肝臓を調べる血液検査で分かることは?数値の見方と判明する病気について!

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれることがあります。大人になって、お酒を飲み始めると、どうしても肝臓の調子が気になるものですよね。

しかしながら、会社や行政の実施する健康診断を受けて血液検査をしても、肝臓機能に関する血液検査の項目の意味が分からないという方が少なくありません。項目の意味が分からなければ、自分の肝臓機能の状態を確認しましょうと言われても、いまいちピンと来ないのが実情ではないでしょうか?

そこで今回は、肝臓機能(肝機能)を調べる血液検査について、その概要と項目の意味などをご紹介したいと思います。

肝臓の基礎知識

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肝機能を調べる血液検査について説明する前に、まずは肝臓についての基礎知識をおさらいしたいと思います。

肝臓の構造と働き

肝臓は、肺と横隔膜の下に、胃と隣合って存在しています。右側の上腹部のほとんどが、肝臓で占められており、人体の内臓では脳と並んで最大級の大きさです。

肝臓は、非常に多くの細胞で構成され、その隅々まで血管と胆管が張り巡らされています。血管には、小腸で吸収した栄養素などを肝臓に運ぶ血管である門脈と、酸素などを供給する通常の動脈(肝動脈)や二酸化炭素や老廃物を運び出す静脈(肝静脈)があります。

また、肝臓の下部には、肝臓で産生された胆汁を貯蔵する胆のうがあり、肝臓の各細胞で作られた胆汁が胆管を通じて集められます。胆汁は、食事の際に十二指腸に排出されて、食事の脂肪成分を吸収しやすいように分解する役割を担います。ちなみに、胆管や胆のうを合わせて、胆道と呼びます。

肝臓は、とても多くの役割を担っていますが、大きくまとめると代謝作用・解毒作用・胆汁の産生という三つに集約されます。

肝臓は「沈黙の臓器」

最初にご紹介したように、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。これは、肝臓が悪くなっても、なかなか症状が現れないからです。

肝臓は、3000億個以上の肝細胞で構成されているとされ、代謝・解毒・胆汁産生など、分かっているだけで500以上の役割を担っているとされています。となると、肝臓の機能が低下すると、人の生命維持に重大な影響が及ぶことになります。

そこで、肝臓には肝機能が少し機能低下しても、生命維持に大きな影響を及ぼさないために、セーフティーネットのような機能が備わっています。その機能が、再生機能と代償機能です。

再生機能は、一部の肝細胞が損傷しても、その肝細胞を再生できる能力のことです。また、代償機能は、一部の肝細胞が損傷・再生中でも、残りの肝細胞がより頑張ることで役割を補う能力のことです。このような再生機能と代償機能があることが、肝臓の機能悪化を表面化させにくくしているのです。

肝臓が悪くなる仕組み

このような肝臓の再生機能と代償機能があると、肝臓は悪くならないのではないかと勘違いしそうになりますが、決してそうではありません。

たとえば肝臓の炎症である肝炎になると、肝細胞の壊死と再生を繰り返すことになります。

当初は再生していた肝細胞も、肝炎が慢性化していくと次第に肝細胞の再生が困難となります。肝細胞が再生せず壊死して線維化し、一部に肝機能障害が現れる状態が肝硬変です。肝硬変が肝臓の大部分に広がると、ほとんど肝臓が機能しない肝不全という症状になります。

肝臓を調べる血液検査とは?

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それでは、肝臓を調べる血液検査とは、どのような検査方法なのでしょうか?その血液検査の方法や、検査によって判明することなどをご紹介します。

肝臓を調べる血液検査とは?

