日本人が発症したがんの中で、トップクラスの発症数を持つがんの1つに「胃がん」があります。日本は世界的に見ても胃がんの発症率が非常に高い国であり、多くの胃がん患者が存在しています。
そんな日本人と関係の深い胃がんは、いくつかの型に分類されます。その中でも今回は、厄介な進行性の胃がんである「スキルス胃がん」についてご紹介したいと思います。
スキルス胃がんの特徴
多くの人にとって「スキルス胃がん」とは聞きなれない名前ではないでしょうか。ギリシャ語で「硬い」を意味するスキルスが由来となっており、胃壁が固くなってしまう特徴がある事からスキルス胃がんと呼ばれています。
胃がんは大きく4つの型に分類されますが、その中でスキルス胃がんは4型に分類され、びまん浸潤型とも呼ばれています。胃がん全体の約9%程度と比較的少ない割合である事や、男女比で2対3と女性に多く発症年齢も他の胃がんと比べ若い事が特徴です。
他の胃がんとの違い
スキルス胃がんと一般的な胃がんとではどのような違いがあるのでしょうか。
がんの形状
通常の胃がんでは胃の内壁の表面に盛り上がるように、がんが現れます。一方スキルス胃がんはがん細胞がバラバラになって、胃の粘膜の下に広がって進行して行きます。この際に胃壁が線維化する事で固くなり、弾力も失われていきます。この事から別名「硬がん」とも呼ばれています。
発見されにくい
初期の段階ではがんの進行部が隆起せず検診などを行っても見つかりにくいようです。また、通常の胃がんのような出血も見られない為、早期発見が難しい胃がんであるとされています。
進行スピード
一般的な胃がんと比べ進行スピードがとても早い事が特徴です。通常の胃がんで数年掛かるところを、数ヶ月で同じ状態になる事も多いようです。
転移
スキルス胃がんは、がん細胞が胃壁から他の臓器へばら撒かれるように広がる、腹膜播種と言う特徴を持っています。この事により、リンパ節や肝臓などにばら撒かれたがん細胞が付着し、新たに増殖を続けがんの転移が起こります。
進行スピードが速い事や初期段階で発見されにくい事から、スキルス胃がんが見つかった時にはその時点でおよそ60%の人が転移を起こしていると言われています。
スキルス胃がんの症状
身体に現れる症状を良く知っておき、病気の早期発見に努めましょう。
胸焼け
スキルス胃がんになり、胃液と粘膜のバランスが崩れ胸焼けを起こす事があると言われています。高い頻度で胸焼けや胃もたれが起こる際には、他の病気とともにスキルス胃がんの疑いを持つようにしましょう。
消化不良
胃粘膜が炎症を起こし消化不良となり、吐き気などの症状が現れる人が多いようです。
食欲不振
胃液が過多になり、胃酸の逆流や胃粘膜の機能に障害が起こる事で食欲不振になる事があります。また、食欲不振に伴い体重の減少が見られる場合もあります。
胃痛
スキルス胃がんが進行すると胃の動きが悪くなり、みぞおちの部分に鈍い痛みを感じることがあります。主に食後に痛みが現れるとされていますが、反対に空腹時に胃痛が起こり、食事をする事でその痛みが治まる場合もあるそうです。
人によっては痛みが感じられず、発症に気が付かないまま病気が悪化している事があります。その場合、がんによるダメージが大きくなってから突然激しい痛みに襲われる事もあるようです。
吐血
病気が進行した際に、炎症を起こしている場所の血管が破れ、胃酸によって黒ずんだ血を吐血する可能性があります。その際には、激しい痛み、冷や汗、脈の乱れ、血圧低下といった症状を伴う事もあります。
反対に下血による出血が見られる事があり、この時も同様に黒ずんだ血が混ざる場合が多いようです。
胃が硬くなる
スキルス胃がんの特徴である硬化により、外から触ると胃が硬くなっている事が分かるようになります。また、腹膜(胃や腸、肝臓などの臓器を覆う薄い膜)に転移していた場合、腹水が溜まり腹部の張りとなって現れる事があります。
他にも、げっぷ、貧血、下痢や軟便などの便通異常、不眠、口内炎などの症状が現れます。
スキルス胃がんの原因
生活習慣と密接する胃がんの原因をご紹介します。
食生活
塩分の多い食べ物、香辛料、熱すぎる(冷たすぎる)食べ物、アルコールなどの過度な摂取は胃を刺激します。それが胃の負担となって、がん発症の原因に繋がるとされています。また、細胞を修復する機能を持つ野菜や果物の不足も発がんのリスクを高める要因の一つと考えられています。
喫煙
煙草に含まれるニコチンなどの有害物質が胃の粘膜を刺激し、発がんの原因になるとされています。日本人は世界的に見ても喫煙率が高く、それが胃がんの発症率が高い事にも影響していると考えられています。
ストレス
ストレスによる胃炎や胃潰瘍により胃の粘膜が傷つき、その修復が追いつかなくなる事で胃がんの原因に繋がるとされています。
ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)
