肩こりが生じた際に、あなたはどのような感想を抱くでしょうか?多くの方は、疲労がたまって休む必要性を感じるのではないでしょうか?
そのような感想は、あながち間違ってはいないのです。というのも、肩こりは様々な症状との関連性が指摘されていて、たかが肩こりと安易に放置していると頭痛やめまい、自律神経の失調などの症状に波及していくからです。
このような肩こりとの関連性がある症状の中でも、気を付けるべき症状が上半身に生じる「しびれ」です。なぜなら、上半身のしびれには重篤な病気の可能性があるからです。
そこで今回は、肩こりに伴う上半身のしびれについて、その原因や解消法をご紹介したいと思います。
首回りの構造について
肩こりと上半身のしびれについて理解するには、首回りの骨格や脊髄から末梢神経に至る流れなどの構造について知っておく必要があります。
そこで、まずは首回りの骨格や脊髄から末梢神経に至る流れなどの構造について、簡単にご説明したいと思います。
頭と首を支える骨が頚椎(けいつい)
頚椎(けいつい)は椎骨(ついこつ)の一部であり、頭や首を支えるための骨のことを言います。端的に言うと、頸椎は首に存在する骨と言うことができます。
頚椎は、7個の椎骨で構成されています。そして、その7個の椎骨は、上から順に第一頚椎~第七頚椎と呼ばれます。
ちなみに、「頚椎」のことを別の漢字で「頸椎」と表記する場合もありますが意味は同じです。
椎骨とは?
椎骨は脊椎骨(せきついこつ)とも呼ばれ、一般的に背骨と呼称される脊椎を構成する1個1個の骨のことです。そして椎骨は、首にあたる頚椎7個をはじめとして、胸椎12個、腰椎5個、骨盤の真ん中に位置する仙椎5個、尾椎4個の合計33個で構成されています。
また、一つ一つの椎骨の円柱状の部分を椎体(ついたい)あるいは椎体骨と呼び、椎骨と椎骨(椎体と椎体)は、靭帯と椎間関節で連結されています。
椎間板とは?
椎骨と椎骨(椎体と椎体)の間には、衝撃緩和の役目を担う椎間板が存在します。椎間板は円形の軟骨で、コラーゲンや水分多く含有しているので弾力性に富んでいます。
そして、頚椎にある椎間板のことを特に頚椎椎間板と呼び、腰椎などの椎間板と区別します。
椎孔(ついこう)と脊柱管(せきちゅうかん)
椎骨(椎体)には、椎孔という穴が開いています。そして、椎骨は33個連結することで脊椎を構成しているので、連結されることで椎孔が管になります。この管を、脊柱管(脊椎管)と言います。
脊柱管には脊髄が走行していて、脊髄から神経が末梢に向かい分岐します。この分岐する神経の根元部分のことを神経根と言います。
肩こりに関する基礎知識
肩こりと上半身のしびれについて理解するには、首回りの構造に加えて肩周辺の筋肉についての基本的な知識も押さえておく必要があります。
そこで、肩周辺の筋肉群と肩こりの発生メカニズムについて、簡単にご紹介しておきたいと思います。
肩周辺の筋肉群は姿勢維持と腕を動かす
首や肩回りには大小含めて20以上の筋肉が存在して、頭や首を支えています。肩周辺の筋肉群は姿勢維持にも重要な役割を担い、また肩関節とともに腕の動きをコントロールします。
肩周辺の筋肉群の中でも、代表的なのが僧帽筋・三角筋・肩甲挙筋・棘上筋・棘下筋などです。
肩こりの発生メカニズム
肩こりは、肩周辺の筋肉群が何らかの理由で緊張し、その緊張やこわばりが続くことで血流が低下することで発生します。つまり、筋肉の緊張による血流悪化によって、筋肉が酸素不足・栄養不足を起こし、疲労物質も蓄積するため、疲労物質が筋肉の神経終末を刺激して脊髄神経を通じて大脳が鈍痛のような感覚を認識するに至るのです。
そして、肩こりを誘発する肩周辺の筋肉群の緊張は、前かがみの姿勢や同じ作業などを長時間続けた場合に生じやすいとされています。また、自律神経失調症などのようにストレスから自律神経が乱れると血管収縮で血流が悪くなる傾向があり、自律神経のうち交感神経が優位になると筋肉の緊張を招くので、肩こりにつながる可能性があるとされています。
