尿に出血した血液が混じり、茶色がかった尿や赤みを帯びた尿が出てきたら、いわゆる血尿と呼ばれる状態です。血尿が出てきたら、多くの人が驚き心配になるのではないでしょうか?
実は、この血尿が症状として現れた場合、もしかしたら出血性膀胱炎の可能性があります。この出血性膀胱炎は、ウイルス感染や医薬品の副作用によって生じることがあるとされ、ウイルス感染による場合は子供に発症するケースが多いのです。
そこで今回は、出血性膀胱炎の症状・原因・治療法などについて、ご紹介したいと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
出血性膀胱炎とは?
そもそも出血性膀胱炎とは、どのような病気なのでしょうか?
出血性膀胱炎を良く理解するにあたり、まずは膀胱と排尿についての基礎知識を確認した上で、出血性膀胱炎の定義をご紹介したいと思います。
膀胱とは?
腎臓は、血液を濾過することで老廃物や余剰水分から尿を生成して、尿を体外に排出する器官・臓器です。そして、この腎臓から尿管を通じて送り出された尿を、一時的に溜めておく袋状の器官が膀胱です。
膀胱は、主に筋肉でできており、その内面は粘膜で覆われています。膀胱が尿をを溜められる量は成人の平均で約500ml程度ですが、個人差が大きいことでも知られており250mlから600mlと人によって容量に差が生じます。
膀胱は身体の大きさに比例するわけではなく、小柄な女性でも多くの尿を溜めることができる人もいれば、大柄な男性でも容量が少ない人もいます。
排尿の仕組み
尿は腎臓で生成され、尿管を通じて1時間あたりで平均すると約60mlずつ膀胱へ送り込まれます。そして、膀胱が溜められる容量の4/5程度に達すると、信号が大脳に伝わり、尿意を生じます。
尿意を感じると、腹圧を上昇させることで膀胱の筋肉が働き膀胱に内圧がかかります。膀胱に内圧がかかると、膀胱頸部筋が解放されて尿は尿道を通じて体外に排尿されるのです。
ちなみに、腎臓・尿管・膀胱・尿道という排尿に関わる器官を総称して、尿路と呼ぶことがあります。
膀胱炎とは?
膀胱炎は、膀胱の内側の粘膜に何らかの原因によって炎症を生じる病気です。
膀胱に炎症が生じることで、排尿痛(排尿時の痛み)・頻尿などの膀胱刺激症状(排尿に関連する症状)が現れます。
膀胱炎の種類
膀胱炎は、主に急性膀胱炎と慢性膀胱炎に分類されます。
急性膀胱炎は、主に粘膜が細菌感染することが原因の細菌感染症である場合が多いとされていますが、その他にも様々な原因によって引き起こされる可能性があります。出血性膀胱炎は、急性膀胱炎の一つとして発症しますが、慢性化することもあるとされています。
一方、慢性膀胱炎は、急性膀胱炎が慢性化するほかに、間質性膀胱炎が含まれます。
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、膀胱の実質的機能を担う部分以外の間質組織(血管・神経など)に炎症が生じることで膀胱刺激症状が生じる病気ですが、炎症を生じる原因は未だ解明されていません。
そのような中で有力となっているのは、ストレスなどの環境要因、何らかのアレルギー反応、免疫学的要因、神経伝達物質の異常などが複合的に関与しているという考え方です。
出血性膀胱炎とは?
出血性膀胱炎は、何らかの原因によって膀胱粘膜が炎症を生じて、その炎症部から出血をしている状態・症状のことを言います。
ですから、出血性膀胱炎になっていると出血が尿に混じって排泄されるので尿が赤みを帯びて、いわゆる血尿と呼ばれる尿が出ます。
子供に発症することが多いとされ、子供が自分の尿の様子について血尿だと認識することが難しいことから、発見が遅れがちになりやすい傾向があります。
出血性膀胱炎の症状
このように出血性膀胱炎は、何らかの原因によって膀胱炎が発症して血尿が出ている症状のことを言いますが、その症状は血尿だけなのでしょうか?
