下垂体腺腫ってどんな病気?症状や原因、治療法を知ろう!MRI検査で診断できる?

下垂体(脳下垂体)は、文字どおり脳から下に垂れた7〜8mmの小さな組織です。この小さな組織では、色々な種類のホルモンが産生され、体全体の働きを調節しています。下垂体にできた腺腫が下垂体腺腫です。腺腫というのはホルモンなどを分泌する腺細胞の腫瘍です。

今回は、下垂体腺腫にはどのようなものがあるのか、症状には何があるか、治療するべきなのか、治療するべきだとしたらどのような治療があるのか、詳しい資料を集めました。

下垂体の役割

脳下垂体

下垂体は、脳下垂体とも呼ばれ、ホルモンを放出する7〜8mmの小さな組織です。

下垂体はどこにあるの?

下垂体は脳の真ん中に垂れ下がっていて、脳とは下垂体漏斗柄(下垂体漏斗、下垂体柄)と呼ばれる茎のような細い組織でつながっています。

位置は頭の上から見ると視床下部と視交叉(両側の視神経が交叉する場所)の下、口の中から見ると軟口蓋の直上です。

下垂体は何をするの?

下垂体は色々な種類のホルモンが産生し、体全体の働きを調節する組織で、大2つに分けることができます。1つは前葉+中葉で、もう1つは後葉です。

前葉は、腺性下垂体(脳下垂体腺葉)とも呼ばれ、発生過程で口蓋の上皮が増殖してできたラトケ嚢と呼ばれる上皮性細胞塊からなります。下垂体前葉で産生されるホルモンには、乳腺刺激ホルモン(プロラクチン)、成長ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン等があります。これらのうち、下垂体腺腫の際に過剰に分泌され、問題となることが多いのは、乳腺刺激ホルモン、成長ホルモン、副腎皮質ホルモンです。

中葉は前葉と一緒にラトケ嚢からできますが、紙のように薄い組織で、ヒトではあまり大きな役割はありません。両生類や爬虫類のうち、環境に合わせて色を変えるため動物において、インテルメジン(メラニン細胞刺激ホルモン)を分泌します。

後葉は、神経性下垂体(脳下垂体神経葉または後葉)とも呼ばれ、脳の間脳が発生過程で伸びてきてつくられる部分です。後葉はホルモンを作りません。しかし、下垂体の直上にある視床下部でつくられたホルモンは、下垂体漏斗柄を通って下垂体後葉に供給され、ここから放出されます。後葉から分泌される主なホルモンは抗利尿ホルモンとオキシトシンで、抗利尿ホルモンは尿量を調節し、オキシトシンは平滑筋を収縮させて分娩時に子宮収縮させたり、乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促したりします。

後葉はホルモンを作る場所ではないので、下垂体腺腫になっても、抗利尿ホルモンの分泌が低下したり過剰になったりすることはほとんどありませんが、前葉から圧迫をうけて抗利尿ホルモンの放出が制限され尿崩症になることが稀にあります。

下垂体腺腫の症状は?

下垂体(2)

下垂体腺腫の症状は、1)周囲組織の圧迫と2)ホルモンの過剰分泌の2つです。腺腫ですから、腺性下垂体である前葉が発生場所であり、主に前葉ホルモンの過剰分泌です。

なお、症状は多彩で、症状からだけで病気を診断することはほぼ不可能です。

1)周囲組織の圧迫

上図を見て分かるように、下垂体前葉の直ぐ上には視神経交叉があるため、周囲組織の圧迫で一番多く、かつ最初に起こりやすいのが、視野の障害です。下垂体漏斗柄は後葉の上にあり(上図ではinfundibulum 漏斗と表記)、この部分で視床下部と下垂体はつながっていますので、下垂体腺腫が後葉側に広がって、下垂体漏斗柄を圧迫すれば後葉ホルモンである抗利尿ホルモンが出なくなることもあります(過剰分泌ではなくて分泌不全)。

2)ホルモンの過剰分泌

下垂体腺腫はホルモンを分泌する機能性腺腫と分泌しない非機能性腺腫がありますが、機能性腺腫では分泌されるホルモンの名前で呼ばれます。例えば乳腺刺激ホルモン(プロラクチン)産生腫瘍、成長ホルモン産生腫瘍、副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍などです。それぞれのホルモン産生腫瘍の症状については後述します。

