人間ドックや健康診断などで肝腫瘤と言われたことはありませんか? 腫瘤という言葉と腫瘍という言葉がなんだか似ていて、不安ですよね。
大抵の場合、肝腫瘤は、腹部超音波検査で見つかります。腫瘤って一体なんなんでしょう? 次に行うべき検査にはどんなものがあるのでしょうか? がんの可能性は?
今回は、この、気なる肝腫瘤について、一緒に見ていきましょう。
肝腫瘤って何?
肝腫瘤の文字を見ると、ちゃんとした病名のように見えますが、じっくり読んでみると「肝」「腫」「瘤」、「肝臓」の「腫れ」「瘤(こぶ)」です。そのまんまです。
健康診断や人間ドックなどで行う超音波検査やエックス線CT検査などの画像診断は、強力で優秀な診断ツールですが、そこに「何か腫れとか瘤みたいなものがある」「色ツヤからして水っぽい、あるいはミッチリ詰まっているっぽい」くらいまでしか診断できません。それ以上でもそれ以下でもないのです。肝臓が「悪い」かどうかすらも、画像だけではわかりません。
したがって、健康診断や人間ドックで「肝腫瘤」という結果が表示された場合は、「コレが何なのか、しっかり調べてください」という意味です。総合診断のところに「要治療」ではなくて「要精密検査」って書いてありませんか?
肝腫瘤にはどんなものがあるの?
その肝腫瘤が何なのかは、調べてみないとわかりませんが、調べる前に「肝腫瘤」と書かれることの多い疾病に何があるかは知っておきたいですね。
肝腫瘤として見つかる事があるのは、以下の3つですが、肝嚢胞は明らかに水っぽいので初めから肝嚢胞と書かれていることもあります。また、肝膿瘍は発熱したり黄疸が出たり健康診断に行けるほどの元気はないことが殆どです。
- 肝嚢胞:肝臓にある嚢胞。中に液体を含んだ袋のようなものがあります。
- 肝膿瘍:肝臓にある膿瘍。大きく分けて化膿性のものとアメーバ性のものがあります。
- 肝腫瘍:肝臓にある腫瘍。良性のものと悪性のものがあります。良性のものは主に肝血管腫です。悪性のものには原発性のものと転移性のものがありますが、転移性のものの方が頻度は高いです。
どんな検査をすればいいの?
健康診断や人間ドックなどでは、超音波検査だけ行うことは稀で、超音波の他に、医師による視診・触診や血液検査なども同時に行うことが殆どです。
したがって、医師による診察や血液検査は既に行った状態ですが、ここでは説明に加えます。
次に行う検査
医師による視診・触診
黄疸や肝硬変のある患者さんに特有なクモ状血管腫などがないか診たり、触診によって肝臓が腫れていないか、脾臓が腫れていないか、腹水はどうかなどを診ます。
血液検査:GOT(AST)、GPT(ALT)、γーGPT、アルカリフォスファターゼ(ALP)、ビリルビン(直接/間接)、アルブミン、中性脂肪、コレステロール(LDL/HDL)、CRP、赤血球数、白血球数、血小板数、αフェトプロテイン(AFP)、肝炎ウイルス抗原抗体各種 などの検査を行います。
尿検査:ビリルビン、ウロビリノーゲン などの検査を行います。
上の検査が終わってからするかもしれない検査
腹部エックス線CT(単純、造影):エックス線を照射し、縦・横・矢状に断層撮影したものです。これらの断層画像をコンピュータ解析によって立体的に組み直して見ることもできるようになり、5mmの小さな病変でも見つけられるようになりました。
肝臓腫瘤があるときには、肝臓だけ調べるのではなく、膵臓や胆嚢などにも異常がないかどうかを見つけることが重要なのですが、腹部CTでは、腹部超音波検査では見つけることが難しい膵臓や胆嚢などの病変を発見するのにも役立ちます。
さらに、肝腫瘤ではDynamic CTという、造影剤が目標の臓器に到達したタイミングで撮影する方法がとても有効です。なぜかというと、肝臓は他の臓器とは違って、2つの血流(肝動脈と門脈)があり、この血流の差で病気の推測ができるからです。例えば、正常な肝臓では、門脈と肝動脈で3:1なのですが、古典的肝細胞がんでは肝動脈からの血流の方が多くなります。
具体的には、Dynamic CTでは、造影剤を静脈注射すると、約30秒後には肝動脈からの血流が肝臓に流れ、肝動脈の血流の影響を受ける肝臓の部位が、他の箇所よりも白っぽく染色された状態で映ります。古典的肝細胞がんですと、他の箇所よりもより白っぽく染色されます。約40秒後からは門脈からの造影剤の流入が見られ、この時は他の箇所がより白っぽく染色され、肝細胞癌の箇所は他より黒っぽく見えます。
腹部MRI:強力な磁石でできた筒の中に入り、磁気の力を利用して撮影する検査法です。腹部エックス線CT撮影と同様に、縦・横・矢状に断層撮影し、これらの断層画像をコンピュータ解析によって立体的に組み直して見ることもできます。MRI撮影時に肝細胞特異的造影剤を使用すると、早期に微細な肝臓がんを発見できることもあります。この検査では、エックス線被爆の心配はありませんが、体内に金属が埋め込まれていたり、ペースメーカーをつけていたりする場合は、検査ができない場合があります。
上の検査が終わってから、さらにするかもしれない検査
肝生検:肝腫瘍、特に悪性の腫瘍が疑われるときに、細い筒状の針を刺して、肝臓組織の一部を取り出し、その細胞を顕微鏡でどのタイプの腫瘍かを調べる検査です。
良性腫瘍の場合は、腹部エックス線CT撮影や腹部MRI撮影などの画像診断で、確定診断がつくことも多いのですが、中には悪性のものと区別がつきにくい場合もあり、その場合にも悪性か良性かをはっきりさせるためにこの検査を行うこともあります。
肝嚢胞は、殆どのケースで超音波検査だけで診断が可能ですが、中には嚢胞をつくる肝がんもあるため、やはり肝生検を行うこともあります。
肝膿瘍では、針を指すことで病巣が広がり、百害あって一利なしなので行いません。むしろ禁忌です。
がんの可能性はあるの?
