骨軟化症という疾患をご存知でしょうか?ご存じなくても、疾患名の字面から予想がつくかもしれませんね。
実は、骨軟化症は骨が硬くならないことで、ちょっとした怪我などで骨折などに至ってしまう可能性のある病気なのです。骨が硬くならないのならば、カルシウム不足では?と思った方は非常に鋭いですね。しかし、カルシウム不足の原因にビタミンDが関与していることには、ちょっと不思議な感じがしますよね。
そこで、今回は骨軟化症とその原因に深く関与するビタミンDについて、まとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
骨軟化症とは?
そもそも骨軟化症とは、どのような病気なのでしょうか?
骨軟化症とは?
骨軟化症は、骨や軟骨の石灰化が阻害されて、類骨が増加する病気です。つまり、骨軟化症は、骨の石灰化障害とも言えます。
骨軟化症は、骨が石灰化して骨化しないので、骨の強度が不足して骨が折れたり、体重の負荷が集中する関節や腰背部に障害が現れやすくなります。そして、骨端線閉鎖の完了後、すなわち骨の成長が終了後の病態を骨軟化症と言います。簡単に言ってしまいますと、骨の石灰化障害が成人に発症する場合を骨軟化症と言います。
したがって、骨軟化症が子供に現れる場合は、同様の症状でも骨軟化症とは区別して「くる病」と言います。
くる病とは?
骨軟化症に対して、骨が成長前の子供に類骨が増加する場合を「くる病」と言います。
くる病は、骨や軟骨が成長とともに石灰化する過程で、石灰化が阻害されて類骨が増加する病気で、小児に症状が現れるものを言います。
くる病は、成長とともに骨が健全に骨化していかないので、骨の強度が不足して体重の負荷が集中する関節や腰背部に変形障害が現れやすくなります。
類骨とは?
類骨は、骨組織を構成する要素の一つで、骨の元になる骨芽細胞と既に石灰化して骨化した部分の間にある石灰化していない部分のことです。簡単に言ってしまいますと、骨の未石灰化部分を類骨と言います。
類骨は、骨芽細胞が分泌した特殊な繊維状のたんぱく質で、一般にはコラーゲンと呼ばれる物質です。このコラーゲンに、必須ミネラルと言われるカルシウムやリンなどが沈着することで、骨が石灰化します。このカルシウムやリンは、血液によって供給されます。
骨軟化症の症状
骨軟化症では、どのような症状が現れるのでしょうか?
骨軟化症の初期症状
骨軟化症では、その初期に明確に現れる症状は、ほとんどありません。漠然とした違和感や痛み、ある部位を手で押してみて痛みが現れる圧痛が見られる程度です。
漠然とした痛みや違和感
次のような部位に漠然とした痛みや違和感を感じます。これは類骨が増えることで、徐々に骨が自分の体重を支えることが難しくなり、姿勢を維持するための負担が筋肉や関節に及ぶからです。
- 腰(腰痛)
- 背中(背中痛)
- 股関節(股関節痛)
- 膝関節(膝関節痛)
- 足(足首痛など)
圧痛(手で押してみて現れる痛み)
圧痛は、主に次のような部位で生じます。これは、骨が体表に近いところにあって直接的に骨を刺激できるため、圧痛を感じやすいからです。
- 骨盤
- 大腿骨(ふとももの骨)
- 下腿骨(すねの骨)
骨軟化症の進行後の症状
骨軟化症が進行すると、骨の強度が不足するため、次のような症状が現れます。
- 骨折
- 下半身の筋力低下(下肢や臀部)
- 下半身の筋力低下に伴う歩行障害(あひる歩行)
- 脊椎骨折
- 脊椎骨折による脊柱の変形(脊柱後弯症、脊柱側弯症)
下半身の筋力低下と歩行障害
