ドライソケットという症状のことをご存知でしょうか?普通に暮らしていると、なかなか耳にすることのない症状名だと思います。
実は、ドライソケットとは、歯を抜いた後の傷口が塞がらずに、骨がむき出しになっている状態のことを言います。想像するだけで痛みを覚えそうですが、実際に激痛が襲ってくると言われています。
そこで、今回はドライソケットについての概要をまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
ドライソケットとは?
そもそもドライソケットとは、どのような症状のことを言うのでしょうか?
ドライソケットとは?
ドライソケットとは、歯を抜いた後の穴が血液で覆われて血の塊ができず、穴が開いたままとなって骨がむき出しになっている状態のことです。ドライソケットは、抜歯治癒不全または抜歯窩治癒不全とも呼ばれます。
そして、ドライソケットは、主に下の歯列の最も奥に存在する智歯(ちし)、すなわち親知らずを抜いた時に生じやすいとされています。この下顎の親知らずを抜歯した場合に、ドライソケットが発生する可能性は約20%にも達します。つまり、下顎の親知らずを抜いた人の5人に1人はドライソケットになってしまうのです。
通常の抜歯後の治癒過程
本来ならば、親知らずを抜いた後の穴には血液が溜まって、その血液が固まって血の塊となります。ちなみに、抜歯後にできる血の塊のことを血餅(けっぺい)といい、抜歯部分の穴状の傷痕・傷口を抜歯窩(ばっしか)といいます。
血餅が形成されると、その血餅の中に新しい血管が生まれます。そして、その血管の周囲に線維性の細胞が生まれて組織を形成していきます。この組織のことを、肉芽組織(にくげそしき)と言います。
抜歯後1週間程度で肉芽組織ができますが、まだ抜歯窩は窪んでいて、刺激を与えると出血しやすい状況です。そして肉芽組織が最も安定した状態になるには、約2ヶ月程度を要します。
肉芽組織が最も安定した状態になると、肉芽組織の中に仮骨が生まれて、徐々に骨化していきます。肉芽組織の中に骨が完成すると、窪んだ部分で歯肉が盛り上がり歯茎となって治癒が完了します。治癒完了までにかかる時間は、概ね約3ヶ月程度とされています。
ドライソケットの症状
ドライソケットは、抜歯窩に血餅ができず、穴が開いたままとなって骨がむき出しになっている状態のことでした。では、どのような症状が現れると、ドライソケットになったと言えるのでしょうか?
ドライソケットの症状
ドライソケットは、何らかの原因によって血餅が形成されずに、骨がむき出しとなっていますから、基本的に強い痛みを生じます。そして、抜歯後に次のような症状が現れると、ドライソケットを強く疑うことになります。
- 抜歯後、2~3日経過してから痛みが増大してきた
- 痛み止めを服用しても痛みが引かず、しかも1週間以上も長引いている
- 飲食時に痛みが増大する
- 鏡で抜歯窩を確認すると、穴の中が白色に近い色になっている
抜歯後、2~3日経過してから痛みが増大してきた
抜歯後の痛みは抜歯直後、すなわち抜歯の際の麻酔効果が無くなった時がピークであることが通常です。そして、痛み止めの鎮痛剤の服用をしながら、時間を経過するごとに痛みが落ち着いていきます。
にもかかわらず、抜歯後2~3日経過して、徐々に痛みが強くなってきて、耐え難い激痛になってくるとドライソケットを疑う必要が出てきます。
これは、本来ならば血餅で塞がれるはずの抜歯窩が塞がらず、歯を支えていた歯槽骨が露出したままになっているためです。
痛み止めを服用しても痛みが引かず、1週間以上も長引いている
抜歯をすると、歯を支えていた歯槽骨から出血します。そして、その出血から血餅を形成して、肉芽組織になるまで約1週間程度かかります。その間は、鎮痛剤を服用しながらも、徐々に痛みが落ち着いていくのが通常です。
しかしながら、痛み止めが効果を発揮しないほど痛みがある、1週間以上も痛みがあるとなると通常ではない状態と言えます。この場合は、ドライソケットを疑う必要があります。
飲食時に痛みが増大する
前述のように鎮痛剤を服用しても痛みが引かないような場合に、食べ物を食べることや飲み物を飲むことで痛みが大きくなる場合は、血餅が形成されていない可能性があり、ドライソケットを疑う必要があります。
鏡で抜歯窩を確認すると、穴の中が白色に近い色になっている
抜歯後は、血餅が形成されるのが通常です。抜歯窩に存在する赤黒いゼリー状のようなものが血餅です。この血液由来の赤黒いゼリー状の血餅が、かさぶたのような役割をして、刺激や細菌の感染から傷口を保護します。
しかしながら、鏡で抜歯窩を確認したときに、抜歯窩の中が赤黒い色ではなく、白っぽい色をしていた場合はドライソケットの可能性があります。というのも、血餅が形成されずに、歯槽骨の白い色が見えているということだからです。
ドライソケットの原因
では、どのような原因によって、ドライソケットが起こってしまうのでしょうか?
