「過敏性腸症候群」は、「あなたが過敏になる」ことで「腸」の具合が悪くなる症状です。つまり、腸に異常が見つからないのに、苦しい下痢や腹痛が続くのです。この症状を治すには「あなたが過敏になる」ことを改善しなければなりません。
「脳」と「心」の関係について考え、症状のメカニズムや治療法などを紹介していきます。
過敏性腸症候群は現代社会のストレスの増加に伴い更に増えてきている症状と言われています。人口の10%は過敏性腸症候群の症状を抱えているとされていて消化器心身症、イライラ腸症候群などとも呼ばれます。英語ではIrritable Bowel Syndromeと呼ばれその頭文字を取ってIBSとも省略されます。
過敏性症候群の詳しい内容と改善方法などについても紹介しますので是非参考にしてみてください。
過敏性腸症候群について
まずは、過敏性腸症候群について知っておきましょう。この病気は消化器に現れる精神的な要因による問題です。過敏性腸症候群になってしまいやすい人の特徴や、どの様な症状の場合に過敏性症候群と決定されるのかについて紹介していきます。
もしや自分がお腹を下したり、便秘になりやすい症状が頻繁にまたは、ある特定の環境下で発生しやすい場合に過敏性腸症候群を疑い、セルフチェックしてみましょう。
過敏性腸症候群になりやすい人は?
過敏性腸症候群は、小学生でも発症することがあります。いじめや中学受験といった、大人でも耐えがたいストレスにさらされていることが原因と考えられます。でもやはり、この症状に悩まされる人が最も多いのは、働き盛りの社会人でしょう。
長時間労働によって、疲れがたまり睡眠時間が減って生活が不規則になると、お腹の具合が悪くなります。さらにサラリーパーソンは、運動不足や偏った食事に陥りやすく、過敏性腸症候群にとって「好条件」が揃ってしまうのです。
社会人の場合、私生活でも気を付けなければなりません。海外旅行やキャンプなどは、一見リラックスしているようでいても、生活環境が一変します。「生活の変化」は、実はけっこう大きなストレスに化けるのです。旅行やレジャーが過敏性腸症候群を引き起こすきっかけになることもあるのです。
脂質や動物性タンパク質を食べる量が増える、いわゆる「食の欧米化」によって、高齢者にも過敏性腸症候群が起きています。「お年寄りといえば、昔ながらの米・野菜・魚」というのは、古い考えなのかもしれませんね。最近では、鶏の空揚げや牛肉のステーキが大好物、という60代70代も珍しくありません。
専門的な定義
ちなみに、過敏性腸症候群の「国際的診断基準」を紹介しておきます。
①腹痛またはお腹の不快感が1カ月に3日以上あり、それが3カ月以上続く
②次のABCのうち、2つ以上あてはまる
A、腹痛またはお腹の不快感は、排便すると軽くなる
B、腹痛またはお腹の不快感が、便秘や下痢といった「排便頻度の変化」で始まる
C、腹痛またはお腹の不快感が、硬い便や軟らかい便といった「便の状態の変化」で始まる
③腸に器質的異常がない
①②③のすべてに当てはまる場合、過敏性腸症候群と診断されます。
「器質的異常」とは、損傷を受けたことが明らかに分かる異常です。「腸の器質的異常」といえば、腸が狭くなっていたり、腫瘍が見つかったりする場合のことをいいます。
過敏性腸症候群の種類について
過敏性腸症候群にはいくつかの症状があります。大きく3つの種類に分けられていますので、それぞれのタイプについて見ていきましょう。
下痢型IBS・・・主に下痢の症状が発生しやすいタイプの症状になります。泥状、水状の下痢が発生しやすく、急激な腹痛が発生してしまします。ストレスを感じてしまった場合に発生しやすく人前に出る発表時や通勤電車などの空間で急激に腸のぜん動運動が活発になり発生しやすい特徴があります。
便秘型IBS・・・便秘が頻繁に発生してしまうタイプの症状になります。腸の痙攣が確認されることがあり、それによって腸に便が滞留してしまい、便秘になってしまいます。長時間便が腸内に滞在してしまうことで便の水分が奪われ固い固くコロコロした便になってしまい、排出しづらくなります。特に女性に発生しやすいタイプで男性には発生しにくい症状になります。4回に1回の確率で便秘が発生したり、便が固い場合にこの症状であると診断できます。
混合型IBS・・・下痢型IBSと便秘型IBSが交互に発生してしまう症状になります。混合型の症状が発生してしまう人は症状が不安定で自分の傾向を自覚していくしかありません。
この3つの他に稀に分類不能となる、その他や分類不能型と呼ばれる症状もあります。便秘や下痢などが起こらずに、腹痛の症状のみが発生する場合やお腹の違和感を頻繁に感じるなど分類されている症状意外の症状が慢性的に発生してしまうものになります。
過敏性腸症候群の症状
サラリーパーソンのみなさん、会社の会議で発表しなければならないとき、キューっとお腹が痛くなることはありませんか。快速電車に乗って「あと30分は停車しない」ときに限って、便をもよおすことはありませんか。こうした症状があると、過敏性腸症候群かもしれません。
