好中球減少症はどんな病気?症状・原因・治療法を知ろう!診断方法も紹介!

好中球減少症という血液疾患をご存知でしょうか。私たちが生きていくうえで、ガソリンのような役割をしているのが、心臓から送り出され全身に届けられる、血液です。

血液のほとんどは骨髄の中にある造血幹細胞と呼ばれる細胞から生まれ、サイトカインの刺激を受けて、赤血球・白血球・血小板といった血液細胞へと変化してできています。

好中球減少症とは、これらのうち白血球の一つである「好中球」と呼ばれる血液細胞が、何らかの原因で減少してしまう疾患です。

ここでは、好中球減少症の原因や症状、治療法などについてご紹介いたします。

好中球の働きについて

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症状についての詳細を見る前に、まず、減少することでどのような問題が発生しうるのかを知るために、好中球の働きについて見ていきましょう。

細菌から身体を守る

白血球には、「リンパ球」「好酸球」「好塩基球」「単球」「好中球」の5種類の血液細胞が存在し、好中球はそのうちの一つです。そのどれもが、細菌やウイルスから身体を守るための働きをしていることに変わりはありませんが、それぞれ担当する働きが異なります。

好中球は、ウイルスではなく、細菌やカビの一種である真菌に対しての攻撃力が強く、それらに感染すると炎症部分を取り込み、貪食・殺菌する作用を有しています。

また、白血球の中でも最も多い血液成分である好中球は、通常、白血球の約50%~70%を占めると言われています。脾臓や肝臓などにもプールされていることで知られており、その数はなんと80億~300億個とも言われています。

そして、一日に1000億個ほど生産され、骨髄にも未熟な「棹状核球」も蓄えており、病原体が侵入してくると、総動員でそれらを攻撃するというわけです。

しかし、好中球の寿命は非常に短いため、造血幹細胞では常に好中球を生産しなければならないのです。

好中球が減少するリスクは?

前述のとおり、好中球は真菌に対する効力を持っていますので、好中球減少症になるとそれらに感染するリスクが高くなります。

さらに、それだけではなく、場合によっては免疫力低下によって、感染症の抑制ができず、死亡するケースも見られる、非常に危険な状態なのです。

好中球減少症の原因について

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好中球減少症には、数時間から数日のうちに突然発症(好中球の量が減少)する「急性好中球減少症」と、数ヶ月から数年に渡って好中球の減少状態が継続する「慢性好中球減少症」の2通りがあります。

これらの事態を招く原因には、様々なものがあげられますが、大きく分けると、先天性あるいは内因的なものと、骨髄系細胞に異常をもたらす外的な要因によって引き起こる二次性のものがあげられます。

先天性要因

先天的な疾患のために骨髄系細胞、あるいは前駆細胞そのものが欠如してしまうことで好中球減少症が発症するのが、このケースです。好中球減少症を招く疾患として代表的なものを以下にあげます。

<再生不良性貧血>

難病と言われているこの疾患は、血液成分である赤血球、白血球、血小板の全てが常に減少した状態になる疾患です。軽度の場合には白血球にまで影響が出ないこともありますが、重症度が高くなるにつれ、白血球まで減少してしまいます。

また、白血球には5つの血液成分があることを先にご紹介しましたが、再生不良性貧血の場合、これらの成分のうち、主に好中球が減少するため、好中球減少症を引き起こします。

造血幹細胞の損傷によって生じる疾患ですが、遺伝性疾患のほかに、後天的に生じるパターンもあり、原因を特定できないことも多々あるようです。

<周期性好中球減少症>

これは、遺伝的な要因によって21日程度の周期で、規則的に好中球が減少する疾患です。減少する周期になると、単球が増加するという傾向があるのも特徴です。

減少周期になると、それに伴って口内炎や皮膚感染、発熱などを繰り返し発症し、数日で回復すると言われています。そのため、症状が出てきても軽度の感染症などと間違われやすく、診断には、抹消血液検査を継続して行う必要があります。