ドライソケットの原因
ドライソケット発生の直接的な原因は、親知らず抜歯など歯を抜いた後にできるはずの血餅が形成されないことにあります。その血餅の形成を妨げる要因は、次のように大きく3つに分類できます。
- 通常通り血餅が形成されたもの、血餅が取れてしまった場合
- 出血が少なくて血餅が形成されにくい場合
- 出血が多くて血餅が形成されにくい場合
通常通り血餅が形成されたものの、血餅が取れてしまった場合
血栓が形成されない要因の一つに、抜歯後に通常通りに血餅が形成されたものの、何らかの行為によって血餅が取れてしまうことが考えられます。
そして、血餅が取れてしまう行為としては、次のようなものが挙げられます。
- うがいや歯磨きのしすぎ
- 何かを吸う動作をしてしまう
- 舌や指で傷口を触ってしまう
うがいや歯磨きのしすぎ
抜歯後は、血の味が口の中に広がったり、違和感を感じます。また、なかには血餅の存在自体を気持ち悪く感じる方もいるようです。そのため違和感や気持ち悪さを解消しようと、何度もうがいをしてしまうと、うがいの水とともに形成された血餅も流れてしまうことがあります。ドライソケットの原因として最も多いのが、うがいとともに血餅を流してしまうこととされています。
うがいと同様に、違和感の解消のため、あるいは過度に細菌などへの感染を恐れて、歯磨きをしすぎると歯ブラシで血餅を剥がしてしまうことがあります。
何かを吸う動作をしてしまう
抜歯窩にできた赤黒いゼリー状の血餅が気になってしまい、無意識的に吸い出してしまうことで血餅が取れてしまうことがあります。
また、抜歯後の食事がしにくいことで、栄養ゼリーなどで食事の替わりとする方もいます。その場合に、栄養ゼリーを吸引することで口腔内の圧力に変化が生じて、血餅も一緒に吸引されることがあります。ストローで飲み物を飲んだり、鼻をすすったりすると、同じようなことが起こります。
舌や指で傷口を触ってしまう
抜歯した後は、どうしても傷口が気になってしまうものです。そして、興味本位で舌や指で血餅を触ってしまうと、血餅が押し出されて剥がれることがあります。
出血が少なくて血餅が形成されにくい場合
血餅の形成に十分な出血が無いことから、血餅が形成されない場合もあり得ます。そして、出血が少なくて血餅が形成されにくい場合としては、次のようなものが挙げられます。
- 麻酔薬に含まれる血管収縮剤の影響
- 喫煙
麻酔薬に含まれる血管収縮剤の影響
抜歯の際には、麻酔をすることが通常です。その麻酔薬の中には、エピネフリンなどの血管収縮剤が含まれています。
そして、親知らずが真横を向いている場合など抜歯が難しいケースでは、麻酔薬を途中で追加したりする場合もあります。そのような場合に、血管が収縮する時間が長くなることで、抜歯終了後の出血が少なくなる場合が稀にあります。
そのため、血餅の形成に十分な血の量が無くて血餅が形成されにくい場合が生じます。
喫煙
タバコの喫煙は、ニコチンなどの影響で抹消血管・毛細血管を収縮させて血流を悪くさせます。ですから、喫煙の習慣と麻酔薬の影響が合わさって、血餅が形成されにくい場合が生じます。
また、タバコは歯周病の原因の一つでもあり、口腔環境を悪くしますので、抜歯後の回復スピードにも影響が及びます。
出血が多くて血餅が形成されにくい場合
逆に、血が止まらずにダラダラと流れ出すような出血が多い場合も、血餅が形成されにくくなります。というのも、出血が続くと血が固まらずに、血餅ができにくくなるからです。そして、出血が多くて血餅が形成されにくい場合としては、次のようなものが挙げられます。
- 飲酒をする
- 運動をする
- 入浴をする
- 経口避妊薬を服用している
飲酒をする
アルコールには血管拡張作用があります。ですから、抜歯後にお酒を飲むと、血管が広がって血流が良くなります。そうすると、血流が良くなったことで傷口が開いてしまい、ダラダラと出血することになります。
したがって飲酒をすると、出血が多くなり血餅が形成されにくくなる場合が生じます。
運動をする
運動をすると、飲酒と同様に血管が拡張します。ですから、運動によって血流が良くなることで血餅が形成されにくくなる可能性があります。
飲酒は歯科医から注意を受けていても、魔が差して飲んでしまうこともあるかもしれません。運動については、抜歯後の痛みがある中で実施する人は少ないと思いますが、注意が必要になりますね。
入浴をする
お風呂に入ることで、血管が拡張して血流が良くなることは一般的にも良く知られています。ですから、特に長く湯船に入っていたり、熱めの風呂に入ると、血餅が形成されにくくなる可能性があります。抜歯後1~2日程度は、シャワーで体を流す程度にしたほうが無難でしょう。
経口避妊薬を服用している
女性は、男性よりも女性ホルモンのエストロゲンの分泌が多いとされています。このエストロゲンには血管を拡張する作用があるため、一般的に女性は男性よりも血流が良くて低血圧となりやすいのです。そして、低用量ピルに代表される経口避妊薬の主要成分はエストロゲンですから、経口避妊薬を服用している場合は血餅が形成されにくくなる可能性があります。そのため、経口避妊薬を服用している場合は、歯医者と服用の中断などについて相談をしておきましょう。
ドライソケットの治療方法
では、ドライソケットになってしまった場合、どのよう治療が行われるのでしょうか?
