肝臓は体の健康を守るためにとても大切な役割を果たしています。しかし、劇症肝炎になると、肝臓が正常に機能せず、有害物質が蓄積されてしまったり、必要な働きを果たせなくなり、身体に深刻な影響を及ぼします。
では、劇症肝炎とはどのような病気なのか、もしもかかってしまったらどのように対処すればよいのか、詳しくお話しましょう。
劇症肝炎とは?
劇症肝炎の前段階に、急性肝炎というものがあります。急性肝炎になると、肝細胞が破壊されることにより、肝機能は著しく低下します。ほとんどの場合は回復し、肝臓は元通り、正常に働くようになります。
しかしこの中に、極めて少数ではありますが、肝炎が劇的に悪化してしまう症例があるのです。これを「劇症肝炎」と言い、死亡率が肝臓病の中では非常に高いのが特徴です。どれほど高いのかと言うと、実に死亡率は70~80%と言われています。つまり、10人発症したら、その内の2~3人しか助からないということです。
こう考えるととても恐ろしい病気ですが、日本における劇症肝炎の患者数は年間2,000人ほどですから、それほど多くはありません。急性肝炎から劇症肝炎になる人の割合も1%ほどです。
肝臓は、身体に必要な物質を合成したり、身体に有害な物質を解毒、排泄したりすることによって体を守っています。劇症肝炎になると、これらの働きを担っている肝細胞が急激かつ大量に壊れることにより、機能が著しく低下してしまいます。そのために、本来生成されるはずの凝固因子が不足する事態になるのです。
凝結因子とい言うのは、血液を固めるために必要なタンパク質を指します。このほか、本来ならば体外へ排出されるはずの有害物質もきちんと排出されずに体内に溜まっていくため、肝性脳症と言う意識障害を引き起こすのです。
肝性脳症とは
肝性脳症には、軽度から中等度の意識障害がありますが、その程度は都度変化しています。程度が変化する際には強い不安感が現れたり、錯覚や幻覚を伴い、しばしば異常行動や言動をすることがあるのです。
特にせん妄があると、注意力や集中力が低下して混乱状態になるため、日にちが分からないなどわ認知症のような症状が現れるため誤解されやすいのが厄介ですね。ただし、認知症と比べて突然発症するのが特徴です。
せん妄とは、身体疾患(急性の脳障害など)を原因として引き起こされる軽い意識障害を指します。意識がぼんやりとしている中で活動することで、錯覚や幻覚、妄想や興奮状態になるため、通常では考えられないような行動や言動をすることがあります。日にちが分からなくなったり、非常に失礼な言動をしたり、お金をばらまくなどの異常行動が見られるのが特徴です。
症状自体は認知症と似ているため混同されやすいですが、本質的にはまったく違います。せん妄は身体疾患を原因としているため、発症時期を特定できるのに対し、認知症は明確な発症時期が分かりません。家族を含め、本人さえもいつから発症したのか分からないのが認知症なのです。また、せん妄の症状は1日の中で変化しやすく、症状がころころ変わります。認知症は症状は一定で、時間経過に沿って徐々に進行していくので、この点でも異なっていますね。
さらに、せん妄は原因となる疾患が改善すれば回復し、元通りになりますが、認知症は改善が難しく、元通りになることはほとんどありません。入院してからせん妄を発症すると、入院生活によって認知症になったと誤解されるかもしれませんが、きっちりと分けて考えることが大切です。
診断方法
劇症肝炎の診断ポイントとしては、主に以下の2つがあります。
- 発熱や風邪のような症状、倦怠感、食欲不振などと言った肝炎様の症状が現れてから、肝性脳症が現れるまでの間が8週(56日)以内であること
- プロトロンビン時間が40%以下であること
プロトロンビン時間とは
プロトロンビン時間(PT)とは、血液を固めるためのタンパク質(血液凝固因子)に関する検査です。血液凝固因子のほとんどは肝臓で作られているため、血液凝固因子の働きを調べることにより、肝機能の低下などを発見することができます。
血漿にトロンボプラスチンを加え、固まるまでの時間を測ることで、プロトロンビン時間(PT)が分かります。また、40%と言うのはプロトロンビン活性のことで、血液凝固因子がどのくらい働いているかを示しています。以下の正常値と比較すると、40%と言うのがどれほど低いかわかりますね。つまり、血液凝固因子の働きがそれだけ鈍っているということです。
【プロトロンビン時間とプロトロンビン活性の正常値】
正常値としては、以下の数値が基準となります。プロトロンピン時間が長くなればなるほど、凝固するまでに時間がかかるということですね。