ストレートネック
近年、肩こりを誘発する原因として増えているのが、ストレートネックと呼ばれる頚椎の状態です。
頚椎は、もともと頭の重さを支える頚椎の負担を抑制するために、後方へ軽く湾曲しているのが通常です。しかしながら、パソコンやスマホの使用で前かがみの姿勢が続くことで、この頚椎の湾曲が無くなり真っ直ぐに近い状態になってしまう人が多くなっています。
詳しくは、ストレートネックに注意!症状や原因、治療法は?悪化すると引き起こす病気を知ろう!を読んでおきましょう。
肩こりと上半身のしびれの関係
軽度の肩こりであれば、首回りや肩周辺に疲労感を感じる程度ですが、だんだんと重度の肩こりになっていくと鈍痛やしびれが上半身に現れることがあります。
そこで、肩こりに由来する上半身のしびれについて、ご紹介したいと思います。
背中の痛み・しびれ
重度の肩こりに進むと、背中や肩甲骨のあたりに痛みやしびれが現れることがあります。
これは、僧帽筋や肩甲挙筋などの筋肉が緊張して、これらの筋肉の中を走行している神経を圧迫することが原因だと考えられています。
腕や手の痛み・しびれ
重度の肩こりによる背部や肩甲骨部の痛み・しびれが現れると、腕・手指にまで痛み・しびれが広がることがあります。
これは、重度の肩こりや背中の痛み・しびれが、さらに首回りや肩周辺の筋肉の緊張やコリを招く悪循環によって、頚椎から出発して上腕神経叢(じょうわんしんけいそう)に向かう神経根が圧迫されることが原因と考えられています。
このような神経根が圧迫されることで生じる症状のことを、神経根症状と呼びます。
首の痛み・しびれ
重度の肩こりによる背部や肩甲骨部の痛み・しびれが現れると、首筋にも痛み・しびれが現れることがあります。
これは、重度の肩こりや背中の痛み・しびれが、さらに首回りや肩周辺の筋肉の緊張やコリを招く悪循環によって、頚椎から後頭部へ向かう大後頭神経が圧迫されることが原因と考えられています。
また、首回りや肩周辺の筋肉の緊張やコリが原因となって、頭痛を引き起こすことも良くあり、緊張型頭痛と呼ばれます。
肩こりと上半身のしびれから疑われる疾患
このように肩こりと上半身のしびれには一定の因果関係を認めることができますが、実は肩こりに伴い上半身のしびれが現れる場合は頚椎の疾患であることが多いのです。そこで、肩こりと上半身のしびれから疑われる疾患を、ご紹介したいと思います。
頚椎症(頸椎症)
頚椎症は、頚椎椎間板と頚椎の椎骨の加齢に伴う変性が原因となって、首の脊髄や神経根が圧迫される疾患です。つまり、頚椎症は老化によって首の骨が変形してしまい、首の脊髄や神経根が圧迫されることで、様々な障害が現れる疾患なのです。
そして、脊髄が圧迫される場合を頚椎症性脊髄症(頸椎症性脊髄症)と呼び、神経根が圧迫される場合を頚椎症性神経根症(頸椎症性神経根症)と呼び、これら二つを総称して頚椎症と言います。
ですから頚椎症には、脊髄が障害される脊髄疾患である頚椎症性脊髄症と、脊髄から分岐した神経が障害される神経疾患である頚椎症性神経根症があるのです。
ちなみに頚椎症は、頚部脊椎症や変形性頚椎症(変形性頸椎症)とも呼ばれます。
頚椎椎間板ヘルニア(頚椎ヘルニア)
頚椎椎間板ヘルニア(頸椎椎間板ヘルニア・頸椎ヘルニア)は、頚椎椎間板に何らかの力が加わり椎間板が飛び出すことで、首の脊髄や神経根を圧迫する疾患です。
頚椎椎間板ヘルニアによって現れる症状も、脊髄が障害される脊髄障害と脊髄から分岐する神経根が障害される神経障害があります。
ですから、頚椎椎間板ヘルニアは、広い意味で頚椎症に含めて考えられることがあります。
頚椎症の発生メカニズム
頚椎には常に頭の荷重がかかり、運動をすると更に負荷がかかります。そして、年齢を重ねるうちに、その荷重や負荷が頚椎の椎骨や頚椎椎間板に徐々にダメージを与え、椎間板にヒビが入ったり、椎間板が潰れたりします。また、年齢を重ねると、椎間関節の靭帯が石灰化・骨化することもあります。
