私たちが健康を保つことができているのは、なぜでしょうか。健康的な食事をしているから、あるいは早寝早起きを習慣づけているから、など、人によって、健康のために心がけていることは、様々でしょう。
しかし、さらに一歩踏み込んで、それらの習慣が、なぜ健康につながるのかということを考えてみると、どうでしょう。
健康的な食事や、生活習慣が大切だと言われているのは、「身体の機能を正常に保つため」であり、身体の機能が正常に働くことで、「免疫力」が機能し、ウイルスや細菌から身を守り、異常がある部分を修復しようと作用します。
すなわち、健康に良いと言われていることの多くは、免疫力を高めることにつながっているとも言えるのです。
ところが、何らかの原因でそれらが低下すると、様々な不調が生じます。今回のテーマとなっている「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれる症状も、免疫力低下によって生じる症状の一つと言えるでしょう。
死に至るケースもあると言われている、この蜂窩織炎とはどのような症状なのか、その原因や治療法について、ご紹介いたします。
蜂窩織炎について
蜂窩織炎とは、別名「蜂巣炎(ほうそうえん)」とも呼ばれています。「蜂」や「巣」という文字が入っているのは、この症状が蜂に刺されたことによって生じるからではなく、患部の組織を顕微鏡で見ると、まるで蜂の巣のような組織に見えることが由来しています。
簡単に説明すると、傷口から細菌が入って炎症を起こした状態を示しますが、通常の炎症とは異なり、放置して死亡した例も見られる恐ろしい症状なのです。
ここでは、蜂窩織炎がどのようにして生じるのか、その原因や症状などについて見ていきましょう。
細菌感染による炎症
蜂窩織炎は、傷口から細菌が侵入し、それらに感染した組織が炎症を起こした状態を示します。ここで、わたしたちが怪我をして、切り傷などができたことを想定してみましょう。
人間の皮膚は、「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層に分かれており、通常、受傷して炎症を起こすのは、表皮から真皮にかけての部分です。免疫機能が作用し、傷口には白血球やマクロファージと呼ばれる免疫細胞が入り込み、細菌の侵入を防ぎます。
やがて、かさぶたになり、細胞が再生する過程で治癒するのが、一般的な傷の回復工程です。
ところが、蜂窩織炎の場合、通常のような浅い部分ではなく、毛穴や傷口から入り込んだ細菌が皮下組織の深部から皮下脂肪にかけての深いところまで到達し、炎症を起こしてしまうのです。細菌が入り込む入口は、
- 毛穴
- 傷口
- やけど
- 汗腺
- 乾燥肌
- 床ずれ
- 水虫
- 虫刺されの傷
- アトピー性皮膚炎
- 湿疹
など、異常を起こしたあらゆる皮膚細胞から侵入します。そのため、全身どこにでも発症する可能性があるのです。
また、傷口からの感染ではなく、骨髄炎などの疾患で、すでに深部で起こっている炎症から内部で細菌が増殖し、感染症を発症するケースもあるようです。
蜂窩織炎の原因となる細菌は?
蜂窩織炎の原因菌には、様々なものが考えられますが、なかでも多いと言われているのが「黄色ブドウ球菌」と「レンサ球菌」と呼ばれる細菌です。
黄色ブドウ球菌は、ブドウ球菌の中でも非常に脅威的な細菌であると言われており、一方レンサ球菌もまた、様々な感染症の原因となっています。レンサ球菌には、A群とB群に分類されますが、蜂窩織炎はその両方が引き金となるようです。
これら2つの細菌に感染したときの症状の出方には、それぞれ特徴があります。
<黄色ブドウ球菌>
- 両手・両足
- 指
- 顔
- 下顎
- 頬
- 腹 など
以上のように、部分的に症状が現れるのが特徴で、外見的にもわかりやすく症状が出ます。
<レンサ球菌>
- 広範囲
どこにでも発症する可能性はありますが、最初は小さな腫れだったのが、みるみるうちに広範囲にまで腫れが及ぶといった出方をするのが特徴です。また、前兆が見られることはなく、突然発症し、範囲が広がる速度も速いと言われています。
私たちの身体が正常に機能しているときには、表皮で防御されるはずなのですが、免疫力や抵抗力が落ちていると、細菌が侵入しやすくなり、このような症状を引き起こしてしまいます。
また、細菌はリンパ液が溜まっているところで増殖しやすいため、免疫力や抵抗力の低下のみだけではなく、むくみやすい、血行が悪いといった傾向がある人も感染しやすいと言われています。
蜂窩織炎はどのような症状が出るのか?
