逆行性射精という言葉を聞いた事がありますか?この病気は男性特有の病気であるため、聞いた事がある方は少ないかもしれませんね。ですが、この病気によって起こりうる要素は、私たち女性の人生に関係あるのです。その要素とは「妊娠」です。
もし不妊でお悩みであれば、パートナーが病気ではないかを考えてみるといいのではないでしょうか?まずは逆行性射精という病気についてこの記事を通して知ってみましょう!
逆行性射精ってなに?
今回扱う逆行射精とは、その文字の通り射精して出てくるはずの精液が逆流してしまう病気の事をいいます。
では、実際射精が男性の体内でどのように行われていて、機能しているかはご存知でしょうか?中学生の頃に保健体育の勉強でやったかもしれませんが、まずは射精のしくみを思い出してみましょう。
射精の仕組みとは?反射反応編
男性の性器は大きく陰嚢と陰茎にわかれているのは知っていますよね。では、射精は反射的な反応の1つである事を知っていますか?
反射とは、自分の意思とは関係なく無関係に起こってしまう不随意的な反応の事です。膝を叩くと脛が跳ね上がるのも反射的な行動に入ります。射精の反射行動は、交感神経の支配下にあります。射精は主に亀頭部といわれる陰茎の先端部への刺激によって誘発されます。この刺激が一瞬で強い刺激を得るよりも、一定量の刺激が継続的に蓄積する事が必要です。
射精の仕組みとは?男性の生態編
刺激の総量が、あり程度の限界値を超える事により、陰嚢中に含まれる精巣の中にある精管から、精子が膀胱に向かいます。このような経過の後に、男性器を取り巻く筋肉群へ射精指令が脳から発生されます。
一度射精指令が脳の射精中枢から発せられると、射精へ向けて突進していくため、最早自分の意思で射精を止める事が出来なくなります。射精とは、このような過程を踏み、尿道に精液が充満し、膀胱の括約筋が収縮するため圧力が高まることによって尿道口から精液が押し出されます。これが狭義な意味での射精です。
逆行性射精とは綿密にはどんな病気なの?
さて、射精が尿道から放出されるという事は前述でお分かりいただけたかと思います。今回の逆行性射精は、精液が陰茎の尿道口から放出されずに、逆方向の膀胱に流れ込んでしまう射精障害の事をいいます。
これは、通常であれば射精をする時に膀胱の出口に値する、膀胱頸部が閉じ膀胱への逆流を防ぎます。しかし、この逆行性射精は何らかの原因によって膀胱頸部が閉じないため起こってしまう病気です。この逆行性射精状態になってしまってもオルガスム(快楽)を得られる事が特徴として挙げられます。
逆行性射精は2つあるって本当?
実はこの逆行性射精、2種類に分類する事が出来ます。1つ目は射精時に確認される精液量が少ない(減る)「不完全逆行射精」であり、2つ目は完全に精液が放出されない「完全逆行射精」というものです。
どちらも精液がほぼ放出されないという事には変わりなく、性交渉を行っても妊娠の可能性が極めて低くなります。
逆行性射精、一体どんな症状があるの?
この逆行性射精という病気の症状として上がるのは、主に2点のみです。1つめは精液が外に放出されない(=射精)を出来ない事。
2つ目としては、オーガスムを感じた後に排尿をすると、尿に精子が出てくる可能性が高いという事が挙げられます。しかし、この症状は大した問題ではなく、二次被害も発生しません。しかし一点、ある対象のカップル・夫婦には問題が生じます。
ある対象の男女にとっての逆行性射精の問題点は?
さて、この逆行性射精は、実はあまり問題がありません。ですが、問題点を挙げるとするのであれば、「逆行性射精による不妊」が挙げられます。そうつまり、妊娠を望む男女にとっては最優先で治療を行いたい症状となっています。この病気、射精感を感じたとしても精液が女性の子宮内に放出されません。この事は、自然妊娠がほぼ不可能であるという事を意味します。
不妊治療、と聞くと女性側に問題があるように聞こえますが、実際男性の性機能に問題があり、それに対して治療する事も不妊治療として扱われます。
パートナーが逆行性射精でも妊娠するには?
逆行性射精になってしまうと、射精が行われない事から妊娠する確率は極めて低くなってしまいます。膣に射精する事によって受精し、妊娠するのですから当然ですね。
しかし、射精されていないだけであって、元気な精子自体は作られています。ですので、自然妊娠が難しくても、人工授精や体外受精を行う事により、妊娠は可能となります。
射精をしなくて男性は問題ないの?
「男性は長い間射精をしないでいると古い精子のせいで病気になってしまう」このような事を聞いた事はありませんか?もしこれが本当で、大切なパートナーが病気にでもなってしまったら…と考えてしまうかもしれませんね。
ですが、これは事実ではなく、うそです。実は、陰嚢の中にある精巣内では、毎日何万、何十万という精子が精母細胞によってつくられています。そして、古くなった精子は自然に寿命を迎えていきます。つまり精巣内では、精子の新陳代謝が行われています。
この事により、射精を行わなくても男性にとって身体的な害はありません。そのため、射精は必ずしも行わなくてもよく、強制すべき行為ではありません。
射精ってなんのためにするの?
