体内で分泌されるホルモンは、身体機能や内臓機能を重要な物質です。例えば男性ホルモンは男性らしい体つきを作りますし、女性ホルモンは女性らしい体つきを作ります。
そんな体の状態を司るホルモンの病気の一つに巨人症があります。巨人症とはその名の通り、体が大きく育ってしまう病気。100万人に数人の割合ととても低い確率で発症します。
では、巨人症とはどのような病気なのか。原因や症状、治療法について詳しく見ていきましょう。
巨人症とは?
巨人症とは、冒頭で述べたように著しく体が発達してしまう病気です。小児と成人で区別され、小児の場合は巨人症、成人の場合は先端巨人症といわれます。
小児の場合では、同世代の子供と比べ、突出した成長をします。中学生程度の年齢で身長が180センチ以上あるなんてこともあり、最終的には2メートルを超えることもあります。
一方、成人に発症する先端巨人症は部分的な成長が顕著に現れます。急に靴のサイズが合わなくなったり、指輪をはめることができなくなった。このような症状は先端巨人症の特徴です。
巨人症はただ単に身長が伸びすぎたり、体の末端部位が大きくなるだけではありません。大きくなる分、内臓に負担をかけることがあり、症状によっては注意が必要です。
巨人症で大きくなる部位とは?
巨人症の患者は具体的にどの部位が大きくなるのでしょうか。以下の部位があげられます。
身長
先も述べたように小児の巨人症では、身長が顕著に伸びます。同年代の子とは比べ物にならないほどの伸び率で、巨人症と診断するのは難しくありません。
また、小児の頃に発症した患者は、成人後も身長が伸び続けます。多くの場合、2メートルを超え、伴って関節や内臓機能に大きな負担を与えます。
眉弓部の肥大
眉弓部とは眉のこと。弓のような弧を描いている部分です。巨人症ではこの部分の骨が発達し、隆起、肥大がみられます。より、顔の掘りが深くなるイメージでしょうか。
鼻の肥大
巨人症の特徴として、顔を主とした部位の肥大がみられます。それは眉弓部だけではなく、鼻にもあらわれます。時間をかけて肥大するため、本人や身近にいる人は変化していることに気づきにくいといわれています。
手足の肥大
巨人症では顔部の肥大だけではなく、手足の肥大も顕著に現れます。冒頭でも述べたように靴が履きにくくなったり、指輪が入りにくくなるなどの症状は要注意です。
顎の肥大
骨の発達が促進され、顎の肥大が起こります。肥大に伴って、噛み合わせが悪くなり、伴って歯並びも悪くなることもあります。
唇の肥大
他の肥大症状と同様、唇の肥大も起こります。ホルモン分泌が過剰になっているため発症します。
巨人症の原因とは?
巨人症の原因は成長ホルモンの過度な分泌です。体の筋肉や骨といった組織を成長させるホルモンが出すぎてしまうと、巨人症を発症してしまうのですね。
成長ホルモンが過度に分泌されてしまう原因は、脳下垂体と呼ばれる部分に腫瘍ができてしまうためです。脳下垂体とは、脳のすぐ下に位置し、ホルモンの分泌を司っています。
脳下垂体から分泌されるホルモンの量は通常ならきちんと調整されています。しかし、腫瘍によってコントロールができなくなってしまうと、巨人症を始めとする様々な症状を発症してしまいます。
脳下垂体の働き
脳下垂体にできた腫瘍が巨人症を誘発する。これは脳下垂体がホルモン分泌を司る器官だからです。成長ホルモンだけではなく、以下のホルモン分泌にも関わっています。
副腎皮質刺激ホルモン
「副腎皮質刺激ホルモン」とは、少々ややこしいですが「副腎皮質ホルモン」の分泌を促すホルモンです。脳下垂体が刺激ホルモンを分泌、副腎へホルモンが届くと副腎皮質ホルモンを分泌されます。
副腎とは「腎」という漢字が使われるように、腎臓の上部にある臓器で、三角形の形をしています。臓器そのものは小さいですが、副腎皮質ホルモンを分泌するという大きな役割があります。
副腎皮質ホルモンは代謝や体内塩分量・水分量を調節するといった役割があります。生命維持に欠かせないホルモンであり、非常に重要な成分といえるでしょう。
甲状腺刺激ホルモン
甲状腺とはのどぼとけ前方にある小さな臓器です。縦4センチ、横1センチ程度の小さな組織です。触ってみてもわかりませんが、病気等で腫れるとその場所を目で確認することができます。
脳下垂体から分泌される甲状腺ホルモンはこの甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンの分泌を促します。先ほどの副腎皮質刺激ホルモンと同じような働きですね。
甲状腺ホルモンは体の代謝機能や体温の調整、発汗といった生理現象を司っています。甲状腺ホルモンの分泌が多くなる病気を甲状腺機能亢進症と呼びますが、体の火照りや急激な体重の減少といった症状がみられます。
乳汁刺激ホルモン
その名の通り、母乳の産生を促すホルモンです。また、乳腺の発達なども司ります。このホルモンの分泌が過多になると、妊娠をしていないのに乳汁がでるという症状が起こります。
性腺刺激ホルモン
性器の発達を促すホルモンです。男性であれば精子の形成。女性であれば、生理や月経、妊娠、それに伴う体の形成に作用するホルモンです。
抗利尿ホルモン
抗利尿ホルモンとは排尿を抑制するホルモンです。これにより体内の水分量を調整し、体内の浸透圧や血液量を一定に保つことができます。
オキシトシン
オキシトシンは女性の分娩の際、子宮を収縮させる働きがあります。しかし、役割はそれだけではなく、多岐に渡り、特に感情に作用することがわかっています。
オキシトシンが大量に分泌されると、人は幸せを感じるようになります。人に対して愛情深くなったり、信頼や思いやりといった感情も強くなります。
巨人の症状とは?