非機能性腺腫

下垂体腺腫の中で一番多いのは、この非機能性腺腫です。

腺腫というのは、何かを分泌する細胞(腺細胞)の腫瘍ですが、非機能性腺腫は異常な分泌をしません。また、腺腫が小さい間は何の症状もありません。ですから、小さな非機能性腺腫は治療の必要がありません。

腺腫が大きくなって、下垂体の上にある視神経交叉を圧迫すると、視野狭窄が起こります。視神経交叉の真ん中を通る部分が障害されますので、両耳性半盲(右目では右半分だけ見えない、左目では左半分だけが見えない)になるのが特徴です。

下図に両耳性半盲の見え方を示します。両目で見ている時には、右目と左目がそれぞれの見えない箇所を補いますので、半盲に気づかないことがあります。

両耳性半盲

もっと腺腫が大きくなると下垂体自体を圧迫してしまい、前葉機能不全症を生じることもあります。この場合は、男性では、性欲低下や勃起不全などの性機能障害を起こし、男性不妊の原因になります。女性では、月経不順・無月経や乳汁分泌などを起こし、やはり不妊の原因になります。

後葉機能不全症を生じ、尿崩症などを起こすこともあります。

乳腺刺激ホルモン(プロラクチン) 産生腫瘍

乳腺刺激ホルモン(プロラクチン) を作る腫瘍なので、プロラクチノーマとも呼びます。乳腺刺激ホルモン産生腫瘍は、20歳〜40歳の若い女性に多く、月経不順や無月経、乳汁分泌などを起こします。つまり、妊娠していないのに妊娠した状態になってしまうのです。

症状が全部出そろうとは限らず、月経不順や無月経のみの場合もあります。乳汁分泌がないと、なかなか内科や脳外科の病気だとは気づかないので、中にはこの病気に気づかないまま、長期間にわたって月経不順の治療や不妊治療を受けてしまう人もいます。月経不順や無月経の治療がうまくいかないと感じたら、産婦人科だけでなく内分泌内科や下垂体専門の脳神経外科医の診察も同時に受けてみましょう。

乳腺刺激ホルモン産生腫瘍は、男性では無症状のことが多いのですが、無症状であるが故に腫瘍が巨大になって視神経交差や下垂体前葉の他を圧迫し、両耳性半盲や性欲低下・勃起不全を起こしてやっと気づくことも多いです。なお、稀ですが、男性でも乳汁分泌を認めることがあります。

成長ホルモン産生腫瘍

成長ホルモン産生腫瘍では、成長ホルモンが過剰に産生されることにより、特徴的な症状を示します。骨端線の閉じる前 (思春期前)の小児期に、この病気になると、身長が異常に伸び、巨人症になります。

骨端線が閉じた後ですと、鼻や唇、下顎などが大きくなって顔つきが変わったり、舌が肥大していびきをかくようになったり、手足の先端が大きく太くなり、靴や指輪のサイズが合わなくなったりします。ゆっくり進行することが多いので、時には10年以上、この病気に気づかないままのこともあります。

副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫は、クッシング病とも呼ばれます。この病気では、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に産生されます。若年から中年の女性に多く、満月のような丸い顔(ムーンフェイス)と、手足は比較的細いが体幹部が太くなる中心性肥満が特徴です。

この他、頑固なにきびができたり、引っ搔いたような皮膚の割れ目ができたり、色素沈着、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、月経異常、多毛などもみられます。副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍は、下垂体腺腫の中では、最も治療が難しいものの1つです。

クッシング病については、クッシング症候群とは?症状や原因ってなに?治療法と予防方法も知ろう!を読んでおきましょう。

下垂体腺腫でない下垂体腫瘍はあるの?

