亜脱臼という疾患名を耳にしたことがある方は多いと思いますが、亜脱臼と脱臼の違いについて明確に回答できる方は少ないでしょう。
亜脱臼は、不完全脱臼とも呼ばれます。つまり、関節が外れる脱臼にまでは至っていませんが、関節はズレているという状態を亜脱臼と言います。
というと、関節が外れていないなら大したことないのではないかと思いますが、亜脱臼は決して軽い疾患ではないのです。
そこで、今回は脱臼との違いを踏まえながら、亜脱臼についての概要をまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
亜脱臼とは?
そもそも亜脱臼とは、どのような疾患なのでしょうか?脱臼の定義から順に明らかにしていきたいと思います。
関節の基本構造
関節は、2本以上の骨によって構成されています。それぞれの骨が接する部分を関節面と言います。
一方の骨の関節面は凸状で、もう一方の骨の関節面は凹状になっています。凸側を関節頭(かんせつとう)と言い、凹側を関節窩(かんせつか)と言います。
関節面の表面は軟骨で覆われていますので、関節は円滑に動くことができます。そして関節は、関節包という線維性組織で覆われています。この関節包は、関節における骨同士の連結を補強する役割を担っています。
また、関節では、靭帯という索状の繊維組織が骨同士を繋いでいます。靭帯には、関節の支持力を高める役割と関節の運動方向を誘導する役割があります。
脱臼とは?
脱臼は、関節を構成する骨同士の関節に向き合う関節面が、正しい位置関係を失っている状態と定義されます。
簡単に言いますと、関節は骨と骨の連結部分であって、その骨と骨が向き合う凹凸部分がズレてしまった状態が脱臼です。
そして脱臼は、そのズレの程度によって、次のように2つに分類されます。
- 完全脱臼
- 不完全脱臼(亜脱臼)
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完全脱臼とは?
完全脱臼は、関節を構成する骨同士の関節に向き合う関節面が完全にズレてしまい、関節頭と関節窩の接触が完全に無くなった状態のことです。
いわゆる、脱臼のイメージとして良く想起される「肩が外れた」というような場合です。
不完全脱臼・亜脱臼とは?
不完全脱臼は、亜脱臼とも呼ばれます。亜脱臼とは、関節を構成する骨同士の関節に向き合う関節面がズレてはいるものの、関節頭と関節窩の部分的な接触が残っている状態のことです。
簡単に言いますと、関節面の凹凸が完全に外れたわけではなく、外れかかっている状態のことが亜脱臼です。
亜脱臼の症状
では、亜脱臼では、どのような症状が現われるのでしょうか?完全脱臼と比較しながら、明らかにしていきたいと思います。
完全脱臼の症状
完全脱臼が生じると、脱臼固有の症状と脱臼固有ではない一般外傷症状が現われます。
脱臼固有の症状
脱臼固有の症状として、次の3つの症状が現われます。
- 弾発性固定
- 持続性脱臼痛
- 関節の変形
弾発性固定
弾発性固定とは、脱臼した関節の患部を検査者が他動的に動かして、ある程度動く際に弾力のある抵抗を検査者が感知でき、検査者が力を弱めると患部が元に戻ってしまうことを言います。
簡単に言いますと、完全脱臼してしまうと骨同士の関節面が完全にズレてしまうので、関節は動かなくなり固定化されてしまいます。その状態のところに、検査者が患部を動かしてみると多少動くものの、検査者が力を弱めると関節は脱臼直後の位置に戻ってしまいます。そして、検査者にとっては弾力性のある抵抗感が感知できるため、弾発性固定と呼ばれるのです。