皮膚炎だからといって、皮膚だけに症状が現れるわけではないのが、蜂窩織炎の恐ろしいところです。皮膚の深部で炎症を起こすと、以下のような症状が現れます。
- 熱を持った患部の異常な腫れ
- あばた
- 水疱
- 寒気・寒気による震え
- 全身の倦怠感
- 38℃以上の高熱
- 頭痛
- 吐き気
- 関節痛
以上のような症状のなかでも、腫れに関しては、悪化するほどひどく腫れる傾向にあります。ちょっと傷を負っただけだと思っていたら、みるみるうちにその周辺にまで腫れが渡り、足に症状が出た場合には、まるで象の足のように腫れ上がるのです。
また、2番目にあげた「あばた」というのは、皮膚の病変を示します。これは、本来天然痘が治癒したあとの皮膚状態を示すものですが、オレンジ色のかさぶたのようになった状態の皮膚で、その中央には小さなくぼみが見られます。
このような状態よりもさらに進行し、重症度の高い場合には、
- 心拍数の上昇
- 錯乱
- 低血圧
- 意識障害
- 40℃以上の高熱
などの非常に深刻な症状が現れます。このような症状が出た場合には、救急搬送が必要になります。皮膚疾患の中で、救急搬送されるケースが最も多いのが、この蜂窩織炎だという事実を見ると、誰にでも起こりうる可能性があるということが改めてわかります。
蜂窩織炎が重症化したケース
蜂窩織炎は、早い段階で治療しなければ、どんどん感染範囲は広がります。そして、炎症を起こしていた部分に血栓ができて血管が詰まってしまうのです。
血管を流れる血液には、細胞に栄養や酸素を送り届ける役割があり、身体の隅々まで血管が通っていることで、わたしたちの皮膚や内臓は常に代謝し、傷を修復したり、新しい細胞を作ることができています。
そのため、血管が詰まり、酸素や栄養が行き届かなくなった部位の細胞は、死滅(=壊死)してしまいます。
このような状態になると、神経自体も死んでしまうので、痛みすら伴わなくなってしまいます。そこから、壊死が皮膚の表面に沿って広がるものを「壊死性蜂巣炎」と言い、皮膚内部の深くまで壊死が広がってしまうものを「壊死性筋膜炎」と呼んでいます。
蜂窩織炎に見られる症状が出た後、
- 皮膚が紫色に変色する
- 変色した箇所に大きな水疱ができる(匂いを伴うこともある)
- 皮膚が黒くなる(壊疽の状態)
といった変化が見られ、場合によっては、
- 高熱
- 錯乱
- 意識障害
- 頻脈
- 敗血性ショック
といった症状が出てくることもあるようです。さらに恐ろしいのは、このような状態になると、死亡率はおよそ30%にまで昇るという点です。治療が遅れた場合だけではなく、治療で壊死した部分をきちんと切除しきれていないといった、不適切な処置によってもこのような状態を招く恐れがあります。
蜂窩織炎のいろいろな感染部位
前述のとおり、蜂窩織炎は全身どこにでも発症しますが、とくに症状が現れやすいのは膝下部位だと言われています。
また、そのほかにも様々な感染部位があげられますが、感染した部位によって、病名や症状の現れ方も若干異なるようです。代表的な例は以下のとおりです。
化膿性爪囲炎
これは、手や足の指に感染したケースです。別名「ひょう疽(ひょうそ)」とも呼ばれています。指先に感染すると、爪の周りに膿疱(膿が溜まっている袋状の組織)ができ、痛みや腫れが生じます。症状が悪化すると、指が曲げられなくなったり、爪が剥がれることもあると言われています。
傷口から感染するということから見ても、手荒れを起こしやすい人や、水仕事をする人などが発症しやすいようです。また、指をしゃぶる癖がある乳幼児の場合も要注意です。
口腔底蜂窩織炎
これは、口の中で炎症が起きたケースです。口腔内の粘膜は非常に柔らかいこともあり、炎症が周囲に広がりやすく、進行が早いため、早急な処置が必要です。
これらは、虫歯からの細菌感染が多いと言われていますが、そのほかにも糖尿病の場合も発症リスクが普通の人に比べて高いようです。特徴的な症状は、以下のとおりです。
