前立腺炎とは、男性特有の病気です。一生のうち、男性の約半分の方が掛かる病気と言われている為、男性の方であれば一度は耳にしたことのある病名かもしれません。この病気は、男性の生殖器官の一部である前立腺が炎症を起す病気で、排尿障害や痛みや違和感を伴います。
ここでは、前立腺炎についての症状や原因、検査方法、治療方法について詳しくご紹介します。
前立腺炎とは?
ここでは、前立腺炎の概要と、前立腺の役割についてご紹介します。
前立腺炎とは?
前立腺炎とは、前立腺という男性生殖器の一部が、細菌に感染して炎症を起す疾患です。細菌は体内に住んでいる大腸菌をはじめ、クラミジア、弱毒性細菌などが原因の細菌として挙げられています。男性の約半分が一生のうちに1度はかかる病気と言われており、男性にとっては身近な病気の1つでもあります。
特に若い男性に発症しやすい傾向にあると言われています。前立腺炎は大きく分けて、急性前立腺炎(急性細菌性前立腺炎)、慢性前立腺炎(慢性細菌性前立腺炎)、非細菌性慢性前立腺炎、無症候性炎症性前立腺炎の4つに分類することが出来ます。
前立腺炎は適切な治療を行うことで、完治する場合もありますが、中には慢性化してしまう方もいます。慢性化した患者の中には、前立腺炎が原因となって、癌になったり、肥大症に進行する事を不安に思う方がいますが、これらの病気は、前立腺炎が原因となって発症する可能性は低いと言われています。
しかし、慢性前立腺炎の方は、慢性骨盤痛症候群に掛かる可能性はあります。この病気の症状はほぼ、前立腺炎と同じです。
前立腺の役割とは?
前立腺は、男性特有の器官の1つで、尿道を取り囲むように尿道付近に位置しています。前立腺液の分泌、射精時の筋肉の収縮、排尿を調整する役割があると言われています。しかし、全ての役割については分かっていない部分もあります。
前立腺液の分泌
前立腺の働きの1つに前立腺液の分泌があります。この前立腺液とは、乳白色の弱アルカリ性の粘り気のある液体で、精液の成分の約3割がこの前立腺液で出来ています。クエン酸や亜鉛、マグネシウム、スペルミンなどの成分を多く含んでおり、精子を活性化する働きがあると言われています。精液の残りの7割は、精嚢という部分から分泌される精嚢液で出来ています。
精子は、精巣で作られた後に、精管、精嚢、射精管に移動し、精嚢液と合わさります。そして、精嚢の筋肉収縮により、前立腺へ移動し、前立腺液と合わさり精液として完成します。このように、前立腺は精液を作るのに、重要な働きをしています。
射精時の筋肉の収縮
完成した精液は、射精と共に体外に排出されます。射精は、前立腺にある平滑筋という筋肉が収縮することで起こります。この筋肉が縮小すると、精液が尿道を通り、体外に排出される仕組みになっています。前立腺は射精時にも重要な働きをしています。
排尿を調整する役割
前立腺は、尿道を取り囲むように位置しています。排尿調整に関して詳しい内容は解明できていませんが、近い位置にあることから、排尿を調整しているのではないかと言われています。
中でも、尿の切れに関わっていると考えられています。前立腺肥大症や、前立腺がんになると、尿の切れが悪くなる、何度もトイレに行く必要があるなど、排尿障害が見られます。その為、前立腺が腫れることで、近くにある膀胱の出口の閉鎖や開放に大きく関係してきます。
前立腺炎の種類別の原因と症状について
前立腺炎の種類は大きく分けて4つあります。細菌が原因となって発症する「急性細菌性前立腺炎」と「慢性細菌性前立腺炎」、また原因となる細菌が見られない「非細菌性前立腺炎」、全く原因が分からず、症状も現れない「無症候性炎症性前立腺炎」です。
この4つの種類別に、前立腺炎がなぜ起こるか、原因とそれぞれの症状について詳しくご紹介します。
急性細菌性前立腺炎(急性前立腺炎)
前立腺炎は、細菌が原因となって起こる場合があります。これを、細菌性前立腺炎と呼びます。細菌が原因の場合は、大腸菌やブドウ球菌など人の腸に常在菌として存在している菌や、クラミジアや淋菌などの性感染症が原因となって発症します。
これらの菌は、尿道や、血管、リンパ管などを通じて前立腺で感染します。先に尿路で感染を起こしてから前立腺に感染が起こる場合が多くありますが、細菌がどこから感染したのか感染経路を特定できないこともあります。この細菌性前立腺炎には急性と慢性のタイプに分けられます。
主な症状は?
