ドイツの医師であるオットー・ウェルナー氏が臨床発表したことから、氏の名前が付いたこのウェルナー症候群は、日本でも多くの症例があり、難病指定されていることでも有名です。
別名、早老症や早老化症ともいい、まるで非現実とも思えるような症状がでます。それは、普通の人よりも早く老いてしまう病気です。
遺伝子変異による疾患であり、遺伝性早老病で染色体に異常があるためにかかる病気ですが、治療法を各医療機関、大学病院などが研究班を組んでウェルナー症候群の他の早老症研究を行っています。
その研究は分子遺伝学的検査にまで及んでいますが、成果はなかなか思うようには出ていません。いまの段階では不治の病ということになります。
今回はそのウェルナー症候群についてお伝えいたします。
ウェルナー症候群とは?
先にも述べたように魔法にでもかかったような、そんな病気であり、普通の人よりも歳を取るスピードが違う症状となります。
早老症
読んで字のごとく、早く老いてしまうという病気であり、ウェルナー症候群の他にも早く老いるという症状を引き起こす病気はかなりあります。
20歳くらいから急速に老いが始まるため女性では妊孕性が低く、男性は性機能不全や無精子症、男性ホルモンが低下する性腺機能低下症になることも多いとされています。
ワーナー症候群
思春期の後に老化が始まり、毛が抜ける、白内障、糖尿病などの発生が伴い、特に発ガンリスクも高いというデータもあります。DNAヘリカーゼの異常が遺伝子の変異につながるものと考えられています。
プロジェリア症候群
ギリシャ語の早すぎる老化という意味のプロジェリアを病気名にしたもので、やはり老化が若いうちから始まるのですが、主に新生児期や幼年期に発症します。
コケイン症候群
イギリスの医師、コケインにより報告された病気で、低身長、視力の障害、老人のような顔貌が特徴的です。
ロスモンドトムソン症候群
こちらも遺伝子による異常が原因で発症する病気であり、脱毛、白内障など老化の現象が若いうちから始まります。
ダウン症
こちらも老化が早く進むということで早老症の一種と考えられています。顔の中心は成長せずに回りが成長することで、目が釣りあがる傾向があります。遺伝子による原因といわれていますが、近親者との婚姻により血が濃くなることが原因ともいわれています。
イギリスの眼科医のダウンが報告したことにより、ダウン症と名づけられていますが、当初は蒙古人に多く見られることから、蒙古痴呆症とも呼ばれていました。その後、他の地域からも発生していることから、その呼び名は使わなくなった由来があります。
遺伝子による発病
はっきりとは解明できている訳ではありませんが、遺伝子の異常がこのウェルナー症候群を招いていると多くの学者は発表しています。ヒト染色体のWRN遺伝子が遺伝子変異を起こし、老化を早めるという疾患にいたります。
年齢と寿命
最近では長生きする患者も増えたことから、短命とは一概に言われなくなりましたが、以前はそれこそ老化が早いことから、40歳ほどで寿命を迎えることが多いのが特徴的でした。最近では60歳くらいまでの長寿を迎える方も増えています。
指定難病
上記の症候群も合わせて、指定難病をされている遺伝子早老症という病気の一種です。国からはその治療に当たっての治療費の補助がでることになっています。ただその治療にあたってはその治療を行っている病院も限られたものとなるため、治療、通院などかなりの苦労を伴います。
これまでにすべての国で患者数は1200~1400名ほどであるという報告があり、その中で800名ほどが日本人とされています。ですから日本では難病であることと同時に、特に発症頻度が高く保因者も多いとされています。それに加え、症状が見過ごされている人もいるということで、潜在的な数字はもっと多いと考えられています。
ウェルナー症候群の症状
主な症状は、人の数倍も早く歳を取るがごとく、その老け具合が通常の人と違うということです。
つまり、老いの進行が普通の人と全く違うということになります。
白髪
思春期過ぎ、20歳代の頃から白髪が多くなります。この年齢から、老いが始まってしまいます。若いうちは白髪がそう多くはないのですが、思春期の頃から白髪が増えたり目立ち始めます。
ただ単純に白髪が多いから、この病にかかっているという解釈にはなりません。割と若いうちから、ある程度は体質による白髪が多い人もいるという事実もあります。
本来の老化というのは、必要な部分への栄養素が行き渡らないということがあります。そして命にかかわらないところから、栄養素などが行かなくなるという現象がおきます。
つまり歳を取ると白髪が増えるのは、髪の毛に栄養が行かず、白髪や抜け毛が増えてくるということなのです。それが、この病の場合も年の割には老化が進むということは、まさしくそれを象徴しています。
脱毛
