あなたは、幼少期や成長期の頃に、かかとや膝が痛くなった経験はありませんでしたか?もしくは、今まさに成長期の方は、膝などに痛みはありませんか?さらには、親御さんは、お子さんが特に原因もなく関節が痛いと訴えていませんか?
俗に言われる「成長痛」は、骨端症という疾患が原因なのです。このような骨端症ですが、発症する部位によって疾患名が異なることは、あまり知られていません。
そこで、今回は幼少期や成長期によく見られる疾患である骨端症について、発症部位とその症状や原因、さらには治療方法や予防方法などについて、ご紹介したいと思います。
骨端症とは?
骨端症は、その発症部位によって疾患名が異なります。
そこで、骨端症がどの部位で発症し、どのような症状が現われるのか、その発症メカニズムとともに明らかにしていきたいと思います。
骨端症とは?
骨端症は、人の成長期に多く発生する骨軟骨の変化による障害・疾患を総称するものです。そして、骨端症に属する各疾患は、その疾患を発見した発見者名に由来することが多いのです。
骨端症に属する各疾患とその発症部位は次の通りです。
- シーバー病(セーバー病):足のかかと
- 第一ケーラー病:足の甲
- フライバーグ病(第二ケーラー病):足裏の足指付け根
- オスグッド病:ひざ
- パンナー病:肘
- ペルテス病:股関節
ちなみに、骨端症は一部の場合を除き、基本的に予後に問題となることは少ないとされています。
シーバー病とは?
シーバー病は、踵骨骨端症(しょうこつこったんしょう)とも呼ばれます。
シーバー病は、かかとの軟骨部に負荷がかかることによって、軟骨部が炎症を起こしたり、軟骨部がかかとの骨(踵骨)から剥がれたりする疾患です。
シーバー病では、運動中にかかとの痛みを覚えたり、かかとに体重をかけると痛みが現われます。シーバー病は、10才前後の男児に好発するとされています。
シーバー病の発生メカニズム
シーバー病は、子供に生じることがほとんどです。子供のかかとの後部は、踵骨と踵骨骨端核という骨が軟骨によって結合しています。この踵骨骨端核と軟骨は、成長によって15才前後で踵骨と完全にくっつき骨化(癒合)します。
この癒合前の軟骨成分が多い子供の骨は衝撃に弱いため、踵骨につながるアキレス腱によって引っ張られることで簡単に炎症や軟骨の剥離が生じてしまうのです。
10才前後の男児に好発する理由は、10才前後の男児のかかとが未だ骨化していないところに、とても活発な行動をすることが多いからだと考えられています。
第一ケーラー病とは?
第一ケーラー病は、足の甲の軟骨部に継続的に圧迫がかかることによって、足舟状骨(あししゅうじょうこつ)の軟骨部が一時的に血流障害に陥り虚血性骨壊死となる疾患です。
第一ケーラー病の症状は、特に理由もなく足の甲に痛みが現われるといった症状です。第一ケーラー病は稀な疾患ですが、発症するのは5~7才の男児が多いとされています。
第一ケーラー病の発生メカニズム
第一ケーラー病は、子供に生じることがほとんどです。子供の足の骨は、成長段階にあるため成人の足の骨のように骨と骨がしっかりと接合しておらず、軟骨成分の多い骨で構成されています。ですから、子供の足のレントゲン画像を見ると、軟骨成分が映らないために足の骨がそれぞれ離れているように見えます。
このような子供の足の骨は、成長によって15才前後で骨化します。
この骨化前の軟骨成分が多い子供の骨に継続的な圧迫が加わることで、一時的な血流障害が発生し、骨が栄養不足に陥り虚血性骨壊死となることで痛みを生じるようになります。レントゲン画像では、足舟状骨が本来丸みを帯びた形に成長するところ、扁平に変形して映るという特徴があります。
フライバーグ病とは?
フライバーグ病は、第二ケーラー病とも呼ばれます。フライバーグ病は、足裏の足指付け根に継続的に圧迫がかかることによって、中足骨頭の軟骨部が一時的に血流障害に陥り虚血性骨壊死となる疾患です。
フライバーグ病では、足裏の足指付け根に痛みが現われます。
フライバーグ病は、思春期頃の女性に好発するとされていますが、成人でも発症することがあります。また、フライバーグ病は、第二中足骨頭(足指の人差指)と第三中足骨頭(足指の中指)が好発部位として知られています。
フライバーグ病の発生メカニズム
フライバーグ病が子供に発症する場合
その発生メカニズムは、第一ケーラー病とほぼ同じです。子供の足の骨は、成長段階にあるため成人の足の骨のように骨と骨がしっかりと接合しておらず、軟骨成分の多い骨で構成されています。そして、中足骨頭のほとんどが成長軟骨で構成されています。
この中足骨頭は、足指の付け根にあるため、歩行の際に最も体重がかかる部位でもあります。ここに継続的な圧迫が加わることで、一時的な血流障害が発生し、骨が栄養不足に陥り虚血性骨壊死となることで痛みを生じるようになります。
フライバーグ病が、第二中足骨頭(足指の人差指)と第三中足骨頭(足指の中指)が好発するのは、この部位が最も体重がかかる部位だからです。
フライバーグ病が成人に発症する場合
成人の場合も、基本的な発生メカニズムは同じです。
成人の骨は、軟骨もほとんど骨化して骨と骨の接合部にわずかな軟骨を残すだけとなります。ハイヒールなどで足の付け根に継続的な圧迫が加わると、その軟骨が損傷するだけでなく、中足骨自体にも損傷が拡大していきます。
オスグッド病とは?
