人間には、生きていくうえで欠かせない臓器がたくさんあります。その中でも、消化器というのは私たちの毎日の食事と密接に関わっています。口から食べ物が入って、吸収され、または不要なものを排せつする大事な役目が消化器なのです。
ご存知の人も多いと思いますが、口から入った食べ物が胃に入るまでにあるのが「食道」です。食道は、食べ物の通りをよくするはたらきがあるので、この部分が病気になると様々な問題が起こってきます。
そこで、今日は消化器の中から「食道静脈瘤」について一緒に学んでいきたいと思います。
食道静脈瘤とは
食道静脈瘤のお話の前に、軽く食道についてお話をさせて頂きますね。
食道とは
食道とは、ひとことで言うと、口からつながっている胃までの管です。上の図でいうと真ん中のオレンジ色の縦に細長い部分ですね。
食道は、成人の場合25~30 cm前後の長さがあるのです。口から飲み込まれてくる食べ物は、食道に入ると液体状のものだと数秒程度で通過します。固体状のものでも食道に狭窄部などの引っかかるようなことがない場合には、数十秒もあると通過して胃へと送り込む働きをします。
口で食べ物をよく噛んでも、ある程度の形を保ったままで食べ物が通過するので、食道壁が傷つかないように、力学的に強い重層扁平上皮で構成をされています。
また食道の粘膜の下にある層には、たくさんの食道腺という粘膜があり、表面の粘液を分泌することによって食物の通りを良くしてくれるのです。
では、その大事な食道が静脈瘤で覆われると、いったいどうなってしまうのでしょうか?それでは、食道静脈瘤について一緒に考えていきましょう。
食道静脈瘤とは
足に出来る静脈瘤は、よく聞きますが食道には、なぜ静脈瘤が出来てしまうのでしょうか?
食道静脈瘤とは、どんな病気?
肝硬変や慢性肝炎、または門脈(もんみゃく)や肝静脈の狭窄、閉鎖により、門脈の圧力が上昇してしまいます。その結果、食道の粘膜の下にある層の静脈が太くなるので放っておくと破裂の危険が出てくるものです。
その食道の粘膜の下にある静脈が太くなるということは、壁が膨れてしまい血管の中で瘤(こぶ)のようになるということです。肝硬変などを患い、肝臓から出ている門脈という血管の圧力が亢進してしまうことも多い病気です。
分かりやすく言うと、足などに出来る静脈瘤と同じものが、違う理由によって食道の粘膜の下の血管に出来てしまうのです。圧迫されたら、膨れちゃうのは当然なのです。
では、どうして食道静脈瘤が起こってしまうのでしょうか?原因について見ていきましょう。
食道静脈瘤になる原因
まず胃や腸にある血液は、集まって門脈というところに流れ込んでいきます。それが肝臓を通っていき、そのあと心臓へ戻っていきます。腸で吸収した栄養を肝臓で処理をして、人間の身体の中で使えるようにしていきます。
このように胃や腸の血液は、肝臓を通らなければいけないのですが、肝硬変や慢性肝炎になっている状態では血液が通りにくいことになります。
そのために門脈や肝静脈の狭窄(きょうさく:狭くなること)や、閉塞(へいそく:閉じてしまうこと)の場合にも、同じように門脈に血液が停滞するので門脈の圧力が亢進します。そうすると血液が他の通り道から心臓に戻ろうとしてしまいます。
そういう他の通り道のひとつが食道の粘膜の下層の静脈です。その静脈が少しづつ大きくなり食道静脈瘤になるのです。
原因となる肝臓の病気が進行してしまうと血管が破れてしまい出血が起こったりします。大変に怖そうな病気ですが、痛くはないのでしょうか?