実際に過敏性腸症候群の患者に発症している症状についてまとめましたので見ていきましょう。
腹痛、膨満感、腹鳴
過敏性腸症候群の初期では、「腹部症状」が出ます。「お腹の調子が悪くなること」です。過敏性腸症候群の「腹痛」は、「激痛」や「のたうち回る」ほどではありません。断続的だったり継続的だったりしますが、「苦しいかも?」と感じているうちに治まることが多いです。
別の「腹部症状」では、「腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)」があります。「お腹の張り」です。お腹全体に張ることもありますが、一部だけに張りがみられることもあります。「お腹が重い」と感じることもあります。
お腹が「ごろごろ」いったり「ぐーぐー」いったりする症状のことを「腹鳴(ふくめい)」といい、これも過敏性腸症候群の症状です。また、自分の腸にガスが貯まっていることが意識できる「ガス貯留感」も起きます。
下痢と便秘
過敏性腸症候群の患者の多くは、「腹部症状」だけでとどまっていれば、そのまま放置するか、市販薬で対応してしまうと思います。ところが根本的な治療に取り組まないと、悪化して、重い下痢や便秘に悩まされることになります。
「過敏性腸症候群の下痢」の特徴は、1日に3回以上の排便があったり、水のような便だったり、急に便意に襲われる、といった症状を起こすことです。
「過敏性腸症候群の便秘」の特徴は、排便回数が週に3回以下になることです。また、便が硬かったり、硬い上にウサギの糞のように玉状の便が複数個出てくることもあります。久しぶりに便意があってトイレに行っても、いきってもいきってもなかなか出ない「排便困難」も発生します。
さらに「下痢と便秘を繰り返す」こともあります。常に、下痢または便秘の状態にあるわけで、相当つらい思いをします。
下痢と便秘は、合わせて「排便異常」といいます。排便異常は、食欲の低下や肌荒れを引き起こします。頭痛や口臭がきつくなるなどの症状も出てきます。さらに、イライラが募ったり、寝つきが悪くなるといった、精神状態にも悪影響を及ぼします。このころになると、日常生活に支障をきたすようになります。
過敏性腸症候群の原因
冒頭で、過敏性腸症候群は、「腸自体に原因がない」のに、「あなたが過敏になる」ことで腸の具合が悪くなる症状、と説明しました。「何に」対して過敏になるかというと「ストレス」なのです。
原因①ストレスとの関係
「ストレス」と聞いてまず思い浮かべるのは「仕事」ではないでしょうか。しかし、仕事以外にもストレスはあります。家族関係がストレスになることもありますし、経済状況もストレスになります。
また、健康診断で悪い結果が出るとストレスが発生し、「健康のために何かしなきゃ」と思うこともストレスですし、ウォーキングを始めても、運動がストレスになることもあります。
つまり、日本の社会で過ごす限り、ストレスから逃げることはできないのです。でも安心してください。大半の人は、ストレスを受けても、健康を害することはありません。それは私たちには「ストレス耐性」という「ストレスをはねのける力」が備わっているからです。
ストレスと過敏性腸症候群との関係はこうです。「ストレスをはねのける力」が弱いと、腸に異常をきたすのです。「当たり前では?」と思わないでください。つまり、「ストレスをはねのける力」が強い人は、過敏性腸症候群を発症しないのです。
つまり、ストレスだけで過敏性腸症候群が起きることはなく、「ストレス+弱いストレス耐性」によって過敏性腸症候群に襲われることになるのです。
自律神経が乱れてしまうことでも発生してしまうので、ストレスや過労による自律神経の乱れに注意しましょう。
原因②脳との関係
ストレスは脳で感じ取ります。脳と全身は神経でつながっているので、脳がストレスにやられると、全身のどこかに異常が生じます。そして、特に脳と強くつながっているのが腸なのです。実は「脳と腸は密接な関係にある」ことが、最近の研究で分かってきました。これを「脳腸相関(のうちょうそうかん)」といいます。
医師たちが阪神淡路大震災の前後で、血液の病気の患者の腸内を調べたところ、カンジタ菌が増加していたことが分かりました。
さらにアメリカのNASAでは、訓練で狭い船室に長時間閉じ込めた宇宙飛行士の便を調べたところ、訓練後バクテロイデスという、感染症を引き起こす菌が増えていることが分かったそうです。
この2つの研究結果は、ストレスによって脳が動揺し、それが腸に伝わり腸内の細菌の環境が悪い方に変化したことを証明しています。過敏性腸症候群も、こうした「ストレス→脳→腸」というメカニズムによって引き起こされていると考えられています。
腸は「脳と密接につながっている」一方で、「脳から独立して動いている」ことも知られています。脳の指令を待たず、腸が独自に状況を判断して、消化や吸収といった「腸の仕事」を行うのです。そのため、腸は「第2の脳」と呼ばれています。
原因③心との関係