早い場合には乳児期に発症し、遅い場合には20代~30代以降に発症が認められるケースもあるようです。

<発作性夜間血色素尿症>

これは、造血幹細胞の遺伝子に突然変異が起こることで、赤血球に異常が起こり、赤血球の寿命が極端に縮む(溶血)疾患です。再生不良性貧血からこの病気に移行するケースも見られ、いずれの場合においても、早朝の尿が暗褐色になるという症状が現れるようです。

また、静脈に血栓ができやすくなるのもこの疾患の特徴で、急性の場合においては腎不全を引き起こすケースもあります。

赤血球の溶血だけではなく、同時に白血球も減少する例も多く見られ、その場合には好中球減少症が生じます。

<重症先天性好中球減少症>

これは、抹消血好中球が200/μlを下回り、生まれてからまもなく、口内炎、皮膚感染症、肛門周囲膿瘍、気道感染症などの細菌感染症を繰り返す遺伝性疾患です。

合併症として、敗血症や肺炎などの感染症を合併するケースも見られています。

<シュバッハマン・ダイヤモンド症候群>

常染色体劣性遺伝性疾患として知られているこの病気は、骨格異常、膵外分泌の異常、血球減少が特徴的な症状として現れます。世界でも75,000人中1人に見られる希な難病で、血球減少に伴い、好中球も減少するため、好中球減少症を引き起こします。

また、患者の15%~30%は、白血病などの合併症が見られることもあるようです。

二次性の原因

外的な要因が引き金となって二次的に好中球減少症を発症する場合、以下のような原因が考えられます。

<薬物>

好中球減少症の中で最も多いと言われているのが、薬物によって誘発され、発症するケースです。

  • ベンゼン:医薬や染料、香料の原料となることで知られている毒性の揮発性の液体
  • フェニトイン:てんかんのけいれん発作を抑制する薬
  • クロラムフェニコール:ブドウ連鎖球菌や肺炎球菌、サルモネラ属、チフス菌、百日咳菌などの細菌感染症に用いられる薬
  • サルファ薬:ハンセン氏病やニューモシスチス肺炎、尿路感染症などに用いられる薬

以上のような薬物や、がん治療に使用される薬も、骨髄能力を低下させる副作用が現れることがあり、好中球減少症を引き起こす可能性があると言われています。

また、放射線治療によって骨髄の働きを妨げられた場合にも、好中球を生産することができず、好中球の減少を招く恐れもあるようです。

<葉酸またはビタミンB12欠乏症>

アルコール依存性や著しい偏食などで、葉酸またはビタミンB12欠乏症になると、血液細胞を上手く作り出すことができなくなり、貧血状態になります。

貧血というと、赤血球が少ないというイメージがあるかもしれませんが、これによって起こる貧血は巨赤芽球貧血といい、白血球や血小板も減少します。そのため、好中球減少症を引き起こすと言われています。

<HIV感染症>

HIV感染症になると、ウイルスの毒性によって好中球が正常に生産されなくなることに加え、好中球破壊も同時に亢進するため、好中球減少症が二次的に生じるケースがあります。

また、それらの毒性の治療薬なども原因となることがあるようです。これらの症状は、一般的にHIV感染症が進行期にあるときに見られると言われています。

<がん・骨髄線維症>

白血病やリンパ腫、骨髄腫などになった場合においても、造血幹細胞が正常値よりも少なくなるため、血液細胞が全て減少し、好中球減少症が起こります。また、これらの治療で行う放射線治療などが、発症要因になるケースもあるようです。

さらに、腫瘍の細胞が誘発する骨髄線維症が、症状を悪化させる例も認められています。

<自己免疫性好中球減少症>

これは、慢性の好中球減少症として乳幼児が発症することの多い疾患です。本来、細菌に感染すると、白血球は細菌を貪食・殺菌しようと働きますが、自己免疫性の場合、自分の好中球を攻撃するような抗体ができるのです。

症状の出方も様々で、急性の場合もあれば慢性の場合もあり、一過性で発症するケースも珍しくありません。また、自己免疫性好中球減少症を発症した患者の多くが、基礎疾患として、溶血性貧血などの自己免疫性疾患や、悪性リンパ腫やフェルティ症候群などを患っているとも言われているようです。

<そのほかの感染症>

インフルエンザウイルスなど、ウイルスによる感染症によって、一時的に好中球が減少することがあります。

好中球減少症の症状は?