このような頚椎椎間板の変化や椎間関節の変化は、老化現象であって病気ではありません。とはいえ、変形した椎間板が椎骨と椎骨の間から飛び出したり(頚椎椎間板ヘルニア)、椎間板が潰れて椎骨と椎骨が擦れて骨棘(こっきょく)というトゲ状の突起が生じると、近くを走行する脊髄や神経根を刺激して様々な症状が現れる疾患となります。
頚椎症・頚椎椎間板ヘルニアによる上半身のしびれ
頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアによって頚椎で脊髄や神経根が圧迫されると、腕や手先の痛み・しびれが現れます。
というのも、脊髄は神経のメインストリートですし、頚椎の神経根は上腕から手先の末梢神経へ向かい分岐する根元部分ですから、これらが圧迫されると上腕・手・手指に痛みしびれが生じてしまうことがあるのです。
ですから、頚椎症性脊髄症・頚椎症性神経根症・頚椎椎間板ヘルニアのいずれでも、上腕・手・手指にしびれが現れる可能性があります。また、これらの痛み・しびれによって筋肉の緊張を生じて、肩こりも併発する可能性があるのです。
ちなみに、頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症の症状の違いは、頚椎症性脊髄症では脊髄自体が圧迫されるので症状は上半身だけでなく下半身にも現れますが、頚椎症性神経根症では上半身部分だけに症状が限定されます。つまり、脊髄を障害すると症状は手足に現れ、頚椎の神経根を障害すると症状は腕と手に現れるのです。
後縦靭帯骨化症
後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)とは、脊柱管の中を脊髄とともに縦に走行する後縦靭帯が骨化して硬くなることで、脊髄が圧迫される疾患です。後縦靭帯骨化症は、胸椎などでも生じることがありますが、特に頚椎で起こりやすいとされています。
後縦靭帯骨化症の原因は、現在のところ解明されていませんが、糖尿病や肥満との関係や遺伝的要素との関連も指摘されています。
後縦靭帯骨化症の症状は、脊髄の圧迫の程度により様々で、歩行障害などの重い症状もあれば、首・背中・上腕・手などの痛みやしびれなどもあります。
ですから、肩こりと上半身のしびれがある場合、後縦靭帯骨化症の可能性もあります。詳しくは、後縦靭帯骨化症とは?種類・症状・原因・予防法・治療法を紹介!似ている病気は?を参考にしてください。
胸郭出口症候群
胸郭出口症候群とは、腕や手の動きを支配する上腕神経叢と腕や手につながる鎖骨下動脈が圧迫されることで現れる一連の症状のことです。
上腕神経叢は頚椎の脊髄から分岐して上腕に向かいますが、鎖骨下動脈とともに非常に狭い隙間を走行します。この狭い隙間が特に3つあり、首を縦に走る前斜角筋と中斜角筋の間、鎖骨と肋骨の間である肋鎖間隙、肋骨と肩甲骨をつなぐ小胸筋の後方です。
上腕神経叢と鎖骨下動脈は、この狭い隙間を走行するために、斜角筋や小胸筋などが緊張すると圧迫されやすく、神経障害や血流障害を起こしやすいのです。そして、神経障害として腕・手・手指の痛みやしびれが現れ、血流障害として肩こりや上腕のだるさなどが現れます。
ちなみに、胸郭出口症候群は、なで肩の女性に多く現れやすい傾向があります。詳しくは、胸郭出口症候群ってなに?治療法、原因、症状、種類や検査方法を紹介!を読んでおきましょう。
手根管症候群
手根管症候群とは、上腕神経叢から手指に向かって走行してきた神経の一つである正中神経が、手首付近に存在する手根管によって圧迫されることで現れる一連の症状のことです。
手根管症候群の原因は不明とされていますが、妊娠・出産期や更年期の女性に多く生じる他、骨折や手の酷使などでも生じる場合があります。
手根管症候群の症状は、主に親指・人差指・中指の痛みやしびれですが、肩こりとの関連性は薄いと考えられています。
詳しくは、手根管症候群とは?症状や原因を知ろう!治療に手術が必要な場合はどんな状態?を参考にしてください。