オスグッド病は、オスグッド・シュラッター病とも呼ばれます。
オスグッド病は、ひざの軟骨部に負荷がかかることによって、軟骨部が炎症を起こしたり、軟骨部の剥離が生じることで痛みを訴える疾患です。成長期の子供のひざに現われる成長痛は、オスグッド病によるものです。
オスグッド病は、10~15才前後の男子に好発するとされています。
オスグッド病の発生メカニズム
オスグッド病は、成長が加速する中学生前後に生じることがほとんどです。
大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)は、膝蓋骨(ひざの皿)と膝蓋靭帯(ひざの靭帯)を通じて、脛骨粗面(けいこつそめん)に付いています。
脛骨は、脛(すね)を構成する2本の骨(脛骨と腓骨)の太い方です。そして、脛骨粗面とは、脛骨の膝関節に接合する部分の前面部のことです。この脛骨粗面は成長軟骨で構成されていて、18才頃までに骨化します。
この骨化前の軟骨成分が多い脛骨粗面は衝撃に弱いため、運動などで脛骨につながる大腿四頭筋に収縮が起こると、膝蓋靭帯を通じて引っ張られることで簡単に炎症や軟骨の剥離が生じてしまうのです。言い換えると、骨の成長(軟骨の骨化)が筋肉や靭帯の成長に追い付かないために、筋肉や靭帯に引っ張られて軟骨が剥離してしまうのです。
パンナー病とは?
パンナー病は、何らかの原因によって、肘関節の上腕骨小頭の軟骨部が一時的に血流障害に陥り虚血性骨壊死となる疾患です。肘関節の痛みと肘関節の可動域が制限されるという症状が現われます。
パンナー病は非常に稀な疾患ですが、発症するのは10才以下の男児が多いとされています。
パンナー病の発生メカニズム
パンナー病は、子供に生じることがほとんどです。子供の腕の骨(上腕骨)の肘関節と接合する部分は上腕骨小頭と呼ばれます。上腕骨小頭は、軟骨と骨端核で構成され、成長によって軟骨の一部と骨端核は上腕骨と癒合し骨化します。
この骨化前の軟骨成分が多い上腕骨小頭で一時的な血流障害が発生し、骨が栄養不足に陥り虚血性骨壊死となることで痛みを生じるようになります。
血流障害になる原因ははっきりとしていませんが、継続的な圧迫などによるものと推測されています。
ペルテス病とは?
ペルテス病は、何らかの原因によって、股関節の大腿骨頭の軟骨部が一時的に血流障害に陥り虚血性骨壊死となる疾患です。股関節の痛みと股関節の可動域が制限されるという症状が現われます。
ペルテス病が発症するのは4~8才前後の男児が多いとされています。
ペルテス病は、5才未満の発症の場合は予後に問題となることは少ないとされていますが、それ以上の年齢で発症すると大腿骨頭が変形し変形性股関節症に移行する可能性が高くなります。変形性股関節症になると、後遺障害が残る場合もあるので注意が必要です。
ペルテス病の発生メカニズム
ペルテス病は、子供に生じることがほとんどです。子供の太ももの骨(大腿骨)が股関節と接合する部分は大腿骨頭と呼ばれます。大腿骨頭は、軟骨と骨端核で構成され、成長によって軟骨の一部と骨端核は大腿骨と癒合し骨化します。
この骨化前の軟骨成分が多い大腿骨頭で一時的な血流障害が発生し、骨が栄養不足に陥り虚血性骨壊死となることで痛みを生じたり、股関節の可動域が制限されたりします。
血流障害になる原因ははっきりとしていませんが、継続的な圧迫などによるものと推測されています。
骨端症の原因
このような骨端症の原因は、どのようなことなのでしょうか?