持続性脱臼痛
完全脱臼すると、関節包・靭帯・筋肉などの関節周囲の組織を圧迫するために、関節が正常な位置に戻される整復が為されるまで持続的な痛みが生じます。この持続的な痛みのことを持続的脱臼痛と言います。
関節の変形
完全脱臼すると、関節は見た目にもわかるほどに変形します。
一般外傷症状
一般外傷症状とは、脱臼固有の症状ではなく、一般の外傷にも見られる症状のことです。一般外傷症状としては、次のような症状が現われます。
- 関節血腫
- 腫脹(腫れ)
- 疼痛
- 機能障害
関節血腫
関節血腫とは、関節包・靭帯・筋肉などの関節周囲の組織の損傷により出血し、関節部に血液が貯留する状態のことです。完全脱臼によって必ず関節血腫が生じるわけではありませんが、完全脱臼時に現れやすい症状とされています。
腫脹(腫れ)
関節血腫と同様に、関節包・靭帯・筋肉などの関節周囲の組織が損傷するために、脱臼した患部を中心に腫れや炎症が生じます。脱臼箇所に炎症が生じると、炎症性物質が放出されて痛みの原因となる場合があります。
疼痛
完全脱臼では、関節包の損傷や靭帯の損傷も伴うため、痛みを生じます。また、上記の炎症を原因に痛みが発生することもあります。これらの痛みは、持続的脱臼痛とは異なり、関節が正常な位置に戻った後にも生じる痛みです。
機能障害
関節がズレたことにより、関節としての本来の機能が発揮されなくなります。
亜脱臼(不完全脱臼)の症状
では、亜脱臼が生じると、完全脱臼に比較して、どのような症状が現われるのでしょうか?
脱臼固有の症状
亜脱臼の状態でも、骨同士の関節面がズレてしまうことで、関節の動きは固定化されてしまいます。ですから、亜脱臼でも弾発性固定が現われます。
また、骨同士の関節面がズレてしまうことで、関節周囲の組織を圧迫するために、関節が正常な位置に戻される整復が為されるまで持続的脱臼痛も現れます。
一方で、亜脱臼の場合には、見た目に明らかなほどの関節の変形は見られないことが多いとされています。そのため、亜脱臼は捻挫との区別が難しいとされます。ただし、厳密に言えば、わずかな関節の変形が生じています。
一般外傷症状
亜脱臼の場合は、関節面が完全に外れたわけではありませんので、関節包の損傷を伴うことがほとんどありません。したがって、関節血腫が生じることは、ほとんどありません。
一方で、関節包の損傷がなくても、靭帯を損傷することは考えられます。また、関節軟骨などの関節内組織が損傷すれば、関節に腫れや炎症が生じることも考えられます。したがって、亜脱臼の場合に、関節の腫れや痛みが生じる可能性は、十分にあり得ます。
そして、亜脱臼の状態でも関節の動きは固定化されますから、関節としての本来の機能は発揮されず、機能障害も現れます。
亜脱臼に現れる症状はさまざま
ただし、実際の例では、関節のズレの程度によって現れる症状は様々です。
関節のズレがわずかなために亜脱臼の自覚が無い場合もあれば、亜脱臼であっても強い痛みや炎症が現れる場合もあります。
また、亜脱臼が生じる関節によっても、痛みの感じ方が異なったりするようです。つまり、指関節の亜脱臼、肘関節の亜脱臼、肩関節の亜脱臼、膝関節の亜脱臼など、痛みの感受性が強い場所もあれば、相対的に弱い場所もあるということです。
ですから、亜脱臼によって現れる症状は、亜脱臼の場所や程度によって個人差が大きいと言えます。
亜脱臼の原因
では、亜脱臼の原因は、どのようなことなのでしょうか?
