手術した後に熱が上がってくると心配ですよね。不安を抱えながら手術に臨んだ後、発熱したら「もしかして術後の経過が良くないのではないだろうか?」と誰もが悩んでしまうのではないでしょうか。
しかし、手術後の発熱には、心配する必要のない『良い熱』と、医師の受診が必要な『悪い熱』とに分けられるのです。『良い熱』と『悪い熱』とは一体何でしょうか。そもそも手術後に発熱する場合があるのはなぜでしょうか。
まずは発熱するメカニズムについて、ご説明してその発熱の意味について知っていきましょう。基本的に手術後には入院で1日〜1週間ほど安静にするので看護師さん(ナース)や医師の先生がついてくれていると思いますが、もしかしたら日帰りの治療の場合でも時に発熱が発生する事もあるかもしれません。
そんな時に慌てなくていいように、発熱が発生する原因と正しい対処法について紹介していきます。
発熱のメカニズム
まず通常の発熱についての話から始めていきます。どうして人の体は、発熱し高温になってしまうのでしょうか?
その意味とメカニズムから紹介していきます。
発熱は体を守る防御反応
発熱、体温の上昇は、感染症や外傷から身を守る生体防御反応です。不快感をもたらしますが、約41.1℃以下の場合、発熱自体は危険なものではありません。
体内に侵入していた菌やウイルスなどは体に侵入してから増殖を始めます。これに気づいた白血球がウイルスに対する攻撃を発すると同時に神経が脳に侵入を伝え、脳は体に発熱の命令を下します。
体内のタンパク質などは41度までの温度に耐えることが出来ますが、ウイルスなどは38度以上の温度では活動力が著しく低下するので、この働きで体でのウイルスの増殖を抑えて菌を死滅させます。
ですので、解熱剤を無闇に使用することは有効ではないと言われる理由はここにあります。確かに熱を下げると楽になりますがウイルスを死滅させることが遅れてしまうので結果的に症状が長引いてしまう事に繋がるのです。
感染症の発熱のメカニズムについて
ウイルスなどが体内に侵入して、白血球との戦いが始まると体内には、発熱を引き起こす物質、パイロジェンやサイトカインと言った物質が生成されます。これらは体内、体外のどこでも作られます。
体外で作られたパイロジェンは体を刺激して体内のパイロジェンの放出を促すことによって発熱を起こします。
更にサイトカインは血液に乗って脳に到達し、メディエイタという信号情報を視床下部に出して脳から体の各部位に発熱しろ!との信号を発します。この内因性発熱物質と外来性発熱原の働きによって各部位の筋肉を超振動させて体の水分を温めて熱を発します。
更に汗腺を閉じて汗の放出量を減らして、熱が外に逃げないようにも働きかけて効率よく短時間で体温を上昇させていきます。
これが、通常の感染症などによって発生している発熱のメカニズムになります。では、手術後の発熱はどんな原因で起こるのでしょうか?
手術後に発熱について
手術後に内蔵や皮膚を切るなどの外傷を受けます。これらの傷や出血をきっかけに、修復している間に発熱が発生してしまう可能性があります。
この手術後の発熱の原因について紹介していきます。
手術後に発熱が発生する原因
手術をすれば、大なり小なり体に切り傷がつけられます。そうすると、傷を治そうとして、白血球体が集まってきて、傷を治す他の細胞を呼んできたりしてさまざまな働きを活発にします。
その際、白血球は高温のほうが働きやすいので、調節機能が働いて体温が上昇するのです。つまり、これは回復のために必要な発熱なのです。
こういった場合に出る熱は全く心配する必要のない『良い熱』で、侵襲熱(治癒熱)、吸収熱などが挙げられ、感染症とは無関係です。
しかし、何らかの病原菌に感染して起こったり、薬剤の服用による『悪い熱』が発生する場合もあります。この場合は速やかに看護師に異常を知らせたり、専門家の医師の診察を受けに行く必要があります。
では『良い熱』と『悪い熱」とはどんな原因で起こり、どんな特徴があるのでしょうか。まずは『良い熱』についてご説明しましょう。
手術後の『良い熱』について
手術が終わってホッとした途端、熱が出ると不安になると思いますが、感染症以外が原因で起こる『良い熱』は心配ご無用です。
原因別に侵襲熱(治癒熱)と吸収熱に分けられます。どちらとも体が元の正常な状態に戻すため、細胞が活性化して起こる発熱ですが、その原因と特徴には違いがあります。見ていきましょう。
侵襲熱(治癒熱)
侵襲熱(しんしゅうねつ)とは、その名の通り、手術による侵襲によって組織が破壊されたことから、その局所で炎症が起こり、細胞間情報伝達分子(サイトカイン)が産まれて起こる発熱のことです。
体が元の状態に治すために起こる発熱であることから、治癒熱(ちゆねつ)とも呼ばれています。