肝腫瘤という結果が出ただけの時点で心配しても仕方がないことですが、がんの可能性はあります。
健康診断を行う会社の方針によっても違いますが、肝嚢胞や肝血管腫(良性腫瘍の中で最も多い)の場合は、「肝腫瘤」ではなくて「肝嚢胞」や「肝血管腫」など、具体的な病名が記載されている場合も多いです。
したがって、「肝腫瘤」と記載されている場合は、肝血管腫以外の良性腫瘍(とても稀)か悪性腫瘍の可能性はかなり高いということになります。
肝腫瘤が肝嚢胞の場合
肝嚢胞は、そのほとんどが生まれつきのもので、かつ良性です。きちんと精密検査を受けた結果、肝機能が正常でかつ肝嚢胞で本当に間違いなければ、治療の必要はありません。ただし、定期的に大きさなどの検査は受ける必要があります。また、嚢胞がとても大きくなった場合には、穿刺治療や手術を行うこともあります。
肝嚢胞の場合、多嚢胞性疾患が原因で肝臓に嚢胞がある場合があり(多くは多数の嚢胞ができます)、腎臓や膵臓、脾臓などの嚢胞を超音波検査や腹部エックス線CT検査など、他の臓器にも嚢胞がないかどうかも確認しておく必要があります。多嚢胞性疾患では、嚢胞が1こや2こではなく、多数存在し、嚢胞が肝臓や腎臓などの大部分を占めて、これらの臓器の機能障害を伴うことがあるからです。
気をつけたいのが、嚢胞腺腫(悪性化することがある)や悪性の嚢胞性腫瘍、また転移性の腫瘍が嚢胞を作っているケース、寄生虫の感染により嚢胞を作っているようなケースなどです。
肝嚢胞と記載されたものが、本当に肝嚢胞であれば、心配は全くいりませんが、超音波検査だけで、嚢胞か腫瘍か区別するのが難しいこともあります。そのため、特に初めて「肝嚢胞」と言われた場合は、腹部エックス線CT検査やMRI検査なども行って、肝嚢胞が本当に肝嚢胞かどうか、判断する必要があります。
これらの検査を行って、総合的に明らかに良性の肝嚢胞であると診断されれば、その後は、増大しないかどうかを定期的に調べれば十分です。
肝腫瘤が肝膿瘍の場合
肝腫瘤が肝膿瘍の場合、「結果のお知らせ」が届くまで元気でいられることは殆どありません。
発熱、倦怠感、嘔吐、黄疸など、劇的な症状が現れるので、健康診断の結果が届く前に病院に行っているはずです。急速に増悪するため、直ちに治療しなければ、ほぼ100%死亡します。
肝腫瘤が肝腫瘍の場合
肝腫瘤が肝腫瘍の場合、良性なのか悪性なのか、良性にしても悪性にしても、どのタイプの腫瘍なのかを診断する必要があります。
肝臓の良性腫瘍
肝細胞腺腫:16〜40歳くらいの女性に見られます。症状がないものが殆どですが、大きくなると右上腹部の不快感を引き起こすことがあります。また、自然破裂により腹腔内に出血したり腫瘍の中に内出血することもあります。腹腔内出血では、出血性ショックが起こるほどの大出血になることがあるので、切除が必要と判断されることがあります。
胆管嚢胞腺腫:30歳以上の女性にみられます。たいていの場合、多発性の嚢胞として見つかります。悪性化することがあるので、切除する必要があります。
胆管細胞腺腫:とても稀な病気です。悪性化することがあるので、切除する必要があります。
肝血管腫:肝良性腫瘍のうち、最も頻度の高い病気です。超音波で白く見え、特徴的なので、初めから健康診断の結果のところに「肝血管腫」と記載されていることもありますが、肝がんと区別がつきにくいものもあるので、腹部エックス線CT検査や腹部MRI検査とも組み合わせて確定診断をつけます。また、肝生検が必要なほど肝がんにそっくりのものもあります。
肝血管腫が本当に血管腫であれば、通常、年に一度の経過観察だけで治療は不要です。しかし、腹痛などの症状があったり、大きくなったり、血小板が減ったり(血液検査でわかります)するものは、手術の対象になります。
血管筋脂肪腫:普通は腎臓にできる良性腫瘍ですが、肝臓にも稀にできることがあります。この腫瘍は、名前の通り、「血管」「平滑筋」「脂肪」が組み合わさってできた腫瘍で、エックス線CTやMRIなどの画像診断ではわけのわからない腫瘤に見えますので、確定診断には肝生検が必要になります。肝生検でこの腫瘍が本当に血管筋脂肪腫だと診断されれば、治療は不要とされていますが、悪性化の報告も散見されますので、経過観察して大きくなるようなら切除したほうが良いでしょう。