亜脱臼の原因
亜脱臼の原因については、完全脱臼の原因と変わりありません。そして、脱臼全般の原因としては、次のようなものが挙げられます。
- 外傷に起因する脱臼(外傷性脱臼)
- 何らかの病変に起因する脱臼(病的脱臼)
- 外傷性脱臼あるいは病的脱臼を生じてから軽微な外力で繰り返す脱臼(反復性脱臼)
- 自らの意思で特定の関節を脱臼させる場合(随意性脱臼)
- 先天的に関節が緩いことに起因する脱臼(先天性脱臼)
外傷に起因する脱臼(外傷性脱臼)
外傷に起因する脱臼は、スポーツや事故などによって大きな力が関節に加わることで生じる脱臼のことです。外傷に起因する脱臼は、外力の作用メカニズムによって次の2つに分類できます。
- 直達性脱臼
- 介達性脱臼
直達性脱臼
直達性脱臼は、外力による衝撃が関節に直接加わることによって、関節が可動範囲を超える運動を強制されるために生じる脱臼です。
たとえば、柔道やその他の格闘技でも見られる「腕ひしぎ十字固め」という関節技が良い例です。腕ひしぎ十字固めは、肘関節を本来の可動方向とは逆に伸ばして関節を極める技ですが、外力が加わりすぎるとひじ関節は脱臼または亜脱臼してしまいます。この時、外力が関節に直接加わっていることで、脱臼や亜脱臼が生じるのです。
介達性脱臼
介達性脱臼は、脱臼の原因となる外力が、脱臼する当該関節以外の部位に加わり、その外力が様々に作用することで発生する脱臼です。
たとえば、転倒を避けようとして手を地面に突いた場合、外力は手のひらや手首に加わっています。このような時に、手を突いた勢いで肘関節が脱臼や亜脱臼してしまう場合が具体例として挙げられます。
そして、外傷性脱臼の大半が、介達性脱臼です。
何らかの病変に起因する脱臼(病的脱臼)
何らかの病変に起因する脱臼は、関節を構成する骨・関節包・靭帯・筋肉などが、何らかの病気や疾患によって変化・変質することによって、わずかな外力が加わったり、外力無しに脱臼を生じてしまう場合を言います。次のような3分類があります。
- 麻痺性脱臼
- 破壊性脱臼
- 拡張性脱臼
麻痺性脱臼
麻痺性脱臼は、関節を構成する筋肉や靭帯が脳障害などによって麻痺してしまい、筋肉や靭帯が収縮せずに伸びきった状態となることで脱臼が生じる場合を言います。
たとえば、脳障害が発生すると身体の片側に麻痺が生じる場合が多く、麻痺が生じた側の肩関節が腕の自重を支えきれずに亜脱臼に至る場合が具体例として挙げられます。
破壊性脱臼
破壊性脱臼は、関節を構成する骨の関節面や関節包の組織が変形したり、破壊されることによって、脱臼が生じる場合を言います。
たとえば、関節リウマチによる指関節の変形から手指の関節が脱臼や亜脱臼に至る場合が具体例として挙げられます。
拡張性脱臼
拡張性脱臼は、関節の炎症などが理由で関節包の中に浸出液が充満し、関節包が膨張することによって、関節包や靭帯が緩み脱臼や亜脱臼に至る場合を言います。
外傷性脱臼・病的脱臼を生じてから軽微な外力で繰り返す脱臼
外傷性脱臼あるいは病的脱臼を生じたことで、関節を構成する骨・関節包・靭帯・筋肉などが変形や弛緩して、関節の支持力・連結性が低下することがあります。
このように関節の支持力や連結性が低下すると、わずかな外力で同じ部位の脱臼を繰り返すことになります。つまり、脱臼癖がついてしまうことを反復性脱臼と呼ぶのです。
自らの意思で特定の関節を脱臼させる場合(随意性脱臼)
随意性脱臼は、自らの意思で特定の関節を脱臼させる場合を言います。たとえば、テレビ番組で軟体人間と言われるような人が、肩関節を自分で外しているような場合が具体例として挙げられます。
先天的に関節が緩いことに起因する脱臼(先天的脱臼)
なかには先天的に特定の関節が緩い人もいます。
亜脱臼の治療方法
では、亜脱臼になってしまった場合、どのように治療するのでしょうか?
