「ぐるぐると眼が回る」、激しいめまいに伴い、激しい嘔気(おうき/吐き気)が生じるのとは異なり、「真っ直ぐ歩くことが難しい」、「身体がフワフワとした感じがしてふらつく」、「雲の上をフワフワと歩いている様だ」、「姿勢を思うように保つことが難しい」といったことはありませんか?
こういった症状がみられた場合は「浮動性めまい(ふどうせいめまい/dizziness)」が疑われます。ちなみに、前者に述べた症状は「回転性めまい(かいてんせいめまい/vertigo)」が疑われ、めまいと一言に言っても浮動性めまいとは原因も症状も対処法も異なるものになります。その他にも、立ちくらみのようなめまいもあり「回転性めまい」となります。
回転性めまいには単一急性のものと、再発性(recurrent)・反復発作性(episodic)があり、めまいはこれら回転性2種と浮動性1種の3種類に分類されます。
ここでは、浮動性めまいとは一体何なのか、原因や対処法について、どういった科を受けると良いかを説明します。
浮動性めまいの原因
先ほど、回転性めまいとは異なるものと述べましたが、この回転性めまいは急性期に見られます。これが、慢性期になると浮動性めまいとなることがあります。
その他にも、一般的に高齢者や更年期障害で見られたり、様々な疾患で生じます。回転性めまいと混在して生じることもあります。慢性期にもなると原因は曖昧で明確化することが難しい場合があります。
では、浮動性めまいが生じる原因について述べていきます。
神経疾患(脳血管系疾患)が原因の場合
神経疾患の可能性の場合は、両側前庭(平衡感覚の役割を担う部位)障害が考えられます。もっと多い疾患では、小脳疾患、パーキンソン症候群(Parkinson syndrome)、脊髄病変、末梢神経障害、脳小血管病(多発性ラクナ梗塞、Binswanger病)等が原因と考えられます。
貧血や低血糖、高血圧、低血圧心臓循環器系といった全身的疾患が原因となることもあります。これらにより起立性低血圧が生じて浮動性めまいを起こすことがありますが、この時のめまいは臥位時(横になっている時、寝ている時)には生じません。立ち上がり時に生じます。
前庭系の障害によっても誘発すると記していますが、中でも前庭神経炎では発症前1~2週間に感冒様症状が先行してみられることがあります。これがみられたら慢性浮動性めまいが生じる可能性がある徴候と言えます。
循環器系・整形系では、筋緊張性の肩こりや頚椎症に伴う浮動性めまいや椎骨脳底動脈循環不全のめまいに対して、首の姿勢が関与してくることがあります。このように、浮動性めまいの誘発される部位によっては、体をどのような姿勢にすると・どのように動かすと、どのようにして浮動性めまいが生じるかが異なってきます。
非特異的なものが原因の場合
内科疾患、薬物の副作用、軽度の前庭系の障害、心因性などが挙げられます
心因性の疾患による場合は、狭い空間や飛行機といった特定の場所や、対人関係のストレス等、つまりは精神的ストレス負荷によって自律神経のバランスが崩れ、浮動性めまいの症状が誘発されることがあります。また、眼性疲労もストレスとなり大きく影響してくることがあります。
内科系の影響であれば、水素が原因となる可能性も考えられます。人体の60~70%は水分が占めています。この水分の流れが悪くなることや、脱水など偏った状態にある場合は「水毒(すいどく)」と呼ばれる症状を引き起こしていると言われます。
原因別の割合
一部の調査では、筋緊張型の頭痛・肩こり群が1/4を占めています。末梢前庭性めまい・脳血管障害・神経症が10%前後となります。
なお、回転性めまいと浮動性めまいを併発して訴える患者の場合は、末梢前庭性めまいが1/4を占めています。その次に神経症が約20%となり、次いで筋緊張型頭痛・肩こり群、脳血管障害が約10%占めるという結果がでています。
