最近、お腹の調子が悪いのに、「大したことない」って勝手に決めつけて、病院へ行くのをためらっていませんか?
今日のテーマは、「家族性大腸ポリポーシス」といって大腸に発生する病気なのですが、特に早期発見が重要とされます。
気になることが自分や家族にある人は、出来るだけ早いうちに検査を受けることが出来るように参考にして下さい。
では、さっそく「家族性大腸ポリポーシス」について調べてきたことをお伝えいたしますね。
家族性大腸ポリポーシスとは
この病気は、ポリポーシス症候群とも、消化管ポリポーシスとも呼ばれていて、別名を「家族性大腸線種症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう)」といい、いろんな呼び方をされています。
病名については、ポリープがたくさんできるので、ポリープ(線種)という意味からも、家族性線種性ポリポーシスと呼ぶこともあります。
その家族性大腸線種症の患者のことを医師はFAPと呼んでいますが、これは「familial adenomatous polyposis」という英語の頭文字を3つ取っているのですね。
家族性大腸ポリポーシスは、古典的FAPにおいて大腸だけに起こると考えられていたので臓器の中でも「大腸」と付いていますが、近年では遺伝子の異常で起こることから「遺伝性の疾患」であることが分かっています。
今は、家族性大腸ポリポーシスで悩む患者さんと家族の会があるので、症状の軽いとされる軽症型FAPとの診断を受けた人も含めて、一人で悩まずに支えあう仲間は前向きに治療するうえでも大切なことです。
軽症型FAPとは
遺伝性大腸扁平線種症候群(いでんせいだいちょう へんぺい せんしゅ しょうこうぐん)と同じ病態が軽症FAPであるということで、FAPより少ない数(30個前後)の大腸ポリープが生じます。
軽症FAPも同じように、上部消化管ポリープや大腸がんを発症することがあります。大腸癌を診断される年齢ではFAPより高くなりますが、一般的な大腸がんよりは若年とみられています。
しかし、消化管以外で起こるデスモイド腫瘍などは稀なようです。では、家族性大腸ポリポーシスの特徴をまとめてみます。
家族性ポリポーシスの特性
家族性ポリポーシスの現在における発生率としては、約17000人に1人と計算されていますが、正確な数字は表示をしている機関等によって若干差があるようです。
また、男女における性差はないと言われているので、男女ともに発症する可能性はあるということになります。発症は幼少期とされていますが、大人になっても発症するので、「決まった時期」というのはないようです。
ただ、家族性大腸ポーシスの患者は、平均すると16歳で、7歳~36歳までの人というデータがあるので、若年層に多いことが分かります。では、親子で同じ遺伝子を持っているのに、遺伝はしないのでしょうか?ここから、家族性大腸ポリポーシスを中心に遺伝についてもお話していきますね。
家族性ポリポーシスは遺伝しない?
家族性と聞くと遺伝で発症するという医師と、遺伝しないとする医師がいるようですが、現在のところ遺伝の可能性は高いとされています。
他の病気との関連でも、発症する頻度は変化するようです。
家族性大腸ポリポーシスは、常染色体優性遺伝の形式をとるので、患者の80%近くは羅患した親の存在があるようです。(※羅患とは、すでに病気にかかっているというような意味です)
常染色体優性遺伝とか、遺伝に関する言葉が出てきたので、少し遺伝子についても見ていきましょう。
遺伝子について
先ほど、家族性大腸ポリポーシスは常染色体優性遺伝の形をとると言いましたが、この常染色体優性遺伝とは「優れている遺伝子」というわけではないのです。
遺伝の仕方を分かりやすくするために、遺伝の種類から1つずつ見ていきますね。まず遺伝の種類ですが、大きく分けて下記の4つがあります。
- 常染色体優性遺伝
- 常染色体劣性遺伝
- X連鎖性劣性遺伝
- X連鎖性優性遺伝
このような遺伝を遺伝学では、「何が特徴の遺伝子が出やすいか」という見方をしていきます。
この何が特徴か等を含めて、病気の遺伝もそういった情報をもとに、診断されていくのです。人の身体は60兆個の細胞からできていますが、「遺伝子」というのは細胞の中にあります。人は、生まれる時に両親の遺伝子を1組づつもらっているのですが、その遺伝子というのは、その細胞の核の中にあります。
では、病気はどうやって遺伝するのか考えていきましょう。
病気の遺伝について
私たちの身体にある遺伝子は、父親からの染色体が2本1組、母親からの染色体が2本1組の合計46本で23組あります。
そのうち、22組が常染色体と呼ばれるものです。残りの1組が性染色体と呼ばれるものになります。学生の頃に理科で学習したように、この常染色体には大きいものから順番に、1~22番までの番号が付けられています。
染色体には、X染色体とY染色体があり、男性はX染色体とY染色体の両方を持っているのですが、女性はY染色体がない代わりにX染色体を2つ持っているのです。その染色体は、1本30億個のDNAが存在しますので、2本の染色体では60億個のDNAがあることになります。
