現代の奇病の一つである、エーラスダンロス症候群という病は、あまり例がないだけに、知っている人もそう多くないと思います。主に皮膚や関節、内臓などにいろいろな症状が見られ、特殊な病気であるが故に、なんら治療法も見つかっていません。
ちなみに奇病というのは、原因や治療法が解らない病気のことで、難病というのは特定疾患といい、治りにくい病気ということになります。
今回はこのエーラスダンロス症候群についてお伝えします。
エーラスダンロス症候群とは?
エーラスダンロス症候群の特徴
これはこの病気を発見した医者の名前がそのまま病名になっています。1901年にエーラス医師、1908年にダンロス医師が発表したことによります。
この病気にかかると皮膚や血管、組織がもろくなってしまいさまざまな症状を引き起こし、その症状も多岐に渡ることが判明しています。そして、その発症する症状には、病状や発症する身体の場所により7つの型に分けられています。
それぞれの症状は複雑で、未だに奇病の一つとされ、その治療法も確立されていないというのが実情です。本当に罹患した人は、運が悪いというしかありません。
ただこの病気も重症度があり、軽い症状ですと平均寿命まで生きながらえることができます。
遺伝性
完全に遺伝性のもので、遺伝子に変異が認められています。その遺伝子は、型によって違い、それぞれ引き継いでしまう率が違っています。つまり、型によっては5分5分であったり、それよりも半分以下であるという状況です。
また、それぞれの型によって、その遺伝性や原因遺伝子が見つかっていないものもあります。これらは、型も分かれていますが、その症状の出方も個人差がかなりあります。
エーラスダンロス症候群の型別の症状や原因、治療方法について
エーラスダンロス症候群は、症状の特徴から大きく分けて7つのタイプが存在しています。タイプによって症状が違うので、ここではタイプ別の具体的な症状の現れ方や原因、治療方法についてご紹介します。
1. 皮膚に症状が現れる古典型
この古典型と呼ばれるタイプは皮膚に症状が見られることが特徴的です。皮膚の表面は特に繊細に出来ているため、比較的にもろくなりやすい部分です。物にぶつかってしまったり、こする程度の衝撃でも皮膚が破れて出血します。
また、傷口が治るのにも時間を要します。傷が完全に治ることは珍しく、細かいしわが傷跡として残ります。この症状のことを、シガレットペーパー様と呼びます。このような古典型のタイプの方は、皮膚をつまんでみると数cm単位という異常なまでに皮膚が伸び、離すと元通りになることが見られます。また、その他の症状として関節を動かせる範囲が異常に広いことも報告されています。
具体的な症状として、出血しやすい(皮膚や歯茎など)、胎盤が早期に剥がれ落ちる、早期破水で早産しやすい、心臓の僧房弁の障害、疲れやすいなどの症状が挙げられます。
原因:
常染色体優性遺伝による、5型コラーゲン遺伝子(COL5A1、COL5A2)、もしくは1型コラーゲン遺伝子(COL1A1)に異常が見られることが原因だと言われています。
治療方法:古典型の皮膚、関節の病状に対しては、激しい運動をしないことやサポーターなどの固定器具を着用して予防対策することが重要です。皮膚が裂けてしまった場合は、範囲によっては慎重に縫合をする必要があります。
2. 関節に症状が見られる関節型
間接型のタイプは関節に症状が見られることが特徴的です。慢性的に足や手の関節に痛みが出たり、肩や膝、あごなどの関節がゆるい為は脱臼しやすいくなります。このタイプはエーラスダンロス症候群の中でも最も発症する率の高い型です。
また、皮膚の症状は古典型と同様に裂けやすく出血しやすい、治りにくいなどの症状が見られる場合はありますが、比較的に軽い症状です。また、古典型と違う点は皮膚を伸ばしても伸びことはないと言われています。
皮膚や関節以外の症状として、心臓の僧房弁の障害、立ちくらみなどの自律神経の症状、過敏性大腸炎などの消化器官異常などが見られます。
原因:
常染色体優性遺伝により発症しますが、その他のことは残念ながら明らかにされておらず、不明です。