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好中球減少症は、何らかの感染症にかかるまで無症状のケースが多く、検査を行うまで判明しないことがあります。

重症度が高くなると、明確に異変として現れるようですが、軽度の場合は、症状が出ても、見過ごしてしまうケースもあると言われています。ここでは、重症度に分けて症状をご紹介いたします。

軽度の場合

前述のように、無症状のまま感染症になって気づくことが多いと言われていますが、

  • 発熱
  • 口内炎
  • 口腔内潰瘍
  • 皮膚感染症

などが頻繁に現れて発覚するケースもあるようです。急性の場合においては、口や肛門の周りにびらんと呼ばれる潰瘍が出ることがあります。

発熱性好中球減少症の場合は、緊急の処置が必要です。好中球が100/μl未満の場合は、ほぼ確実に発熱すると言われていますが、好中球数が1000/μl未満になり38℃以上(口腔温)の発熱が1時間以上続いたり、38.3℃に一度でもなると、発熱性と定義されます。この状態は、非常に感染リスクが高いため、速やかな対応を要します。

重症度の高い場合

重症度が高くなるに連れて、上項目であげた症状に加えて以下のような症状が現れてきます。

  • リンパ節の腫れ
  • 肺炎
  • 咽頭炎
  • 敗血症

好中球減少症の診断について

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発熱や口内炎、感染症(まれな感染症も含む)などを頻繁に発症する場合には、好中球減少症の疑いがありますので、「全血球計算」というすべての血球の数を調べる血液検査が行われます。

この検査で好中球の数値を確認して、以下のように重症度を分類し、そのほかの検査も並行して行います。

好中球数値とグレードについて

全血球計算によって明確になった好中球の数値から、患者のグレード(重症度)を診断することができます。これは、Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)が定めている基準をもとに確認します。診断基準は以下の通りです。

  • グレード1:1500/μl~正常下限
  • グレード2:1000~1500/μl
  • グレード3:500~1000/μl
  • グレード4:500/μl未満

グレード1~2の状態であれば、発熱性の場合を除き化学療法を実施することができるようです。

骨髄検査

好中球減少症で最も重要な検査と言われているのが、骨髄検査です。この検査では、好中球減少症が先天性のもなのか、あるいは二次性のものなのかを判断することができます。

骨髄検査は、「骨髄穿刺」と呼ばれる方法で行われるのが一般的で、太い注射針を使用します。腰骨あたりにある腸骨か、胸骨(幼児の場合は脛骨)から採取するため、局所麻酔で骨に穴を開けて骨髄を採取しますが、強い痛みを伴うことで知られています。

血液培養

これは、採血をして血液に菌がいないかどうかを調べるための検査です。血液は本来無菌の状態ですが、好中球減少症になると、血液に菌が入り込んでしまう「菌血症」という状態になり、悪性腫瘍などの基礎疾患がある患者は、基礎疾患による免疫力低下によって敗血症などの症状が見られることがあります。

血液培養には、菌を色素で染色して調べる(グラム染色)塗抹検査と、好気性培養・嫌気性培養などで菌を調べる培養検査の2つがあります。この際、菌が検出されたら、その菌に対しての抗菌薬の効能を調べる「薬剤感受性検査」などを行う必要があります。

好中球減少症の原因菌として検出頻度が高い菌は以下のとおりです。

  • グラム陽性菌:黄色ブドウ球菌、肺炎球菌など
  • グラム陰性菌:緑膿菌、大腸菌など
  • 真菌:アスペルギルス、ムコールなど

そのほかの検査

葉酸やビタミンB12欠乏症の疑いがある場合には、血中の葉酸やビタミンB12の値を調べる必要があります。また、必要に応じて胸部X線検査や尿検査などが行われることもあるようです。