急性細菌性前立腺炎は、風邪や疲労などで免疫力が落ちている時に、細菌に感染しやすくなります。感染すると、初期症状として38度を超える発熱や寒気、体のだるさ、頻尿や残尿感、排尿痛、排尿困難感や不快感などの排尿障害が見られたり、下腹部や尿道、肛門から陰部付近、会陰部(えいんぶ)、太もも、骨盤、腰付近に鈍痛を感じます。
症状が悪化すると、歩いたり座る動作も辛くなります。また、不眠、イライラ、疲労感などの症状も併せて見られる場合があります。また前立腺を押すと痛みが強くなる特徴があり、検査時にこれが診断の手がかりになります。
また、炎症が進行すると、前立腺が肥大化し、近くにある尿道が圧迫され、尿道が閉鎖され尿が全くでなくなる尿閉が起きる場合や、血尿がでたり、白く濁った尿が排出される場合もあります。更に重症化すると、細菌が血液の中に進入して全身に感染を起こす、敗血症になる場合もあるので、早期に治療がとても重要です。
慢性細菌性前立腺炎(慢性前立腺炎)
細菌性の急性前立腺炎が頻繁におこったり、慢性化することを、慢性細菌性前立腺炎と呼びます。
また、急性前立腺炎が起こらずに、初めから慢性前立腺炎の場合もあります。慢性細菌性前立線炎の原因は、急性細菌性前立腺炎と同様に、細菌が原因で発症します。慢性細菌性前立腺炎の原因となる細菌は、ブドウ球菌や大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ、プロテウスやクラミジアが挙げられます。しかし、細菌の感染経路は明確に分かっていないと言われています。
急性との違いは、症状の出方が異なります。しかし、症状が軽い為、症状から判断することが難しく、検査を受けて白血球が多く現れていたり、細菌が確認されて確定診断されるケースがほとんどです。細菌性で慢性化する患者は、慢性の前立腺炎の中でも、稀で1割程度です。また、慢性前立腺炎の場合は、30歳以上の男性に多く見られやすいと言われています。
主な症状は?
症状は、急性の時よりも軽く、痛みや発熱はあまり見られません。症状として、会陰部(えいんぶ)やそけい部、下腹部が痛む、尿に違和感や不快感がある、残尿感がある、尿の切れが悪い、尿が二つに割れる、頻尿、夜尿が多い、前立線肥大、精液に膿が混じるといった症状が見られます。
慢性化している原因として、抗生物質で殺菌出来なかった細菌が潜伏していた可能性があり、免疫が低下する際に、再び感染するのではないかと考えられています。
非細菌性前立腺炎
細菌以外のもので前立腺に炎症が起こる場合、非細菌性前立腺炎に分類されます。
前立腺の肥大化が確認でき、検査で細菌が確認されなかった場合は、非細菌性前立腺炎に分類されます。原因として考えられているのは、検査の時に発見できなかった細菌が潜んでいる場合、前立腺炎の結石や尿の逆流、ストレス、運動不足、長時間のデスクワークで骨盤内の血流が留まるなどが原因として考えられています。
特に、精神的なストレスが関係しているのではと考えられている為、病気を心配しすぎるのもよくありません。検査結果で、細菌が見られなかった為に、非細菌性前立腺炎と診断されても、抗菌薬を服用して効果を表した場合は、細菌性として判断されます。
主な症状は?
非細菌性前立腺炎の症状として、会陰部(えいんぶ)やそけい部、下腹部が痛む、尿に違和感や不快感がある、残尿感がある、尿の切れが悪い、尿が二つに割れる、頻尿、夜尿が多い、前立線肥大、精液に膿が混じるといった症状が見られます。
慢性的な前立腺炎の患者の9割がこの非細菌性のものであると言われています。非細菌性前立腺炎の場合は、原因が特定出来ない為、根本治療がありません。その為、症状にあわせた対症療法が主な治療方法になります。
無症候性炎症性前立腺炎
無症候性炎症性前立腺炎とは、原因不明の前立腺炎のことで、症状が全くないのが特徴的です。その為、前立腺炎には含まれないのではないかという見方もされています。自覚症状がない為、見つかることが稀です。たまたま手術をした際や検査、解剖した際に炎症が発見されるタイプです。何の症状も起こらない為、治療をする必要もなく、何も分かっていないのが現状です。
この無症候性炎症性前立腺炎を発症する割合は多いと言われていますが、自覚症状がない為、発見されにくく、実際にどのくらいの数がいるかは定かではありません。
前立腺炎の検査方法
前立腺炎と一言で言っても、様々な症状があります。
痛みや違和感を感じたり、排尿障害を感じたら、前立腺炎の疑いがあります。その際には、泌尿器科や泌尿器科専門医を受診して検査を受けましょう。
尿検査
前立腺炎かどうか検査するには、まずは、尿検査を行います。尿に細菌が混じっていないか、または炎症が起こった時に増える白血球やCRPの数を調べます。
急性の場合は、尿検査の結果で診断が確定することも多いですが、慢性の場合は、尿検査でも結果が分からない場合が多いです。
前立腺触診
肛門から指を入れて、前立腺の大きさや硬さ、表面の状態や、刺激することで痛みを伴うかなどを確認します。前立腺が腫れていると、前立腺を圧迫することで、痛みを感じる場合があります。特に急性の場合は強い痛みを感じる可能性があります。