局所性結節性過形成:大結節型肝硬変に似た、過誤腫です。造影エックス線CTやMRIで診断がつくことが多いですが、確定診断に肝生検が必要なこともあります。局所性結節性過形成の診断が確かなら、治療は不要です。
肝臓の悪性腫瘍
肝臓の悪性腫瘍には、原発性肝がん、転移性肝がんなどがあります。
原発性肝がん
肝がん(肝細胞がん):肝がんと聞いて、医師を含む殆どの人が、最初に思いつくがんがこのがんです。肝がんは通常、肝硬変患者に起こり、何もない健康な肝臓に突然発生することは、あまりありません。また、肝硬変の中でも特に、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによる肝硬変の人に多く見られます。
肝腫瘤として見つかった後は、血中αフェトプロテイン(AFP)値、CTやDinamic CT、MRIなどの画像検査、肝生検などの検査を行って確定診断をつけます。肝硬変になったあとの肝臓の中に肝がんが見つかることが多いので、手術に耐えられないこともあり、予後はよいとは言えません。しかし、腫瘍部分以外の肝臓の状態が良かったり、腫瘍が小さかったりする場合には手術で切除できることもあります。
線維層板状がん:線維層板状がんは,肝がんの亜型ですが、正常な健康に突然発生します。また、一般的な肝がんとは異なり、肝硬変やB型/C型肝炎ウイルスなどとも関係なく発生します。血中αフェトプロテイン値の上昇もないことの方が多いです。健康な肝臓に発生するため、多くが手術可能で、予後は肝細胞がんよりもよく、長年にわたり再発しない患者も少なくありません。
胆管細胞がん:胆管細胞がんは、肝臓の中で発育しますが、胆管上皮から発生する腫瘍です。中国では肝細胞がんより多く見られ、肝吸虫の寄生が原因の一部であるとも考えられています。また、潰瘍性大腸炎や硬化性胆管炎の人は胆管細胞がんになる可能性が、普通の人よりも高いと言われています。予後はあまりよくありませんが、腫瘍が小さく他に転移などがなければ、手術で切除できることもあります。
肝芽腫:肝芽腫は、家族性腺腫性ポリポーシスと同時にみられる原発性肝癌がんです。逆に家族性腺腫性ポリポーシスのない人では稀です。小児にも発症することがあり、予後はあまりよくありません。
血管肉腫:自然に発生することは稀です。殆どの血管肉腫が工業生産される塩化ビニルモノマーなど特定化学物質の曝露によるものです。
類上血管内皮腫:良性腫瘍に分類されていましたが、転移したり浸潤したりと、悪性腫瘍と似た経過をとるため、現在では悪性腫瘍に分類します。腫瘍が小さいうちに早期発見されれば、予後は比較的良好です。
転移性肝がん
転移性肝がんは、原発性肝がんよりも頻度が高く、消化管がん、乳がん、肺がん、膵臓がんが肝臓に転移したがんとして発見されることもあります。
肝臓は肝動脈と門脈の二つの血管から栄養されており、血管の豊富な臓器であるため、血行転移(血行に乗ってがんが転移するもの)がとても多いのです。特に消化管に集められた栄養は門脈を通って肝臓に届けられるため、消化管からのがんの多くは肝臓に転移します。
転移性がんなので、予後はがんの原発である臓器の状態(例えば、胃がんなら胃がんの状態)にもよりますが、あまり良くはなく、治療は緩和療法が主になります。
まとめ
長々と書いてしまいましたが、「肝腫瘤というだけでは、何も言えない」「せっかく見つかったのだから、検査をして、その肝腫瘤が何なのか診断をつけなくてはならない」ということがお分かりいただければ、この記事を書いた甲斐があるというものです。
健康診断で見つかった肝腫瘤であれば、治療できる可能性は高いです。しかし、次のステップである精密検査をうけなければ、その肝腫瘤が何なのかすら分かりません。心配しすぎず、楽観しすぎず、粛々と次のステップを踏み、安心できるものであれば1日も早い安心を、治療の必要のあるものであれば1日も早い治療開始ができますよう希望しています。
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