脳腫瘍 初期症状

下垂体腺腫でない下垂体腫瘍は、稀ですが、あります。

頭蓋咽頭腫

頭蓋咽頭腫は、良性の腫瘍で、転移したりはしませんが、放っておくとどんどん大きくなり、手術がとても難しい腫瘍として知られています。下垂体だけでなく、視床下部にも浸潤(まるで浸み込むように広がる)するので、下垂体の腫瘍部分だけ取り除けばいいというわけではなく、視床下部に入り込んだ腫瘍も取り除く必要があるため、手術は難渋します。また、手術が成功しても認知障害や視力障害、尿崩症などの後遺症を残すことが多い病気です。

ラトケ嚢胞

下垂体前葉と中葉はラトケ嚢から発生し、ラトケ嚢の閉鎖部は発生中に退化消失しますが、これが残存して中に液体がたまり、嚢胞化したのがラトケ嚢胞です。

何も症状がないものは、治療する必要はありませんが、稀に大きな嚢胞となって周辺組織を圧迫しますので、この際は、嚢胞をぷちんと破って液体を排出させます。ラトケ嚢胞は手術しても全体の30%くらいは再発します。

非定型下垂体腺腫

定型どおりの下垂体腺腫は、トルコ鞍内で何年にも渡ってゆっくり大きくなります。しかし、下垂体腺腫としては非定型的に、周りの骨を融かしながら、まるで悪性腫瘍のように浸潤性に増大するものがあり、これらをまとめて非定型下垂体腺腫と呼びます。

治療は外科的手術ですが、視床下部に食い込んだり、骨に食い込んだりしているので、難渋します。手術すると却って命の危険が大きくなる場合は、放射線治療やガンマナイフを使うこともありますが、残念ながら上手く治療できることは少ないようです。

下垂体ガン(本当はガンではない)

顕微鏡でも見ても、腺腫にしか見えないのに、何故か全身転移してしまうものを下垂体ガンと呼ぶことがあります。下垂体腺腫が転移した場合に苦し紛れにつける病名で,本当の診断名ではありませんが、そうとしか呼べないのです。残念ながら治療法はありません。

下垂体腺腫の検査と診断はどのようにするの?

のどのしこり・CT・MRI・シンチグラフィー

検査と診断は、初発の症状により様々です。

視野検査(眼科)

もし、最初の症状で、目が見にくいと感じたら、眼科に行って視野検査を受けるのが一般的です。両耳性半盲は、ものすごく特殊な例を除いて、下垂体腫瘍か頭蓋咽頭腫でしか起こらないので、眼科の先生から脳外科に紹介状を書いていただけるはずです。

血液検査とホルモン負荷試験(内分泌科)

乳汁分泌がなくて、月経不順や無月経などの症状だけが起こった場合は、産婦人科に行く方が多いと思いますが、治療してもうまくいかないようでしたら、内分泌科にも行ってみましょう。乳腺刺激ホルモン産生腫瘍のためにそうなっている可能性もあります。

成長ホルモン産生腫瘍や副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍では、症状が内科的な症状ですので、初めから内科に行く方も多いと思います。ホルモンが産生される腫瘍の診断は、それほど単純ではないことも多いので、診断にあまりにも時間がかかると感じたら、内分泌の得意な内科の先生にも相談してみると良いでしょう。

内分泌内科ですと、「3者負荷試験」という検査を行って、下垂体前葉から分泌されるホルモンを一気にまとめて検査してくれます。

3者負荷試験

  • 負荷する薬                                             →調べたいホルモン
  • 性線刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)   →卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモン
  • 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TSH)  →甲状腺刺激ホルモンと乳腺刺激ホルモン
  • インスリン                                              →成長ホルモンと副腎皮質刺激ホルモン

画像診断はMRI(数ミリのものも見つけられる)

「ない」か「ある」かだけの診断でしたら、 MRIが最も適切な検査であり、下垂体腺腫の画像診断は、これに尽きるでしょう。

最近は脳ドックなどで、治療の必要のない微細な非機能性腺腫も見つかるようです。

下垂体腺腫の治療方法は?

治療

医師によって若干意見が異なるようですので、少なくとも10ケ所以上の信頼できるウェブサイトと成書で調べた範囲で、最大公約数的な治療について以下に列記していきます。

自然治癒?

非機能性腺腫なら、半年おきくらいにMRIで様子だけみて放っておくのが一番良いようです。もちろん、ホルモン異常が出れば薬物療法や手術、周辺組織の圧迫などを認めれば手術で摘出します。

また、若い人で、腫瘍が脳の方向に成長する場合は、比較的小さくても手術することがあるようです。逆にお年寄りで、両耳性の半盲があっても、大きくなる速度がゆっくりで、本人が困っていなければ、様子を見るだけに留めることもあります。

薬物治療

周辺組織の圧迫のない乳腺刺激ホルモン産生腺腫に対しては、カベルゴリンなどの薬物療法が第一選択とされます。ほとんどの症例で乳腺刺激ホルモンが正常化しますが、中止した後に再発することもあります。この場合の治療は内分泌内科と協力して、あるいは内分泌内科が中心になって行います。