筋肉は骨と結合していますので、骨が健全に石灰化せずに骨軟化症になると、筋緊張が低下して筋力が低下することがあります。特に、筋力の低下は下半身(下肢や臀部)に顕著に現れます。
そして、下肢や臀部の筋力が低下すると、あひる歩行と呼ばれる歩行障害が起こります。あひる歩行とは、下半身の筋力が低下したために、腰を左右に振るようにしか歩けない状態のことです。
脊椎骨折と脊柱の変形
骨軟化症が進行すると、特に腰背部に負荷がかかります。そのため、脊椎を構成する骨である椎骨の一つ一つが圧力や圧迫を受けるため、脊椎骨折・椎骨骨折が起こりやすくなります。
脊椎骨折が生じると、脊柱後弯症や脊柱側弯症に至る可能性もあります。脊柱後弯症は、背中の上部が自然なカーブを描いているのが通常のところ、その湾曲が通常より大きくなって背中の上部がコブのように見える症状のことです。これに対して、脊柱側弯症は、背骨が正面から見てS字のようになってしまう症状です。
くる病の症状
ちなみに、このような骨軟化症の症状に対して、くる病の症状は子供の成長途中であることを反映して、次のような症状が現れます。
- 成長障害(低身長)
- 下肢の変形(X脚、O脚)
- 胸郭変形、脊柱の変形(脊柱後弯症、脊柱側弯症)
- 筋力の低下、歩行障害(あひる歩行)
骨軟化症の原因
では、このような骨軟化症は、どのような原因で生じるのでしょうか?
骨軟化症の原因
骨軟化症の原因として以前は、単純にビタミンDの欠乏が多く見られました。しかし、現在は食生活が改善されて、単純なビタミンD欠乏による骨軟化症は、ほとんど見られません。
現代に現れる骨軟化症の原因は、ビタミンDの作用不足によるものが多いとされています。
具体的には、次のような形でビタミンDの働きが制限されていると考えられています。
- ビタミンDの吸収不良(ビタミンD欠乏性骨軟化症)
- ビタミンD活性化に必要な酵素の欠損
- ビタミンD受容体の異常(ビタミンD依存性骨軟化症)
- 腎臓や尿細管におけるリンの再吸収障害(ビタミンD抵抗性骨軟化症)
骨軟化症とビタミンDの関係
ビタミンDの摂取は、食事から摂取して胃腸で吸収される場合と、日光を浴びることで体内で合成される場合があります。いずれにしても、ビタミンDは肝臓と腎臓で酵素により活性化されます。この活性化されたビタミンDを、活性型ビタミンDと言います。
そして、活性型ビタミンDは、胃腸などのビタミンD受容体と結合することで、その生理作用を発揮することができます。
活性型ビタミンDと胃腸のビタミンD受容体とが結合すると、活性型ビタミンDが胃腸でのカルシウム吸収を促進して、血中のカルシウム濃度を高めます。血中カルシウム濃度が一定程度に高まると、類骨は血液からカルシウムを取り込みやすくなります。その結果として、類骨が石灰化することになります。
以上の流れが、ビタミンDが骨の石灰化に関与している仕組みです。この仕組みを逆に言えば、ビタミンDが欠けると類骨の石灰化が進まず、骨軟化症が発症するという関係にあると言えるのです。
ビタミンDの吸収不良
ビタミンDの吸収不良などによる活性型ビタミンDの欠乏が原因で骨軟化症になる場合を、ビタミンD欠乏性骨軟化症と言います。
主に、胃腸疾患などで胃切除や腸の切除をした場合に、胃腸の消化液が分泌不足になることで、ビタミンDの吸収不良・吸収障害が起こります。
すると、ビタミンD不足が生じて、活性化ビタミンD不足も生じ、カルシウムの吸収も進まず、血中カルシウム濃度も高まりません。
その結果、類骨の石灰化に必要なカルシウムが供給されませんので、石灰化が滞って類骨が増えるのです。
