円錐角膜(えんすいかくまく)という病気を知っていますか?あまり聞きなれない病気かもしれませんが、思春期の頃に発症しやすい進行性の眼病です。あなた自身、もしくはお子さんが、学校で受けた視力検査で近視もしくは乱視かもしれないと指摘された場合、もしかしたらそれは円錐角膜が原因で起こっているかもしれません。
この病気は、重症になると角膜移植が必要になりますが、早期発見すればコンタクトレンズで病気の進行を抑制することが可能です。この円錐角膜がどんな病気なのか事前に知識をつける事で、早期発見に繋げましょう。
円錐角膜について
円錐角膜(えんすいかくまく)は字からも想像できるように、目の角膜に起こる病気です。角膜にどんな異常がでるのか、また角膜の役割を知ることで、どんな症状が現れるか知ることが出来ます。他にも、ここではこの病気が起こる原因についてもご紹介します。
円錐角膜とは?
目の黒目の部分には角膜と呼ばれる透明の膜が存在します。円錐角膜は、この角膜が薄くなり、薄くなった部分が眼圧に耐えられず、中心部が円錐形に突出する進行性の眼疾患です。症状が現れる年齢は様々ありますが、主に思春期に発症しやすく、30歳を過ぎると症状の進行が止まる傾向にあると言われています。
40代頃になってから発症する人もおり、老眼治療として眼科を受診した事をきっかけに、発見されるケースもあります。症状が現れる年齢が早ければ早いほど進行しやすいです。多くの場合両眼性で、形は左右非対称です。発症する確率は1000~2000人に1人だと言われています。女性よりも男性の方がかかりやすく、男女の患者比率は3対1です。
症状は近視や不正乱視がみられ、視力が低下します。このような症状は一般的な症状なので、眼科専門医で診断してもらう以外、病気を特定するのが大変難しいです。症状の進行が進むとメガネやコンタクトレンズを用いても、視力矯正をすることが難しくなります。
学校で定期的に行う、視力検査時に視力の低下が見られた場合、必ず眼科を受診して視力低下の原因を調べるようにしましょう。
角膜の役割とは?
角膜は目の黒目部分で、0.5mm程度の薄い膜です。透明でキレイな組織であるが故に、汚したり、濁するなど障害も多い場所です。
角膜の役割は、光を目の中に入れることです。人が物を見るときには、角膜から光を取り込み屈折させ、水晶体で再度屈折を行い、網膜上に焦点を結び、映像が視神経を通って大脳で画像化されることで、初めて物を見る事ができます。
その為、角膜に異常が起こると物の情報が正常に入ってこない為、ぼやけて見えたり、物が見えずらいといった症状を起こします。
原因
円錐角膜の原因は、残念ながらハッキリとは分かっていません。しかし、遺伝的な要因がある事は間違いないと言われています。隔世遺伝と呼ばれる祖先にあった遺伝形態が、何世代か後に現れる場合もあります。
現時点で原因と言われているものは、遺伝性、アトピー、関節弛緩症、僧帽弁逸脱症候群、ダウン症候群、コンタクトレンズ装用などです。
円錐角膜の症状が現れる時期は、思春期が多く、特にアトピー性皮膚炎などのアレルギーと合併して現れることが多いです。アレルギーで目がかゆくなり、目をこする動作が円錐角膜を進行させる原因となっているのではないかと考えられています。
現時点では、角膜の突出は遺伝的要因にあわせてアレルギーやコンタクトレンズなどの環境的な要因が加わることで発症すると考えられています。
主な症状と検査方法について
この病気が発症すると、近視や乱視のような症状が現れます。一般の近視や乱視だと思って、適切な治療を行わないと、症状は徐々に進行していき、メガネやコンタクトレンズでは視力矯正が難しくなってきます。
ここでは、段階別にみる症状の現れ方や検査方法について詳しくご紹介します。
主な症状とは
角膜が突出すると、視力に影響が現れます。主な症状は物が何重にも見えたり、歪んで見えるようになります。
進行するにつれて、症状が強くなり、視力矯正が困難になっていきます。ここでは、初期症状から後期症状にわけてご紹介します。
初期症状
初期症状では、「物がぼやけるな」と思ったり、明るい場所でまぶしさを感じるなどの症状が起こります。視力の低下を自分で感じるようになり、特に夜に低下する傾向にあります。
この初期状態の場合、乱視や近視と断診される可能性が高く、メガネやコンタクトレンズの視力矯正を行い、病気に気付かれない場合が多いです。しかし、進行して突出が強くなるにつれて、ぼやけや二重に見えるといった症状が強くなります。
中期症状
角膜の突出した部分に濁りが生じたり、明るいところで眩しさを強く感じるようになります。薄くなった部分とコンタクトレンズが擦れて激しい痛みが起こる場合があります。また、角膜が突出することで、コンタクトレンズが外れやすくなる為、次第にコンタクトレンズの装着が困難になります。
