女性ホルモンと男性ホルモン、誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?女性ホルモンは女性らしい身体や女性生殖器の発達に必要不可欠であり、男性ホルモンも男性らしい身体や男性生殖器の発達に必要不可欠なもので、いずれも体内で分泌される生理活性物質です。
この点、女性ホルモンは女性の体内だけで分泌され、男性ホルモンは男性の体内だけで分泌されると誤解されている人が少なくありません。実は、女性の体内でも男性ホルモンが分泌され、男性の体内でも女性ホルモンが分泌されているのです。それゆえ、ホルモン分泌のバランスが崩れて、女性の体内で男性ホルモンの分泌量が増えると女性の男性化という現象が生じる可能性があるわけです。
そこで今回は、女性と男性の体内における男性ホルモンの役割や男性ホルモン分泌が増える原因、そして男性ホルモンの分泌を抑制する方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
男性ホルモンとは?
そもそも男性ホルモンとは、どのような働きを体内でしているのでしょうか?男性ホルモンの分泌量が増える原因や男性ホルモンの分泌を抑制する方法などを理解するためにも、男性ホルモンに関する基礎知識を押さえておく必要があるでしょう。
そこで、まずは男性ホルモンの役割や基礎事項などについて、ご紹介したいと思います。
男性ホルモンとは?
男性ホルモンとは、男性・雄(オス)の生殖器の発達や機能促進といった役割を担い、第二次性徴を出現させる働き・作用を有する数種類の生理活性物質の総称で、アンドロゲンとも呼ばれます。
この男性ホルモン・アンドロゲンの中でも、特に代表的な存在として知られる男性ホルモンの一つがテストステロンです。
ちなみに第二次性徴とは、いわゆる思春期と呼ばれる時期に、子供から大人へと身体が成長・変化して性的に成熟し生殖能力を獲得することを言います。
男性ホルモンの分泌場所
男性における男性ホルモンの分泌場所は、主に睾丸・精巣から分泌されています。また、腎臓の上部に存在する副腎からも男性ホルモンが分泌されることが分かっています。
一方で、女性における男性ホルモンの分泌は、主に女性生殖器である卵巣と副腎です。ただし、卵巣から分泌される男性ホルモンの多くは、卵巣内の卵胞細胞において女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)に変換されます。そのため、女性の体内における男性ホルモンの分泌量は、実際には男性の分泌量の5%程度だと考えられています。
男性ホルモンの作用
男性ホルモンの作用としては、主に次のような挙げられます。
- 男性生殖器の発達や機能促進
- 変声や声変わり
- 男性型脱毛症(いわゆる薄毛やハゲと呼ばれる状態)
- 体毛やムダ毛の増加(男性型多毛症)
- 筋肉の発達
- 性欲の増進
- 皮脂分泌の増加
男性ホルモン増加の弊害と減少によるメリット
それでは、男性ホルモンの分泌量が増えることで、どのような弊害が現れるのでしょうか?また、男性ホルモンの分泌を抑制し減少させることで、どのようなメリットが得られるのでしょうか?
そこで、男性ホルモン増加による弊害と男性ホルモン減少によるメリットについて、ご紹介したいと思います。
男性ホルモン増加による弊害
男性ホルモンが体内で増加すると、前述したような男性ホルモンの作用が徐々に身体に現れてきて、それが目立つようになってきます。
具体的には、女性と男性の場合を分けて、ご紹介したいと思います。
女性の場合
前述のように、基本的に女性の卵巣から分泌される男性ホルモンは、卵胞細胞によって女性ホルモンの一つである卵胞ホルモン(エストロゲン)に変換されます。
しかしながら、様々な要因によって女性ホルモンの分泌量が減少すると、女性の体内における女性ホルモンと男性ホルモンのバランスが崩れます。そうなると、女性の体内における男性ホルモンの量が相対的に増えることになり、いわゆる女性の男性化現象が生じる可能性があります。
例えば、女性であっても声が低くなったり、腕毛・すね毛・髭(ひげ)などの体毛が多くなったり(男性型多毛症)、皮脂の分泌量が増えたりという症状が現れる可能性が大きくなるのです。皮脂の分泌量が増えることにより、ニキビが好発する傾向が高くなります。その他、生理不順が生じる可能性も指摘されています。
体毛の種類
そもそも体毛は「性毛」と「無性毛」の2種類に分類することができます。性ホルモンの影響を受けやすい体毛のことを性毛と言い、性ホルモンの影響を受けにくい体毛が無性毛です。
そして性毛は、さらに「男性毛」と「両性毛」に分類することができます。男性ホルモンの影響を受けて生える体毛のことを男性毛と言い、両性毛は男性ホルモンと女性ホルモンの両方の影響を受けて生える体毛のことです。
無性毛と性毛である男性毛や両性毛の具体例は、次の通りです。
- 無性毛:頭髪・眉毛・まつ毛など
- (性毛)男性毛:髭(ひげ)・胸毛・腕毛・すね毛・前頭部や頭頂部の頭髪
- (性毛)両性毛:わき毛・陰毛
男性型多毛症
男性型多毛症とは、女性の体毛のうち特に男性毛が通常よりも多く・濃くなる状態のことで、見た目ではっきりと毛深くなることにより、女性の精神的な悩みの原因となる症状のことです。
多毛症と言っても、毛を生やす毛母細胞や毛包の数が増えるのではありません。男性型多毛症は、もともと生えている男性毛の軟毛と呼ばれる色素が薄くて柔らかい体毛(うぶ毛)が、太くて色素の濃い終毛に変化する点に、その本質が存在します。
男性型多毛症の原因や発生メカニズムは、未だ詳細には明らかとなっていませんが、男性ホルモンとの関係性が非常に強いと考えられています。
男性の場合
男性の体内で、男性ホルモン・アンドロゲンの量が過剰となることも考えられます。男性ホルモンが男性の体内で、通常の場合よりも過剰となれば、男性にも男性ホルモンの作用が強く現れる可能性があります。
例えば、腕毛・すね毛・髭(ひげ)などの体毛が多くなったり、皮脂の分泌量が増えたりという症状が現れる可能性が大きくなるのです。女性と同様に、皮脂の分泌量が増えることで、ニキビが発生しやすくなります。
そのような男性ホルモンの作用の中でも、とりわけ見た目に関わるのが、前頭部や頭頂部の薄毛・抜け毛(男性型脱毛症)です。
男性型脱毛症
男性型脱毛症とは、男性ホルモンの一種であるジヒドロテストステロンの作用によって、思春期以降に現れる進行性の脱毛症のことで、通称AGA(androgenetic alopecia)とも呼ばれます。
男性ホルモンの成分・種類の大部分はテストステロンであるとされ、言い方を変えればテストステロンが男性ホルモンの9割以上を占めているとされます。
このテストステロンが、皮膚(特に頭皮)や男性生殖器の精嚢・前立腺・精巣で合成・分泌される5αリダクターゼ(5aリダクターゼ)という酵素と結合すると、ジヒドロテストステロンという強力な男性ホルモンの一種に変化します。
このジヒドロテストステロンは、テストステロン以上に皮脂分泌を多くするため、特に皮脂分泌の多い前頭部や頭頂部においては、大量の皮脂が毛穴・毛包での毛母細胞の働きを阻害してしまいます。
その結果として、頭髪の成長が停滞して十分な太さの頭髪まで育たなかったり、頭髪の生え変わりサイクルである毛周期が短くなることで、抜け毛が多くなります。そして、新たに生えた頭髪も十分に成長しないので、徐々に薄毛となっていくのです。
ちなみに、女性においても男性型脱毛症が発症することがありますが、女性の場合には脱毛に至ることは非常に稀で、毛質が十分に成長せずに細くなる結果として前頭部・頭頂部が薄く見えるようになります。
男性ホルモン減少によるメリット
男性ホルモンは、当然ですが男性にとっても女性にとっても必要不可欠なホルモンですが、そのバランスが崩れて過剰気味になると、前述のような弊害が現れることになります。
増加と減少は相反する概念ですから、男性ホルモン増加による弊害は、基本的に男性ホルモンが減少すれば弊害が解消・改善されると考えることができるでしょう。
ですから、男性ホルモンが過剰気味な状態から減少して適切な状態になれば、いわゆる女性の男性化現象が生じる可能性も低くなり、男性も男性型脱毛症の悩みが少しは抑制できるようになるかもしれません。
この点、やや端切れの悪い言い方になっているのは、女性に生じる男性型多毛症の原因などが完全には明らかにされていないこともありますし、男性型脱毛症の場合には遺伝的要素も関係してくるからです。
男性ホルモンが増える原因
それでは、男性や女性の体内において、どうして男性ホルモンが増えるという状況が生じるのでしょうか?男性ホルモンの分泌を抑制する方法を明らかにするためにも、男性ホルモンが増える原因を把握しておく必要があります。
そこで、男性ホルモンが増える原因について、ご紹介したいと思います。
女性の場合
女性の体内において男性ホルモンが増える原因は、前述のように様々な要因によって女性ホルモンの分泌量が減少することにあります。
基本的に、女性ホルモンと男性ホルモンは相反する作用を持つとされます。そして、女性ホルモンの減少によって、男性ホルモンの量に変化はなくとも、女性の体内における男性ホルモン量の比率が相対的に上昇することになります。その結果として、女性の身体に男性ホルモンの作用が強く現れるようになるのです。
この女性ホルモンの分泌量を減少させる要因は、非常に多岐にわたります。具体的には、主に次のような要因が挙げられます。
- ストレス
- 偏った食事内容
- 乱れた生活習慣(喫煙・睡眠不足・運動不足など)
- 卵巣の異常や疾患(卵巣腫瘍など)
- 副腎の異常や疾患(副腎腫瘍など)
ストレス
ホルモンの分泌は、自律神経によるコントロールを受けています。そのため、過度なストレスがかかる状況に長く置かれると、ストレスが自律神経を乱すことにより、ホルモンの分泌にも影響を及ぼします。その結果、女性ホルモンの分泌が低下したり、不安定となるのです。
偏った食事内容
女性ホルモンの分泌には、バランスのとれた栄養の摂取が必要です。良質なタンパク質やコレステロールが女性ホルモンの分泌には欠かせませんが、その他にもミネラル(亜鉛・カルシウム・カリウムなど)やビタミン類(ビタミンB・ビタミンEなど)も必要です。
ですから、ダイエットなどによる栄養不足や偏食があると、女性ホルモンの分泌に影響を及ぼします。
乱れた生活習慣
生活習慣の乱れは、自律神経の乱れにつながります。十分な睡眠と適度な運動は、自律神経の安定に欠かせません。そのため、睡眠不足や運動不足となると、自律神経を不安定にする可能性があります。また、タバコの煙に含まれるニコチンには神経毒性があるため、喫煙も自律神経を乱す要素となります。
このように乱れた生活習慣は自律神経の乱れを誘い、その結果として女性ホルモンの分泌にも影響を及ぼします。
卵巣や副腎の異常
女性の体内においては、前述のように卵巣や副腎から男性ホルモンが分泌されています。また、女性ホルモンも卵巣などの女性生殖器から分泌されています。ですから、卵巣腫瘍などの卵巣の異常や疾患が生じると、女性ホルモンの分泌が減少して男性ホルモンの作用が強くなる恐れがあります。また、副腎腫瘍などの副腎の異常や疾患によって、男性ホルモンの分泌量が増える可能性もあるとされています。
男性の場合
男性の場合も、女性の場合と同様にストレス・偏った食事・生活習慣の乱れといった要素が男性ホルモンの過剰分泌につながりかねません。また、筋トレや性行為・自慰行為をすると、男性ホルモンの分泌が誘発されます。
この点、テストステロンなどの男性ホルモンの分泌が過剰となっても、実はそれほど男性には影響がありません。というのも、もともと男性ホルモンが多く分泌され、男性機能の発達・維持や精神安定に寄与していますし、そもそも女性よりも体毛が多くて皮脂分泌も多いことが通常だからです。
しかしながら、男性型脱毛症の観点から言うと、テストステロンが5αリダクターゼによって、ジヒドロテストステロンに代謝・変化することが最大の問題となります。
男性ホルモンの分泌を抑制する方法
このような原因によって、男性ホルモンの体内における量が増えるわけですが、それでは男性ホルモンの分泌を抑制する方法はあるのでしょうか?
そこで、男性ホルモンの分泌を抑制する方法について、ご紹介したいと思います。
女性の場合
女性の体内における男性ホルモンの量を抑制するには、女性ホルモンの分泌を正常にすることによってホルモンのバランスを整えなければなりません。そのためには、次のような方法を実施すると良いでしょう。
- ストレスの緩和
- バランスの良い食事内容
- 生活習慣の改善
- 大豆イソフラボンの摂取
- 薬剤の服用
ストレス緩和・バランスの良い食事・生活習慣の改善
前述のように、ストレス・偏った食事内容・生活習慣の乱れは、自律神経の乱れなどを通じて女性ホルモンの分泌に影響を与えます。
ですから、ホルモンのバランスを整えるためには、ストレスを上手く緩和したり、バランスの良い食事内容を心掛けるとともに、十分な睡眠や適度な運動といった生活習慣の改善が必要になります。
大豆イソフラボンの摂取
大豆に含まれる大豆イソフラボンは、その化学的な構造が女性ホルモン(エストロゲン)に似ていることから、女性ホルモンに似た働きをすることで有名です。
ですから、納豆や豆腐といった大豆製品・大豆食品の摂取量を増やすことによって、女性ホルモンの分泌に近い効果を得ることができ、ホルモンのバランスを整えることにつながります。また、大豆などの食べ物だけでなく、大豆イソフラボンのサプリメントも登場していますので、そちらを利用しても良いでしょう。
ただし、サプリメントについては、過剰摂取に注意する必要があります。
薬剤の服用
男性ホルモンの分泌を抑制する効果が期待できる薬剤としては、まず漢方薬が挙げられます。例えば、十味敗毒湯や芍薬甘草湯は、薄毛対策やニキビ対策として用いられ、男性ホルモンの分泌抑制に効果があるとされます。
より直接的に男性ホルモンの分泌を抑制するには、西洋医学に基づく薬剤(西洋薬)を服用することになります。例えば、抗男性ホルモン剤や女性ホルモン剤の服用が考えられます。
いずれにしても、専門家である医師の診察・処方が必要ですので、ご注意ください。
男性の場合
男性の体内における男性ホルモンの量を抑制する場合にも、ホルモンのバランスを整える必要があります。そのためには、次のような方法を実施すると良いでしょう。
- ストレスの緩和
- バランスの良い食事内容
- 生活習慣の改善
- 大豆イソフラボンの摂取
- 薬剤の服用
ストレス緩和・バランスの良い食事・生活習慣の改善
男性においても、ストレス・偏った食事内容・生活習慣の乱れは、ホルモンの分泌に影響を与えます。ですから、男性ホルモンの量を抑制するには女性の場合と同様に、ストレス緩和・バランスの良い食事・生活習慣の改善が必要となります。
特に有酸素運動は、テストステロンをジヒドロテストステロンに変化させる5αリダクターゼの活性を低下させるという指摘があります。
大豆イソフラボンの摂取
また、女性の場合と同様に、大豆イソフラボンの摂取を心掛けると良いでしょう。
大豆イソフラボンの摂取によって、男性ホルモンの分泌量に直接影響するわけではありませんが、相反する作用を持つ女性ホルモンに似た大豆イソフラボンの働きによって、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが改善します。
薬剤の服用
男性における男性ホルモンの増加で、とりわけ問題となるのが男性型脱毛症です。この男性型脱毛症の対処法としては、テストステロンをジヒドロテストステロンに代謝・変化させる5αリダクターゼという酵素の活性を低下させることが考えられます。
5αリダクターゼの活性低下には、フィナステリドという薬剤の処方が効果が高いとされています。そのため、フィナステリドは男性型脱毛症の治療薬として代表的な存在となっています。
ちなみに、フィナステリドは、海外では前立腺肥大症や前立腺がんの治療薬としても利用されていますが、この用途について日本では未承認となっています。また、市販の育毛剤・育毛化粧品・育毛サプリメントについては、医薬品ではないので効果は穏やかなものになります。
まとめ
いかがでしたか?女性と男性の体内における男性ホルモンの役割や男性ホルモン分泌が増える原因、そして男性ホルモンの分泌を抑制する方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
男性ホルモンは、男性の体内でばかり分泌されるものではなく、女性の体内でも分泌されます。そして、男性ホルモンの分泌が過剰となることによって、女性にも男性にも影響が現れるのです。
男性型多毛症や男性型脱毛症が疑われる場合は、一人で悩まずに、是非皮膚科や美容クリニックなどの医療機関を受診して、医師に相談しましょう。
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