射精を行う必要がないのであれば、しなければよいのではないか?と思う人もいるかもしれませんね。
しかし、射精という行為は交感神経の働きで陰茎が勃起状態となるところからはじまり、副交感神経が優位になることにより射精されます。この際、副交感神経が優位になる事によって、リラックスしたような感覚を男性は覚えます。
つまり射精とは女性を妊娠させる以外には、男性自身がリラックスする作用がある重要なものであると言えます。現代のストレス社会の中では、リラックスする方法が多いにこした事はありません。そのためにも、射精はする方が望ましいのかもしれません。
逆行性射精、一体何が原因なの?
さて、逆行性射精という病気についてはおわかりいただけたのではないでしょうか。では、一体何故この病気が起こってしまうのでしょう。
原因としては、4つが挙げられます。1つめとしては、生活習慣病による交感神経障害。2つ目は脊髄損傷やリンパ節、交感神経に関する手術。3つ目としては薬物障害が挙げられます。最後の4つ目は、前立腺切除手術です。一つずつ、順番にご説明します。
生活習慣病による交感神経障害
男性が生活習慣病に罹る事によって、最も顕著に症状が現れる部位が生殖器官であることはご存じでしょうか。生活習慣病と性機能障害の関係性は、様々な症例で報告されていますが、最も顕著なのが糖尿病です。
糖尿病ってそもそも何?逆行性射精と関係あるの?
糖尿病についてよく知らない方も多いのではないでしょうか。糖尿病とは、普段の生活習慣に基づいて起こる、血糖値が高くなり上手くエネルギーを使えなくなる病気の事です。
糖尿病になると、血糖値が高くなったら血液によって血管が損傷を受けてしまいます。この事により、動脈硬化が起こり血管性のED(勃起障害)が起こりやすくなります。これだけですと、勃起不全以外はないように思われるかもしれませんが、他にも逆行性射精を含んだ、様々な性機能障害が糖尿病によって発症する事が多いです。
以下に具体例として、逆行性射精以外にはどのような病気が起こるかを記載しますので、参考にしてください。
糖尿病によって起こりうる性機能障害
糖尿病によって起こりうる性機能障害としては、大きく分けて4つに分類されます。
- 勃起不全(ED)
- 射精障害
- オーガズム障害
- 性的欲求障害
このような4つに分類され、逆行性射精は射精障害に分類されます。射精障害は逆行性射精のほかにも、早漏症、遅漏症等が挙げられます。
糖尿病男性患者の性機能障害率はどうなの?
実は、糖尿病男性の性機能障害の確率は非常に高いものとなっています。
上にあげた性機能障害の例でご説明すると、勃起不全は糖尿病男性における最も一般的な性機能障害であり、その有病率では85%に至るという研究が報告されています。
今回の逆行性射精の有病率は明らかではありませんが、糖尿病男性の中では珍しくないものであると言われています。
糖尿病男性を逆行性射精であると診断されるには?
糖尿病男性には性機能障害が多いという事、お分かりいただけたでしょうか。では実際糖尿病男性の中では多い、性機能障害の中から逆行性射精であると調べるにはどうしたらよいのでしょうか?
現代医学では、血清(血液中の液体成分)に含まれるホルモン値や、精巣の容積等により判断します。このホルモン値や清掃の容積が正常であるにもかかわらず、射精がない状態を逆行性射精と判断する事が多いです。
脊髄損傷による逆行性射精
脊髄損傷、という言葉を聞いた事があるでしょうか。脊髄とは、脳から背骨の中をとおって伸びている太い神経のようなものです。
人間の身体を動かすための、脳からの指示はこの脊髄から全身に伝わる為、人間にとって非常に大切な部位であると言えます。
脊髄を損傷するとどんな事が起こるのか?
脊髄を損傷することにより、脳からの指示が全身に上手く伝わらなくなります。この事により、運動機能の麻痺・喪失や感覚神経麻痺等が起こります。また、脊髄を損傷する事により、勃起率自体も約60-80%と、低い物になってしまうという統計が確認されています。
もし仮に勃起したとしても、射精をするのは難しいといわれています。射精の際に使われる神経は、脊髄の下部胸髄から上部腰髄からお腹に入り、交感神経幹、禍福神経を通り前立腺、精管、副睾丸、睾丸を支配します。
しかし、脊髄損傷により、下部胸髄と上部腰髄をつかさどる脊髄射精中枢が破壊されてしまい、反射性射精が出来なくなってしまいます。これはつまり、膀胱頸部が麻痺してしまう事により、逆行性射精が起きてしまう事を示します。
脊髄損傷による逆行性射精を診断するには?