あくまで一部の調査なので、これが全てとは限りません。あくまで目安として捉えて下さい。
浮動性めまいの症状
浮動性めまいは突発的に生じる事もあれば、ほとんどが慢性期に徐々に生じていきます。めまいと伴って生じる症状に関しては油断をしないようにしましょう。神経系であれば、頭痛や身体の痺れ、運動麻痺や言語障害、その他の高次脳的な障害などが生じてきます。
では、浮動性めまいの特徴的な訴える症状の内容や、めまいに伴って生じる症状などについて述べていきます。
症状の訴え方
上記でも記したように、めまいには3種類あり、それぞれ症状が異なります。的確な鑑別をするのは医師ですが、自身でもどういったものが当てはまるかを知っておくことも必要でしょう。分かりやすい様に、回転性めまいと浮動性めまいの症状の訴えを区別して下記に示します。なお、細かい点に関しては浮動性めまいについてのみ記していきます。
回転性めまいでは、眼が回る、天井が回る、壁や周りの空間が流れるようにグラグラする、身体が空間をグルグル回る、身体が横へ寄っていく、身体がどこかに傾いていく、深い底に引っ張られる様な感覚に陥るといった訴えがみられます。
浮動性めまいでは、気が遠くなる、失神しそうな感覚、倒れそうな感覚、立ちくらみ、足元や身体がフラフラする・ふらつく、よろめく、頭が空になってフラフラするといった症状の訴えがみられます。これらを端的に言いますと、平衡障害(disequilibrium)、前失神・卒倒感(presyncope ; faintness)、非特異的・定義不十分の頭部のフラフラ感(nonspecific or illdefined light-headedness)と言われます。
頻度の高い症状
随伴症状は、ある症状に伴って生じる症状のことを指します。めまいに随伴する症状として頻度が高いものは嘔気・嘔吐です。急性の脳血管障害で脳幹や小脳、前庭が障害された際に高頻度で強い嘔気や嘔吐が生じやすくなります。
頻度の低い症状
平衡感覚の障害、動揺視、脳幹の各症状、意識障害が挙げられます。いずれも小脳・橋・前庭などの脳幹の脳血管系の障害にて生じやすいものになります。
浮動性めまいの診断
めまいの検査は、画像検査や生理学的検査を行うことで診断に当てる証拠・根拠を得やすいです。しかし、それらの検査のみで診断されるといったことはなく、その他の所見も必要になります。また、めまいには中枢性と末梢性があります。双方、症状や対処法が異なるため鑑別が必要となります。
ちなみに、中枢とは小脳や脳幹を指します。中枢性は、身体の平衡感覚に関与する神経経路や、手・足の運動・感覚などの多数の神経経路が存在しています。これらが障害されていれば中枢性と判断されます。中枢性の場合は、脳血管障害など、その疾患によってめまい以外の様々な症状をきたすため、神経所見などその他に受ける検査が多くあります。
末梢性は、前庭を指しています。これは、近くに蝸牛などの聴覚の受容器があります。その他の神経経路は存在していません。
これらを踏まえて、必要な検査を確認していきましょう。
病歴聴取
めまいを診断するに当たって最も重要視される検査は、病歴聴取です。これにより、2/3の患者が正しい診断を得られると言われています。では、残りの1/3はと言いますと、大部分が神経系の検査により診断されます。
聴取される内容は、どういっためまいが起こるか、めまいの持続時間はどうか、突然めまいが起きたのかといった経過、どういった状況でめまいが引き起こされたか、生活サイクルや食生活の状況、便の色、前駆症状(動悸や胸痛など)の有無などです。
これらにより、めまいが中枢性か末梢性かを判断します。中枢性では回転性・浮動性・失神性のいずれもみられることがあり、回転性=末梢性とも限らず、中枢性の可能性もあります。確診をつくために他の所見も参考にします。
身体所見