ビタミンD活性化に必要な酵素の欠損
胃腸などに問題がなくビタミンDを吸収できても、肝臓や腎臓の疾患でビタミンDを活性型ビタミンDに変化させられなければ、活性ビタミンD不足が生じて、カルシウムの吸収が進みません。
すると、血中のカルシウム濃度も高まりませんので、類骨の石灰化に必要なカルシウムが供給されません。したがって、類骨の石灰化が滞ります。
このようにビタミンD活性化に必要な酵素が欠損していることが原因で骨軟化症になる場合もあります。
ビタミンD受容体の異常
肝臓や腎臓で順調に活性型ビタミンDに変化できたとしても、活性型ビタミンDはビタミンD受容体と結合しないと生理作用を発揮できません。
つまり、胃腸などでカルシウム吸収を促進する作用を発揮するには、胃腸に存在するビタミンD受容体と結合する必要があるのです。
ここで、胃腸のビタミンD受容体に異常があると、当然のことながら、活性型ビタミンDはカルシウム吸収促進の作用を発揮できません。
したがって、ビタミンD受容体の異常によっても、骨軟化症になる場合があるのです。そして、この場合をビタミンD依存性骨軟化症と言います。
ちなみに、このビタミンD受容体の異常は、遺伝性・家族性の原因によって発生するとされていますが、詳しい原因は解明されていません。
腎臓の尿細管におけるリンの再吸収障害
最初の項でも説明しましたが、骨の石灰化にはカルシウムに加えてリンも必要です。ですから、リンが不足すると健全な骨の石灰化が進まないのです。このように、リンの不足が原因で骨軟化症が起こる場合を、ビタミンD抵抗性骨軟化症と言います。現在、骨軟化症の原因として、ビタミンD抵抗性骨軟化症が増えているとされています。
ビタミンD抵抗性骨軟化症には、次のようないくつかの要因が存在します。
- 腎疾患、腎障害
- 遺伝的な原因
- 良性腫瘍の発生
腎疾患・腎障害
リンは、食事によって小腸から吸収される他に、腎臓の尿細管によって尿の元になる原尿から再吸収されています。このようにリンは、小腸からの吸収と腎尿細管からの再吸収を両輪として、血管内に取り込まれます。
このうち、腎不全などの腎機能障害で尿細管からのリンの再吸収が機能しなくなると、血管内の血中リン濃度は低下してしまい、骨の石灰化に必要なリンも供給されなくなります。
遺伝的な原因
遺伝的な要因によって、骨の組織で繊維芽細胞増殖因子23(FGF23)を過剰産生する場合があります。このFGF23は、小腸によるリン吸収と尿細管によるリン再吸収を抑制する働きをもつホルモンです。
したがって、遺伝的な要因で血中リン濃度が低下してしまい、骨の石灰化に必要なリンが供給されないのです。
ちなみに、遺伝子がどうようなメカニズムで変異するのかは未だ不明です。
良性腫瘍の発生
また、FGF23は、骨に形成される良性の腫瘍からも放出されることが確認されています。
この良性腫瘍からのFGF23放出のメカニズムも明らかにされていません。
骨軟化症の検査と診断
このような骨軟化症は、どのような検査を経て診断されるのでしょうか?
骨軟化症の検査と診断
骨軟化症の検査は、主に画像検査と血液検査を行います。そして、画像検査と血液検査の結果をもとに診断する場合が多いようです。
画像検査
骨軟化症の画像検査では、X線検査などによる画像を見て判断します。骨軟化症の場合、次のような代表的症状が画像で確認されます。
- 脊椎椎体の骨の萎縮
- 脊椎椎体の魚椎変形
- 骨表面に骨折線(ルーサー帯)が走っている
脊椎の椎体とは?
