この10年で死亡者が約2倍に増加した、恐ろしい病気が「敗血症」。
この症状で命を落としている人は統計上、年間1万人以上となっていますが、医師の診断書には死亡のきっかけとなった別の病名が書かれることが少なくないため、実際に敗血症で亡くなった人は数倍から10倍いると推測されています。
ここでは、敗血症の恐ろしさと、症状や治療法を紹介します。
◆敗血症とは?
敗血症は、体内に細菌による病気があって、そこから細菌が血液の流れの中に入って増殖し、その生産した毒素によって中毒症状を起こしたり、細菌が血液の循環によって全身に広がり、二次的にいろいろな臓器に感染を起こす病気です。
血液には本来、最近の増殖を阻止する力があり、健康な人では細菌が血流中で増殖することはありません。
例えば、血液中に含まれる白血球には、侵入してきた微生物を取り込んで破壊する能力があります。また、侵入してきている微生物の情報を体内で共有し、数時間以内にその微生物を攻撃するための体制を整える仕組みがあります。
ところが、体の抵抗力が弱っていると、細菌の増殖が起こります。
下痢や、傷の化膿、床ずれ、抜歯、扁桃炎、中耳炎など身近な感染症がきっかけとなり、全身に激しい炎症が起きます。
原因となる細菌には色々なものがありますが、多いのは、レンサ球菌やブドウ球菌、大腸菌、クレブシエラ、緑膿菌、肺炎菌などです。
重症に至ると、医学の進んだ国であっても死亡率は30%前後と言われ、日本人の三大死因に挙げられている心筋梗塞や脳卒中よりもはるかに高い割合で死に至ります。
抗生物質が普及してきたために、病気にかかる人が少なくなっていましたが、抵抗力の弱い高齢者や、生活習慣病の一つである糖尿病患者が増えてきたことや、抗生物質への耐性を持った菌が広がりはじめ、近年、敗血症にかかる人が増えてきていると言われています。
◆感染症と伝染病
微生物が人体に侵入したことが原因の病気を感染症といいます。例えば、インフルエンザやマラリアのように人から人へ伝染する感染症は、伝染病と言われ、周囲の人に映らないように対策が必要です。
それに対して、破傷風や敗血症のように、人から人へ伝染することのない感染症もあり、これを非伝染性感染症といいます。
◆敗血症の症状は?
敗血症を起こすと、細菌が血流中で増殖し、その毒素によって中毒状態に陥ると、体内が炎症を起こし、高熱や寒気、発汗、倦怠感、鈍い痛みなどが症状として現れはじめます。この状態なら、風邪の症状にも似ていますね。
さらに、血流の細菌が二次的にいろいろな臓器に定着して増殖を始めると、その臓器に障害が現れます。
例えば、中耳炎から始まり、その原因菌が溶連菌や肺炎桿菌である場合は、髄膜炎を併発し、激しい頭痛や意識障害が起こる場合があります。肺ならば気管支炎や肺梗塞、心臓ならば心不全などが現れます。
血液の中に血の塊(血栓)が生じ、血管に詰まってしまうと、そこから先の臓器には十分な栄養と酸素が運ばれないため、壊死したり、臓器が機能不全に至ってしまうことにもなりかねません。治療薬も届かなくなるので、治療が難しい状態に陥ってしまいます。
ショック症状
原因となった菌の種類によっては、異常増殖した細菌がつくりだした毒素によりショック症状を起こすこともあります。
敗血症が悪化して重症になると、血圧が急に下がったり、尿が出なかったり、意識障害を起こしたりします。また、皮膚や粘膜には、出血性の斑点が現れます。その他、貧血や黄疸などの症状も出てきます。
この状態に至ると、命の危険にさらされ、数時間で死亡することもあるのです。
◆敗血症の治療法は?
敗血症の場合には、血液の中に入り込んだ細菌を死滅させる必要があります。その時には、どの病原菌なのかを特定しなければ、使用すべき抗生物質を選択することができません。
そこで、まずは敗血症の元になった部位の外科的な処置を行いながら、感染がどの部位から広がっているかを診察することで、どの原因菌なのかを検討する必要があります。
とはいっても、敗血症の場合には時間との戦いです。敗血症への薬の投与が1時間遅れるごとに、約8パーセント、治療後の具合が悪くなる確率が高まると言われています。
そのため、数種類の抗生物質を同時に投与しながら様子を見て、同時並行で検査を行い、結果が出たら、その原因菌によく効く抗生物質に切り替える、ということになります。
さらに、重症の場合には、同時並行で、静脈から大量に輸血したり、酸素吸入を行うこともあります。壊死などの症状がある場合は手術を行うこともあります。
特に、原因となった場所が骨髄や関節、脳、肺、腎臓などですと、慢性化して治療が長引く可能性があります。
◆敗血症の予防法は?
そもそも、敗血症自体は、人から人へ伝染するものではありません。
ですが、敗血症は感染症がきっかけとなり引き起こされるものですので、日常的な心がけとして、普段から手洗いなどを行ってばい菌による感染を防ぐように努めましょう。
また、インフルエンザの予防接種などを受け、感染症を未然に防ぐことが、敗血症になるリスクを下げることにつながります。また、高齢の方や糖尿病患者の方は、特に、簡単な化膿であってもそれを放置せず、抗生物質や消毒薬で早めに治すことが、敗血症を防ぐのに大切です。
また、感染症の経過中に、身体の具合が悪いと感じたら、早めに病院を受診するなどして早期発見・早期治療に努めれば、敗血症の症状を起こさないこともできます。
さらに、免疫力の低下を防ぐことが敗血症の予防には重要です。
規則正しい生活や、栄養バランスの良い食事、リラックスを心がけて、免疫力をアップさせましょう!