腸は「心」を左右することがあります。心の動きを「情動」といいます。情動は、見たものや聞いたものなどによって激しく動くことは、誰もが体験的に知っていると思います。そして、腸も情動を揺り動かすのです。
過敏性腸症候群の患者は、不安障害やうつ病といった心の病気をを持つことが多いのです。過敏性腸症候群と心の病気とは、「双方向」の関係にあります。つまり、過敏性腸症候群が心の病気を引き起こし、心の病気が過敏性腸症候群の悪化を招くのです。
原因④神経伝達物質の働き
腸と脳の働きに密接な働きがあることは紹介しました。患者の腸内の細胞にはセロトニンという神経伝達物質が活発に活動している事がわかっています。セロトニンは腸内に90%以上存在している物質なのですが、残りのわずかは脳の中枢神経に存在しています。
セロトニンは幸せホルモンとも呼ばれる物質なのですが、このホルモンが脳から腸に送られストレスの影響を腸に伝えているのではないかと言われています。
この神経伝達物質が腸のぜん動運動を引き起こしている原因である可能性があります。
過敏性腸症候群の検査
お腹の具合が悪くなって医者にかかる人が多いことから、病院ではまず、内視鏡検査などの検査によって、腸や胃の状態を見ます。その結果、腸や胃に異常が見つからない場合、過敏性腸症候群を疑うことになります。
次に行う検査は、性格テストと心理テストです。こうした特殊なテストを行うのは、過敏性腸症候群の患者は、医師に「腸や胃に異常はありませんよ」と言われても、それを信じず、かえって心配が深くなってしまうからです。性格の判断は、診断には欠かせないのです。
過敏性腸症候群の治療と予防
では、過敏性腸症候群の治療方法や予防方法について紹介します。
薬物療法
過敏性腸症候群の治療で使われる薬は、大きく分けて2種類あります。直接、腸に働きかける薬としては、「腸運動調整薬」や、けいれんを鎮める「鎮痙薬(ちんけいやく)」が使われます。心のための薬としては「精神安定剤」や、症状が重い場合は「抗うつ薬」が処方されます。
下痢と便秘の両方に効果が期待できるのが「ポリカルボフィルカルシウム」という薬です。腸の水分量を調整するので、下痢の場合は便の水分を少なくして、便秘の場合は便の水分を多くできるのです。
「酸化マグネシウム」という薬は、大腸による水分吸収を抑制する薬ですので、便秘の患者に使います。便が軟らかくなるのです。
注意したいのは、便秘の症状があっても、過敏性腸症候群の人には「下剤」はNGということです。下剤は、腸を活発に動かして便を出そうするので、ただでさえ腸の動きに過敏に反応してしまう過敏性腸症候群を悪化させてしまうのです。
「ラモセトロン塩酸塩」という薬は、腸が受けた刺激が、脳に伝達するのを妨害します。つまり「脳が過敏に反応する」ことを抑制できるのです。腹痛が治まる効果が期待できます。
食生活の改善
過敏性腸症候群は、腸の不具合なので、食べ物には気を付けたいところです。野菜を多く食べて、高タンパク低カロリーのメニューを心掛けたいところです。また、暴飲暴食は避け、理想は腹八分目です。
しかし、食の見直しには注意が1つあります。過敏性腸症候群は「生真面目な人」や「神経質な人」がかかりやすいということです。そういった方は、「あれを食べなきゃ」「これは絶対に食べてはダメ」と考えてしまいがちです。
そのように、食にこだわり過ぎてしまうことも、過敏性腸症候群の治療の妨げになります。そこで医者が呼びかけているのは「楽しく食べましょう」ということです。1人で食べるより、家族や友人と食べましょう。
運動療法
ストレス解消のために運動を行うことで、過敏性腸症候群が改善されると言う報告があります。激しい運動や特別な体操などを行う必要はなく、ウォーキングや軽いランニングなどを定期的に行うことで運動による代謝を行い、自律神経が正常に整う効果も働き、腸の活動が正常に戻りやすくなります。
更に運動には、精神状態をマイナス思考からプラス思考に、ポジティブ変換することが出来るので、ストレス発散、自律神経の整えに加えてストレスに強い思考力を補うことも出来ます。
総合的に脳にも体にもいい働きをしますので、軽い運動から始めていくことで症状が改善されるでしょう。
まとめ
過敏性腸症候群の原因となるストレスは、外からの攻撃が多いのですが、性格テストなどを行うと、「自らがストレスを生み出している」ことが分かることがあるそうです。よって、治療のひとつとして、自分を追い込まないような生活や仕事の仕方を見付けてみてください。
余暇の過ごし方を再検討したり、新しい趣味探したり、これまで敬遠していた娯楽番組や娯楽小説を楽しんでみたりと、自分を変える工夫により、症状の軽減が期待できます。
仕事でも、管理職の立場の人であれば、自分の仕事の一部を部下に任せてみてはいかがでしょうか。スタッフの方であれば、上司ではない別の人に、効率的に仕事をさばく方法を聞いてみるのもいいかもしれませんよ。
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