侵襲熱(治癒熱)の特徴は2つあります。
- 大きな手術であればあるほど、高熱になることが多い。
- 発熱しても、手術後2、3日すると、解熱する場合が多い。
この熱が発生するメカニズムとしては、白血球がウイルスと戦っていたのが、傷口の修復のために働いているという違いだけで、白血球がサイトカインやパイロジェンなどの物質を発生させることは変わらず、その後も視床下部に到達してから発熱信号を送るという流れは同じになります。
ですので熱も38度以上の高熱になるということは稀でしょう。
吸収熱
吸収熱とは、全身麻酔を打って手術をした場合、浸出液や壊死組織の吸収をするために起こる発熱のことです。
吸収熱は、全身麻酔を打った患者さんは高い確率で起こりやすく、手術後に微熱が出て、48時間後にピークを迎えます。時には40℃を超えてしまうこともあります。
体などが強く痛み、手術後で点滴や尿道に管を通しているなどをしているので、寝返りが打てずに辛い思いをするでしょう。辛い場合はナースコールで看護師さんを呼んで補助してもらいましょう。
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以上、ここまで『良い熱』についてご説明してきましたが、どんな体質の方でも、手術した後に熱が出るのは不思議なことではありません。心配せず、安心してゆっくりと養生していれば、自然と熱は下がっていくので大丈夫です。
しかし、心配しなくてはならないのは『悪い熱』が出た場合です。次に『悪い熱』についてご紹介していきましょう。
手術後の『悪い熱』について
一般的に手術後3~4日頃に出る熱は、感染症による『悪い熱』である可能性が高いので注意が必要です。
合併症などを引き起こすなど病状が悪化する前に、手術創の感染や、点滴や尿管からの感染など、出来るだけ早く原因を突き止めて、ただちに傷の処置や管の入れ替えなどをしなくてはなりません。
では、こうした感染症による『悪い熱』はどういった感染経路で起こって、どのような症状が出るのでしょうか。主な感染症には創感染、カテーテル感染症、手術後肺炎、下痢症などが挙げられます。
まずは『悪い熱』を出すそれぞれの感染症の原因や治療法についてご紹介していきます。
創感染
一般的には手術中に傷が汚染されることによって感染します。
手術した臓器についている常在菌や循環障害、死腔(気道のうちの血液とガス交換を行わない部分が残してしまった場合)、創部の血腫、ドレーン・チューブ類の挿入などが感染原因となります。
手術後に3日後から発熱が発生し、傷口に痛みが発生する創痛が発生します。はじめに良い熱が発生した後に、この熱が発生する場合があります。
ですので手術後から5日間ほぼ継続的に発熱が起きている状態なので、非常に辛い状態になります。
縫合不全
手術が終了して患部を縫合する際にそれが不充分であることにより、出血や壊死が発生して、発熱が出てきます。
一部的に癒合が行われていない場合や全部が完全に開いている状態まで状態は様々です。術後に一旦熱が発生してから1週間ほどの間を開けてから熱が再発生します。傷口の麻痺や痛みなどが強く発生し、苦痛を伴います。
特に発生しやすい手術としては腸や胃などの消化器官の縫合を行う手術になります。
カテーテル感染症
主なカテーテル感染症として、手術前に挿入される尿道カテーテルによる感染症が挙られますが、他にも最近の手術では、中心静脈カテーテル、IVHカテーテル、動脈カテーテル、新生児に対しての臍カテーテルなど、血管内カテーテルが多用されるようになってきています。
しかし、カテーテルは体にとって異物ですし、細菌は異物の表面に付着するという力を持っています。付着した細菌は菌対外多糖類やフィプリン、血清タンパク、血清などの生体産生物質を産出して、バイオフィルムを形成し、カテーテル表面に菌を定着させます。
そこで特有の細菌叢を作った後、菌を増殖させ、血中の持続的な排菌も起こします。さらに他の場所で、菌血症が起こった時の細菌がカテーテルに付着してしまう場合もあります。
カテーテルが原因での感染症の治療法につきましては、感染症が疑われる場合、まず血管系に挿入されている、すべてのカテーテルや医療機器類を抜去します。
その際、発熱からカテーテル抜去までの時間が72時間を超え、体温が39度以上で白血球の数が1万個以上になった場合は重症化の危険がかなり高くなりますから、カテーテル抜去が何よりも急がれます。
カテーテル抜去の後も、発熱などの症状が改善しない場合は、血液培養やカテーテル培養結果などによる診断に基づいて適切な治療を行っていきます。
具体的な治療薬としては、カルバぺネム系抗菌薬やバンコマイシンを使用します。
手術後肺炎