ピロリ菌の感染が続くと胃の粘膜が薄く萎縮し、慢性胃炎の原因となります。慢性胃炎は日本人の胃がん発症の大部分を占める原因になっており、ピロリ菌と胃がんには強い因果関係があると考えられています。
水道環境の整備が進んでおらず、感染する機会が多かった中高年の感染率が高く、若年層では低下の傾向にあるそうです。
遺伝
一般的な胃がんは遺伝よりも生活習慣やピロリ菌による影響が大きいとされていますが、反対にスキルス胃がんは遺伝性の強いがんと言われています。がん化する恐れのある遺伝子が、スキルス胃がんの患者から多く見つかっているという検査結果もでており、特に若年者がスキルス胃がんを発症した場合は、遺伝による影響の可能性が大きいそうです。
スキルス胃がんの検査方法
スキルス胃がんを発見するための検査法をご紹介します。
内視鏡検査
胃カメラを挿入し胃の中を直接映像として確認する方法です。
近年ではより精度の高い電子内視鏡を使用する事が多く、映像も鮮明になっています。粘膜の微妙な変色などを発見し、その色を強調して映し出すなどの機能も備えており映像でなければ見つけられない場合には有効とされています。
ですが、胃粘膜の表面に隆起などの変化が少ないスキルス胃がんは内視鏡では見つけにくいとも言われています。
バリウム検査
胃や腸、食道などの検査の際に使用される方法で、発泡剤で膨らました胃の中をバリウムを通過させX線を照射し造影します。
バリウムはX線を通さない為、胃の内容物の流れや動き方、胃の変形などが確認できます。胃が変形しない(伸びない)といった結果から硬化していると考え、スキルス胃がんの発見に繋がる事もあるようです。
超音波内視鏡検査
胃の周辺の空気や腹壁、脂肪や骨が邪魔に障害にならず、高い識別能力を持つ内視鏡検査です。
通常の内視鏡よりも不快感が強かったり時間が掛かるといったデメリットがありますが、表面上には現れない粘膜下の腫瘍の位置や大きさを発見できるなど、この検査でしか得られない重要な情報を知ることができる為、スキルス胃がん発見に有効な方法として用いられます。
転移の検査
スキルス胃がんは発見が遅れやすく、転移の可能性が高いがんとされています。転移を発見する為の検査法をご紹介します。
腹部CT検査
X線を照射しコンピュータにより鮮明な横断像を表示し腹部リンパ節への転移を確認します。
腹部MRI検査
身体に電磁波を照射し内部の画像を作り出します。肝臓や腎臓などへの転移を発見する為に用いられる事があります。
治療方法
スキルス胃がんの治療法について、代表的なものをいくつかご紹介します。
外科手術
手術によってがんを全て取り除く事が、最も確実で信頼性が高いとされています。ですが、進行が早く発見も遅れやすいスキルス胃がんは、手術でのがんの除去ができない状態になっている可能性が高くなっています。除去手術を行ったとしても潜在的に隠れていたがんが後になり再発した事例も多く、手術による治癒率は2割程度とも言われています。
胃だけでなく転移した脾臓や腹膜を同時に切除する方法がとられますが、進行度合いによっては効果が薄い場合も多いようです。
化学療法(抗がん剤)
播種のより腹腔全体にがん細胞が広がっている時や、リンパ節に転移がある場合には抗がん剤による化学療法による治療が一般的です。抗がん剤はがん細胞の増殖を抑え、破壊する作用を持っており内服薬や点滴、注射などで身体へ取り入れます。
抗がん剤による治療は身体の正常な細胞へも影響し、脱毛、発熱、貧血などの副作用が現れるといったデメリットもあります。
遺伝子治療
がんの特徴である増殖機能はCDC6タンパクという物質によるものとされています。
このCDC6タンパクを除去する(増殖を止め、細胞が老化するか自殺させる)方法としてCDC6shRNAと呼ばれる遺伝子治療法があり、治療により病変が消滅したり、切除が可能になるまで縮小したという事例も報告されています。一時的な発熱がある程度で大きな副作用が無い事が特徴です。
また、乳がんや肺がんに対しても効果が認められたという結果が報告されています。
まとめ
スキルス胃がんについてポイントを簡潔にまとめました。
- スキルス胃がんは、胃がんの中でも悪性が強く、30代~40代の女性に多い病気です。
- 「スキルス」とは硬いと言う意味であり、病気が進行すると胃が硬くなる事が特徴です。
- がん細胞が胃の粘膜の下に広がるように進行するため、発見が遅れやすく進行スピードが速いと言う特徴を持っています。
- 検査法として内視鏡検査、バリウム検査、超音波内視鏡検査、腹部CT、腹部MRIなどが用いられます。
- 外科手術や抗がん剤による治療の他、遺伝子治療による方法も有効な手段として用いられます。
【最後に】
胃がんは日本人の発症率が高い病気です。中でもスキルス胃がんは発見が遅れやすく、病気の進行スピードも速いため気付かない内に重症化している事とても多いのです。
症状が無いから、まだ若いからと決して軽視せず定期的に検査を行い、病気の早期発見に努める事が大切です。