特にハードコンタクトレンズが外れやすく、これがきっかけとなって眼科を受診して、円錐角膜が発見されるケースも多いです。また、円錐角膜が進行すると、角膜を構成している層が破れて、房水が角膜内に漏れ、角膜が白く膨れ上がる「急性水腫(デスメ膜破裂)」が生じる場合があります。
急性水腫は、角膜内に水が入り急に目の前が白くなり、見えなくなる症状が現れます。以前までは緊急で手術が必要と言われていましたが、今では緊急の手術は必要なく、適切な治療を行えば1ヶ月~2ヶ月で水がひき、角膜の透明性が回復してくると言われています。このような症状が起こった場合は、すぐに眼科医を受診しましょう。
後期症状
症状が進行すると、コンタクトレンズやメガネでの視力矯正が難しくなり、角膜移植が必要になる可能性が高いです。特に、後期の症状まで進行すると、角膜が薄くなり、破れるリスクが高くなります。
角膜の薄くなった部分を破れたまま放置した場合、最悪の場合は失明する場合があります。このような自体になる前に適切な治療を行いましょう。
検査方法
円錐角膜は、初期の段階では乱視や近視と診断されることが多く、早期に発見することが難しい病気です。しかし、角膜移植が必要になったり、最悪の場合は失明に至る危険性もある為、出来るだけ早めに発見して適切な治療を受ける必要があります。
一度乱視と判断されたとしても、症状がよくならなかったり、悪化したと感じた場合は、眼科を再度受診しましょう。円錐角膜を診断するには精密検査が必要となります。
最近では、検査機器が進歩しているので、検査機器を使用すれば、初期段階でも円錐角膜を診断できるようになってきています。しかし、この検査機器の普及が進んでいない為、施設によっては適切な診断を受けられない可能性があります。
角膜形状解析(ペンタカム)や前眼部OCTなどの角膜を形状や厚みを確認できる検査装置を用いて診断を行う為、これらの検査機器が揃っている眼科を事前に調べて受診しましょう。
治療方法について
円錐角膜は進行すると、角膜移植を必要とする病気です。しかし、角膜移植が必要になる前に予防すれば進行を防ぐことが出来ます。昔は角膜移植手術しか手段がありませんでしたが、現在では研究が進み、様々な治療方法があります。
適応検査で円錐角膜と診断された場合、受けられる治療方法は大きく分けて2つあります。1つ目はコンタクトレンズを用いて、病気の症状を緩和する視力矯正方法、2つ目は病気の進行を抑制する為の治療で、角膜クロスリンキング治療、角膜リング治療、角膜移植手術があります。レーシックやPRKなどを使った視力矯正手術を行うと、角膜の強度が悪くなり、円錐角膜が進行する可能性があるので避けましょう。
ハードコンタクトレンズ処方
円錐角膜の症状が現れると、ハードコンタクトレンズでの視力矯正を行います。メガネやソフトコンタクトレンズは初期の円錐角膜を除き、これらで視力矯正をすることは難しくなります。ハードコンタクトレンズは視力矯正をするだけでなく、病気の進行を予防する効果もあります。
症状が軽い場合は、一般的に使用されているハードコンタクトレンズを使用することも出来ますが、ある程度進行すると、円錐角膜専用の非球面コンタクトレンズによる視力の矯正が必要になります。この特殊なコンタクトレンズを角膜に合わせてオーダーします。
軽症~重症の人まで対応できるように、複数の種類の円錐角膜用レンズがあります。ハードレンズは、付け心地が悪く、激しい運動をした時に外れやすいです。レンズの直径を変更したり、周辺部を加工することで、改善できることもありますが、どうしてもハードレンズが馴染めないという人は、ソフトコンタクトレンズの上からハードレンズを装着するピギーバックという方法もあります。
この方法を用いれば、違和感なく装着できると言われています。このピギーバックは、尖った角膜とハードコンタクトレンズが擦れることで生じる痛みを緩和する方法としても、用いられています。
注意点
円錐角膜専用の非球面コンタクトレンズは高いレベルの処方技術が必要です。その為、安い価格に飛びついて技術が未熟な場所でレンズを作った場合、症状が進行する可能性があります。
また、きちんとした専門医が作ったものであったとしても、些細な違いが影響を与える為、何度かレンズを交換する場合もあります。
角膜クロスリンキング治療
コンタクトレンズは基本的に、視力の矯正をするもので、治療ではありません。進行している円錐角膜を治療する場合は「クロスリンキング治療」を行うのが一般的です。クロスリンキングとは、角膜にビタミンB2のリボフラビンを点眼しながら、紫外線照射することで、角膜の主な構成成分のコラーゲン線維を密にすることで、角膜の機能を改善する治療方法です。
コラーゲン治療により角膜自体の強度が上がれば、円錐角膜の進行を抑制することが出来ると考えられています。治療後は、角膜の強度が約300%向上すると言われています。眼内の組織に影響を及ぼさない程度の紫外線の強さを照射する為、副作用もなく安全性が高いと言われています。