治療方法:
関節を衝撃から守る為に、リハビリに用いるような補装具を使用したり、関節の痛みを緩和させる為の鎮痛剤を内服します。
3. 出血や血管破裂症状が見られる血管型
血管型は、血管が破裂しやすく出血しやすいことが特徴のタイプです。このタイプの方は腹部、頭、足などの動脈や消化官、子宮などの内臓器官が特にもろく、妊娠中は子宮が破裂することが可能性が高いです。
その他の特徴として、皮膚は血管が見えるほど非常に薄く皮下出血が繰り返し発生しやすいくなりますが、古典型のように皮膚が伸びたり、関節型のように、関節の可動性が広いことはありません。このタイプの病気を持つ方は幼い頃から、先天性内反足、先天性股関節脱臼、、そ径部のヘルニアや気胸などの症状が見られると言われています。
このタイプの型の70%の成人患者さんが血管や内臓に穴があく、破裂するなどの症状を訴えたと言われ、エーラスダンロス症候群の中でも特に死の危険リスクの高いタイプです。このタイプの患者さんの中で、20歳までに25%、40歳までに80%の方が非常に病状が重い状態に置かれると言われ、このタイプの方の平均死亡時年齢は48歳と危険性の高いタイプです。
原因:
常染色体優性遺伝によるⅢ型コラーゲン(COL3A1)遺伝子の変化が原因で発症します。
治療方法:
定期的に動脈病変のスクリーニングをしたり、進行している病状の場合には血管内治療をしたり、また血圧を下げる作用のあるβ遮断薬(セリプロロール)を服用します。また、内臓や腸管が破裂した場合には手術などが必要になります。
4. 眼の異常や背骨が曲がる後側彎型
後側彎型は生まれて間もない頃に、進行性脊椎後側彎と呼ばれている背骨の異常が現れだします。健康的な背骨を横から観察すると、軽く曲がったSの字の形をしています。しかし、後側彎型の場合は、背骨が後ろに曲がりねじれた状態になります。
また、その他の症状として、角膜異常、非常に強い近視、網膜はく離や眼球破裂などの眼の異常や動脈破裂、筋緊張低下、骨粗鬆症、古典型と全く同じような皮膚の症状が見られる、関節型のように関節を動かす範囲が広いといった症状が起こります。
原因:
常染色体劣性遺伝によるコラーゲン修飾酵素であるLysyl hydroxylase(PLOD)の変化によるものです。父親と母親からの両方の遺伝子に変異があり、それらを組み合わた場合に起きる症状です。両親や他の親族に同じ症状が見られない場合でも、両親のどちらもどちらもこの病気をつくる原因の保因者である場合、生まれてくる子供のみに症状が現れるケースがあります。
治療方法:
皮膚や関節の症状には、古典型と同様の治療方法が用いられます。また、眼球破裂や動脈破裂などが起こった場合は、手術を行う必要があります。
5. 皮膚の収縮や脱臼症状が見られる多発性関節弛緩型
多発性関節弛緩型は皮膚の収縮が異常で、皮膚を引っ張るとお餅のように伸びると言われています。その為、皮下出血が繰り返し起こりやすくなります。全身の関節の可動範囲が強い為、脱臼も繰り返したり、先天性股関節脱臼、脊椎後側彎、軽度の骨粗鬆症、筋緊張低下などの症状が見られます。
原因:
常染色体優性遺伝による、Ⅰ型コラーゲン遺伝子(COL1A1、COL1A2)の変化により発症します。
治療方法:
皮膚や関節の症状には、古典型と同様の治療方法が用いられます。
6.皮膚が柔らかく緩い状態の 皮膚弛緩型
皮膚弛緩型では、皮膚がとても柔らかく緩いのが特徴的な症状で、余っている皮膚がだるんだるんに弛んだようになり、皮下出血を起こしやすくなります。関節の可動範囲が強く見られ、骨粗鬆症を起こしたりもします。
お腹の中にいる胎児の状態でこの病気を持っていると、胎盤の早期剥離が見られ、破水してしまい早産になりやすいかったり、そけい・臍ヘルニアが見られる可能性があると言われています。
原因:
常染色体劣性遺伝による、コラーゲン修飾酵素であるprocollagen Ⅰ N-terminal peptidaseの変化が原因で発症します。
治療方法:
皮膚や関節の症状には、古典型と同様の治療方法が用いられます。