前述したように、肝臓は「沈黙の臓器」で、症状が現れにくいのが特徴です。このような肝臓の異常を、迅速に発見するのに効果を発揮するのが、血液分析による肝機能検査なのです。

血液による肝機能検査では、注射針を通じて採取された血液を遠心分離機にかけることで、細胞成分(赤血球・白血球・血小板など)と液体成分(血清)に分離させます。

分離された血清には、ブドウ糖・タンパク質・脂質などの他に、生命活動を営むために必要な様々な酵素なども含まれています。このような血清を分析することで、肝臓の異常や損傷の程度などを把握しようというのが、血液による肝機能検査なのです。

血液検査で判明する主な項目

汎用性が高い血液による肝機能検査では、主に次のような項目が数値として現されます。

  • AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、GOTとも呼ばれます。)
  • ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ、GPTとも呼ばれます。)
  • γ-GTP(ガンマ-グルタミントランスペプチターゼ)
  • ALP(アルカリフォスファターゼ)
  • 総ビリルビン
  • A/G比(アルブミン・グロブリン比)
  • LDH(乳酸脱水素酵素)

血液検査の項目の意味

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それでは、血液分析による肝機能検査における主な項目の意味について明らかにするとともに、その項目の基準値や正常とされる範囲をご紹介したいと思います。

ASTとALT

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、いずれも肝細胞の中に存在する酵素のことです。ASTとALTは、いずれも食事から摂取した栄養素を、アミノ酸に変換する役割を果たしています。

アミノ酸は、いわばタンパク質の元となる成分ですので、筋肉・毛髪・肌など身体の各組織には必要不可欠な存在です。

肝臓が正常であれば、ASTとALTは肝細胞の中で栄養素を代謝していますが、肝細胞が損傷すると酵素であるASTとALTが血液中に流出してしまいます。

ですから、血液中のAST値(GOT値)やALT値(GPT値)が高値になると、肝機能障害が疑われることになるのです。

ASTとALTの基準値

血液中に流出しているASTとALTの基準値は、一般的に30IU/Lとされています。よって、AST値・ALT値が30IU/L以下であれば、正常値として問題ないとされています。

しかしながら、基準値を上回る場合は注意が必要です。50IU/Lを上回ると脂肪肝などの肝機能障害が発生している可能性が高くなり、100IU/Lを超えるとウイルス肝炎や肝硬変の疑いが高まります。

ただし、ASTは心臓や骨格筋など他の臓器や筋肉の細胞にも存在するため、AST値だけが高値を示す場合は、肝臓以外の臓器や筋肉に異常が生じている可能性が考えられます。

γ-GTP

γ-GTP(ガンマ-グルタミントランスペプチターゼ)は、肝臓や腎臓で生み出される酵素のことで、通常は肝細胞・胆管細胞・腎臓の中に存在します。γ-GTPは、主にタンパク質の分解酵素としての役割を担い、肝臓の解毒作用に関与します。

そのため、大量に飲酒するとアルコールの解毒のために、γ-GTPも大量に生み出されます。そして、γ-GTPが増えすぎると、肝細胞から血液中に漏れ出してしまいます。一時的に深酒をした後や、継続的な飲酒が原因で肝臓に負荷がかかっている場合などに、γ-GTPの数値が高くなります。

また、同様に病気の治療などで長期的に薬剤を服用している場合も、薬剤の解毒のためにγ-GTPが増えることがあります。

ですから、血液中のγ-GTP値が高くなると、肝機能の低下が疑われることになるのです。

γ-GTPの基準値

血液中のγ-GTPの基準値は、一般的に50IU/Lとされています。よって、γ-GTP値が50IU/L以下であれば、正常値として問題のない状態です。

しかしながら、基準値を上回る場合は注意が必要です。100IU/Lを超えるとアルコール性脂肪肝、200IU/Lを超えるとアルコール性肝炎・アルコール性肝硬変などの発症の危険性があります。薬を長期服用中であれば、薬剤性肝炎の可能性もあります。

ALP

ALP(アルカリフォスファターゼ)は、肝臓だけでなく、骨・小腸・胎盤など体内の様々な細胞でも生み出される酵素のことで、肝臓では胆管細胞に多く存在します。ALPは、リン酸化合物の分解酵素としての役割を担います。ちなみに、リン酸化合物は、乳製品やレバーなどに多く含まれます。

胆管細胞のALPは、胆汁に排出され胆汁の成分として働きます。しかしながら、肝臓や胆道系の疾患で胆のうから十二指腸に至る胆汁の流れる経路に異常が生じると、胆汁の流れが悪くなり滞るので、胆汁が行き場を失い血液中に漏れ出してしまいます。