あくまで重症化するのを予防する対策になるので、視力はほとんど改善されません。この方法は、欧州では一般的な治療方法ですが、日本では厚労省未認可になります。その為、保険が効かない治療ですが、遠谷眼科では、片眼15万円で手術を受けることが可能です。10年以上の長期に渡っての成績はまだ分かっていません。
また、稀に、手術後に角膜が濁ったり、内皮細胞に障害がでる場合もあったり、治療しても進行する方もいます。円錐角膜が進行中で角膜の厚みがある程度ある人が、この治療方法に適しています。この方法を用いることで、屈折矯正手術後の角膜拡張症の進行も抑制することが可能と言われています。
治療の流れ
- まず麻酔薬を点眼し、アルコールを使用して、角膜上皮を柔らかくします。
- 特殊な器具を用いて、角膜上皮を取り除きます。
- 角膜中央部分にビタミンB2のリボフラビンを15分~30分ほど点眼します。
- リボフラビンを点眼しながら、紫外線を照射します
- 角膜保護用のコンタクトレンズをつけて手術は終了です。
コンタクトレンズは手術後1ヶ月程度経過してから、使用することが出来ます。術後は角膜上皮が修復されるまでの間多少の痛みは伴います。
しかし、痛みが激しい場合や急な視力低下が現れた場合は、すぐに眼科医に連絡しましょう。
角膜リング
角膜リングは、円錐角膜の代表的な治療方法の1つで、近視や乱視の症状を緩和するだけでなく、角膜を強化して進行を止めます。角膜リングは、直径5~7mmの半月状の薄いプレートです。この製品は近視治療として初めてアメリカで承認されたものです。
角膜の周辺にトンネルを作り、2枚の角膜リングを入れると、リングが角膜を押しだす為、突出した部分の形状を平らにすることが出来ます。これにより、近視や乱視の症状を軽減することが出来ます。20代~30代にかけて進行しやすい年齢の人は、この治療を受けることで進行を予防することが出来ます。
また、円錐角膜が原因でつける事が難しくなった、コンタクトレンズの装着も可能にすることが出来ます。角膜リングは、白内障手術などで使われるレンズと同じ素材で出来ている為、拒絶反応のリスクが低く、安全性が高いと言われています。
眼科によっては、角膜リングとクロスリンキングの両方行う方法もあります。平らにした角膜リングをクロスリンキングにより強化する方法も出来ます。2つの治療方法を用いる事で、更に進行を抑制することが期待出来ます。
治療の流れ
- 手術前には眼科的検査、および全身検査を行ってから治療にあたります。
- 麻薬薬を点眼し、レーザーを使って角膜リングを入れるトンネルを作ります。
- 作ったトンネルの部分に角膜リングを入れます。挿入する角膜リングは近視や乱視の度合いによって、リングの直径と厚みが調整して、使用されます。
- 消毒して完了です。
角膜手術に比べて拒絶反応や緑内障などの合併症にかかるリスクが少ないです。しかし、角膜内リング手術を受けたとしても、進行する場合もあります。手術の結果が、思っていたよりも良くなかった場合、リングを外すことで手術する前に近い状態に戻すことも可能です。
手術後1ヶ月ほどは水泳を含む全てのスポーツが出来ません。また、コンタクトレンズの使用も3ヶ月ほど出来ません。手術後に急激な痛みや視力低下が起こった場合は、すぐに担当医に連絡しましょう。
角膜移植手術
円錐角膜が進行し、角膜がレンズとしての機能を果たさなくなった場合には、角膜移植を行います。コンタクトレンズでも視力矯正が出来ない、またコンタクトレンズを半日しかつけられないなどの場合は、角膜移植を検討します。
円錐角膜で角膜移植手術が必要になる症例は、5%未満だと言われています。コンタクトレンズ処方をきちんと行っていれば、進行を予防することが出来るので、角膜移植を決定する前に、上記で紹介した予防対策方法を検討しましょう。
角膜移植手術は、レーザーを用いて角膜を切開し、その部分にドナー角膜を移植する手術です。角膜手術は角膜の状況に応じて様々な方法があります。円錐角膜の場合は、深層角膜移植術と呼ばれる、角膜の悪くなった部分のみを交換する方式を取る為、自分の組織を多少残せる為、拒絶反応がおきにくいと言われています。
角膜移植の中でも、円錐角膜に対しての成績はいいですが、手術してもすぐに裸眼で見ることは難しいです。メガネやコンタクトレンズを使って少しずつ視力が回復するようであれば、裸眼でも見える可能性が出てきます。
おわりに
円錐角膜は、乱視や近視などの視力低下の症状が現れる、進行性の眼病です。初期の段階で精密検査を受けなかった場合は、乱視や近視と診断されやすいです。進行するとコンタクトレンズがつけられなくなり、重症の場合は、角膜移植手術が必要になります。
現在、正しくコンタクトレンズ処方すれば、進行を防止することが出来ます。視力低下が見られた場合は、視力原因の原因を突き止める事、また視力低下が進んだり、コンタクトレンズが外れやすいなどの異常が起こった場合は、すぐに眼科を受診して早期発見に繋げましょう。
関連記事として、
これらの記事を読んでおきましょう。