好中球減少症の治療法について

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治療法は、患者の重症度や原因によっても異なります。最も多いと言われている薬物が原因だった場合は、その薬物服用を中止することが優先されます。同時に、抗菌薬やイソジン含嗽などで、感染症を予防するための処置が行われます。

また、インフルエンザウイルス感染などで、一時的に好中球が減少している場合においては、経過観察になるケースが多いようです。この場合、回復後、好中球値も自然に元に戻ると言われています。

また、好中球減少症だと判明した後に、発熱した場合には、何らかの感染症にかかっていることが多く、悪化する恐れがあるため、感染原因が不明な場合でも早急に強力な抗生物質の投与が必要になることもあるようです。

好中球減少症として明確な治療を要する場合には、以下のような方法が用いられます。

初期治療

重症度によって、初期治療で行うべき処置も異なってきます。検査後に、低リスクだと診断された患者で、薬の内服が可能な患者に対しては、抗菌薬での治療が行われます。シプロフロキサシンとクラブラン酸・アモキシシリンなどを経口投与するのが一般的です。

一方、高リスクだと判断された患者に対しては、入院が必要で、セフェピム、メロペネム、タゾバクタムなどの薬を静脈投与した後、血液培養などの検査結果に基づいて抗菌薬を合わせて投与します。

骨髄系細胞増殖因子の投与

好中球数を回復させるため、好中球増殖作用を持つ薬剤を投与する方法です。これには、「顆粒球コロニー刺激因子製剤(G-CSF)」と「顆粒球マクロファージコロニー因子製剤(GM-CSF)の2種類があり、急性骨髄白血病などに用いられる薬として知られており、幅広く使われているようです。

急性の場合は、G-CSFならば5μg/kg、GM-CSFならば250μg/㎡を、1日1回皮下注射します。

慢性の場合は、連日、あるいは隔日でG-CSFを1~10μg/kgを1日1回皮下注射する方法を、症状や重症度に合わせて数ヶ月~数年継続して行うことで効果が出るようです。

抗生物質の投与

発熱を伴わない患者には、肺炎感染などを予防するために抗生物質の投与が行われます。その際に使用されるのは、トリメトプリムとスルファメトキサゾールという薬が混合されたST合剤という薬を使用されることが多いようです。

しかし、この薬には骨髄抑制や口腔カンジダ症などの副作用も見られるため、十分な経過観察が必要です。

コルチステロイドの投与

自己免疫性疾患が原因となって好中球減少症が見られる場合には、副腎皮質ホルモンの一つとして知られているコルチステロイドを投与することで、好中球を回復させることができるようです。

一般的に使用されるのは、プレドニゾンという薬で、0.5~1.0mg/kgを1日1回経口投与します。また、この好中球増加は、先にあげたG-CSFの隔日投与を合わせて行うことで、効果を継続させることができると言われています。

造血幹細胞移植

白血病などによる骨髄不全によって血液生産が正常に行われてない場合においては、造血幹細胞移植が根本治療となります。造血幹細胞移植には、自らの造血幹細胞を移植する「自家移植」とドナーを必要とする「同種移植」の2種類があります。

自家移植の場合は、同種移植に見られる「拒絶」「生着不全」といったリスクはありませんが、自分の細胞なので、そこに異常細胞が紛れ込んでしまう可能性もゼロではない、という別のリスクがあります。

大掛かりな治療になりますが、とくに小児の場合においては、移植手術を受けて回復したという例も報告されているようです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。人間の身体は、どれ一つとして無駄な臓器、細胞は備わっていません。ここでは好中球という白血球についての病気をご紹介しましたが、赤血球や血小板が不足しても様々な問題が生じます。

また、小児が発症した場合、口内炎を何度も繰り返すので、病院に連れて言ったら好中球減少症だと判明した、といったケースも見られるようです。

とくに、この病気は、何らかの感染症になるまで無症状のことが多いですので、小さなお子さんをお持ちの方は、普段からしっかりとスキンシップをとり、身体の変化に気をつけてあげたいものです。

口内炎や発熱を繰り返し発症するという場合には、早めに病院で受診することをおすすめします。

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