肘部管症候群
肘部管症候群とは、上腕神経叢から手指に向かって走行してきた神経の一つである尺骨神経が、肘の内側あたりで圧迫されることで現れる一連の症状のことです。
肘の酷使、加齢に伴う肘の変形などが原因となって、肘部管症候群は現れます。肘部管症候群の症状は、主に小指や薬指の痛みやしびれですが、手根管症候群と同様に肩こりのとの関連性は薄いと考えられています。
詳しくは、肘部管症候群とは?症状や原因、治療方法を紹介!を読んでおきましょう。
肩こりと上半身のしびれの治療方法
それでは、肩こりと上半身のしびれが現れた場合に、どのような治療がなされるのでしょうか?肩こりと上半身のしびれに対する治療法を、ご紹介したいと思います。
病院の受診
肩こりと上半身のしびれが現れた場合、頚椎症などの重篤な病気である可能性がありますから、まずは整形外科を受診して整形外科医の診断を仰ぐことが基本です。
あまりにもしびれが強く、頭痛なども伴う場合は、大きな病院の神経内科を受診したほうが良いかもしれません。
頚椎症の治療法
頚椎症は、脊髄や神経根の圧迫の程度によって、上半身のしびれ以外にも様々な症状が現れます。そのため、次のような複数の治療方法の中から、症状の程度に応じて選択または併用して治療を行います。
- 装具療法:頚椎カラーと呼ばれる首用のコルセットを装着して患部を安静に保持。
- 薬物療法:痛み止めの消炎鎮痛薬、しびれや神経痛には神経障害性疼痛治療薬を処方。
- 理学療法:頚椎牽引、ストレッチやマッサージ、温熱療法などのリハビリ。
- 神経ブロック療法:局所麻酔薬を注射して、神経の機能を一時的麻痺状態にする治療。
- 手術療法
基本的には、保存的治療(装具療法、薬物療法)が選択され、理学療法も併用されます。症状が重い場合は、トリガーポイント注射とも呼ばれる神経ブロック療法や手術療法が検討されます。
後縦靭帯骨化症の治療法
後縦靭帯骨化症は、脊髄が圧迫される疾患であるため、頚椎症性脊髄症と似たような症状が現れます。したがって、治療方法は頚椎症とほとんど同じです。
胸郭出口症候群の治療法
胸郭出口症候群の症状が軽度の場合は、運動による筋力強化と消炎鎮痛剤や血流改善剤を用いる薬物療法によって治療します。一方で、症状が重度の場合は手術療法で肋骨を切除することが検討されます。
手根管症候群・肘部管症候群の治療法
手根管症候群・肘部管症候群の治療は、基本的に薬物療法や患部の安静などの保存的治療が行われ、これらの治療が効かない場合に手術療法を検討します。
肩こりと上半身のしびれの予防方法
肩こりと上半身のしびれを予防するには、日常生活を見直して姿勢を良くするように心掛けることが必要です。
また、首や肩周辺の筋肉が緊張しても、血流を滞らせないように入浴やカイロなどで温めて血行を促すことも大切です。
さらには、肩周辺の筋肉群を適度に動かすことも血行促進には重要で、体操やストレッチを取り入れると良いでしょう。
意外なところでは、睡眠時の枕を見直してみても良いかもしれませんよ。
まとめ
いかがでしたか?肩こりに伴う上半身のしびれについて、ご理解いただけたでしょうか?
肩こりは心身ともに疲労やストレスが溜まっているサインでもありますから、肩こりを感じたら少し休むことを考えてみると良いでしょう。
そして、肩こりに加えて上半身のしびれが現れた場合は、要注意です。そこには、頚椎症など重篤な症状を引き起こす疾患が隠れている可能性もあるからです。
したがって、肩こりに加えて上半身のしびれが感じられた場合は、速やかに整形外科や神経内科を受診して医師の判断を仰ぐことが大切です。
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・肩こりと歯痛の関係とは?痛みを感じる原因と肩こりの解消法を紹介!
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