また、尿検査で異常が見られなかった場合は、前立腺マッサージを行い、前立腺分泌液を尿道側に排出して、再度尿検査を行うと、異常が確認できる場合もあります。しかし、慢性前立腺炎の場合では、尿検査でも、前立腺分泌液を排出して確認しても、細菌や白血球の増加が見られることは稀です。
超音波検査
超音波検査(エコー検査)とは、超音波をあてて、返ってき超音波を映像化し、内部の様子を確認できる画像検査方法です。超音波は音の一種ですが、耳で聞こえることは出来ないくらいに、高い周波数を発しています。
強い超音波は、物を壊したり、熱を発する力がありますが、画像検査で使われている超音波の周波数は強くない為、体に害はないと言われています。この超音波検査を用いて、前立腺が腫れていることを確認することが出来ます。
血液検査
血液検査は、血液を採取した血液の成分を確認して病状を調べる方法です。血液の成分に異常がでていないか、特に炎症が起きた時に増加する白血球やCRPの数が増えていないか確認します。
上記の検査方法を用いて、総合的に判断を行い、前立腺炎の診断を行います。
前立腺炎の治療方法
ここでは種類別の治療方法についてご紹介します。
急性前立腺炎の治療法
急性前立腺炎の治療の場合は、細菌が原因になるので、抗生物質の投与が基本的な治療になります。抗生物質は内服もしくは点滴により投与し、安静にする必要があります。細菌の種類にあわせた適切な抗生剤を2週間~4週間ほど投与し続けます。また、高い熱が続いている場合は、解熱剤などを併せて投与する場合もあります。
炎症が強い場合は、敗血症を起すリスクがある為、入院が必要になる場合があります。また、排尿困難な場合は、尿道にカテーテルと呼ばれる管を通して排尿を促します。また、前立腺に膿瘍と呼ばれる膿の袋が見られた場合は、手術で膿を取り出す場合もあります。
抗生物質は、症状がよくなったからといって、途中で止めることは出来ません。途中で止めてしまうと、細菌が全て殺菌されずに、どこかに潜んでしまい慢性化する原因にもなります。細菌が残ってしまうと、風邪などで免疫が低下した際に、再び症状が現れることがあります。
慢性細菌性前立腺炎の治療法
慢性の場合は、急性よりも症状が穏やかで、入院する必要もありません。慢性細菌性前立腺炎の場合も、 細菌感染症が原因の為、抗生剤を中心とした治療になります。フルオロキノロン系の抗生剤や植物製剤抗炎症薬や筋弛緩剤α-アドレナリン遮断薬の投与を4週間~6週間ほど続けます。症状によっては、数ヶ月治療が必要になる場合もあります。
その他に、温熱療法も効果的といわれ、取り入れられる場合があります。温熱療法は、前立腺の血流をよくするために、前立腺を高温で温める治療法です。また、膿を排出するために、1週間に1回ほど、射精、性生活を勧める場合もあります。
抗生物質は、症状がよくなったからといって、途中で止めることは出来ません。医師の指示に従い薬をきちんと飲みきりましょう。
非細菌性前立腺炎
この場合は、症状も様々あり、原因が分からない為、難治性で完治が難しいと言われています。その為、治療は患者が訴える症状を緩和することを目的とした、対症療法が中心になります。まずは、検査で見つからなかった細菌の可能性もあるので、抗菌剤の投与が行われます。前立腺は特に薬の効果が出にくいといわれている為、場合によっては数ヶ月薬を服用しなければいけない場合もあります。
その他には、慢性前立腺炎は、精神的なストレスなどが影響していると考えられている為、規則正しい食生活、適度な運動など健康的な生活を送ることが重要です。また、アルコールの摂取や喫煙は前立腺周辺の血液を滞らせる場合がある為、治癒が遅れる原因になる場合もあります。その為、治療中は禁酒や禁煙を勧められる場合もあります。また場合によっては、精神安定剤や抗うつ剤の投与が行われます。
前立腺が肥大化し排尿障害が起きている場合は、排尿改善薬の投与、骨盤内の血流が溜まっている場合は、漢方などを使用します。その他に、温熱療法を取り入れたり、溜まっている膿を出すのに、週に1回の射精、性生活を勧める場合もあります。症状が強く現れている場合は、経尿道的前立腺切除術という手術を行う場合もあります。
無症候性炎症性前立腺炎
こちらのタイプは自覚症状がなく、発見される事自体稀です。その為、基本的には治療は行われません。
おわりに
前立腺炎は、男性の半数の方が掛かる病気の為、男性にとっては、とても身近な病気の1つと言えます。頻尿や残尿管、尿の切れが悪いなどの排尿障害の他、尿道や下腹部に痛みや違和感、不快感がある場合は、すぐに病院を受診して検査しましょう。
急性の場合、適切な治療を行えば、完治する事ができます。しかし、前立腺炎は、稀に慢性化する場合もあります。慢性化している方の原因のほとんどは精神的なものが影響していると考えられている為、生活習慣の見直すことが一番重要です。
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