そこで、出血性膀胱炎の症状について、ご紹介したいと思います。
血尿
出血性膀胱炎の主症状として、前述したように血尿が生じ、この血尿が出血性膀胱炎の特徴的な症状とされます。血尿とは、膀胱粘膜から出血することによって、尿の色に変化が生じることを言います。
当然ですが、食物や健康状態によって尿の色の濃淡が変わりますし、膀胱粘膜からの出血の程度によっても尿の色が変わりますので、一様に赤い色の尿が出るわけではありません。つまり、血尿と言っても、茶色がかった色の尿の場合もあれば、酷い場合には真っ赤な色の尿が出てくる場合もあるのです。
これを医学的に表現すると、出血の程度が軽症ならば肉眼で血尿と見分けられない顕微鏡的血尿、出血が増えると肉眼でも血尿と認識できる肉眼的血尿と言います。そして、重症の場合には、血の塊が尿に混じることもあります。
頻尿
出血性膀胱炎では、膀胱炎の一般的な症状である頻尿も現れます。頻尿は、膀胱粘膜の炎症の影響で、尿意を感じやすくなるために排尿回数が増える症状のことです。
一般的に正常な人の排尿回数は、概ね1日で7~8回とされていますので、この回数を超えてトイレに行きたくなる状態は、頻尿が強く疑われます。
残尿感
残尿感とは、排尿したにもかかわらず、膀胱に溜まった尿を全部出し切った感覚を得られずに、膀胱に尿が残っている感覚のことです。
一般的に、残尿感は頻尿と同時に現れることが多く、膀胱炎の一般的な症状の一つとされています。
排尿痛
排尿痛も膀胱炎の一般的症状の一つで、出血性膀胱炎においても症状として現れることがあります。
具体的には、炎症が生じている膀胱粘膜が排尿によって膀胱が縮まることにより、炎症部が刺激されるため、排尿の際にチクリとするような強い痛みを生じると言われます。下腹部や尿道口に痛みを生じることが多いようです。
その他の症状
出血性膀胱炎の主な症状は、このように血尿・頻尿・残尿感・排尿痛ですが、この他にも次のような症状が現れる場合があります。
微熱
基本的に、膀胱炎・膀胱粘膜の炎症が原因となって発熱することは、ほとんど無いとされています。しかしながら、膀胱粘膜から炎症が広がりを見せている場合は、微熱程度の発熱が現れることがあります。
そして、腎臓の尿管との隣接部である腎盂(じんう)にまで炎症が広がると、腎盂腎炎(じんうじんえん)と呼ばれる病気であり、39度前後の高熱が現れます。
尿閉
尿閉とは、膀胱に尿が溜まっているにもかかわらず、排尿できな状態のことです。膀胱粘膜からの出血が重症の場合には、血の塊が尿に混じることがあり、血の塊が大きいと尿道を塞いでしまい尿閉となる可能性があります。
出血性膀胱炎の原因
このように出血性膀胱炎では、何らかの原因によって膀胱炎が発症して血尿や膀胱炎の一般的な症状である膀胱刺激症状が現れます。
それでは、出血性膀胱炎を引き起こす原因とは、何なのでしょうか?出血性膀胱炎の原因について、ご紹介したいと思います。
ウイルス感染
出血性膀胱炎は子供に発症することが多いのですが、子供に発症する出血性膀胱炎の原因はウイルス感染によるものがほとんどであるとされています。
そして、原因ウイルスとなるのが、アデノウイルスである場合が圧倒的なケースを占めます。
アデノウィルスとは?
アデノウイルスは、プール熱(咽頭結膜熱)と呼ばれる子供に好発する夏風邪・ウイルス感染症の原因ウイルスとして知られていますが、一口にアデノウイルスと言っても50以上の型が存在しており、その型によって発症する病気も多岐にわたります。
出血性膀胱炎の原因となるのは、主にアデノウイルス11型と21型とされています。
子供の様子に注意を払う必要
子供に発症する出血性膀胱炎は、このようにアデノウイルスへの感染によることが多いのですが、子供が自分の尿の様子について血尿だと認識することが難しいことから、発見が遅れがちになる傾向があります。
出血性膀胱炎になると子供であっても残尿感は感じますから、子どもが頻繁にトイレに行ったり、おしっこを訴えるようであれば、周囲の大人や親が気付いてあげなければなりません。
医薬品による副作用
出血性膀胱炎は、他の病気の治療のために投与される薬剤・医薬品の副作用(薬品アレルギー)として発症することもあります。
出血性膀胱炎を副作用とする医薬品は、主に抗がん剤(抗がん薬)・免疫抑制薬・抗アレルギー剤(抗アレルギー薬)などです。また、一部の抗生物質(抗生剤)や漢方薬も出血性膀胱炎を引き起こす可能性があるとして症例の報告がされています。
ただし、現在の医療技術では、このような副作用による出血性膀胱炎に対処する方法が確立されています。具体的には、軽度の血尿であれば止血剤を使用することで出血を止めたり、シクロホスファミドという抗がん剤の使用にはメスナという補助薬を併用することで副作用の発生を抑制することができます。
副作用をもたらす医薬品の具体例
ちなみに、出血性膀胱炎を引き起こす可能性のある代表的な医薬品は、次の通りです。
- 抗がん剤:シクロホスファミド、イホスファミド
- 免疫抑制薬
- 抗アレルギー剤:トラニラスト
- 抗生物質:ペニシリン系の抗生物質
- 漢方薬:柴苓湯、小柴胡湯、柴朴湯
放射線治療の後遺症
出血性膀胱炎は、がん治療の一つとして受ける放射線療法の後遺症として発症する場合もるとされていますが、医療機器の進歩もあって現在では重症化する出血性膀胱炎は少なくなっているとされています。
出血性膀胱炎の治療方法
それでは、出血性膀胱炎が発症した場合には、どのような治療がなされるのでしょうか?
出血性膀胱炎の治療法について、ご紹介したいと思います。
早期発見には病院の受診
前述したような出血性膀胱炎の症状に似たような症状が現れた場合は、早期発見のためにも速やかに病院・医療機関を受診して検査を受けた上で、医師の診断を仰いだ方が良いでしょう。
医薬品の副作用が疑われる場合、病院を受診する前に服用中の医薬品名や服用している期間などをメモに控えて行くと、医師による問診もスムーズに運ぶでしょう。
ちなみに受診すべき診療科は、大人の場合は泌尿器科、子供の場合は小児科あるいは泌尿器科を受診すると良いでしょう。
出血性膀胱炎の検査と診断
出血性膀胱炎の診断にあたっては、基本的に医師による問診と尿検査が実施されます。
医師による問診
医師による問診では、症状が現れてからの期間・1日の排尿回数・1回の排尿量・尿の色・排尿痛の有無・残尿感の有無・既往歴・医薬品使用の有無・放射線治療歴などを確認しますので、これらの情報を事前に整理しておくと良いでしょう。
尿検査
尿検査は、通常の健康診断の際じ実施される尿検査と同様に、出始めの尿は採取せずに、中間尿(排尿途中の尿)を採取するのが一般的ですが、医師や病院スタッフからの指示に従いましょう。
正常で健康な人の尿は無菌であることが通常ですから、尿の中に細菌や膿が見られる場合は、細菌感染症の疑いが強くなり、細菌感染による膀胱炎が疑われます。細菌感染による膀胱炎の場合には、尿細胞検査によって細菌を特定して原因細菌に効果のある抗生物質を調べます。
一方で、尿検査で潜血反応・尿潜血が見られれば、出血性膀胱炎だけでなく、尿路感染症・尿路癌・腎疾患・男性の前立腺炎・女性の子宮内膜症などの疑いがあります。その場合、追加でX線検査・CTスキャンなどの画像検査を行い、原因を絞っていきます。
また、子供の場合はウイルス感染による出血性膀胱炎の疑いがありますので、尿の中にウイルスが含まれるか否かを調べるウイルス検査を行うことがあります。
出血性膀胱炎の治療法
出血性膀胱炎の治療法は、原因がウイルス感染による場合と医薬品の副作用や放射線治療の後遺症の場合で、大きく異なります。
ウイルス感染が原因の場合
ウイルス感染が原因の場合、そのほとんどがアデノウイルスであることは前述しましたが、アデノウイルスの感染による出血性膀胱炎の場合は、これといった特効薬・治療薬も存在しないので対症療法となります。
というのも、そもそもウイルスに対しては抗生物質の効果が無いので、細菌性の膀胱炎と異なり、ウイルス感染による出血性膀胱炎では抗生物質・抗生剤の効果が無いからです。
基本的には、安静を心掛けて、水分を多く摂取することで排尿を促し、経過観察します。通常は、肉眼的血尿は数日程度で消えて通常の色の尿に戻り、尿検査でも10日前後で潜血反応・尿潜血が無くなります。また、排尿痛・残尿感・頻尿といった症状も1週間前後でなくなるのが通常です。
ですから、アデノウイルスの感染による出血性膀胱炎の治療は、経過を見ながら自然治癒を待つことと言えます。
医薬品の副作用・放射線治療の後遺症が原因の場合
医薬品の副作用や放射線治療の後遺症が原因の場合は、医薬品や放射線治療の影響で膀胱粘膜の出血から血の塊が出来やすくなっており、尿閉の危険性があります。尿閉の生じると、尿路性敗血症・膀胱破裂・腎機能が低下する腎不全といった病気が、さらに出血性膀胱炎の患者に引き起こされることになります。
ですから、まずは膀胱内の血の塊を排出させることが重要になります。この血の塊の排出は、一般に尿道カテーテル用いて生理食塩水などを持続的に送り込んで流し出します。
また、膀胱粘膜からの出血が止まらない場合は、止血剤を注入することもあります。さらに、出血がコントロールできない場合には、最終的な手段として外科手術を検討しなければならないこともあります。
出血性膀胱炎の予防方法
子供のウイルス感染による出血性膀胱炎を予防するには、こまめに手洗いや消毒をするなど、一般的な風邪の予防法と変わりはありません。
一方で、医薬品の副作用や放射線治療の後遺症による出血性膀胱炎の予防法は、生理食塩水を点滴して、利尿薬のフロセミドを投与することで、排尿を促すことが効果的だとされています。また、抗がん剤のシクロホスファミドを使用する患者に対しては、メスナという補助薬の併用が予防につながります。
まとめ
いかがでしたか?出血性膀胱炎の症状・原因・治療法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、茶色がかった尿や赤みを帯びた尿、いわゆる血尿が出てきたら、驚かない人のほうが少ないでしょう。驚いたとしても、発症した人が大人ならば、自分で尿の異常を認識して病院を受診するなどの対処ができます。
しかしながら、子供の場合は自分の尿の異常について認識することができずに発見が遅れる傾向があるのです。
ですから、子供が何度もトイレに行くような行動をとる場合は、周囲の大人が気付く必要があるのです。
また、ウイルス感染だけでなく、医薬品の副作用としても出血性膀胱炎が発症する可能性があることも、留意しておく必要があるでしょう。
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