7.新型 - D4ST-1欠損型(古庄型)
新型 - D4ST-1欠損型(古庄型)は上記で挙げた6つの型とは別に、最近になって発見が報告された新型のタイプです。皮膚の症状は古典型や皮膚弛緩型のように、皮膚がもろくて出血したり、皮膚がゆるんだり、皮膚が伸びたり、傷が治りにくいという症状が特徴的です。
全身の関節も緩み、慢性的に手足が痛んだり、脱臼を繰り返したり、外反偏平足・凹足などの足の変形が目立ちます。また、末端早老症と呼ばれる症状を起こし、老化が通常の2倍の速さですすみ、手のひらの部分に深いしわが見られます。
原因:
常染色体劣性遺伝によるデルタマン4-O-硫酸基転移酵素-1(D4ST1)の欠損が原因です。
治療方法:
皮膚や関節の症状には、古典型と同様の治療方法が用いられます。
エーラスダンロス症候群の原因
コラーゲン異常
皮膚などを作ったり維持しているコラーゲンという細胞に先天的な異常が認められます。これらが全般的に結合性が弱く、俗に言う、脆弱性を引き起こす原因となっています。
遺伝性といわれていますが、その遺伝子にもいろいろあり、ある特定の遺伝子だけが異常なのではなくて、それぞれの遺伝子の欠けている部分であったり変異であったりするものが、それぞれの型ごとに違うということです。
ほとんとが不明
型のほとんどが遺伝子の異常ということが原因と考えられていますが、一部の型ではその異常遺伝子が解明されていないというが実情です。これは、それほどこの病気が複雑であり、原因を把握しづらいということを示しています。
エーラスダンロス症候群の治療法と対処法
現代では未だにその治療法は確立されていません。ですから、今行われている対処法に関しては、発症した後にその症状を緩和するという、対症療法ということになります。もしくは症状がひどくならないようにするための予防法ということになります。
関節の脱臼
激しい運動は避けるか、関節を保護するサポーターを使用して運動を行うことで、脱臼を防ぎます。重症の場合は、運動することは禁止となります。
皮膚の過伸展性
皮膚が伸びることに関しては特に何も影響はありません。ただその脆弱性があるゆえに、無理に伸ばしたりして裂けることがありますので、無理な動きには注意が必要です。また、万一怪我をした場合には、縫合することが難しいので、接着テープなどでの対応となります。
動脈解離、破裂など
主に血管型に多いこの症状は、かなり危険を伴います。当然注意が必要なのですが、遮断薬という薬で、その脆弱性を補い、破裂などを起こさないようにする方法が一般的に取られています。
臓器破裂
通常は遮断薬にて、臓器の通常維持に対処しますが、万一破裂という状況になった場合は、やはり手術をするしかありません。臓器破裂は死亡リスクの非常に高い症状です。医師の指示に従う生活習慣を心がけるようにすることが大切です。
内出血
この病気は皮膚の内部が脆く、また皮膚自体が薄い傾向にあります。また、血管自体もその脆弱性のため、軽度の打撲でもあざができたり、内出血を引き起こします。このような状況を避けるためには、止血剤を投与する対処法が取られます。止血剤を投与することにより、内出血はかなり抑えられることと思います。
背骨の変形
脊椎後側彎症に関わる背骨の湾曲に関しては、対処法というには程遠い状況です。手術が可能かどうか、可能であれば手術を行い、手術ができない場合は、コルセットなどで矯正する方法もあります。その対処法が無理であれば、車椅子の利用や寝たきりの生活しかないというのが実情です。
まとめ
なんとも聞くだけで恐ろしい病ですが、その対処法や治療法もほとんどないのにも驚かされます。これだけ現代の医学が進歩しても、手立てがないのは、何とも悲しい限りです。最も遺伝子の異常であれば、対処できない部分がほとんどです。ですが、医師との連携により、できるうることで対処していれば、特定の型以外はある程度の生活を送ることができます。
ただただ、このような病気にかからないように願うことしかないようにも思えます。
関連記事として、
これらの記事も合わせてお読みください!