その60億個のDNAには、1つにつき3万個の遺伝子が存在するのですが、この辺りに来ると、さすがに気が遠くなるような数字なので、今度は病気の遺伝を起こす仕組みとして遺伝子の変異を見ていきましょう。
遺伝子の変異
ヒトのゲノムプロジェクトというのが最近では進んできたために、多くの遺伝子について分かるようになってきました。
遺伝子の形を作るDNAも次の4つの塩基から成り立っています。
- Aのアデニン
- Tのチミン
- Cのシトシン
- Gのグアニン
このような遺伝子を作るDNAの塩基配列が違う配列になってしまうことを遺伝子の変異といいます。
例えば、上記の順番で配列があるとしたら通常はATCGとなりますが、4つの塩基がATGGとなってしまったり、ATGとなって3つの塩基になってしまったりすることを遺伝子の変異というのですね。
こうなってしまうと、作られる予定だった筋肉を作るたんぱく質が作られないとか、作られたとしても正常な形ではない(異なったもの)状態になってしまいます。
このような状態が、症状となって表われてくるのが「病気」ということなのです。実は、この遺伝子変異を誰でも数個は、身体に持っていることを考えると誰でも「遺伝性疾患が起こる可能性」を持っているという風に置き換えられますね。
そして本題に戻りますが、常染色体優性遺伝というのは、「常染色体」が「優性遺伝」しているということなのです。父からの遺伝子、母からの遺伝子のうち、どちらかの特徴が出やすい遺伝子を「優性遺伝子」と呼びます。
また、特徴が出にくい遺伝子のことを「劣性遺伝子」と呼ぶことからも、優れている遺伝子とか劣っている遺伝子というわけではないと分かりますね。ちなみに子供への遺伝はどのくらいの確率で起こるのでしょうか?
次は、遺伝子変異が起こった病気が遺伝する確率を見てみましょう。
親から子への遺伝の確率
遺伝子は、その生体の持つ特性として、体質や性格、顏などが親から子へ遺伝していきます。
しかし、100%遺伝することはないので、たとえ保因者(病気の原因を持っている人)が、正常な遺伝子だけの人と結婚した場合にも必ず生まれてくる子がどちらかになるということはないのです。
これは、つまり配列という組み合わせの問題ですが、保因者となっても発病しないということで、正常な遺伝子と同じ状態の人もいるからです。それをふまえての遺伝学から、理論的な話にすると実際に病気に遺伝する確率は、50%より低いそうです。
ですが、その子が発病しない(気付かない)ままで、正常な遺伝子だけの人と結婚して生まれる孫は、やはり50%の確率で遺伝してしまいます。
そういうことを含めて心配のある人が遺伝を調べたいとなると、いつでも検査が出来るのでしょうか?今度は、そのあたりも考えていきましょう。
遺伝子と家族性大腸ポリポーシス
遺伝の病気については、家族性大腸ポリポーシスを始めとするさまざまな病気があります。
「もしかしたら・・・」と心配になる人もいると思いますが、前もって調べるということが簡単にできるのかというと、実際には「簡単に出来ない」と考えていた方が良いでしょう。
なぜなら、遺伝子という個人と家族の重要なプライバシー保護の意味や、倫理的な問題も生じるということがあるためです。
検査をする前には、カウンセリングをしたり、医学情報をもとに相談内容や検査結果などのプライバシー保護を厳重に取り扱うことを確認していきます。遺伝の検査とは、過程においては簡単に調べることが出来るものですが、遺伝に関しての専門医と臨床心理士などの心身両面からのサポートを必要とします。
必要に応じて、遺伝の専門医、他科の医師、医療機関、ソーシャルワーカーなど組織でのサポート体制での連携をすることもあります。それほど遺伝子に関する治療や検査は、重要だということが分かりますね。
では、そんな遺伝性の病気として、家族性大腸ポリポーシスとはどのような状態なのでしょうか?次は、家族性大腸ポリポーシスについて具体的に見ていきましょう。
家族性大腸ポリポーシスの症状と状態
家族性大腸ポリポーシスは、先ほど出てきた常染色体遺伝性疾患の一つとされています。(※一部は、劣性遺伝性の異なる疾患とされています。)
そして、心配なことは大腸がんになる(発症してしまう)可能性が高いと言われていることです。
つまり、その家族性大腸ポリポーシスは、大腸の状態が前がん病変であるということなのです。(前がんとは、今は癌ではないけれども、細胞が異形になり、顔つきの悪い癌[異形細胞]になる手前のことです。)
また、大腸ポリープがたくさん生じることで、手術等の治療をしない限りは、大腸がんになる可能性が高いことから「腫瘍症候群(しゅよう しょうこうぐん)」であるとみられています。
家族性ポリポーシスの症状
家族性大腸ポリポーシスの症状では、血便、腹痛、体表部に骨腫や軟部腫瘍、大腸全体にポリープがたくさん存在することと、合併症として大腸以外の消化管や全身の各臓器にも異常が出てくる可能性が高い状態をさします。
同時に見られる主な症状は下記の通りになります。
- 初期の症状[口唇色素沈着(こうしん しきそ ちんちゃく)、腹痛、消化管出血、腸重積など)
- 皮膚の粘膜症状[黒褐色:口唇、口腔粘膜等]
- 消化管[ポリポーシス(線種)、食道を除く全消化管]
大腸以外の合併する病変は、十二指腸線種(十二指腸のポリープ)や骨腫、デスモイド腫瘍、その他として関連する癌などがあります。
その他の特徴としては、唇の黒褐色色素沈殿と消化管ポリープを主徴(これを主な特徴として挙げる人が多い)とする症候群であることです。
家族性大腸ポリポージスの検査と診断
大腸内視鏡検査、遺伝子検査、血液検査など、必要に応じて他の検査も追加で行われます。
一般的には、大腸のX線検査を行うことから始まることが多いのですが、注腸造影撮影(ちゅうちょう ぞうえいさつえい:バリウムや薬をしようして腸の様子を撮影する)や、大腸内視鏡検査で鉗子生検(一部の組織を採取して調べること)をすることが多いようです。
この段階で、大腸に多数のポリープ(線種)を確認できれば「家族性大腸ポリポーシス」と診断されます。
家族性大腸ポリポーシスと診断されたら、大腸以外の病変をチェックしておくということは大切ですね。診断された後には、詳細を知るために「APC遺伝子」の異常を調べておくということがあります。
遺伝子の検査は、血液を少し採取するだけで出来る方法としては簡単なものですが、検査をするにあたっては守るべきことがたくさんあります。
APC遺伝子を調べるのは、治療法の選択や家系員の早期発見に役立つからです。
APC遺伝子の分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査をして患者家族の早期発見や診断を行ったり、線種性(ポリープがあるけど100個未満など)の病気がはっきりとしない場合には、確定診断という目的のために行うことがあります。
APC遺伝子の元になる患者の95%で変異を検出できるので、このような検査は臨床的に可能とされています。
検査を受ける理由
医療を受けるのは、治療をしてFAPの予後の改善をすることが大きな目標となります。
一般の人と同じように寿命を得ること、それはFAPに羅患している親よりも長く、しかもQOL(生活の質)の良い長寿を目指すことにあります。
そのために、FAPであるかどうか、もしもFAPならどう治療していくのかを診断することが大切だからです。人は、生まれた時から「元気で幸福になる権利」を持っていますので、安心して検査や治療を受けるようにしましょう。
では、次に治療方法について見ていきましょう。
家族性大腸ポリポーシスの治療
一般的には、手術療法が主流なので、この場合には大腸がんの有無を問わず大腸切除術が行われるようです。
これは結腸全的手術、回腸直腸吻合(かいちょう ちょくちょう ふんごう)といって病変を切除していくというものになります。また、機能温存的大腸全摘(大腸としての機能が使えるようにする全部摘出のこと)が行われます。
万が一、遺伝子検査で無症状のまま発見されたとしても、癌化する可能性が高いので大腸の予防的手術は20代前半までに行うことが理想とされています。
しかし、大腸以外の腫瘍状病変に関しては、癌化する危険性は低いので予防的手術をする必要はないようです。(※大腸で生じると癌化する可能性が高い)
FAPと経過
消化管以外での悪性腫瘍(がん)の発症するリスクが高くなることをふまえて、きちんと経過をみていく必要があります。
FAPの経過を見ていくうえでは、予防をするために死亡の原因を知ることが大切になります。またFAP患者の死亡原因としては、大腸がんが80%を占めるので定期検査の重要性がここからも分かりますね。
定期的に専門医のチェックを受け続けるということが、かけがえのない生命を守る最大の予防になるのです。
その他に、似ている遺伝子が関係する病気としては、若年性ポリポーシス(じゃくねんせい)という病気もあります。
若年性ポリポーシス
若年性ポリポーシスは、消化管に若年ポリープがたくさん発生する遺伝性の病気です。
ポリープの分布によって下記の3つに分けられます。
- 大腸限局型
- 胃限局型
- 全消化管型
症状としては、血便やポリープの肛門脱出が主になりますが、ポリープの一部に線種や癌を合併する可能性があるものです。
治療は、内視鏡検査で「内視鏡的ポリペクトミー」を行います。このように遺伝性の病気では、治療や原因等を見つけるために遺伝子検査をすることがあります。しかし、FAPを怖がりすぎたり、病気に対して無視をするとか、偏見で見ることは避けるようにしていきましょう。
患者にとっても、周囲の人にとっても「正しく理解していくこと」や、「元気で働けること」それが一番いい形で治療となっていくからです。
まとめ
では、今日のまとめです
- 家族性大腸ポリポーシスは、常染色体遺伝性疾患の一つである
- 症状は、腹痛、血便などがあり、性差はないとされる
- 治療法や家系員の早期発見を知るために遺伝子検査をしていくことがある
- 大腸がんの合併症を起こす可能性が高い
- 治療は、手術が基本となり経過を慎重に見ていくことが重要
- 遺伝子検査は、個人や家族のプライバシーからの問題と倫理的な配慮が必要
どのような病気でも早期発見が一番の特効薬となり、予防でもあります。
体調が良くない時には、出来るだけ専門医の診察を受けるようにしていきましょう。
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