自己免疫疾患の一種でもある強皮症(きょうひしょう)という疾患をご存じでしょうか?病状が進行し、最悪の状況に陥った場合は生命に関わるとも言われる難病です。
医師からの診断を受けた人は、病気から目を背けるのではなく、詳しい症状や治療法を理解して、これから病気と上手に付き合って生きていく方法を見つけてみてください。
この記事の目次
強皮症とは?
強皮症とは、皮膚や内臓などの体組織が硬化してしまう病気で、膠原病の一種です。強皮症には「全身性強皮症」と「限局性強皮症」の2つのタイプがあり、両者は全く異なる疾患です。全身性強皮症は、皮膚に加えて内臓の硬化も伴い、肺や腎臓などの臓器にも障害をもたらす病気です。病状が深刻になることが多く、生命にも関わるケースもあります。
一方の限局性強皮症は、内臓の硬化は無く、皮膚までに症状が留まるのが特徴です。全身性強皮症とは違い、皮膚疾患の一種なので生命を脅かされる心配はありません。限局性強皮症は膠原病のひとつではないので、ここでは全身性強皮症(以下、強皮症とする)を詳しく見ていきましょう。
強皮症は、国からも難病指定されている病で、現在国内におよそ2万人の患者がいると言われています。患者は圧倒的に女性が多く、男性1に対して女性9の割合で、発症年齢は30~50代に多く見られると言われています。
まず、手の指先が浮腫み、皮膚がこわばる皮膚硬化症状が見られ、関節の痛み、さらに進行すると内臓など臓器にまで症状が及ぶまでに進行していきます。以下で、詳しい症状を見ていきましょう。
強皮症の初期症状からの進行の仕方
初期の段階で体への異変を感じ、どのように症状が進行して、どんな変化が体に現われるのか、詳しく見ていきましょう。どの病気でも言われることですが、強皮症に関しても発症年齢や患者の体質により、症状の程度や進行のスピードは大きく変わります。下記はあくまでも大まかな一例として参考程度にしてください。
まず、発症したばかりの初期段階では、指先や腕の皮膚が浮腫んでいるような違和感を感じる「浮腫期」があります。次に、浮腫みに加えて皮膚の表面が強張っている感じがあり、皮膚がつまみにくくなる「浮腫性硬化期」へと進行します。
その後は、明らかに皮膚が固くなったと感じるようになり、皮膚の表面に光沢が帯びる「硬化期」を迎え、最後に皮膚の硬化は改善されるも、シワが目立った状態になる「萎縮期」へとなります。
この4段階の進行と共に、内臓など体の中心部への硬化症状も現れます。生命に関わる難病と言われる病気なので、患者の中には進行が急速で内臓硬化も見られ、発症後数年で命を落とすケースもあると言われています。
しかし一方では、発症後数年で病気の進行が止まり、命の危険が全く伴わない患者も中にはいるのです。現代の医学の力を持っても、進行の程度を予測するのは難しく、主治医の指示のもと治療していくことが大切です。
強皮症の症状
ここでは、強皮症の主な症状をまとめました。どんな症状があるのか、詳しく見ていきましょう。
レイノー現象
レイノー現象は、強皮症を発症した9割の患者さんにみられる症状で、一番最初にでる症状とも言われています。
この症状は、洗い物などをして冷たい水に触れたり、冬に気温が低い屋外に出たり、エアコンの冷気を浴びるなどの寒冷刺激に加え、精神的に緊張状態が続いた時などに、手や足の指先が血行障害を起こす現象です。まず、指先やつま先の肌が白く変色をして、その後紫色に変色を重ねて、最後に赤くなって元の肌色に戻るという変化を辿ります。白から紫色に変色を重ねる際にしびれや痛みなどの症状を伴うため、この際に単なる冷えではないと、体の異変に気が付く患者が多いでしょう。