◆免疫力を高めるには
それでは、免疫力を高めるには、どうすればよいのでしょうか?生活の中で心がけるべきポイントを、ここでは紹介します。
タバコを吸わない
喫煙によって、「肺胞マクロファージ」という白血球の一種が、微生物に対しての抗体を作り出す力を弱めてしまい、体の抵抗力を高める働きのあるリンパ球が減ってしまいます。
まさに、タバコは「百害あって一利なし」ですね。
ぐっすり眠る
免疫システムは、自律神経によってコントロールされています。
この自律神経は、十分な睡眠によってバランスが保たれるため、7~9時間程度の十分な睡眠時間を取るのが健康のためには重要です。
朝日を浴び、朝食を食べる
免疫細胞は、昼に活性化し、夜は活動が静かになりますから、朝日を浴び、朝食をしっかり食べると、体内の交感神経系と副交感神経系のスイッチの切り替えがスムーズに行き、体内リズムが整います。
免疫力をアップさせる食事
最近の研究では、ヨーグルトや納豆などには、免疫力を高める「腸内フローラ」という良い細菌を腸内に増やす働きがあることがわかってきました。
また、ニンジンやトマトなどの新鮮な緑黄色野菜には抗酸化力作用があり、体内の毒素を排出し、免疫力を高める効果があると言われています。
湯船に浸かる
体温が低下すると、免疫力も下がります。そこで、38度前後のぬるま湯に20~30分間浸かるようにすると、体温が上がって、免疫力を高めることができます。その他、リラックスの効果も期待できます。
思い切り笑う
笑うと、免疫機能をコントロールする間脳に興奮が伝わって、情報伝達物質の神経ペプチドが、活発に作られます。
笑いがきっかけとなって作られた神経ペプチドは、血液やリンパ液を通じて体内に流れ出し、NK細胞を活性化するため、感染症にかかりにくくなると言われています。
また、ただ免疫力は強ければよいものではありませんが、笑いには免疫機能全体を整える効果もあるとされています。
適度に運動する
日本人なら誰もが知っているラジオ体操や、有酸素運動の代表であるウォーキング、仕事の合間や寝る前に軽いストレッチなどを継続して行うと、自律神経や免疫系がほどよく刺激され、免疫力が高まります。
ただし、無理をして激しい運動をすると、疲労物質が蓄積し、逆に体にとってストレスになりますので、注意しましょう。
免疫力を高める方法については、免疫力を高める方法は?食べ物などを紹介!を参考にしてください。
◆敗血症とペニシリンの歴史
余談ですが、よく知られている世界初の抗生物質・ペニシリンの発見と、敗血症には関係があります。
英国人の医者、アレクサンダー・フレミングは、ロンドンのセントメリー病院で医療に従事していた時、第一次世界大戦が始まり、病院に多くの兵が怪我で運び込まれてくるのを目にしました。
その多くは傷口が化膿し、敗血症となっていました。この頃の医学では、敗血症になると治すことができず、ただ見守ることしかできませんでした。
そこで、フレミングは、この細菌感染による敗血症の治療法を模索して、細菌の研究を始めました。
その時は、偶然に訪れました。
ある時、フレミングが実験で、ブドウ球菌を培養皿で増殖させていたところ、培養皿の一つをうっかり窓ぎわに置き忘れてしまったのです。後で思い出し、培養皿を見てみると、すっかり青カビが生えてしまっていました。実験は失敗です。
普通、ここでこの培養皿はゴミ箱行きになるところでしょう。
ところが、フレミングがその培養皿を観察してみると、なんと、青カビの生えている周囲には、ブドウ球菌が死滅していたのです。
「これは、もしかすると青カビの成分には、ブドウ球菌を死滅させる働きがあるのではないか?」
そう考えた彼は、青カビを濾過した液を観察し、細菌を殺す働きのある物質を発見します。
これが、有名な抗生物質「ペニシリン」です。1928年のことでした。
やがて、時は移ろい、第二次世界大戦中。この発見に注目したオックスフォード大学教授のハワード・フローリーは、ナチスからイギリスに逃れてきていたユダヤ系ドイツ人の研究者、エルンスト・チェーンとともに、ナチスドイツの空爆の中、研究を続け、とうとうペニシリンの注射薬を開発したのです。
第二次世界大戦で多くの戦傷者を出していた欧米各国は、ペニシリンの大量生産を行い、敗血症から多くの人命を救うこととなったのです。
こうして、第二次世界大戦が終結した1945年、ペニシリンの発見者であるフレミングと、治療法を確立したフローリー、チェーンは、ノーベル賞を受賞したのでした。
◆まとめ
いかがでしたか?
上述のとおり、敗血症は、抗生物質が発達する前の過去の病気、と思われるかもしれませんが、近年、高齢者の増加や生活習慣病患者の増加、新たな耐性菌によって、増えつつあります。
適切に予防を行い、敗血症から身を守りましょう。
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