きな穴が開いていたりする場合は、手術をする必要があります。
薬の使用について
ある大学病院の消化器内科では、「薬物療法で、胃潰瘍はほぼ治ります」と断言しています。一般的にも、胃潰瘍の初期であれば薬による治療をします。つまり、内視鏡すら不要なのです。
胃潰瘍は胃酸が出過ぎて胃それ自体を攻撃する病気ですから、胃酸の発生を抑える薬があります。「プロトンポンプ阻害剤」「H2受容体拮抗剤」と呼ばれる薬です。そのほか、胃を胃酸から守る胃粘液を増やす薬や、胃を元気にするために胃の血流を良くする薬が使われます。
しかしこれらの薬は、薬の服用を止めると、再発する可能性があることから、対処療法とみなされます。
根本的な治療は、ピロリ菌を除菌することになるそうです。それは、ピロリ菌を除菌すると、胃潰瘍の再発率が下がることが、研究結果で知られているからです。
ピロリ菌の除菌では、「アモキシシリン」という名称の薬など、抗生剤が使われているそうです。ただ、こうした薬が効かないタイプの「強いピロリ菌」も存在し、完全にピロリ菌をなくすことができない患者もいるそうです。
まとめ
かつて「胃潰瘍」は、恐い病気の代表のような存在でした。しかしその後、医学の発達により、手術が不要になり、薬だけで治る事例も多く出てきました。現代では、「胃潰瘍ぐらい」と油断している人も少なくないのではないでしょうか。
しかし、胃潰瘍は「胃がん」と「ピロリ菌」に密接に関係しています。いずれもとても恐い存在です。胃潰瘍の症状をチェックすることは、「初期の胃がん発見」や「ピロリ菌の除菌」という、人々の健康にとっての重大事に直結すると考えてみましょう。
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