食道静脈瘤の症状
食道静脈瘤は、痛みもなく無症状のことが多いようです。ただ、症状をあげるとしたら、原因になる肝硬変の症状(胸のあたりに血管が浮き出る、倦怠感、黄疸など)が出てくる可能性もあります。
なお、静脈瘤が破裂してしまった場合には、吐血やタール状の下血などがおこります。
食道静脈瘤のことについては、だんだんと分かってきましたね。では、ここで大きな原因になる肝臓の病気についても調べてみる必要がありそうなので、次に一緒に見ていきましょう。
肝炎と肝硬変との関係
食道静脈瘤は、原因が肝臓の病気を治療できていないことが多いようですが、実際に肝炎や肝硬変とはどんな病気でしょうか?
肝炎とは
肝臓は、とっても働きものなので、多少のダメージを受けても静かに黙って、がまん強く働きつづけます。そのために病気になっても気づきにくいという怖さがあります。きっと、そこから「沈黙の臓器」と名付けられたのでしょう。
肝炎とは、肝臓に炎症が起こった状態なので、赤く腫れて熱を持ち、触ると痛みを感じることがあります。「肝炎」というだけだとウイルス性肝炎のことを指しますが、肝炎を起こす原因としては他にも薬剤やアルコール、アレルギー、などが知られています。
日本人では、肝炎ウイルスが原因といわれている人が約80%にあたります。
肝炎の症状
食欲不振・倦怠感・吐き気・嘔吐・黄疸(おうだん)などがあります。また、数日前からは褐色尿といわれる烏龍茶のような色の尿が出たりします。やがて、黄疸の進行が進んでいくと、まるでコカコーラのような黒っぽい濃い色へと変化するようです。
肝炎には、大きく分けると急性と慢性があるのですが、特に症状の激しいものが劇症肝炎と言われます。
次に肝硬変についてお伝えいたしますね。
肝硬変とは
肝硬変は、ひとつの疾患として独立した考えをするよりも、いろんな原因によって起きてしまった肝炎が慢性化してしまい治ることなく、長い経過をたどってしまうことから起きてしまうのです。
肝臓は、いろんな原因で、びまん性の肝細胞が壊死していき、炎症と再生を繰り返します。その肝臓の本来の構造と血管系が破壊されるので、再生結節が作られ、肝臓が小さくなり、硬くなってしまう病気です。
そのようなことから肝硬変というのは、肝臓だけの病気ではなく、全身の疾患だという認識が大切になります。沈黙だからこそ、労わりたいものです。
肝炎が、肝硬変に進むと、肝がんになる可能性が高くなってしまいます。肝硬変の症状が進む前に、健康診断を受けてほしいですね。また、肝機能の異常を指摘されたことのある人は、精密検査を受けてみることをお勧めいたします。
では、原因となる肝臓の病気も理解できたところで、本題に戻りますね。では、食道静脈瘤の疑いがある場合の検査やその後の治療について見ていきますね。
詳しくは、肝硬変の余命は?原因や症状、治療方法を紹介!を参考にしてください。
食道静脈瘤の検査と診断および治療
病気は、何でも共通して言えるのですが「思い込みで診断が出来ない」のです。医師というのは、ほんのわずかでも可能性がある場合には、徹底的に調べていくことで「似たような症状の病気」を除外していかなければいけません。
違う病気と間違っては、治療が進まないどころか、本当の隠れている病気に生命を脅かされることもあるのです。辛いでしょうけれど、検査を勧められた場合には、出来るだけ受けていきましょう。もしかしたら逆に「別の疾患が見つかった」という場合もあるのです。では、いったいどんな検査を受ける必要があるのでしょうか?