脳下垂体にできた腫瘍によって、ホルモンの分泌異常が起き、それが引き金となって巨人症となる。体の生命機能を司るホルモンに異常が起きることは様々な症状を招きます。
では、巨人症では身長の伸びや体の肥大以外にどのような症状が起こるのでしょうか?
高血圧
成長ホルモンの過剰な分泌により、高血圧症を合併することがあります。血圧とは血液が血管壁に与える力のことですが、高ければ高いほど、血管を始め、循環器に負担を与えます。
成長ホルモンは腎臓の近位尿細管と呼ばれる部位に作用することがわかっています。近位尿細管と濾過された血液成分から、さらに必要な成分を再吸収する役割があります。
この際、ナトリウムの過度な吸収が行われることがあります。すると、血液中のナトリウム濃度が上がりますから、これを薄めようとする作用が働きます。その結果、血液量が増大し、高血圧を招くのです。
耐糖能異常
少し聞きなれない症状ですが、巨人症では耐糖能異常が起こることがあります。これは体に入ってきた糖に対して、きちんとした対処ができなくなってしまう状態です。
私たちの体に糖が入ってくると、血糖値が上がります。糖は体のエネルギー源ですから、血中に乗って各細胞へ運ばれ、消費されます。この消費をサポートするホルモンがインスリンです。
しかし、巨人症による成長ホルモン分泌過多が起こると、このインスリンが正常に働かなくなります。成長ホルモンによって働きが阻害されてしまうのですね。結果、血中には糖が残されてしまいます。
血中の糖の値を血糖値といいますが、耐糖能異常を発症するとのそのまま糖尿病に移行することが多いです。ホルモンのバランスが崩れると、連鎖的に病気を招くことがあるのです。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群はその名の通り、睡眠中に一定時間、呼吸が止まる症状です。睡眠中のため、本人に呼吸が止まっている自覚はありません。
巨人症ではしばし舌の肥大によって、喉が塞がれることがあります。これが無呼吸症候群の原因になります。また、無呼吸とはいかなくとも、大きないびきをかくといった症状も起こり始めます。
無呼吸症候群では、一定時間呼吸が止まりますから、一時的に血圧が上がったり、無酸素状態が続きます。これが心臓病の引き金となったり、睡眠の質を下げることにつながるといわれています。
生理現象の異常
脳下垂体には性腺刺激ホルモンを分泌する役割があることをお伝えしました。巨人症の発症は、生殖器に異常をきたすことがあります。
女性であれば生理不順を発症します。周期的な月経が来なくなったり、妊娠をしていないにもかかわらず、母乳が出るといった症状がみられます。男性であれば精力の低下が起こります。進行すると勃起不全を招きます。
巨人症の治療とは?
巨人症の原因はホルモン分泌異常です。ホルモンの分泌さえ正常化できれば、症状は改善されます。では、巨人症の治療はどのような方法があるんでしょうか?