- 口腔底(舌の下)の腫れ
- 舌が持ち上げられる(二枚舌)
- 声がかすれる、声が出にくい
- 嚥下障害
- 発熱
これらの症状がさらに悪化すると、組織が壊死してガスが溜まったり、気道を狭めるため窒息死を招くこともあるようです。いかに早い段階で治療に踏み切れるかが、その後を大きく左右します。
伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)
これは、いわゆる「とびひ」と呼ばれる疾患です。とびひというと、水疱ができるイメージがあるかもしれませんが、大きく分けると2つのタイプに分類されます。
<水疱性膿痂疹>
水疱ができるタイプのとびひが水疱性膿痂疹にあたります。原因菌は黄色ブドウ球菌で、とくに7歳未満の乳幼児が発症しやすいと言われています。
症状が出るのは、口周りや目、鼻などから水疱ができ始め、全身に症状が広がるのが特徴です。
<痂皮性膿痂疹>
これは膿疱ができるタイプのとびひです。主にレンサ球菌が原因と言われていますが、黄色ブドウ球菌にも同時に感染するケースが多いようです。水疱性の症状は、かゆみが主な症状として現れますが、痂皮性の場合は、リンパの腫れや発熱、咽頭痛なども伴い、水疱ではなく、かさぶたができるような感じで症状が出てくるようです。
また、症状の出方も、水疱性のものとは異なり、全身に出ます。そして、年齢関係なく、誰でも感染する可能性があります。
これらはそれぞれ、まだ症状が表皮にとどまっている段階ですが、この水疱や膿疱から細菌が内部にまで浸透すると、蜂窩織炎を起こし、高熱や激しい腫れなどの症状を発症します。
とびひについては、とびひを治療するには?早く治すための方法を紹介!を参考にしてください!
蜂窩織炎の検査と治療方法
蜂窩織炎を起こさないためにも、早めに病院を受診することが大切です。怪我をしたり、湿疹などで引っかき傷を作った場所に、異常な腫れが見られたら、速やかに病院へ行きましょう。
ここでは、蜂窩織炎か否かを調べるための検査方法と、治療法についてご紹介いたします。
蜂窩織炎の検査方法
蜂窩織炎の判断は、おもに所見によって行われるのが一般的だと言われているようです。先にあげた、蜂窩織炎に見られる特徴的な症状のうち、
- 患部が熱を持っているか
- 患部が赤みを帯びているか
- あばたの有無
- リンパ節の腫れが見られるか
といった症状から判断します。しかし、所見のみで判別が難しい場合においては、血液検査で白血球の数やCRPという炎症検査項目の数値から鑑別します。白血球値、CRPがともに上昇傾向にある場合は、蜂窩織炎とみなされるようです。
似たような症状に、「丹毒(たんどく)」と呼ばれるものがありますが、炎症が起きている深さが異なるため、治療法もまた変わってきます。これらの判別をしっかり行うためには、医師の確かな目が必要不可欠です。
丹毒については、丹毒ってうつるの?症状や原因となる菌を知ろう!治療法や診断方法、似ている病気を紹介!を読んでおきましょう。
蜂窩織炎の治療方法
蜂窩織炎の治療は、抗生物質を用いての治療が一般的だと言われています。1~2週間ほど抗生物質を投与し続けることで、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などの原因菌を死滅させます。
この際、完全に菌を死滅させることができなければ、再発してしまう可能性があるため、抗生物質は、原因菌の死滅が確認できるまで、継続して投与することが完治における重要なポイントになります。
用いられる抗生物質には以下のようなものがあげられます。
<黄色ブドウ球菌、レンサ球菌の場合>
- 静脈投与:セファメゾン、ロセフィン
- 経口投与:ケフレックス、サマセフ、アニフラジン
<メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の場合>
- 静脈投与:バンコマイシン
- 経口投与:サイボックス
これらの抗生物質の投与と合わせて、
- 患部の挙上
- 膿をガーゼで取る
- むくみの抑制
などを行いながら、安静に療養することが大切です。とくに、治療中は、マッサージや飲酒、運動、入浴などは禁止されていますので、注意してください。
また、糖尿病などのそのほかの疾患がある場合には、合併症を引き起こす可能性がありますので、慎重な治療が必要です。担当医の指示に従い、適切な治療に専念しましょう。
蜂窩織炎を予防しよう
怪我は、いつどこで発生するかわからないことに加え、細菌がいつ侵入してくるのかも判断がしづらいものです。確かに言えることは、怪我をした際には、できるだけ患部を清潔に保つことが何よりの予防策ということです。
ここでは、蜂窩織炎の予防法についてご紹介いたします。
免疫力、抵抗力を上げる
疲れや睡眠不足、不摂生、ストレスなどによって、免疫力や抵抗力はかなり低下します。これらを避けるためには、やはり、バランスのとれた食生活や、生活リズムを整え、質の良い睡眠をとることが基本中の基本と言えるでしょう。
ストレスを溜めないように、自分なりのリフレッシュ方法を探すことも大切です。
また、正常な成人の場合には、このように自ら気をつけておくことができますが、小さな子供や高齢者の場合においては、どうしても成人に比べると免疫力や抵抗力が低い状態にあります。
お世話をする人間が、細心の注意を払って、健康を維持できるような生活環境にしてあげることが必要です。
体調を崩しているときには、免疫力も下がりますので、感染症にかかりやすくなってしまいます。普段から、健康を維持できるよう心がけましょう。
リンパの流れを良くする
先にもお伝えしたように、リンパが溜まりやすい人は蜂窩織炎を起こしやすい傾向があります。発症しやすい膝下部位は、むくみやすいところでもありますので、弾性ストッキングなどで、普段からむくみを予防・改善するように努めましょう。
むくみの改善には、身体を冷やさないことも大切です。冷たい飲み物はできるだけ避け、入浴時には、しっかりと湯船で身体を温めましょう。
さらに、適度な運動をすることで、全身の代謝が良くなります。身体を動かすことができる人は、ストレッチやウォーキングなどで、体内の巡りを良くしておくのも効果的です。高齢者などで、あまり身体を動かせない場合は、マッサージで血行が滞らないようにするのも方法の一つです。
傷口は清潔に保つ
怪我をした、あるいは虫に刺されたという自覚のある場合には、必ず患部を清潔に保つようにしましょう。
患部を流水で洗い流し、消毒をして、清潔なガーゼや絆創膏で保護してください。また、同じガーゼをずっとあてておくと、菌が繁殖しやすくなりますので、こまめに取り替えることも忘れずに行ってください。
水虫など原因となる皮膚疾患の治療をする
水虫やアトピー性皮膚炎などによって、細菌が侵入する可能性があることは、お伝えしたとおりです。細菌の侵入を防ぐためには、まず、これらの皮膚疾患の治療を迅速に行う必要があります。早めに皮膚科を受診し、深刻な感染症を未然に防ぎましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。蜂窩織炎は、治療をしなければ確実に症状は進行し、悪化します。手遅れになってしまうまで放置せず、少しでも異常だと感じた場合には、早めに皮膚科を受診してください。
とくに、小さな子供は、大人に比べて怪我をする機会も多いことでしょう。神経質になる必要はありませんが、子供とのスキンシップを大切にして、傷口や虫刺されを見つけた際には、手早く対処してあげるようにすると、安心です。
また、普段から、身体が細菌やウイルスと戦えるように、抵抗力をつけておくことも大切ですね。