したがって、このように胆道狭窄や胆道閉塞の状態になると、胆汁が血液中に漏れ出し、血液中のALP値が高くなるのです。

ALPの基準値

血液中のALPの基準値は、一般的に概ね80IU/L~260IU/Lが正常値とされます。そして、300IU/Lを越えてくると異常値となってきます。

ALP値が高い場合は、ALPアイソザイム(ALPの分子構造)を測定します。ALPアイソザイムは6種類に分類され、それぞれに対応する臓器と疑われる病気があります。

  • ALP1…肝性ALP:閉塞性黄疸、限局性肝障害
  • ALP2…肝性ALP:肝疾患、胆道系疾患
  • ALP3…骨性ALP:骨の疾患、副甲状腺機能亢進症
  • ALP4…胎盤性ALP:がん(悪性腫瘍)、妊娠後期
  • ALP5…小腸性ALP:肝硬変、慢性肝炎、慢性腎不全
  • ALP6…免疫グロブリン結合ALP:潰瘍性大腸炎

総ビリルビン

ビリルビンは、赤血球が約120日の寿命を終えて破壊されるときに生じる黄色の色素のことです。

赤血球の寿命の際に、赤血球の中のヘモグロビンが酵素の働きで分解されて、間接型ビリルビンに変化します。そして、間接型ビリルビンは、血液を通じて肝臓に運ばれ、再度酵素の働きで直接型ビリルビンに変化します。

直接型ビリルビンは、肝臓から胆管の胆汁に排出され、胆汁が黄色くなる要因になります。胆汁は、食事の際に十二指腸に分泌されるので、ビリルビンが便の色の元になるのです。

この間接型ビリルビンと直接型ビリルビンを合わせたものが、総ビリルビンとされます。

そして、ALPの場合と同様に、肝臓疾患や胆道系疾患により胆汁の流れが悪くなると、胆汁が行き場を失い血液中に漏れ出すことで、血液中の総ビリルビン値も上昇するのです。

総ビリルビンの基準値

血液中の総ビリルビンの基準値は、一般的に概ね0.2~1.0㎎/㎗が正常値とされます。そして、1.5㎎/㎗を越えてくると異常値となってきます。2.0㎎/㎗以上になると、全身の皮膚や眼球などが黄色くなってしまう黄疸の症状が現れます。

総ビリルビン量が高い場合は、急性肝炎・肝硬変などの肝臓疾患や胆石・胆嚢炎などの胆道系疾患の疑いがあります。

A/G比

A/G比(アルブミン・グロブリン比)は、血清中に含まれるアルブミンとグロブリンの比率のことです。血清には、多くのタンパク質が含まれていますが、その主要なものがアルブミンとグロブリンです。

正常な人のA/G比は、アルブミンが約67%に対して、グロブリンが約33%とされていますので2.0程度が目安になります。アルブミンは肝臓のみで作られるのに対して、グロブリンは肝臓の他にもリンパ節・・腸管・骨髄などでも作られるため、肝機能障害が生じるとA/G比が低下します。

ですから、A/G比の変化によって、肝機能障害が示唆されることになるのです。

A/G比の正常値

A/G比は、概ね1.0~2.0が正常値とされます。ちなみに、A/G比によって、具体的な疾患を特定や絞り込むことは難しく、あくまでも肝機能障害が示唆されるにとどまります。

LDH

LDHは乳酸脱水素酵素のことで、体内のブドウ糖がエネルギーとして利用されるときに働く酵素です。全身のほとんどの細胞に含まれ、細胞が損傷すると血液中に流出して高い値を示します。

LDHの基準値

LDHの基準値は、原則として概ね180~370IU/Lとされています。しかしながら、LDHは全身の細胞に含まれるため、LDHが異常値を示しても、どの臓器の疾患か特定することはできません。また、運動後や妊娠後期に高い値を示します。

肝臓疾患と血液検査の関係

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それでは、主な肝臓疾患と血液検査の数値の傾向を、ご紹介したいと思います。