食道静脈瘤の診断に必要な検査
食道静脈瘤かどうかは、検査をしないと分からないことがあります。そのための診断をする一番はじめには内視鏡検査が必要となります。内視鏡検査では、食道静脈瘤の存在の有無を確認していきます。内視鏡検査は、肉眼的に食道静脈瘤の大きさや形などを確認できるので、主力の検査となっているようです。
もし、食道静脈瘤が存在していることが分かった場合には、どのような形態の静脈瘤があるのかを調べます。そして、どの位置にあるのかという場所の特定をしていきます。
そのうえで、その食道静脈瘤の色調が、白いのか青いのか、出血しているような所見があるかどうかまで詳細に調べていくことが出来るのです。もし、出血していたような形跡があったとしても出血源となった場所が間違いなく、食道静脈瘤からであることを確認してくれます。その時には、胃潰瘍など、別の疾患からではないことも正確に確認することができます。
その他には、病院や医師の考えにもよりますが、超音波検査(エコー検査)や、CT、超音波内視鏡、血液検査なども行われることがあります。実は、他の疾患の検査として、内視鏡を行ったりしますが、肉眼的に食道静脈瘤を確認するなど偶然発見されることも多いのです。
最終的には、食道静脈瘤の出血の具合や、びらんなどを内視鏡で確認し、食道静脈瘤と周りの血管などの様子も観察したうえで治療方針を決定していきます。
では、治療法には、どんな方法があるのでしょうか?次は、治療法をみていきます。
食道静脈瘤の治療方法
治療としては、「食道静脈瘤に対する出血の止血」と「食道静脈瘤自体の消失」の大きく分けて2つになります。治療の最終的な目標は、食道静脈瘤の消失にあります。ですが、病院で診断をされた時の状況によっては、出血に対する治療が重要なために、初めの治療方法が少し変わってきます。
食道静脈瘤に対する出血の止血
こちらの治療は、対症療法になります。その時に出ている強い症状を、落ち着かせることが重要となっていきます。
まず、食道静脈瘤が破裂してしまい吐血している時は、点滴で輸液や輸血を行っていきます。
また、食道静脈瘤の出血が激しい場合は、ゼレグスターケンブレイクモアチューブを挿入することで、バルーン(風船)をふくらませ圧迫止血を行います。この方法は、食道バルーンタンポナーデと言って、バルーン(風船)によって出血部位を圧迫することで止血を図ることが出来るので使われます。
しかし、長期間使用すると食道周辺が圧迫壊死を起こしてしまうので、あくまでも一時的な止血手段なのです。食道静脈瘤からの出血が落ち着いてきたら、他の治療法によって完全に止血させる必要があるものです。
落ち着いてきた場合や、初めから出血がそれほどでもない場合には、緊急内視鏡を行って診断と同時に内視鏡下での治療を行います。
食道静脈瘤自体の消失
こちらの方法は、根治治療として行われます。食道静脈瘤が破裂していない時には、バソプレッシンで門脈の圧力を低下させて止血を図ったりします。
また、硬化薬(オレイン酸エタノールアミンなど)を血管の内外に注射して止血を図ると、90%以上の確率で止血が可能と言われています。
内視鏡的静脈瘤結紮術という難しい言葉の治療ですが、内視鏡下において、Oリングというもので直接、食道静脈瘤を結紮するのです。縛ってしまうと、小さな食道静脈瘤なら取り去ってしまえるのです。しかも痛みはほとんどなく、簡便に行えるというメリットがありますが、再発を起こしやすいというデメリットもあるのです。
食道静脈瘤の予後について
消化器内科としての情報では、かつては初回の出血で約40%が死亡していたのですが、現在では出血自体による死亡は激減しているようです。
むしろ肝炎などの、肝臓の病気の予備軍で心配されるように、今日の肝臓の状態に左右されてしまうようです。
つまり、原因となる肝臓の病気を予防したり、肝臓病をきちんと治療することが先決ということになります。
まとめ
では、今日のまとめです
- 口から入った食べ物が胃に入るまでにある管のようなものが「食道」
- 食道静脈瘤とは、食道の裏にある門脈の圧力が上昇し静脈が破裂することがある病気
- 原因となる肝臓の病気が進行してしまうと血管が破れると出血するので肝臓を治す
- 食道静脈瘤は、痛みもなく無症状のことが多いので内視鏡検査を受ける
- 「食道静脈瘤に対する出血の止血」と「食道静脈瘤自体の消失」の2つの治療がある
当たり前かもしれませんが毎日の生活習慣を変えることが、食道静脈瘤を起こす肝臓の病気を防ぐことに繋がっていきます。疲れたら睡眠をとる、栄養を偏らずに摂る、適度に身体を動かすなど、今すぐに始められることから生命を守っていきましょうね。