脳神経学的所見と神経学的所見の2つを診ていきます。前者では、眼球運動、眼振、顔面知覚、額のシワ寄せ、睫毛徴候、口角挙上、聴覚、カーテン徴候、舌の偏移の有無などを診ます。
後者では、四肢麻痺の有無、上肢(腕・手)・下肢(足)のバレー徴候、指鼻指試験、膝踵試験など診ます。急性の心血管系の疾患や脳血管疾患の有無を確認できるまでは、仰臥位(仰向けで寝る姿勢)を保持した状態で行います。いずれの検査も小脳・脳幹・橋の血管系疾患の有無を鑑別するために行われるものがほとんどになります。
歩行を視る
歩行は不安定になります。各病態によって、どういった歩行障害が見られるかは異なります。例えば、脳血管の一側の障害では、その病変側に変化が見られることがあります。小脳性の病変では、失調性(ガクガクと振えてコントロールができない)の開脚歩行になります。
その他にも見られる歩行障害はたくさんあります。歩行の仕方によって判別がされます。
その他の検査
その他に、血液検査にて病理的な状態を把握します。これは、貧血や低血糖、脱水などどういった症状に当てはまるかの参考所見とされます。また、心電図、頭部CT、頭部MRIといった画像所見を用いて更に細かく脳の状態を確認します。
入院が必要かどうか
もし、脳血管疾患を生じていた場合には正常な歩行が可能かどうかを確認します。神経学的所見も緻密に検査をされているかも重要視されます。
そして、中枢(小脳・脳幹)や末梢(前庭)以外が原因であるかどうかも考慮して検査を施行することができているかの確認をします。その他にも、病歴の確認や、その他の疾患・その他のめまいの可能性なども確認をします。これらに異常が無ければ外来通院で済む可能性があります。少しでも異常があり、入院が必要となる場合もあります。
浮動性めまいの対処法
ここで説明していく中には薬物療法などの治療法もありますが、まずは身体の正しいベース作りが重要となります。
めまいが起きた時の対応
めまいの症状が生じた際には、転倒をしないように座るか、横になりましょう。楽な姿勢になってしばらく休み、様子をみましょう。もし、車を運転中である場合には、路肩に注射し、シートをできるだけ倒して横になり、休みましょう。
身体が冷えると身体の血液や酸素の循環が悪くなり、酸欠状態や貧血状態など眩暈を悪化させる可能性があります。よって、車内には毛布やひざ掛けを用意しておくと良いでしょう。
薬物療法
状態に合わせて抗不安薬や漢方薬、筋弛緩剤などが処方されます。自己判断でドラッグストア等で購入することは避けましょう。ドラッグストアに薬剤士がいる場合もあり、薬剤士に相談することも一つの手ですが、正確に検査を行った上での判断で購入するわけではないので、なるべく医師の診断の元、薬を処方してもらうようにしましょう。
薬など化学的な対処法は副作用などもあり、逆に身体的にも精神的にもストレス負荷を与え悪影響となる可能性があります。どうにもならないほど、どうしても必要な時に活用するようにしましょう。
睡眠をしっかりととる
睡眠をしっかりとり、ストレス発散をするような運動などを行い、身体的・精神的ストレスを解消させることが大切です。特に夜中遅くまで起きていると自律神経の働きが乱れてめまいが生じやすい状態になります。
また、運動を行うことで血流も促されるのでめまいの防止に繋がります。但し、無理のない運動をするように心がけましょう。
アルコールを控える
アルコールを一度に過剰摂取する方もいらっしゃいますが、非常に危険です。アルコールは身体の機能を麻痺させてしまいます。要するに、脳の機能を麻痺させ、感覚や神経、筋肉にその影響を及ぼします。
つまり、アルコールを摂取することで平衡感覚が低下してめまいが生じやすくなるということです。アルコールを摂取することで血液の循環が良くなるので良いですが、適度に飲むようにしましょう。
タバコを控える