ただし、血液検査以外の検診結果や医師の問診、患者の症状などから、最終的には医師が病気の診断を行いますので、あくまでも傾向であることに留意をして下さい。

肝炎

肝炎は、何らかの原因によって肝臓に炎症が生じる病気です。肝炎は、症状の現れ方によって、急性肝炎・慢性肝炎・劇症肝炎に分類することができます。

また、肝炎は原因によって、ウイルス性肝炎(A型肝炎・B型肝炎・C型肝炎)・薬剤性肝炎・アルコール性肝炎・自己免疫性肝炎・非アルコール性脂肪性肝炎に分類されます。

急性肝炎

急性肝炎は、一過性の肝炎で、多くは数ヶ月程度で治癒します。ウイルス性肝炎・薬剤性肝炎・自己免疫性肝炎などで、急性肝炎の症状が現れることがあります。

急性肝炎では、比較的早い段階でAST値とALT値が高くなり、黄疸が現れる場合には500IU/Lを超えることもあります。

慢性肝炎

慢性肝炎は、半年以上続く肝炎のことです。A型肝炎を除くウイルス性肝炎・薬剤性肝炎・自己免疫性肝炎・アルコール性肝炎・非アルコール性脂肪性肝炎などで、慢性肝炎の症状が現れることがあります。

慢性肝炎には、治癒しにくく肝硬変に悪化しやすい活動型と比較的治癒しやすい非活動型に分けられます。非活動型の場合、AST値とALT値は50~60IU/L程度の軽度の上昇ですが、活動型の場合は100IU/Lを越えてことがあります。

劇症肝炎

急性肝炎患者のうち約1%程度に、劇症肝炎が現れます。初期症状は急性肝炎と同じですが、約8週間のうちに症状が悪化し、高度な肝機能障害と肝性昏睡が生じます。A型肝炎・B型肝炎・薬剤性肝炎・自己免疫性肝炎などで、劇症肝炎に移行する可能性があるとされています。

劇症肝炎では、AST値とALT値が1000IU/Lを越える上昇を示します。詳しくは、劇症肝炎とは?治療方法や原因、症状を理解しよう!を読んでおきましょう。

脂肪肝

肝臓は、脂肪酸から中性脂肪を作りだし、肝細胞の中に貯蔵します。そして、運動などでエネルギーが必要になると脂肪を分解してエネルギー源として利用します。運動などでエネルギーを消費しない場合、中性脂肪が蓄積していくと脂肪肝になります。いわゆる内臓脂肪がつくという状態です。

脂肪肝は、飲酒が原因のアルコール性脂肪肝と、肥満や糖尿病などの生活習慣病が原因の非アルコール性脂肪肝に分類されます。

脂肪肝には自覚症状がほとんど無いのが特徴で、脂肪肝が悪化すると、脂肪性肝炎(アルコール性脂肪肝炎・非アルコール性脂肪肝炎)となり、さらに肝硬変へと進行していきます。

脂肪肝では、AST値とALT値が50~100IU/L程度に上昇する傾向があり、γ-GTPも高くなります。詳しくは、脂肪肝の治療方法とは?原因や症状についても知ろう!を参考にしてください。

肝硬変や肝癌(肝細胞癌)

肝硬変は、肝炎が慢性化して肝細胞が再生できなくなり壊死して線維化した状態です。原因の多くは、肝炎ウイルスに感染することで発症する特にB型肝炎やC型肝炎の慢性化です。肝硬変では、AST値とALT値、γ-GTP値、ALP値などに異常値が現れますが、その他に画像検査(CT検査・超音波検査など)や針を刺して肝臓組織の一部を採取する肝生検などを行わないと、確定診断は下せません。

肝癌(肝細胞癌)は、肝炎や肝硬変を経て肝癌に至るケースと、B型肝炎から細胞が突然変異して肝癌になるケースがあります。肝癌も、肝硬変と同様に血液検査で異常値を示しますが、腫瘍マーカー検査や画像検査などを行わないと確定診断は下せません。

まとめ

いかがでしかた?肝臓機能を調べる血液検査について、その概要や主要項目の意味をご理解いただけたでしょうか?

血液検査による肝機能検査は、患者の負担も少なく汎用性が高いので、健康診断などで必ず実施されます。せっかくの検査ですから、本記事をきっかけにして、血液検査の主要項目の意味について理解を深め、ご自身の健康を振り返ると良いかもしれません。

というのも、肝臓は「沈黙の臓器」ですので、お酒を飲んでいる人や運動をしない人の肝臓では、脂肪肝が今まさに形成されている途中かもしれませんから。

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