手術を受けることは体にかなりの負担をかけますし、手術前の闘病期間が長ければ長いほど、体力は衰えてしまいます。そのため体の抵抗力が弱く、肺炎菌に侵されてしまう危険性が高まります。
全身麻酔では呼吸を人工的に保つため、気管にチューブを挿し入れます。その際に口腔内にいる細菌が気管にチューブとともに押し込まれてしまい、肺炎に感染してしまう場合があります。
このため、手術前だけではなく、抵抗力の落ちている手術後も口腔内を清潔にケアすることが大切です。
下痢症
大きな消化管手術を受けた後、2~5日頃に起こる術後感染症腸炎のことです。
下痢、発熱に加え、腹部の膨張感や嘔吐などの症状を伴い、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。
以上、感染症による『悪い熱』についてご説明しましたが、他に感染症以外の原因による『悪い熱』には薬剤の服用によるものもあります。
薬剤熱
薬剤を服用している方で、容態が比較的安定し、脈にもさほど問題がなく、CRPなどの炎症反応が高くない場合に疑われます。
大体は薬剤の服用を中止すれば、3日以内に解熱しますが、以下に書き記した薬剤を服用している方は注意して下さい。
- βラクタム系抗生剤
- 抗不整脈薬
- サイアザイド系利尿薬、ループ利尿薬
- サルファ剤
- アロプリノール
- フェニイン、カルバマゼピン
さて、病気を治すために受けた手術なのに、手術したがために細菌に感染してしまったとしたら、一体何のために手術をしたのか、わからなくなりますよね。
残念ながら、創感染やカテーテル感染は患者側で防ぎようがありませんが、他の感染症については自己努力で感染するリスクを減らすことができます。次にご紹介していきましょう。
病院内感染症
病院内感染症はその名の通り、病院内の感染者が保持している菌やウイルスから感染が拡大していく問題になります。
病院には病原体が多様に集まっていることと、手術や薬の投与などで免疫力が低下している患者が多く存在するので、病院内感染症は発生しやすい環境だといえます。
特に同室内に感染症などを患っている患者が居れば、そこから菌をもらってしまい、感染症を発生させることもあります。
咳などを伴う感染症の場合、体に響きますし、治療部位によっては大きな負担となります。手術後には特に免疫力が低下しています。
体の傷の治癒に体力を使っているますし、痛みで寝られずに寝不足などになっているとより免疫力は低下します。そのことを意識してしっかり病院内感染症を予防していきましょう。
手術後『悪い熱』を出さないための予防法
長期にわたる闘病生活や手術後は体の免疫力が非常に低下していますので、何らかの病原菌に感染し『悪い熱』を出しやすくなります。
そこで、手術前には以下のことをしっかりと守りましょう。
- うがいと手洗いはきちんとする。
- 手をアルコール消毒する。(どこの病院にも置いてあります)
- 歯をよく磨いて、口腔内を常に清潔にしておく。
当たり前のことですが、これらを怠ると感染症になるリスクがますます高くなってしまいますので、自分で出来ることはきちんとしておいて下さい。もちろん手術後も清潔を保ちましょう。
手術後の『良い熱』と『悪い熱』の見分け方
さて、手術後に出る『良い熱』と『悪い熱』についてご紹介してきましたが、どちらの熱なのか判断に迷うことがあるかと思います。そこで『良い熱』と『悪い熱』の特徴の違いについてまとめてみました。
『良い熱』だと考えられる場合
- 手術後、早いうちに発熱する。
- 初めは微熱で、48時間後にピークを迎える。
- しばらくすると解熱する。
『悪い熱』だと考えられる場合
- 手術後、3~4日頃に起こる発熱
- 『良い熱』が一旦下がって再び上がってきた時
- 発熱が長引く場合
以上のように『良い熱』と『悪い熱』の主な特徴について書きましたが、『良い熱』の特徴に当てはまるからと言って決して過信しないようにして下さい。自己判断は禁物です。
手術後、発熱に限らず不調を感じた場合は、必ず医師の診察を受けるようにして下さい。
まとめ
手術後の発熱について、『良い熱』と『悪い熱』があることがおわかりになりましたでしょうか。
手術に不安はつきものです。たくさんの不安を抱えながら手術に臨み、やっとこれで病気から解放される!と思っていたら、何だか調子が悪い、熱が下がらない!となってしまうと、微熱であったとしても、当然心配になることでしょう。
しかし、手術後の発熱は全く不思議なことではなく、正常な状態に戻すための生体防御反応である場合もありますので、落ち着いて医師に症状を詳しく伝え、診断を仰ぐようにして下さい。手術後の経過が順調でありますようにお祈りしています。
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