これも本来ならありえない状況といえます。20歳を過ぎる頃から、毛が抜け始め白髪も増えてくるということです。見た目も歳を取っていく状況だということにもなります。
これも先に書いたことと同様の現象であり、若くても老化が早まってしまうということになります。
白内障
白内障は歳を取ると自然に目の水晶が白濁して、見えづらくなるという兆候であり、この症状若いうちからが出てきます。普通は60歳以上の高齢者のそのほとんどがかかる病ですが、このウェルナー症候群では若年性白内障という括りではありますが、高齢化する際の症状と同じです。
昔は白濁して見えにくいということが当たり前で、何の対処法もありませんでしたが、現在ではその目の水晶を人工的なもので代用して、視界がクリアになります。つまり人工水晶と入れ替えることで、よく見えるようになるのです。
ですが、このウェルナー症候群にかかると、20歳そこそこでの白内障にかかるケースも多くなり、信じられないというのが実情です。この場合は高齢時の白内障と同様な対処療法ということで、手術をして人工水晶を目の中に入れることで、視界をクリアにすることが可能であり、普通に見えるようになります。
嗄声(させい)
これは、声がしわがれるようになることです。やはりお年寄りがしゃべる時は、声がかすれるようになり、大きい声も出しにくくなります。これと同様に、声がかすれてしまいます。
これに関しては、特に対処法はありません。
組織の石灰化
特にアキレス腱の筋が石灰化するということなのですが、レントゲンの検査をして始めて判明します。アキレス腱と膝、肘などの関節にカルシウムが溜まり、固まってしまいます。
そのため動かしにくくなることはもちろんですが、硬くなり骨の変形なども見られ、痛みも生じます。
組織の萎縮化
歳を取ると当然のように、組織などの萎縮が起こります。いわゆる筋肉が小さくなっていくことです。若いうちは、筋肉を動かしたり負荷をかけていることにより、筋肉も成長しますが、歳をとると筋肉を動かすこと自体がほとんどなくなります。
これは使わないことにより、萎縮するということなのですが、これがウェルナー症候群でも起きます。力がなくなり、使わなくなるという悪循環が萎縮を引き起こすのです。意識的に使うことは必要であり、若干ですが違ってきます。
また、その進行が早いため、足腰の弱さも早く進行してしまいます。ですから、車イスでの生活を余儀なくされることもありえます。
皮膚萎縮
いわゆる老人肌とでもいいますが、年齢を重ねるごとに、肌のつや、張り、水分、脂分なども減ることで萎縮していきます。これは顔が特に顕著になりますが、例えば腕とかお腹でもそのような状態になります。
潰瘍
免疫力も低下するためか、皮膚疾患や内臓でも潰瘍ができます。特に皮膚に出来る潰瘍は痛みもひどくなりがちであり、我慢を強いられる状態となります。
最悪の場合は皮膚萎縮をして潰瘍部分を復活させますが、他の部分でも出来ることがあり、対応が難しくなる傾向にあります。
また、痛みがあまりにもひどい場合は、麻酔などで痛みを抑えるという対処法も取られていることも多いようです。
難治性皮膚潰瘍
血管や知覚に障害があるために、傷が治りにくく潰瘍になるものが難治性皮膚潰瘍です。難治性というのは治療に反応しないということであり、治らないということになります。対処法としては移植などがありますが、その患部が広がることもあり、治療も難しいというのが実情です。
平均寿命
やはり老化して、人の倍以上のスピードとなりますと、寿命も短くならざるを得ません。大体が40歳前後ということですが、最近は医療技術の発達もあり、平均寿命も50~60歳前後まで伸びています。成人以後の年齢の約半分ほどの寿命と一般的に言われています。
ただこれは逆に普通の人の寿命が延びていることにも関連しています。つまり、普通の人でも多少の病や身体の弱い人でも現代の医療で持ちこたえることができます。
昔はかなりの重病だと打つ手がないこともありましたが、今はそれを克服しているということになり、それと同じ現象がこのウェルナー症候群にも当てはまるという解釈ができるからです。
悪性腫瘍
やはり高齢となるとガンなどの腫瘍も発症しやすくなります。このウェルナー症候群にも同様な現象が起きると考えられます。
ただ、この場合は体質や生活習慣などの影響もありますので、一概には何とも言えない部分はあります。
心筋梗塞
心筋梗塞も本来ですと老人性のものではありますが、かかりやすくなります。こちらは別の意味で命に関わるので、注意が必要となります。実際にこの症状が起きると、体力的にも多少は弱い部分がありますから、治療などが困難を極めることがあります。
ウェルナー症候群の原因
原因としては、そのほとんどが先天的なものであり、家族の中にその原因遺伝子を持っていると、その子供や一族は発症しやすくなります。
遺伝子の異常
この病気の発症原因は、遺伝子の構造の異常であり遺伝性疾患ということになります。親から引き継ぐ遺伝子は二組のWRN遺伝子ということになりますが、その遺伝子の染色体劣性で発症します。