タバコに含まれているニコチンは血管を収縮させます。一酸化炭素は血液が酸素を運ぶ循環の能力を低下させてしまうため、身体が酸素不足を引き起こし酸欠状態に陥る元となります。これにより、脳血管や内耳の働きが阻害され、めまいが生じます。
香辛料・カフェインなどの刺激物を控える
香辛料やカフェインを過剰に摂取してしまうと、神経が過剰に刺激されて興奮状態に陥る可能性があります。ちなみに、カフェインはコーヒー、紅茶だけではなく、お茶類、栄養ドリンクやコーラなどのジュースにも含まれているので、飲み物を選ぶ時は要注意です。
栄養をしっかり摂る
規則正しく栄養バランスの取れた食事を摂ることもめまいの予防・改善に必要です。特に、ビタミンB群はめまいを軽減させるのにオススメです。ビタミンB群はめまいの治療薬にも使用されており、神経の代謝を促進する作用があります。また、覚醒のリズムを整えて睡眠しやすい身体作りにも役立ちます。
食べ物では、レバーや豚肉といったお肉やサンマ、アサリ、カキなどの海鮮類にも豊富に含まれています。豚肉には特にビタミンB1が多く含まれており、脳の働きを正常に保持しようとする作用があり、めまいの予防にはオススメです。
上記にある海鮮類と豚肉には、ビタミンB12も含まれており、これは血流の循環を促進して神経系の安定を保持しようとする作用があります。サプリで補おうとする方もいらっしゃいますが、サプリとしてではなくきちんと摂取することで的確に栄養が得られます。なるべくサプリに頼らないようにしましょう。
受診する科
めまいの原因は様々であり、特に慢性的なめまいを生じている患者に際しては、耳鼻咽頭科、神経内科、脳神経外科、眼科、内科、整形外科、精神科、心臓・循環器科、消化器科、泌尿器科と、いろいろな専門家に診てもらい正確な診断を得ることが度々あります。
多くの場合は神経系疾患や内因性の可能性があるため、まずは脳神経外科や神経内科に受診をすると良いでしょう。あまりにドクターショッピングをしてしまうと的確な診断を受けることができなくなる可能性があります。
ドクターショッピングとは、自身の納得のいく診断を受けることができるまで、いろいろな医師に診てもらいに行ってしまう事です。これをしてしまうことで的確な診断が分からなくなる場合が多くあります。それを避けるためにも、様々な専門家を構えて、様々な設備が整っており、勉学に励んでいるような施設を受診すると良いでしょう。大学病院などでは最新の設備が整っていたり、研究が進んでいます。そういった施設を受けることも一つの方法ですし、研究の対象になることに抵抗のある方はその他の大きな機関を選択すると良いでしょう。
係りつけの診療所や小規模の病院に取り敢えず受診してみようという方もいらっしゃいますが、十分な検査を受け切ることなく「多分、おそらくこの病気であろう」と不適切な可能性の診断を受けることがあります。また、紹介状を書かれ紹介料の請求や重複した検査代に、別の機関を受けるはめになるといった二度手間により無駄な出費が膨らみます。よく選んで行く様にしましょう。
なお、自身の自己判断で、恐らく身体の筋肉が凝っているからだろう等と判断して整骨院や漢方を売っている所に行ってみようと、とりあえず様子を見てしまう方もいらっしゃるでしょう。これでは専門的な知識を得ている医師に診てもらうわけでもなく、的確な検査や結果を得られるわけでもないので対処が遅れて大変なことになります。その点の判断は自己責任です。気をつけるようにしましょう。
最近では、めまい外来と専門の科を設けている施設もあります。そういった所を探して受診してみるのも良いでしょう。
まとめ
浮動性めまいは様々な原因によって生じ、原因の中には脳血管障害といった重篤な障害でもみられることがわかりました。
単に、「あ、ちょっとめまいがした。放っておけばいつか治るだろう」と放置していては大きな後悔をする可能性があります。手遅れになる前に病院に受診するようにしましょう。