脊椎の椎体とは、脊椎を構成する椎骨の円柱状の骨部分のことです。椎体の骨の萎縮は、椎骨が圧迫を受けている状態と言えます。
また、魚椎変形は、椎体の中央部がへこんで魚の尾びれの付け根のような状態になっていることを言います。椎骨骨折の一歩手前の状態です。
骨折線(ルーサー帯)とは?
骨表面の骨折線(ルーサー帯)とは、簡単に言いますと、骨に入った小さなひびのことです。何らかの小さな刺激や怪我で、ひびが骨折に進行する可能性があります。
血液検査
血液検査では、ビタミンD・カルシウム・リンの数値を確認します。また、アルカリホスファターゼ(ALP)という酵素の値も同時に測定します。
ALPは、肝臓・腎臓・骨などで形成される酵素で、骨軟化症では基準値を超える値を示すとされています。
具体的には、ビタミンD欠乏性骨軟化症では、カルシウム値やリン値が低く、ALPの値は高くなるとされています。これに対して、ビタミンD抵抗性骨軟化症では、カルシウムは正常値にも関わらず、リンの値は低下して、ALPの値は高くなるとされています。
受診すべき診療科は?
骨軟化症の症状が現れたら、整形外科を受診して医師の診断を仰ぎましょう。
骨軟化症の治療方法
では、骨軟化症と診断された場合、どのような治療がなされるのでしょうか?
骨軟化症の治療方法
骨軟化症の治療法としては、次のようなものが挙げられます。
- 薬物療法(ビタミンD製剤の投与、リン製剤の投与など)
- 日光浴などの生活指導
- 手術療法
薬物療法
ビタミンD抵抗性骨軟化症の場合は、リン製剤の投与と活性型ビタミンD製剤を投与します。ビタミンD抵抗性骨軟化症は、リンの不足が原因ですので、天然型ビタミンDや活性化ビタミンDを摂取しても治らないので注意が必要です。
また、ビタミンD依存性骨軟化症の場合は、活性型ビタミンD製剤の投与を基本として、場合によってはカルシウム製剤を投与し、カルシウム摂取をすることもあります。
さらに、ビタミンD欠乏性骨軟化症の場合は、活性型ビタミンD製剤を投与します。
日光浴などの生活指導
ビタミンD欠乏性骨軟化症の場合は、活性型ビタミンD製剤の投与に頼るだけでなく、日光浴などの生活指導が行われることもあります。
ビタミンDは、日光を浴びることによって体内でも合成されますので、なるべくならば薬剤に頼らないほうがいいですよね。
日光浴の程度ですが、晴れの日に15分程度が目安になるとされています。
手術療法
手術療法は、次のように2つに分類できます。
- 矯正手術
- 腫瘍摘出術
矯正手術
骨の変形が進行してしまい、日常生活に支障をきたす場合には、手術によって骨の矯正を行います。余分な骨を切り出して骨を矯正したり、人工骨と金属で骨を延長したりします。
腫瘍摘出術
ビタミンD抵抗性骨軟化症の場合で、骨に形成された良性腫瘍が原因の場合は、手術によって腫瘍の摘出を行います。腫瘍が原因の場合は、腫瘍を取り除くことで骨軟化症が治ることが多いとされています。
まとめ
いかがでしたか?骨軟化症とその原因に関与するビタミンDについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、骨軟化症の初期症状は、明確な症状が現れるわけではありませんのです、骨軟化症であると気づくのは難しいかもしれません。
しかし、腰痛、背中痛、関節痛が続くようならば、そして家族や親せきに骨軟化症の患者さんがいるようでしたら、骨軟化症について注意をする必要があるでしょう。
というのも、単なる腰痛や関節痛にすぎないかもしれませんが、現在の骨軟化症では、ビタミンD欠乏性よりも、ビタミンD抵抗性の場合が多くなっているからです。
ですから、骨軟化症の症状に思い当たる節がある方は、早めに整形外科を受診しましょう。骨軟化症は、早期に発見すればするほど、治療も楽になりますからね。
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