挫滅症候群(クラッシュ症候群)とは?症状・原因・治療法を知ろう!緊急のときはどうする?

せっかく助かったのに、助からない?

瓦礫の下から救出されたのに、数分後〜数日後に急激に全身状態が悪くなって亡くなってしまう、これが挫滅症候群(クラッシュ症候群)です。

挫滅症候群は1940年のロンドン大空襲の時に、瓦礫の下敷きになって助け出された人たちの中に発症したのが最初の報告例と言われています。日本で広く知られるようになったのは、1995年の阪神淡路大震災の時です。この大震災の時には、約400人が挫滅症候群を発症し、約50人が亡くなりました。

助けた命は、助けたい。もし、挫滅症候群のことを、たくさんの人が知っていたら、災害時に瓦礫の下から助け出された人を、もっとたくさん助けることができるかもしれません。ここでは挫滅症候群の症状、原因、治療、そして、私たちにできることについて一緒にみていきたいと思います。

スポンサーリンク

挫滅症候群とは?

%e7%93%a6%e7%a4%ab

挫滅症候群はドミノ倒し

1)きっかけは筋肉の長時間の圧迫

筋肉細胞の中にはカリウムや乳酸、ミオグロビンなど、体を動かすのに不可欠な物質が豊富です。カリウムや乳酸は正常な筋肉細胞からもある程度常に放出されており、通常は正常な量が全身に流れ、分解や再利用など正常に行われます。ミオグロビンは筋肉内にあるヘモグロビンに似たタンパクで、筋肉を動かすのに必要な酸素をヘモグロビンから受け取っています。

これに圧力が加わると、筋肉内の毛細血管や静脈は潰れます。動脈からの血流も阻害され虚血状態となります。静脈が潰れれば、カリウムや乳酸は末梢から肺や全身に戻ることができなくなります。また、虚血や圧迫自体によって筋肉細胞の壊死が始まり、ミオグロビンは筋肉細胞から血管に移行します。

圧力が加わっているこの時点では、カリウムや乳酸、そしてミオグロビンは圧迫された箇所の手前で留まり、全身に回ることはありません。

ところが、圧力から解放されると、血管が解放され、圧迫された箇所の手前に留まっていた、カリウムや乳酸、ミオグロビンが一気に全身に流されていきます。これが、心臓毒や腎臓毒となって様々な症状を引き起こします。

ここで注意していただきたいのは、挫滅症候群だからといって、挫滅した筋肉がきっかけになるわけではないという点です。見た目に挫滅していなくて、一見無傷であったとしても、圧迫などで長時間の虚血が起こり、その後圧迫が解除されて血流が再開すれば、挫滅症候群は起こり得ます。

slide1

2)圧迫から解放されて血中に放出されたカリウム、ミオグロビン、乳酸などの直接作用

筋肉から放出されたカリウム、ミオグロビン、乳酸などの有害物質は、筋肉ごと血管が圧迫されている時には、放出された場所に蓄積されて留まっていますが、救出されて圧迫が解除され、血流が復活すると、血流にのって全身に運ばれ、心臓や腎臓にも流れ込みます。

心臓に流れ込んだカリウムは致死的な不整脈や心停止を引き起こします。

腎臓に流れ込んだミオグロビンは尿細管壊死を引き起こし、急激な腎不全を招きます。急性腎不全は死と直結します。

乳酸はその存在だけで代謝性アシドーシスを起こします。筋肉からのカリウムでも代謝性アシドーシスは進みます。代謝性アシドーシスが急激に進むと、二酸化炭素が体内に溜まり、適切な対応がなければ、心停止や腎不全がなくとも、代謝性アシドーシスだけで半数は死に至ります。

3)脱水症状や内出血による腎血流量低下と腎障害

圧迫が長時間続くと、筋肉に含まれる細胞内液は、細胞の隙間に流れ出し、出血していなくても出血したような状態となり、脱水症状を引き起こします。また、細胞内液だけでなく、内出血があれば、見かけ上出血していなくても出血と同じです。脱水状態でも失血した状態でも、腎臓に流れる血流量は減り、有害物質は濃度の濃い状態で腎臓に運ばれ、ますます腎尿細管の壊死は進みます。

4)浮腫による二次性の圧迫(コンパートメント症候群)

細胞の隙間に流れ出した体液は、浮腫を引き起こします。浮腫はでパンパンに腫れた筋肉は、圧迫を受けているのと同じです。さらに、内出血した血液は行き場を失い、筋膜で閉鎖された空間の中で、筋肉や血管を圧迫し、押しつぶされている箇所より末梢の部位の組織を壊死に至らせます。これがさらに筋肉の壊死の原因となります(コンパートメント症候群)。

ただし、コンパートメント症候群を起こしてしまうと、末梢から放出されたカリウムやミオグロビンは、血流不良のため、その箇所に留まりますので、心臓や腎臓に行くカリウムやミオグロビンは減ります。しかし、コンパートメント症候群では、末梢は壊死してしまうので、命が助かっても手足を失うことがあります。