周辺組織に圧迫がなく、ホルモンの濃度があまり高くない成長ホルモン産生腫瘍でも、オクトレオチドやブロモクリプチン薬物療法が用いられることがあります。また、脳外科手術後に補助的にこれらの薬物療法が用いられることもあります。薬物療法は乳腺刺激ホルモン産生腫瘍と同様、内分泌内科と協力して、あるいは内分泌内科が中心になって行います。

手術による腫瘍の除去

明らかな増大傾向があったり、周辺組織の圧迫がある全ての下垂体腺腫(非機能性腺腫も含む)、ホルモン値の高い成長ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍に対しては、手術による除去が第一選択となり、脳外科主体の治療となります。

手術の方法ですが、通常、脳への影響が少ない経蝶形骨洞法をとるようです。経蝶形骨洞法は鼻腔などから(下側から)下垂体にアプローチするものです。ただし、腫瘍の大きさや進展方向によっては開頭術をとることもあります。

手術をする場合でも内分泌内科との協力は重要

手術の対象であっても、ホルモンを産生する機能性腺腫の場合は内分泌内科と相談しながら行った方が良い結果が得られることが多いようです。また、手術後はホルモンの検査(負荷試験なども含む)をして手術によって下垂体の機能が低下していないかどうかを確かめるためにも、内分泌内科との協力は重要です。

経蝶形骨洞手術の合併症について

下垂体腺腫の治療は、熟練した脳外科医にとっては難しいものではないようですが、腫大した下垂体が骨や腫瘍以外の組織を圧迫して、それらの部分が薄くペラペラで脆くなっていることも多く、合併症はある程度は避けられないのもまた事実のようです。

内頚動脈や前大脳動脈などの損傷:最も重症の合併症です。クモ膜下出血を引き起こし、死亡することもあります。

下垂体後葉機能不全(主に尿崩症):下垂体腺腫はほとんどが前葉由来のもので、下垂体腫瘍は前葉の腫瘍部分を取り除くのですが、この際、後葉を傷つけることによって、抗利尿ホルモンの分泌不全がおこり、尿崩症を起こすことがあります。症状は、尿が出すぎて喉が乾くというもので、治療は、鼻から抗利尿ホルモンを補充します。多くの場合、3ヶ月くらいで治ることが多いようですが、再発腫瘍や巨大腺腫の手術後では、治らないこともあります。

下垂体前葉機能不全:手術の際に下垂体前葉の正常部分まで傷つけたり取り除いたりしてしまった場合に起こります。治療は足りなくなったホルモンの補充で、具体的には,成長ホルモン,副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン,性腺刺激ホルモンなどです。

髄液鼻漏:クモ膜下腔は髄液で満たされており、その髄液が鼻の中に漏れて出てくることを髄液鼻漏と言います。手術中に気づけば、漏出箇所を閉鎖することで髄液漏を止めることができます。また手術後なら、腰部ドレナージによって、1週間くらい髄液を抜いていると鼻からの水漏れが止まることが多いです。

髄膜炎:髄液鼻漏を止められなかった場合、鼻腔の細菌が脳に入ることで起こることがあります。症状は頭痛や発熱や嘔吐で、治療は抗生物質の投与です。

視神経損傷:下垂体の直上に視神経交叉があるため、腺腫を切除している際に、視神経や視交叉を損傷することがあります。

嗅覚脱失:嗅覚受容細胞は、鼻粘膜内にほぼむき出しで存在します。これは、経蝶形骨洞の手前にあり、この部分を損傷すると臭いがわからなくなります。一時的なこともあれば、ずっと良くならないこともあります。

まとめ

下垂体腺腫は、良性腫瘍であり、熟練した脳外科医にとっては手術も難しい訳ではありませんが、簡単という訳でもありません。症状は無症状のものから不妊や巨人症まで幅広く、症状からだけで診断するのは難しい病気でもあります。

しかし、MRIで症状がなく治療の必要もない微細な下垂体腺腫まで見つかりますので、脳ドックなどを定期的に受け、早期発見につなげることも可能です。

正しい知識を持つことで、怖がりすぎず、放っておきすぎず、適切な対応を取ることができれば、それが一番かと思います。

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