患者は親から原因遺伝子を一つずつもらい受けますが、その時の二つがWRN遺伝子変異の場合となります。
ですから、双方の親がその遺伝子を持っていないと、発病はしないということであり、発症の可能性も非常に低いということになります。
遺伝性
この病気は遺伝病であり、身体の設計図であるDNAというものが異常性をもってしまうことです。本来ですと、この異常を遺伝子修復するWRNというDNAヘリカーゼが機能していないことが要因となるようです。
事前にこの遺伝子検査を行うことにより、防ぐことは理論上は可能ということになります。他にもこのように二つが重なり合って発症する病気は多く、その遺伝子がどの病気をもたらすかが判明しない限りは防ぐことが難しいとなります。
ウェルナー症候群の治療法
現状はこの病気に対する治療法はありません。遺伝子レベルで発症する病気はそのほとんどが完治不可能であることが多いようです。
対処法
現状、その対象となる症状に対して処置を行うことのみとなります。
対処法とは、白内障のように、その部分のみに対処してその部分のみが治癒することであり、その病気自体は治癒しないということです。
治療法は未開発
遺伝子のレベルでの発病ということであり、現代ではその治療法は未開発ということになります。本来は遺伝子が優性遺伝といい、その組み合わせが正常なものになるものなのですが、その組み合わせがヘテロ接合体といって、組み合わせが別々のものになることが原因として考えられています。ですが、この遺伝子の組み合わせは変えることができません。
現在はその遺伝子の組み合わせをその親から調べ上げて、その劣勢の遺伝子の組み合わせが出来ないようにするという可能性を高める研究もされ、未然に発病も防ぐということも行われています。
合併症
このような遺伝を持つものは、そのもの自体が非常に脆弱性をも持っており、他の病気にもかかりやすいということがあります。
これは一般的な病である風邪なども含めて、成人してからなりやすい糖尿病なども当てはまります。ですから、俗にいう一般的な病気にもかからぬように、普段からの予防も必要になります。
耐糖能障害
若干ではありますが、耐糖能障害といって、糖分を摂取する時に体内での処理がうまく出来ない障害を持っていることがあります。このような状態になりますと、糖尿病などへ進展することが早くなるということがあります。
また、糖尿病への体質に伴い動脈硬化なども引き起こすということにもなり、充分な注意が必要となります。
メタボリックシンドローム
さらに内臓の脂肪も蓄積しやすくなります。メタボリックシンドローム自体は病気のくくりにはなりませんが、このメタボが原因でいろいろな病気にかかりやすくなります。
メタボはその例としては、中性脂肪の増加、動脈硬化、その上に高LDLコレステロール血症などであり、高齢になるにしたがって代謝も悪くなり、栄養素が過剰になることが原因です。
通常の人にこの症状が出ることさえ辛いことなので、このウェルナー症候群の人にとってはさらに辛いものとなってしまいます。食事に関しては、若いうちから気をつけることが必要となります。
悪性腫瘍
このウェルナー症候群の二大死亡原因の一つが悪性腫瘍ということで、主に黒色腫と骨肉腫にかかることが多いとの報告があります。ウェルナー症候群の場合、比較的珍しいがんに罹患するケースも多いようです。この黒色腫というのは、ほくろのがんがいうことになりますが、いびつな黒いほくろとおぼしきものが、がん化してしで皮膚を侵食し広がっていきます。
また、骨肉腫については、骨にできる悪性の腫瘍です。これは高齢などとは関係なく、比較的若い層に多く発症します。
また、もう一つの死亡原因は動脈硬化です。血管がもろくなると、脳梗塞、脳出血など命にかかわる重大な病を引き起こします。この二つが寿命低下を招いています。
双方とも、本来は若いうちは気にかけなくてもいいものではありますが、このウェルナー症候群の患者の場合は、早い段階から気をつけなくてはいけません。
まとめ
いかがでしたか。今回は普通の人よりも老化現象が早く表れるというウェルナー症候群という病気についてお伝えいたしました。
早老症というやっかいな病であるのですが、老いと関連する認知症などの報告はないので、脳への影響はほとんどないということで、逆に不思議と思うような症状といえます。
このウェルナー症候群は難病指定とされていて、かかる確率も非常に低いのですが、根本的治療法は何度もいうように、やはり一刻でも早く治療法が確立されることが望まれます。特にこの病気は先にも記したように日本人に多いということもあるので、そういう意味ではなおさらと考えてもいいでしょう。
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