このように、挫滅症候群では、筋肉の圧迫をきっかけに、まるでドミノ倒しのように、症状が進みます。病気に「挫滅」という名前がついているので、挫滅していなければ大丈夫だと考えてしまいがちですが、「圧迫」がきっかけであることを覚えておく必要があるでしょう。

スポンサーリンク

挫滅症候群の原因と兆候

診察2

挫滅症候群の原因や兆候について説明します。

挫滅症候群の原因

挫滅症候群の原因として最も有名なのは、地震などの災害時に瓦礫の下で、ふくらはぎなどの大きめの筋肉が長時間圧迫をうけるようなケースです。

しかし、筋肉が長時間の圧迫後、圧迫から解放されれば、どのようなケースであっても、挫滅症候群は起こり得ます。

例えば、手術などで長時間体位交換さなかった場合、アルコールや薬物で昏睡し体を動かすことなく眠り混んでしまったような場合などです。このような場合、筋肉が挫滅したようには見えないので、挫滅症候群の可能性を思いつくことすらない場合があります。

挫滅症候群の兆候

重症な場合は、救出と同時(血管の圧迫解放と同時)に、高濃度のカリウムが心臓に流れ、数分で心停止して死に至ります。この場合は、心マッサージやAEDで除細動を行ったとしても、高カリウム血症が原因ですので、直ちに高カリウム血症の治療を開始できなければ、助けるのが非常に困難になります。

数日かけて進行するような挫滅症候群では、助けた直後は、とても元気に見えます。助けられた本人が他の人を助けようとさえするかもしれません。

したがって、挫滅症候群の兆候を理解しておかなければ、「助けたのに助からない」ということが起こり得ます。

必ずしも挫滅症候群になるとは限りませんが、挫滅症候群になる可能性が極めて高い症状や兆候は以下の通りです。また、以下が見られるときは、すでに挫滅症候群になっている可能性もあります。

  1. 前腕など、比較的小さな部位であっても、2時間以上挟まれている
  2. ふくらはぎなどの大きな筋肉が1時間以上挟まれている
  3. 挟まれていた箇所が、パンパンに腫れている
  4. 挟まれていた箇所に点状出血がある
  5. 尿が茶褐色〜茶色に変色(ミオグロビン尿)

上述の兆候が見られる場合には、挫滅症候群になる可能性が極めて高い、または、既に挫滅症候群になっています。この場合は、直ちに、透析ができる病院へ搬送しなくてはなりません。

スポンサーリンク

挫滅症候群の治療と応急処置

%e6%90%ac%e9%80%81

挫滅症候群の治療方法を知りましょう!

挫滅症候群の治療の基本は「より早く透析のできる病院へ」

挫滅症候群は、壊死した筋肉から放出されたカリウムやミオグロビンで、ドミノ倒しのように症状が進みますので、一般的な心肺蘇生法は根本的な救命措置にはなりません。搬送前や、搬送中の心肺蘇生法やAEDでの除細動は、脳死を起こさないためには必要ですが、カリウムやミオグロビンなどの有毒物質は壊死した筋肉からどんどん放出されていきますので、これらを透析で取り除かない限り、ドミノ倒しの根を断つことはできません。

一見、それほど重症でない挫滅症候群でも、症状が急速に進むことがあります。数日かけて進行するような挫滅症候群では、救出時にはとても元気で、自分でも挟まれていたことすら思い出さないかもしれません。

挫滅症候群の治療の基本は、「より早く透析のできる病院へ」です。最終的に透析なしで回復するケースも20%程度は見られますが、その場合でも、透析がいつでも開始できる状態であるに越したことはありません。つまり、挫滅症候群は、避難所や応急救護所で対処するのは相当に難しいと考えて動く必要があります。

透析開始までの猶予は、中等度の挫滅症候群で1〜6時間程度ですが、それでは間に合わないこともあります。逆に、搬送まで数時間かかったとしても、応急処置が適切であれば、命を救えることもあります。

私たちにできること

挫滅症候群は、災害現場で起こることが多く、災害現場には医師も医療資材も足りないことが普通です。しかも、挫滅症候群は、その性質上、高度な医療処置が必要です。災害現場では、透析などの処置は不可能なので、搬送するしかないのですが、災害時には搬送自体が不可能なこともあるかもしれません。

それでも、このような状態の中で、生存の可能性を上げるために、私たちにもできることがあります。

搬送時に「圧迫時間」「圧迫物の重さ」「圧迫箇所」を伝える

病院に搬送する時には、「圧迫されていた時間」「圧迫していた物や重さ」「圧迫された箇所」を伝えてください。その情報は、医師の判断材料となり、多くの命を救います。

可能なら、瓦礫の下にいる時から搬送準備と応急処置を始める

搬送準備

いつもできるとは限りませんが、可能であれば、瓦礫の下から救い出す前に、受け入れてくれる透析可能な病院を探し、搬送手段を手配してください。救い出したら速やかに搬送できるようにするためです。

透析可能な病院にすぐに運べないようなら、避難所や応急救護所でできる時間稼ぎもあります。その場合でも、どの避難所や応急救護所で受け入れ可能かを確認する必要はあります。