骨端症の原因
骨端症の原因は、大きく分けて2つに分類されます。
- 筋肉や腱(靭帯)によって軟骨部が牽引される
- 骨端部に加わる刺激によって、骨端の軟骨部に血流障害が生じる
軟骨部が牽引される
子供の骨の骨端部は、成長途上のために成長軟骨で構成されています。
激しい運動などによって筋肉や腱(靭帯)が引っ張ると、骨端の軟骨部に負荷がかかります。骨端の軟骨部は軟らかいために、継続的な負荷がかかると簡単に炎症や軟骨の剥離が生じます。
シーバー病、オスグッド病の原因が、これにあたります。つまり、シーバー病ではアキレス腱によってかかとの軟骨部が牽引され、オスグッド病では大腿四頭筋によって脛骨粗面の軟骨部が牽引されるのです。
軟骨部の血流障害
子供の骨の骨端部は、成長途上のために成長軟骨で構成されています。
激しい運動だけでなく、日常生活における動きなどで、継続的に骨端の軟骨部が刺激や圧迫を受けることで、骨端の軟骨部に血流障害(血行障害)が生じます。この血流障害が発生すると、成長途上の軟骨部に栄養が届かずに虚血性骨壊死に至ります。
第一ケーラー病、フライバーグ病、パンナー病、ペルテス病の原因がこれにあたります。
骨端症の治療
では、このような骨端症は、どのように治療されるのでしょうか?
運動を控え経過観察
軟骨部が筋肉や腱によって牽引されるシーバー病とオスグッド病では、軟骨部が引っ張られるのを防ぐために、激しい運動を控え安静にすることが必要になります。
また、血流障害が発生する第一ケーラー病・フライバーグ病・パンナー病・ペルテス病でも、血流障害を起こす継続的な刺激は運動によることが多いので、運動を控え安静にすることで血流障害も解消されます。
骨端症は子供の成長途上における疾患で、運動などによる軟骨部への刺激を取り除けば、軟骨部は自然と治癒し通常の成長軌道に戻ります。
したがって、運動を控えて注意深く経過観察していくことが肝要です。
足底板による衝撃緩和
シーバー病ではかかとに対して、フライバーグ病では足指付け根に対して、歩行時に体重がかかることで痛みが現われることがあります。
そこで、体重による圧迫を緩和するために、足底板を靴に入れる治療も行われます。足底板を用いることで、患部に対して過度に刺激が加わらないようにします。そして、経過観察を行います。
また、サッカーのスパイクシューズやハイヒールといった衝撃がダイレクトに足に伝わる靴の使用を避けることも重要です。
装具の使用
オスグッド病やペルテス病では、治療用の装具を着用することもあります。
オスグッド病では、膝関節の上下に治療用装具を装着します。装具装着の目的は、大腿四頭筋による軟骨部の牽引を弱めることにあります。
一方で、ペテルス病は5才以上で発症すると変形性股関節症に移行する可能性があるため、装具の着用は変形性股関節症への移行を予防することが目的となります。つまり、装具を着用することで股関節への圧迫を減らして、大腿骨頭の修復を待ちます。
これらの装具とは異なりますが、フライバーグ病で痛みが強い場合は、ギプスで患部を固定する場合もあり得ます。
骨端症の予防
できることならば、骨端症の発症を回避したいところです。そこで、骨端症の予防法について明らかにしたいと思います。
成長に配慮した練習計画
子供の骨端症は、部活動などでの厳しい練習によって軟骨部に負荷がかかり発症している可能性もあります。
そこで、子供のスポーツや部活動などでは、成長に配慮した練習計画が骨端症の予防につながるでしょう。
筋肉や腱の柔軟性を高める
シーバー病やオスグッド病では、筋肉や腱による牽引で軟骨部に負荷がかかることが発症の原因でした。
そこで、ストレッチをすることによって筋肉や腱の柔軟性を高めれば、軟骨部への負荷も少し軽減できます。
したがって、ストレッチを行い筋肉や腱の柔軟性を高めることも骨端症の予防につながります。
ウォーミングアップとクールダウン
運動前にウォーミングアップすることにより、体温が上昇し、それに伴い筋肉や腱の柔軟性も高まります。
また、運動後は筋肉などに疲労物質が蓄積し、柔軟性を奪います。そこで、クールダウンのための軽い運動をすることにより、血液循環させることで疲労物質の代謝を促します。
このように、ウォーミングアップとクールダウンは、骨端症の予防につながるのです。
痛みがある場合は休養を
子供の成長には、適度な運動が必要です。しかしながら、骨端症と疑われるような痛みがある場合は、無理をせずに休養することが重要です。
まとめ
いかがでしたか?骨端症に属する各疾患についてご理解いただけたでしょうか?
子供の骨の先端には成長軟骨があり、成長とともに軟骨が骨化していくことで骨の強度が増していきます。
しかしながら、骨の成長は筋肉や腱より遅く、その成長スピードのアンバランスさが骨端症を生じる原因になっています。
そこで骨端症の治療をするわけですが、留意すべきことがあります。それは、骨端症の治療には、疾患の特性上どうしても経過観察が必要ですから、医師が他の病気のように目に見える治療行為をしてくれないかもしれません。となると、どうしても不安になってしまいますが、骨端症では運動を控えて経過観察することこそが治療なのです。
今まさに成長期に差し掛かって膝などに痛みがあるという方、あるいは、そのようなお子さんをお持ちの親御さんは、骨端症という疾患を理解した上で整形外科を受診するようにしてくださいね。
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