手術
脳下垂体に腫瘍がある場合、外科手術によって摘出する方法があります。これにより、ホルモンの異常分泌を改善し、病気を完治することができます。
腫瘍の摘出が行われると、成長ホルモンの量は正常化します。また、それ以外のホルモンに影響を与えることもなく、ホルモン量が正常に戻ります。
一方で、腫瘍が大きすぎる場合は非常に注意です。ほとんど自覚症状と呼べる症状がないこともあり、検査でわかった時には腫瘍が肥大していることもあるからです。
放射線治療
腫瘍の摘出が手術によって困難な場合、放射線によって腫瘍を除去することがあります。これを放射線治療といいます。腫瘍のみを治療することができ、周囲の脳細胞にダメージを与えることはありません。
術後の治療について
手術や放射線治療によって腫瘍の除去ができたものの、ホルモンに異常がある場合は、その後も薬剤等で治療を続ける必要があります。ホルモンは体の機能を司っており、とても重要な治療といえるでしょう。
例えば脳下垂体から抗利尿ホルモンの分泌が少なければ、頻尿に悩むことになります。そのため、外部からホルモンを注射し、症状を抑えることをします。それは、他のホルモンに関しても同様のことがいえます。
病気の進度によっては、長い付き合いをする必要があるかもしれません。治療によって改善が見られたとしても、油断しないことが大切でしょう。
病気に気づくために
巨人症の発病は非常に稀です。このため、ほとんどの人が自分には関係がないと思っていることも多いでしょう。それは例え症状が出ていたとしても放置するかもしれません。
これからご紹介する兆候が生活の中にみられるようであれば、一度病院へ行くことをオススメします。巨人症ではなくとも、何かしらの異常が起きている可能性があるので要注意です。
指輪が入らなくなった
婚約の時に買った指輪が全く入らなくなった。これは巨人症を疑うポイントです。体重の増減がないにもかかわらず、指や手だけ大きくなっているのは用心が必要です。
靴が入らなくなった
人の足のサイズは成人後、基本的には変わりません。しかし、そんな靴のサイズが今までより大きくなったり、今までの靴が入らなくなったら要注意です。巨人症を疑ってみましょう。
中国の巨人症の女性
1972年に中国の農村で生まれた姚徳芬(ヤオ・ダーフェン)は
のちに巨人症と診断される女性です。幼少期からかなりの食欲があり、11歳の時点で身長が188cmありました。
彼女は身長を生かしたスポーツで活躍したいという思いがあり、バスケットボールの道に進みます。しかし、試合の途中で意識を失います。
原因は脳内に発生した腫瘍やそれに伴う合併症の発症でした。体が過度に成長してしまい、内臓機能や体の構造そのものが弱くなっていたのです。
15歳になるころには身長が198cmと2メートル近くまで成長。しかし、貧しい家庭にあった彼女は手術を受けることができず、そのまま成長し続けることになります。
2000年に腫瘍を摘出する手術を受けるものの、完全に摘出することはできませんでした。一時、成長は止まったようにみえたものの、その時の身長はすで234cm。ギネスブックに登録されるほどの身長となっていました。
その後も、腫瘍は発達していきます。脳神経を圧迫し、視力が低下。ホルモンの欠乏により子宮は収縮していたのです。その他、心機能の低下、脳内の血栓症状もみられました。
ホルモン剤治療も懸命に続けていましたが、2012年、姚徳芬さんは41歳の若さでこの世を去ることになります。
ホルモン異常の病気にはどんなものがある?
巨人症はホルモン分泌に異常が起こる病気の1つです。ポイントは成長ホルモンでした。体の成長に関わる成長ホルモンが分泌されすぎてしまうために起こります。
ホルモンの異常で起こる病気は、巨人症だけではありません。特に脳下垂体の異常で起こる病気は他にもあります。具体的には以下の病気があげられます。
クッシング病
脳下垂体から分泌されるホルモンの中でも、副腎皮質刺激ホルモンが過度に分泌される病気です。先ほど述べた、副腎皮質ホルモンを刺激し、過度な分泌を促します。
症状としては頰の膨らみ、にきびなどの軽度の症状から、高血圧や糖尿病を合併することもあります。うつ病といった精神病も起こすことがあります。
詳しくは、クッシング症候群とは?症状や原因ってなに?治療法と予防方法も知ろう!を参考にしてください。
プロラクチン産生腫瘍
乳腺分泌ホルモンが過度に分泌されることで起こります。脳下垂体に良性の腫瘍ができることが原因で、巨人症やクッシング病と同様です。
プロラクチン産生腫瘍では、性別ごとに症状が異なります。女性では月経が止まり、少量の乳汁が出ます。男性の場合、性欲の低下や視覚異常が起こります。
尿崩症
脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモンが不足することによって発症します。排尿を制御することができなくなるので、頻尿・多尿が起こります。
具体的には1日3リットル以上の尿量が認められます。水分摂取をしなければ、どんどん体重が減っていくため、早急な対応が必要です。
まとめ
巨人症は非常に稀な病気です。慎重が2メートルを超える人と会うことはなかなかありませんよね。また、手足や顔の一部が大きくなる人と会うのもそうそうあるものではありません。
体の状態を司るホルモンは、異常が起きてしまうといとも簡単に身体機能を侵していきます。それは巨人症に限らず、甲状腺機能亢進症や先に述べた病気があげられるでしょう。
ちょっと体の調子がおかしかったり、体質・体型の変化が短期間で起きた。このようなことはもしかしたらホルモンバランスが関係しているのかもしれません。
巨人症である可能性もありますし、そうではない可能性もあるでしょう。どちらにせよ、異常や違和感があるときは、検査を受けたいものです。
多くの人は異常があると思っていても、大丈夫だろうと病院に行くことをやめます。しかし、病気は知らず知らずのうちに進行していきます。それが病気の怖いところでしょう。
継続的な異常、体型の変化。生活を変えていないのにこれらがみられるときは、きちんと病院へ行き、検査を受けるようにしてくださいね。