日常生活で起こるレイノー現象は、快適な生活を確保するためにも対策をして回避する事が必要です。対策として最も重要なのは、寒冷刺激を受けないことです。外出時はもちろん、防寒対策は必須です。外出の際は、季節問わず携帯カイロを持ち歩くようにして、冷えた部分をすぐに暖められるようにしましょう。また、料理や洗濯など家事をする際は、冷水ではなくお湯を使用し、冷蔵庫から物を出し入れする際は手袋をしましょう。また、緊張やストレスで体温が下がらないよう、日々リラックスして過ごせるよう心がけましょう。そして、強皮症患者にとって血行を悪くする喫煙は大敵です。タバコはやめましょう。
対策をしても発症してしまった場合は、カイロで患部を暖めたり、ストレッチやマッサージで血行を良くするなどをして対処しましょう。
皮膚症状
皮膚症状は、強皮症の代表的な症状です。指先やつま先など、末端の皮膚が硬化し始め、徐々に体の中心部に向かって硬化の進行が進んでいきます。軽症の段階では、皮膚がつまみにくくなる程度ですが、進行が進むと皮膚が突っ張り、表面に光沢がある状態になります。中には顔面が硬化するケースもあり、その場合は表情にも変化があるため、目が十分に閉じられなくなることもあります。
また、手足に血行障害が起きやすい強皮症患者は、患部に潰瘍が生じることも多いと言われています。とくに、寒冷刺激を受けやすい寒い季節には、潰瘍が発症する可能性が高くなります。もし潰瘍が出来てしまった場合は、冷えている箇所を暖めること、また潰瘍が出来た患部を消毒して清潔に保つことが重要です。症状が進行している場合は、抗生物質入りの軟膏や、抗生物質の服薬が必要になる場合もあります。医師に相談しましょう。
他にも、手足や顔面などに、赤アザのような斑点ができたり、皮膚硬化が足の裏に起きた場合は、硬化した皮膚が歩行時に擦れて「うおのめ」や「たこ」ができることもあります。このように、皮膚硬化の症状が強くなると、皮膚が乾燥して激しいかゆみを伴うケースもあります。その場合は、医師に相談して軟膏やクリーム、内服薬など、かゆみを抑える薬を処方してもらうといいでしょう。
関節症状
肘や膝、肩などの関節に痛みを伴うケースも多いでしょう。硬化が激しいと、指の関節が曲がらなくなることもあります。関節を意識して、全身ストレッチを日常的に行うことをおすすめします。
強皮症の合併症
強皮症を患うと皮膚硬化が起こりますが、これにより臓器内の血流が悪くなり、内臓にも硬化症状が起きるようになります。考えられる合併症を、詳しく見ていきましょう。
食道の硬化(逆流性食道炎)
逆流性食道炎は、軽度の強皮症患者にもみられる内臓病変のひとつです。硬化により食道の働きが阻害され、胃酸が食道に逆流することから発症します。胸やけなどの症状が特徴です。
食道と同時進行で、腸が硬化することもあります。その場合、正常な排泄機能が阻害されるため、下痢や便秘を伴います。
肺の硬化
肺が硬化することもあります。通常、肺は呼吸するたびに拡張と収縮を繰り返し、体内の酸素と二酸化炭素量の調整を行っています。しかし、肺が硬化することにより正常に動かなくなると、酸素と二酸化炭素の交換が正常に行われないため、息苦しくなってしまうのです。
合併症の中でも、肺の硬化は精密検査でしか発見できないため早期発見が難しいと言われています。息苦しさに違和感を覚えつつも、そのまま放置して生活をしていると、肺の血圧が高くなり肺高血圧症を引き起こすケースも稀にあります。呼吸に違和感を覚えたら、肺への合併症を疑いましょう。
心臓の硬化(心不全)
肺の硬化が進行すると心臓への負担も大きく、心不全に至るケースもあります。また、心臓の筋肉が硬化をした場合は、正常に鼓動を打てないため、不整脈に注意が必要です。
詳しくは、心不全の原因って?引き金となる病気を知っておこう!を読んでおきましょう。
腎臓の硬化
腎臓の硬化が進むと、腎臓の血管が狭くなり高血圧になります。頭痛やめまい、突然胸部が痛むなどの自覚症状があります。
さらに、全く排尿が出来ないなどの症状が出ることもあります。自覚症状があるので気が付かないケースは少ないですが、適切な治療を行わずに放置すると腎不全に陥る場合もあるので気を付けましょう。
シェーグレン症候群
硬化症状と共に現れるのが、目や口の中などにひどい乾燥を引き起こすシェーグレン症候群です。眼に症状が現われた場合、涙が分泌されないため眼が乾き、ゴロゴロとした異物感を感じたり、まばたきすることも出来ないくらい乾燥します。
また、口腔内に症状が現われた場合は、口の中がカラカラに乾きます。
強皮症を引き起こす原因
強皮症の原因は、有能な科学者や医学者によって今もなお研究が続けられていますが、未だ原因究明には至っていないのが現実です。しかし、原因として可能性が考えられることもいくつかあります。
例えば、約9割の強皮症患者の血液中には、自らの細胞核と反応する「抗核抗体」という成分が検出されることが分かっており、これは健常者の血液中にはほとんど存在しない物質です。このことから、強皮症患者の体内にある「免疫」に、異常があるのではないかと言われています。一方では、強皮症患者にはレイノー現象が発症することから、血管に何らかの障害があって発症するのではないかとの考えもあります。
いずれにしても、明確な原因は不明です。しかし、原因と同様、強皮症を発症する引き金となるものもいくつか挙げられているのです。
例えば、「エポキシ樹脂」や「ビニルクロライド」などの物質に、長年接触し続けたことが引き金となり発症するという説があります。また、美容形成手術でシリコンを体内に注入したことが原因で、強皮症が発症することもあると言われています。これは、術後すぐではなく、10年以上の時を経て、発症するケースもあるようです。
しかし、原因も引き金となる事柄も、すべて明確なものではありません。参考程度にしましょう。
強皮症の検査方法
強皮症の疑いがある場合、また自覚症状がある頃には皮膚の硬化が見られる場合が多いです。そのため、皮膚硬化の症状が出ている場合は、強皮症という診断に至るまでそう難しくはありません。しかし、症状がまだはっきりと出ていない場合は、専門医の元で検査を受けない限りは診断することは困難で、見落とされるケースは少なくありません。
さて、強皮症の検査はどのような方法で行われるのでしょうか。まずは、問診や診察が行われるので、自覚症状の有無、詳しい症状を医師にしっかり伝えましょう。問診や診察の段階で皮膚の硬化も見られる場合、内臓病変も伴っているケースが多いため、血液検査や尿検査はもちろん、皮膚生検、X線検査、心電図など多くの検査を行うことになるでしょう。
そして、患者ごとに進行の程度や症状の現れ方が違うため、強皮症と診断した後は、皮膚硬化や内臓病変がどの程度あるのかをはっきりさせることが重要です。中でも、内臓病変の詳しい検査には至りませんが、皮膚生検と血液検査は、強皮症と診断するためには必要な検査だと言われています。皮膚生検、血液検査の詳しい方法を見ていきましょう。
まず皮膚生検は、症状の重さに限らず、皮膚硬化の有無、またはどの程度症状が進行しているのかを判断する上で重要な検査です。この検査は、皮膚の一部を切り取り、顕微鏡で見て診断します。皮膚を切り取るというと痛そうなイメージがありますが、局所麻酔をかけるため痛みはありません。
血液検査では、抗核抗体の検査を行います。健常者にはほとんど見られませんが、強皮症のおよそ9割の患者は、抗核抗体の反応が陽性になります。抗核抗体にはいくつかの組織がありますが、その中でも「抗セントロメア抗体」、「抗U1RNP抗体」、「抗RNAポリメラーゼ抗体」、「抗トポイソメラーゼ I抗体」等が陽性になります。抗核抗体の検査は、強皮症の確定診断に必要不可欠です。
内臓病変の疑いがある場合は、これらに加えて多くの検査を要しますが、近年は検査の技術が進歩しているため、痛みを伴わない検査がほとんどです。検査は、症状を判断したり治療法を確定するために重要なことです。医師の指示に従い、積極的に受けましょう。
強皮症の治療方法
強皮症の場合、現れる症状によって治療法は様々です。ここでは、代表的な治療法、治療薬をまとめました。
皮膚硬化が見られる場合の治療薬
強皮症の多くの患者が自覚症状として伴う皮膚硬化。これを緩和するために、ステロイドの内服、外用薬が使用されるでしょう。ステロイド薬は副作用を心配される方もいますが、安心して服用できるよう、医師から詳しい説明を聞くといいでしょう。
血管拡張剤
およそ9割の患者が発症するレイノー現象を緩和したり防止するため、しもやけの際に使われることもある「ビタミンE」から、血圧を下げるときに使用される「カルシウム拮抗剤」まで、多種の血管拡張剤が使われます。
副腎皮質ホルモン
副腎皮質ホルモンは、比較的症状が軽い強皮症患者に使用されることが多い薬です。炎症症状や皮膚硬化の改善にも期待できます。しかし、服薬する錠剤の数や体質により副作用を伴う場合もあるため、患者の体力や年齢をみて処方されることが多いでしょう。
肺高血圧治療薬
強皮症の合併症として肺の硬化症状が現われた場合、肺高血圧に至り、息切れなどの症状が出ます。その場合は、血管を拡張したり、血栓ができるのを防ぐための内服薬を使うことがあります。スタンダードの「ベラプロストナトリウム」から、最新薬「エンドセリン受容体拮抗剤」などの肺高血圧治療薬が用いられるでしょう。服薬することで肺の血管を拡張させ、体質に合えば効果を発揮すると言われています。
肺以外の臓器病変を起こしている場合は、例えば消化器の場合は消化器系薬剤、腎臓の場合は血圧を下げる薬剤など、病変を起こしている臓器や症状の程度に合わせて、様々な薬剤を用いて治療を行います。
日常生活を送る上での注意点
強皮症患者の大半は、通常の生活を送る上で問題なく暮らせます。しかし、健常者とは違って、多少体力的に無理をしても働いてみたり、趣味の水泳を楽しんだり、冷たいアイスを食べる……といった行動はできません。強皮症患者が日常生活を送る上で注意する点を、以下にまとめました。
・血流を悪くする喫煙は絶対にダメです。肺への影響もあり、内臓病変の危険も伴います。
・夏のエアコンが効きすぎた部屋や寒い季節の時期は、必ず保温しましょう。携帯カイロを持ち歩いたり、手袋や靴下は必須です。
・体温が下がるため、不規則な生活や強いストレスを感じる生活は避けましょう。働いている患者の場合、職場の理解が必要です。環境を整えましょう。
・水泳など、体が冷える可能性がある行為は基本的にNGです。ただし、温水プールでの水泳の場合は、場合によっては可能です。始める前に必ず担当医に相談しましょう。
・患者の大半は主婦です。食器洗いや浴室などの掃除の際には、水ではなくお湯を使いましょう。また、氷を使ったり、冷蔵庫や冷凍庫から物を出し入れするだけで症状が現われる場合もあります。手袋をするなどして、回避する努力をしましょう。
・風邪など、強皮症とは別の病気で受診する場合、「強皮症の診断を受けたこと」と「飲んでいる薬」は必ず申告してください。
・強皮症の場合、血流に障害を抱えているケースが多いため、小さな切り傷でも治りにくいです。傷が出来た場合は、しっかり消毒をして傷口を清潔に保ちましょう。
・少量のアルコールであれば、血行を良くするので問題ありません。しかし、内臓病変が消化器症状に現れている患者は1滴も飲んではいけません。
以上、考えられる注意点を挙げてみましたが、詳しいことは担当医に相談しましょう。
まとめ
完治させる病というよりは、病状を進行させずに、どのようにこの病と上手く付き合って生きていくかが重要になる疾患とも言えます。
そのためには、理解をして、しっかりサポートしてくれる協力者が必要です。そして、安心して治療を受けられるよう、担当医と厚い信頼関係が築けることを願うばかりです。