腕に記録

カルテの代わりに、腕にマジックやボールペンで分かることを全て記入します。特に、どのくらいの時間挟まれているかは、予後や緊急度を決める上で重要です。意識があるのなら、自分で記入しておくと良いでしょう。

腕に記録しておくと良いものは以下の通りです。

  • 名前、生年月日、住所、連絡先など
  • 「圧迫時間」「圧迫物の重さ」「圧迫箇所」

経口補水

飲める範囲で大量の水を飲ませてください。できれば1リットル以上が望ましいです。経口補水によって、カリウムやミオグロビンや乳酸の血中濃度を下げます。何もしないよりはずっとマシになります。

駆血処置

駆血処置は、その是非について意見が分かれている処置ですので、行うかどうかは非常に悩ましい処置です。駆血処置は、有害物質の心臓や腎臓への到達を妨げるので、瓦礫からの救助後、数分で亡くなるような事態を防ぐにはとても有効です。しかし、駆血自体が新たな挫滅症候群の原因になったり、手足の切断などのリスクがあり、最悪の場合、命を救ったはずの相手に恨まれる可能性もあります。しかも、多くの場合、災害時の混乱の中で、この措置をとるかどうかを判断しなくてはなりません。

賛否両論の駆血処置ですが、すると決めたのなら、以下の要領で行います。

  • 挫滅部位より心臓側で駆血します。有害物質が心臓や腎臓に流れ込まないようにするのが目的ですので、心臓より遠い部分で駆血しても意味がありません。
  • 駆血帯は幅が3cm以上の布を利用してください。紐など細いものは組織壊死の原因になります。
  • 駆血開始時刻を駆血帯や駆血箇所にマジックやボールペンなどで記入し、誰が見ても、駆血後何分経ったか分かるようにしておきます。長時間駆血すると、末梢部分が壊死を起こし、手足の切断の原因になりかねません。
  • 30分に一度は、駆血帯を緩め、末梢組織の血流を補ってください。これは新たな壊死を避けるために必要です。
  • 1時間以内に透析が開始できるように、急いで搬送してください。駆血帯の解除は、通常、透析開始後になります。

専門でない医療従事者にできること

この記事を読んでいらっしゃる方の中には、医療従事者の方もいらっしゃるかもしれません。専門が違っていたり、臨床の場を離れていたりしてもできることについて、直接、救急医からお話を伺いました。

以下の全てでなくても、1)の血管確保だけでもしてあると、その後の生存率が大きく変わるそうです。

1)血管確保

血管確保は、できれば挟まれている間に開始してください。

点滴液は、カリウムを含んでいない液なら、なんでもよいですが、生理食塩水がわかりやすくて、手に入りやすいでしょう。

2)酸素があれば、酸素マスク

3)心停止していたら、高カリウム血症の治療開始(心臓マッサージは別の人に任せる)

  1. 手元にカルチコール(calcium gluconate)があれば、  「calcium gluconate 1 アンプル(10ml) 3分以上かけて静注」してください。
  2. 手元にレギュラーインスリンとブドウ糖液があれば、「Regular insulin 10単位+50%ブドウ糖液 100mLで静注」してください。ブドウ糖がインスリンによって細胞内に取り込まれる時に、カリウムも一緒に細胞内取り込まれます。血糖値が250mg/dl以上であればブドウ糖静注はいりませんが、血糖値が測れない場合や、迷った時にはブドウ糖は入れてくださいとのことです。低血糖は死に直結しますが、高血糖は少し余裕があります。

4)心停止していないなら、心電図

  • テント状T波があれば、高カリウム血症なので、3)に基づいて高カリウム血症の治療を開始してください。
  • QRS幅の拡大とT波の増高によって、まるで正弦波のような心電図になっていても高カリウム血症とのことです。もし高カリウム血症だと確信が持てれば、3)に基づいて高カリウム血症の治療を開始してください。ただ、これはとても分かりにくいそうです。

5)可能なら血中のカリウムを調べる(可能ならCPKとミオグロビン、血ガスも)

  • もし、血中カリウムが高ければ、3)に基づいて高カリウム血症の治療を開始してください。
  • 血中カリウム濃度が7.0mEq/lを越えれば高カリウム血症治療の対象と言われていますが、心電図に変化があれば、6.0mEq/lを少し超える程度であっても、高カリウム血症の治療の対象になります。濃度よりも心電図の所見優先で考えて欲しいとのことです。
スポンサーリンク

まとめ

挫滅症候群は災害の時だけ起こるわけではありません。軽度の圧迫で、一見大したことがないように見える場合でも起こります。

災害時はできることに限りがあり、軽度の圧迫の時には圧迫されていたことすら忘れることがあります。しかし、どのような場合でも、病院搬送時に「圧迫されていた時間」「圧迫していた物や重さ」「圧迫された箇所」を伝えることで、救える命があります。

また、専門ではない医師にとって、救急時に応急処置を行うことは、非常に勇気のいることですが、血管確保だけでもしておくことが、その後の予後を左右します。

助けた命を本当に助けるため、この記事が挫滅症候群についての理解の助けになれば幸いです。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする