食事でたくさん食べたわけでもないのに、「お腹が張る」ように感じられる経験をされた方は、案外多いのではないでしょうか?お腹が張っていると腹部の不快感が先に感じることから、仕事や勉強の集中力が欠如してしまい社会生活にも影響が及びかねません。
お腹が張っていると、私達は今までの経験から、おならのようなガスがお腹に溜まっていると漠然と考えますが、これは概ね正解です。
では、ガスがお腹に溜まるメカニズムや原因を考えてみたことはありますか?「お腹が張る」状況を解消するには、ガスがお腹に溜まるメカニズムや原因を知らなければ、有効な対策が打てません。
そこで今回は、お腹にガスが溜まるメカニズムや原因、その解消法などの概要をご紹介したいと思います。
お腹が張るって、どういうこと?
そもそも「お腹が張る」ということは、どういうことを言うのでしょうか?
「お腹が張る」とは?
「お腹が張る」ことは、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)と医学的に定義されます。そして腹部膨満感は、食事をしたことによる満腹感とは異なります。腹部膨満感は、お腹が膨らんだように感じられたり、お腹が圧迫されたように感じられる状態のことを言います。
腹部膨満感の具体的症状
腹部膨満感によって感じられる症状は、次のようなものが挙げられます。
- お腹が膨らんだように感じられる
- お腹が圧迫されたように感じられて苦しい
- お腹が膨らんだ感覚で、空腹感を感じない
- お腹が膨らんだ感覚で、食事も少量しか受け付けない
- お腹がにガスが溜まったような感覚がある
- お腹が重く感じる
お腹が張ることのメカニズム
では、お腹が張るという腹部膨満感は、どのような経緯で発生するのでしょうか?
腹部膨満感の発生メカニズム
人は生きていくためのエネルギーを補給するために食事をします。そして、食事によって口に取り込まれた食物は、食道を通り胃に運ばれます。さらに、消化管と総称される胃から十二指腸、小腸、大腸といった器官で、食物は分解・消化・吸収されます。
この消化の過程で、必ずガスが発生します。このガスは、溜まっても定期的に呼気や放屁(おなら)によって体外に排泄されるのが通常です。
しかしながら、消化管内のガス発生量と呼気や放屁によるガス排泄量のバランスが、何らかの原因によって崩れると、消化管の中にガスが過剰に溜まってしまいます。
したがって、この消化管にガスが過剰に溜まった状態が、腹部膨満感なのです。つまり、腹部膨満感は、消化管内のガス発生量とガス排泄量のバランスが崩れることによって発症するのです。
消化管内のガスの発生
消化管内のガスは、食事などによって一緒に取り込まれる空気成分(窒素、酸素など)に、消化の過程で腸内細菌が発生させるガスや消化液によって食物が分解される時に発生するガスが加わります。
消化管内のガスの排泄
消化管内のガスのほとんどは、いったん消化管で血液中に吸収された後に、肺でガス交換され呼気として体外に排出されます。放屁(おなら)やゲップによる体外への排泄は、ガス排泄量の約10%程度とされています。
腹部膨満感の発生メカニズムの分類
では、なぜ消化管内のガス発生量とガス排泄量のバランスが崩れるのでしょうか?
消化管内のガス発生量とガス排泄量のバランスが崩れるということは、消化管内のガス発生量が通常より増えること、あるいは、消化管内のガス排泄量が通常より減少することが考えられます。
したがって、腹部膨満感の発生メカニズムは、次のような2つに分類することができます。
- 消化管内のガス産生過剰
- 消化管内のガス排泄低下
お腹が張る原因は?
このように腹部膨満感は、消化管内のガス産生過剰と消化管内のガス排泄低下によって生じます。そして、この消化管内のガス産生過剰と消化管内のガス排泄低下をもたらす要因こそが、お腹が張るの原因と言えるでしょう。
そこで、次はお腹が張るの原因を探っていきたいと思います。
消化管内のガスの産生過剰の原因
消化管内のガス産生過剰の原因としては、次のようなものが考えられます。
- 呑気症(どんきしょう)
- 便秘
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 腸内細菌のバランス変化による悪玉菌の増加
- 糖質(糖類、炭水化物など)の摂りすぎ
- 炭酸飲料の飲みすぎ
- 食事の際の悪習慣(早食い、食事の際にしゃべりすぎ)
呑気症
呑気症は、空気を大量に飲み込んでしまい、その結果として放屁やゲップが多く発生したり、腹部膨満感を覚える疾患です。呑気症は、空気嚥下症(くうきえんげしょう)とも呼ばれます。
呑気症は、心因性の疾患とされており、緊張や不安などのストレスによって自律神経が乱れている人やうつなどの人に現れやすいとされています。このような人は、自然と奥歯を噛み締めることが多くなり、その結果として唾液を飲み込む回数も増加します。そして、唾液の飲み込みと一緒に空気も飲み込んでいるのです。
このような呑気症によって空気成分が大量に体内に取り込まれると、消化管内のガスが過剰となる原因になります。
詳しくは、空気嚥下症の治療方法とは?症状や原因を知って対策しよう!を読んでおきましょう。
便秘
便秘は、便の排泄が困難になっている状態のことです。
消化によって栄養が吸収された食物の残りカスは、最終的に便として大腸と肛門を通じて排出されます。しかし、便秘によって便が大腸で停滞すると大腸の細菌によってガスが発生しやすくなります。
したがって、便秘は消化管内のガス産生過剰の原因になります。
過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群は、呑気症と同様に心因性の疾患で、大腸や小腸の機能異常によって引き起こされる疾患の総称です。
過敏性腸症候群では、大腸や小腸の器官としての異常(炎症など)が無いのにも関わらず、大腸や小腸の本来の働きを果たせずに下痢、便秘、腹痛、ガス過剰による腹部膨満感といった症状が現れます。
脳と胃腸は密接にリンクしていて、脳に緊張や不安などのストレスがかかると、その影響が腸にも及びます。その結果として、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)に異常が現われるのです。
したがって、過敏性腸症候群によって消化管内のガスが過剰となることがあります。詳しくは、過敏性腸症候群の症状をチェック!治療方法は?を読んでおきましょう。
腸内細菌のバランス変化による悪玉菌の増加
腸内細菌のバランス変化によって悪玉菌が増えると、消化管内で食物の異常発酵が起こります。異常発酵が生じると、腐敗ガスが発生してしまいます。
したがって、消化管内で悪玉菌が増加すると、ガス産生過剰の原因となります。
糖質(糖類、炭水化物など)の摂りすぎ
糖類や炭水化物などの糖質は、消化管内で分解・消化される過程で腸内細菌のエサになりやすく、悪玉菌の増加と相まってガス産生過剰の原因となります。
炭酸飲料の飲みすぎ
炭酸飲料には、炭酸ガスが含まれています。したがって、炭酸飲料をたくさん飲めば、多くの炭酸ガスが体内に取り込まれますので、体内のガス過剰の原因となります。
食事の際の悪習慣
早食いや食事の際にしゃべりすぎることは、食物と一緒に空気成分も取り込むことになります。
したがって、このような食事の際の悪習慣は、体内のガス過剰の原因となります。
消化管内のガス排泄低下の原因
消化管内のガス排泄低下の原因としては、次のようなものが考えられます。
- 暴飲暴食による胃腸機能の低下
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 急性胃炎や慢性胃炎
- 機能性胃腸症
- 腸閉塞
- 大腸がん
- 胆嚢炎、肝炎、膵炎
暴飲暴食による胃腸機能の低下
暴飲暴食が行われると、胃腸には常に食物が入っている状態になります。そして、胃腸が休まる時が無くなりますので、徐々に胃腸の働きが悪くなっていきます。
胃腸の機能が低下すると、消化管内のガスが血液中に吸収されなくなり、肺を通じた呼気によるガス排泄も低下します。
したがって、暴飲暴食による胃腸機能の低下は、消化管内のガス排泄低下の原因になります。
過敏性腸症候群(IBS)
前述のように過敏性腸症候群は、腸の蠕動運動を低下させます。その結果として、過敏性腸症候群は、消化管内のガス過剰の原因になるとともに、腸機能の低下により消化管内のガス排泄低下の原因にもなります。
急性胃炎や慢性胃炎
急性胃炎も慢性胃炎も、胃に炎症が生じる疾患です。胃炎は、飲酒・喫煙・薬物・ストレス・ウイルス感染・細菌感染・アレルギーなど様々な要因によって生じます。
いずれの要因による胃炎であっても、胃に炎症が生じれば胃の機能低下が伴います。
したがって、急性胃炎や慢性胃炎は、胃機能の低下をもたらし、消化管内のガス排泄低下の原因になります。
機能性胃腸症
機能性胃腸症は、過敏性腸症候群と似たような仕組みの疾患です。すなわち、機能性胃腸症は、胃の機能異常によって引き起こされた疾患の総称です。
機能性胃腸症では、胃の器官としての異常が無いにも関わらず、胃の本来の働きを果たせずに、食後のもたれ感、腹痛、吐き気・嘔吐、腹部膨満感といった症状が現れます。
脳と胃腸は密接にリンクしていて、脳に緊張や不安などのストレスがかかると、その影響が胃にも及びます。その結果として、胃の蠕動運動(ぜんどううんどう)に異常が現われるのです。
したがって、機能性胃腸症は、胃機能の低下をもたらし、消化管内のガス排泄低下の原因になります。
腸閉塞
腸閉塞は、腸管(十二指腸、小腸、大腸)が詰まってしまい、腸管の内容物が肛門側への移動を妨げられる疾患です。腸閉塞は、イレウスとも呼ばれます。
腸閉塞では、吐き気・嘔吐、腹部膨満感、排便や消化管内のガス排泄ができないといった症状が現われます。そして、最悪のケースでは、死に至る可能性もあります。
詳しくは、腸閉塞の症状を紹介!悪化すると死亡することも?を参考にしてください。
大腸がん
大腸がんは、大腸に発生する悪性腫瘍です。
大腸がんの発生場所や進行度合いによっては、便秘、腹痛、腹部膨満感、排便ができない、腸閉塞といった症状が現れます。そして、最悪の場合は、死に至る可能性があります。
詳しくは、大腸がんの原因とは?運動不足や食生活に要注意!を読んでおきましょう。
胆嚢炎、肝炎、膵炎
胆嚢炎、肝炎、膵炎など胃腸以外の臓器に炎症が生じた際に、腹部膨満感が発生する場合があります。
これは、胃腸以外の臓器の炎症に、身体全体が反応することで、結果的に胃腸の機能が低下してしまうからです。
したがって、胆嚢炎、肝炎、膵炎などの疾患は、胃腸機能の低下をもたらし、消化管内のガス排泄低下の原因になります。
お腹が張る時の解消方法
では、腹部膨満感は、どのように治療されるのでしょうか?
消化管内のガス産生過剰による腹部膨満感の場合
消化管内のガス産生過剰による腹部膨満感の場合は、ガス産生過剰の原因に応じた治療方法が必要です。
緊張や不安などのストレスを取り除く
吞気症や過敏性腸症候群は、心因性の疾患でした。そこで、緊張状態に陥りやすい人に対しては、心理療法に基づいて緊張しないようなリラックス法の習得などが考えられます。また、うつ状態の人に対しては、抗うつ剤などの薬物療法や医療カウンセリングなどが考えられます。
さらに、呑気症では、無意識での唾液飲み込み回数を減らすために、呑気症の仕組みを患者に説明することで唾液嚥下を意識化させるといった対応も考えられます。
生活習慣の改善を促す
腸内細菌のバランス変化によって消化管内で悪玉菌が増加すると、ガス産生過剰の原因となりますので、食べ過ぎや飲み過ぎを避けることが必要でしょう。また、腸内細菌のバランス維持のために、ヨーグルトなどの発酵食品や乳酸菌飲料の摂取も推奨されます。
さらに、糖類や炭水化物などの糖質を摂りすぎている場合は、適正な量の摂取に止める必要があります。
他方で、早食いや食事の時にしゃべりすぎるといった食事の際の悪習慣がある人は、これを改める必要があります。同様に、炭酸飲料の飲みすぎの人は、炭酸飲料を控える必要があるでしょう。
薬の処方
便秘に対しては、便秘薬を処方することにより便秘改善を行います。
また、腸内細菌のバランス変化による悪玉菌の増加に対しては、整腸剤を処方することにより腸内の善玉菌を増やして、悪玉菌の増殖を抑制します。
さらに、消泡剤を処方することにより、消化管内のガスの排出や消化管での血液への吸収を促進させます。
消化管内のガス排泄低下による腹部膨満感の場合
消化管内のガス排泄低下による腹部膨満感の場合も、ガス排泄低下の原因に応じた治療方法が必要です。
生活習慣の改善を促す
暴飲暴食による胃腸機能の低下に対しては、ガス産生過剰の場合と同様に、生活習慣の改善を促す必要があるでしょう。
緊張や不安などのストレスを取り除く
過敏性腸症候群と機能性胃腸症では、こちらもガス産生過剰の場合と同様に、心理療法や薬物療法による治療が必要になるでしょう。
薬の処方
急性胃炎や慢性胃炎の場合では、まず胃の炎症を抑制し、胃機能の回復を図るために制酸剤や胃粘膜保護薬などを投与します。これにより、胃機能が回復すれば、消化管内のガス排泄低下も改善に向かいます。
ただし、胃炎の根本原因を除去しなかれば、胃炎の再発可能性に伴いガス排泄低下の可能性も残りますので、胃炎の原因を除去する必要もあります。飲酒、喫煙、薬物、ストレスが原因であれば、生活習慣の改善が必要になります。胃炎の原因がウイルスや細菌への感染であれば、抗菌剤を投与してウイルスや細菌を撲滅する必要があります。
外科手術
腸閉塞による消化管内のガス排泄低下の治療については、軽度の腸閉塞と重度の腸閉塞で治療方法が異なります。
軽度の腸閉塞の場合は、点滴や抗生物質の投与とイレウス管と呼ばれる細長い管を挿入して消化管内のガス排出をすることで、腸閉塞とガス排泄低下が回復します。
しかし重度の腸閉塞の場合は、外科手術によって腸閉塞を治療しなければ、消化管内のガス排泄低下も回復しません。
また、大腸がんの場合も、外科手術によるがんの切除が必要です。
さらに、胆嚢炎、肝炎、膵炎など胃腸以外の臓器に炎症が生じた際にも、重度の場合は外科手術が必要になる可能性もあります。
したがって、消化管内のガス排泄低下の治療に、外科手術が必要な場合もあるのです。
まとめ
いかがでしたか?
「お腹が張る」メカニズムや原因、その治療方法をご理解いただけたでしょうか?
お腹が張っている腹部膨満感では、腹部の不快感が先になることから、仕事や勉強の集中力が欠如してしまい社会生活にも影響が及びかねません。
その腹部膨満感には、さまざまな原因があります。そして、その大小さまざまな原因を特定して、その原因に応じた対策を打つことで腹部膨満感が解消されることになるのです。
場合によっては、重い疾患の可能性もありますから、たかが「おなら」が溜まっているだけと安易に考えるのではなく、なるべく早く腹部膨満感を解消するようにしてくださいね。
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