- プロトロンビン時間(PT):凝固時間10~13秒
- プロトビン活性:80~120%
さらに、この劇症肝炎には急性型と亜急性型の2タイプがあります。急性とは、10日以内に現れるものを指し、亜急性は11〜56日以内に現れるものを指します。
この両者の違いは、そのまま生死の違いにつながります。命が助かる確率は急性型では50%、亜急性型でな20%と、大きな差がありますね。また、原因によっても生存率は変わってきます。
劇症肝炎は、薬物療法の副作用によっても起こりますが、大部分はは肝炎ウイルスによるものです。具体的な数値として分かっているのは、急性B型肝炎の約1%弱の割合で劇症肝炎が発生していることです。急性A型肝炎でも発症例はありますが、頻度は非常に低く、0.1%ほどだと言われています。さらに、かつては劇症化する頻度が高いと言われていたC型肝炎も現在では症例がないため、劇症化することはないと考えられています。
劇症肝炎は、急激に症状が悪化する急性型は少なく、通常の急性肝炎を経て少しずつ重症化していく亜急性型が多い傾向にあるようです。ただし、同じように急性肝炎を起こしても、人によっては回復し、人によっては劇症肝炎になってしまうため、原因は完全には解明されていないのが実情です。
劇症肝炎の原因
劇症肝炎の原因は、主にウイルスと薬物(アレルギー)です。中でも、ウイルス性のものは全体の45%にあたり、急性型では63%、亜急性型では30%を占めています。
ウィルス性のものでは、肝炎ウイルス(A型E型)がほとんどですが、日本ではB型肝炎ウイルスが多くを占めており、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
ウイルス性以外のものでは、薬物性が15%、自己免疫性が10%、原因不明のものが29%となっています。
劇症肝炎の症状
特徴なものとしては肝性脳症という意識障害がありますが、初期症状は急性肝炎と違いはありません。発熱や風邪のような症状、倦怠感や食欲不振のほか、吐き気や嘔吐などが見られます。その後、尿の色が濃くなって黄疸(おうだん)に気づく場合が多いようです。
肝性脳症が現れるまでの日数は様々で、急性と亜急性がありますが、2〜3日で出現するものは超急性型と呼ばれます。
また、亜急性型は症状が出ないことが多く、黄疸や腹水が徐々に見られるようになり、突然意識障害が現れることあるので厄介です。
肝性脳症の程度については、 昏睡度分類によって判断します。昏睡度Ⅱになると誰でも判断がつきますが、昏睡度Ⅰの場合には判断が非常に難しくなります。
昏睡度分類一覧
昏睡度Ⅰ
- 睡眠と覚醒リズムが逆転する。
- 多幸気分や抑うつ状態が現れる。
昏睡度Ⅱ
- 時間や場所を勘違いする。
- お金をまいたり、必要なものをゴミ箱に捨てたりするなどの異常行動が見られる
- 失礼な行動を取ることがあるものの、医師の指示には従う態度を見せ、興奮状態や失禁はない。
昏睡度Ⅲ
- 興奮状態やせん妄がしばしば見ら、反抗的な態度を取る
- 外的刺激を与えると覚醒するが、ほとんど眠っている。医師の指示に従わないが、簡単な指示なら従うことができる。
昏睡度Ⅳ
- 痛み刺激には反応(払い除けたり顔をしかめたり)するものの、完全に意識消失状態になる。
昏睡度Ⅴ
- 痛み刺激を与えても全く反応を示さない。
劇症肝炎の治療法
劇症肝炎の治療は、主に以下の3つに分けられます。
内科的集学的治療
厳重なモニタリングを必要とするため、集中治療室において行われます。
人口肝補助システム
具体的には、血漿交換療法や持続的血液ろ過透析を行っていきます。しかし、必ずしも肝機能をに有効に働くとは限りませんので、治療効果に限界があることを理解しておきましょう。
肝移植
肝移植の適応については、厚生労働省「難治性肝疾患治療」研究班のガイドライン等を基準に判断されます。生存率は、肝移植をしなかった患者さんが30%なのに対し、肝移植を行った患者さんでは60~80%ですから、非常に高い救命効果があると言えます。
このほか、原因となるウイルスが分かっている場合には、抗ウイルス療法が行われることもあります。
まとめ
このように、劇症肝炎になると身体にかかる負担だけでなく、命の危険にまでさらされることになります。放っておけばそれだけ重篤になり、助かる可能性も低くなってしまいます…。だからこそ、早期発見、早期発見が非常に大切になってくるのですね。
初期は風邪のような症状ですから見逃してしまうこともあるかもしれませんが、少しでも体に異変を感じたら、早目に医療機関を受診しましょう。