脊髄損傷による逆行性射精をどのように判断すればよいのでしょうか。脊髄損傷をしているという事実を前提におき、尿検査を行います。この尿検査の前に、射精を患者に行ってもらいます。本来であれば、射精後の尿には精子が混ざっておらず、通常の数値内に収まります。
しかし、逆行性射精による射精であれば、尿には精子の成分が含まれます。この点で逆行性射精であると判断する場合が多くなります。
薬物障害による逆行性射精
薬物障害という単語を聞いた事はあるでしょうか。薬物障害とは、ある病気を治療する為に投与した治療薬が、副作用として別の病気を引き起こしてしまう事をいいます。
今回は、前立腺肥大症に使用するユリーフというお薬を具体例としてご説明します。
ユリーフによる逆行性射精とは?
本来、ユリーフという薬は前立腺肥大症や早漏症に対しての治療薬として射精障害を持つ男性に処方されています。本来、前立腺肥大症に伴う排尿困難を改善するために、排尿する際に使う尿路平滑筋を固まった状態から弛緩させる薬として処方させています。
しかし、このユリーフの副作用として、精管や性能の収縮を障害する作用がある事が知られています。この副作用により、ユリーフ膀胱頸部という状態になってしまい、逆行性射精に罹患する前立腺肥大症患者数は一定の数が確認されています。しかし、この逆行性射精はユリーフの使用を中止すれば80%は回復するため、健康に害を及ぼす程ではないようです。
前立腺切除による逆行性射精
さて、いよいよ最後の項目になりました。昨今では前立腺ガンや前立腺肥大症等によって前立腺を切除する対処を行う事があります。
通常の射精をする際に、前立腺は膀胱とつながっている方の弁を閉じ、精巣とつながっている方の弁をひらきます。その結果によって尿が出ずに精液が出るという通常の射精が行われます。
しかし、前立腺切除をすると、精液は体外に放出されず、膀胱の方へ逆流します。
逆行性射精はどんな治療をすればいいの?
さて、ここまで逆行性射精について原因やどんな状態であるかをご説明しました。ではこれから、一体どのように治療をすべきかご説明します。
一体何科を受診するべきなのか?
逆行性射精は様々な原因から、起こり得ます。そのため、きちんと正確な診断をしてもらうためには、泌尿器科を受診するべきであるというのが世間一般的な意見となります。
どんな検査をするのか?
逆行性射精は先述のような診断基準があります。基本的には、射精をした後の尿を採取し、その尿で尿検査を行います。
その尿を検査し、精子が含まれていれば逆行性射精であると診断されます。
治療方法はどんなものがあるの?
治療方法は主に二つあります。一つ目は薬物治療、二つ目は精子回収治療法です。それぞれの特徴について、ご説明します。
薬物治療
薬物治療には、主に抗うつ薬が使用されています。具体的な薬剤名を挙げると、アモキサピン(アモキサン®)が使用されている事が多いです近年の研究ではこのアモキサピンが射精障害や逆行性射精に効果的である可能性が報告されています。
本来、このアモキサピンはうつ病、並びにうつ状態に使用され、病院やクリニックで処方される薬剤で、逆行性射精に対して適応はしていません。また、精神疾患に使用される薬である事から、敷居が高く感じる事もあるのではないでしょうか。
しかし、最良なのは患者が問題視している病気が治る為に、適切な治療を行う事です。単科のみの個人病院やクリニックでは処方が難しいかもしれませんが、性機能障害外来を標榜している医療機関では処方してくれる事も多いようです。
精子回収治療
これは正確には治療ではなく、体外受精や人工授精を希望する際に行われる処置の事です。射精した後の尿を回収すると、精子が死んでしまうため、残尿を回収してから電解質を含まないブドウ糖液を膀胱に注入し、射精してもらう事で生きた精子を採取する方法です。
これにより採取された精子はいくつかの判断基準に基づき、何れかの受精方法に使用されます。
まとめ
さて、今回は非常に様々なお話がありましたので、まとめてみましょう。
逆行性射精とは、射精しても外に精液が出てこなく、膀胱に逆流してしまう病気の事です。この事によって起きる症状は、実質的には妊娠を望む事が困難であるという事が挙げられます。また、逆行性射精が起きる原因としては、生活習慣病である糖尿病に罹患すること、脊髄損傷をしてしまうことによる射精中枢神経が機能しなくなる事、そして前立腺切除等が挙げられます。診療科としては、泌尿器科を受診し、射精後の尿で尿検査を受け、主には薬物投与による治療を行う事になります。
もし不妊にお悩みでしたら、この病気を疑ってみるのもいいのではないでしょうか。不妊は女性だけの問題と思われてきましたが、昨今では夫婦の問題として扱われています。是非、妊娠を希望している方が妊娠する事をお祈りして、この記事を終わりにしますね。
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