亜脱臼の応急処置
亜脱臼に限らず完全脱臼も含めて、脱臼を自分自身で元に戻そうとする方がいますが、非常に危険な行為です。自分自身で脱臼を元に戻そうとすると、関節に無理に力を加えることになり、関節包・靭帯・筋肉・血管などの関節周辺の組織を損傷する危険があります。
したがって、次のような応急措置を実施した上で、すみやかに病院や整骨院に行きましょう。
- 自分勝手に直そうとしない
- 安静を心がける
- 三角巾や包帯で、脱臼箇所を固定する
亜脱臼の整復
亜脱臼の治療では、まず関節の整復を行います。整復とは、脱臼によってズレてしまった関節における骨の関節面を正常な位置関係に戻すことです。
自分自身で整復しようとすると、関節包・靭帯・筋肉・血管などの関節周辺の組織を損傷する危険がありますので、必ず整形外科や整骨院などで整復してもらいましょう。
また、亜脱臼が生じてから、短い間のうちに整復することが望ましいとされています。これは、時間が経過してしまうと、関節が変形した状態で固定されてしまうからです。
関節が変形した状態で固定されてしまうと、継続的な痛みが生じたり、反復性脱臼となったり、関節の機能障害が現われたり、将来的に様々な弊害の原因となります。
亜脱臼の整復後の治療
亜脱臼の整復後は、患部を固定して安静にすることによって関節周辺組織の自然治癒を促すことが基本となります。ただし、場合によっては外科手術を行う場合もあります。
基本は、患部を固定して自然治癒
亜脱臼箇所の整復が完了した後の亜脱臼の治療は、基本的に患部を固定して安静にすることで、関節周辺組織の自然治癒をサポートすることになります。患部をギプスやサポーターで固定して、患部に負荷がかからないようにします。
というのも、関節周辺組織に損傷があると、関節の支持力や連結力が弱まり関節が不安定になり、脱臼の再発可能性が高くなるからです。
ただし、亜脱臼箇所の関節周辺組織が炎症を発症している場合は、抗炎症剤の投与を行う場合もあります。
外科手術
脱臼・亜脱臼を何度も繰り返す人は、関節包や靭帯などが伸びきってしまっているため、関節の支持力や連結力を回復するために、外科手術による治療が行われることもあります。
具体的には、関節包や靭帯などの緩んだ部位を縫合することによって、関節を安定させる手術法などがあります。
亜脱臼の予防方法
亜脱臼を起こさないことに越したことはありません。亜脱臼を予防する方法はあるのでしょうか?
亜脱臼の予防方法
事故などによる亜脱臼は防ぎようがありませんが、スポーツや日常生活においては予防意識を持つことで、亜脱臼をある程度予防することができるかもしれません。
筋力トレーニング
関節周囲の筋肉を鍛えて発達させることで、靭帯を補助して関節の支持力を高めます。関節の支持力が高くたることで、関節が外れにくくなります。肩関節などでは、周囲の筋肉量を増やすことが特に効果的とされています。
亜脱臼を誘発するような姿勢や動作を回避する
当たり前のようですが、亜脱臼を誘発するような姿勢や動作を回避することも重要な予防方法と言えます。日常生活における動作の見直したり、サポーター装着による関節の過剰動作の回避などを意識することが亜脱臼予防の第一歩です。
まとめ
いかがでしたか?亜脱臼についての概要をご理解いただけたでしょうか?
たしかに、亜脱臼は完全脱臼に比べると、関節の変形といった見た目の症状は軽いかもしれません。
しかし、亜脱臼でも完全脱臼に近いような症状を呈することもあります。また、症状が軽い場合であっても、適切な治療をせずに放置していると関節が変形した状態で固定化されてしまい反復性脱臼に至る場合もあります。
したがって、亜脱臼は完全脱臼と比較しても軽い疾患ではないのです。ですから、関節に痛みや腫れなどの違和感があれば、すみやかに整形外科を受診するようにしましょう。
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