ドライソケットの応急処置
基本的には、ドライソケットの疑いを持った時点で歯科医院を受診することが大切です。しかしながら、夜間や休診日などで歯科医院に行くことができない場合もあります。
その場合は、抜歯の際に処方される痛み止めの鎮痛剤を服用して安静にしていましょう。歯科医院によっては、化膿止めとして抗生物質の処方がされることもありますので、その場合は抗生物質も服用します。また、傷口をいじらないことも重要です。
ドライソケットの治療方法
歯科医院を受診すると、患者さんの状況に応じて、次のような治療法を選択または併用して治療を行います。
- 消毒処置と経過観察
- 鎮痛剤と抗生剤の処方
- 抗生剤の軟膏を抜歯窩に詰める
- 抜歯窩の再掻把(さいそうは)
消毒処置と経過観察
症状が軽ければ、抜歯窩の消毒処置をして経過観察となります。この場合は、3~4日ごとに通院する必要があります。
鎮痛剤と抗生剤の処方
経過観察の際には、痛み止めの鎮痛剤、細菌感染防止と化膿止めのために抗生剤(抗生物質)が処方されます。抜歯の際に処方された薬剤と同じ場合のこともあれば、薬剤を変更して処方される場合もあります。
抗生剤の軟膏を抜歯窩に詰める
消毒処置や薬剤の処方に平行して、ガーゼに抗生剤の軟膏を含ませて抜歯窩に詰める処置が選択されることもあります。
この場合、ガーゼの交換のために、3~4日ごとに通院する必要があります。この治療法は、痛みなどの症状が改善して、抜歯窩が歯肉で塞がってくるまで継続しなければなりません。
抜歯窩の再掻把
前述の治療法とは別に、麻酔をして抜歯窩を意図的に傷つけて出血させることで、血餅の再形成を促す処置のことを再掻把と言います。血餅が再形成できれば、前述した通常の治癒過程に戻ります。ただし、この処置が選択されることは少ないようです。
ドライソケットを放置すると?
ドライソケットは、強い痛みが現れますから治療をしない人はいないと思いますが、もし治療をせずに放置すると、どのような影響が出てくるのでしょうか?
ドライソケットを放置すると?
ドライソケットを放置しても、通常は自然治癒するとされています。しかしながら、体調が悪かったりして体の抵抗力が低下していると、思わぬ影響が発生する場合があります。
骨炎
ドライソケットは、歯槽骨の骨面がむき出しになっています。体の抵抗力が低下していると、骨の中に細菌が感染して炎症を起こす骨炎になる危険性があります。骨炎になると、感染した部分が腫れたり、発熱や痛みが生じます。
骨壊死
骨炎が進行すると、骨組織の一部が壊死を起こしてしまうリスクがあります。骨の壊死が広がると、外科手術による治療が必要になります。
蜂窩織炎(ほうかしきえん)
蜂窩織炎は、ドライソケットの歯肉組織に細菌が感染して、その炎症がドライソケットだけでなく広く周囲の組織に波及した症状のことを言います。
炎症が周囲に広がると、発熱や炎症だけでなく、舌が動かしにくくなったり、息苦しさを覚えたり、意識障害が起こったりすることがあります。
詳しくは、蜂窩織炎とは?原因・症状・治療法を紹介!どんな細菌に感染したら発症するの?を読んでおきましょう。
ドライソケットの予防方法
では、抜歯後にドライソケットを起こさないための予防法はあるのでしょうか?
抜歯前の予防方法
ドライソケットを起こさないためには、まず抜歯の前に体調を整えておく必要があります。また、事前に歯磨きをしておくことで、口腔環境を清潔にしておくことも重要です。
いずれも、抜歯後の細菌に対する感染予防を目的とするものです。
抜歯後の予防方法
ドライソケットを起こさないためには、抜歯後にドライソケットの原因となる行為を避ける必要があります。うがいをし過ぎない、喫煙をしない、飲酒をしないなどといったことです。
また、抜歯治療後には歯科医から患部にガーゼを挟んで血が止まるまで噛んでいるように指導されるはずです。この歯科医の指導に従い、しっかりと出血が止まるまで噛んでいましょう。
まとめ
いかがでしたか?ドライソケットについての概要をご理解いただけたでしょうか?
たしかに、ドライソケットになると激痛を伴いますから、抜歯をすることに躊躇する気持ちが生じるかもしれません。
しかしながら、ドライソケットは当たり前のことを当たり前に実施していれば、予防することができます。
ですから、なにもドライソケットを恐れることはありません。そして、ドライソケットは歯科医による適切な治療で、予後良好とされています。
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