肺の病気と聞くとどんなことを思い浮かべるでしょうか。結核や肺炎などが有名かもしれませんよね。強い咳症状や血痰・喀血などを発症することもあり、注意が必要な病気です。
肺mac症も注意すべき肺病の一つです。近年、日本では結核の患者数を抜いて、患者の数が多いともいわれています。特に中高年女性に多いという研究もあります。診断基準の明確化で初期の段階でも病気と診断できることが、患者数の増加につながったのではといわれています。
肺mac症は気づかないだけで、とても身近な感染症といえるかもしれません。では、肺mac症とはどういった病気なのか。詳しくみていくことにしましょう。
肺mac症とは?
肺mac症は細菌感染性の呼吸器疾患一種です。結核菌などの結核菌群やライ菌を除く細菌を非結核性抗酸菌と呼びますが、肺mac症はこの細菌に感染することで発症します。
その菌種は実に100種類以上にも及びます。具体的にはマック菌(MAC菌)という抗酸菌属の菌が疾患を引き起こします。肺mac症では以下の症状がみられます。
咳・痰
肺mac症の主症状として咳・痰がみられます。空気のめぐりが悪くなり、たんが発生しやすくなり、伴って咳症状が起こります。
単純な風邪であればそんなに長く咳・痰が続きませんよね。この症状が1ヶ月以上続くと、注意が必要です。
血痰
症状が進行すると、痰に血液が混じる血痰がみられることがあります。この段階では病気がかなり進行していることが考えられます。早めに治療を受けるようにしましょう。
肺マック症に気づくのはだいたいこの段階であることが多いようです。咳や痰が出るけども、ただの風邪だろう…そう放置していると、突然血痰が出た。そして、検査をしたら肺マック症だったということがあるのです。
発熱・倦怠感
咳や痰というのは肺だけの症状でした。しかし、症状が進行することで発熱・倦怠感を発症することがあります。微熱が幾日も続き、なかなか治らなかったり、体のだるさを感じます。
こういったことにも伴って、食欲不振などの症状も起こり始めます。何かを食べようという気力も起こりません。また、これをきっかけにして体重がどんどん減っていくということも起こります。
症状がさらに進行すると…
肺mac症は時間をかけて徐々に進行していくという特徴があります。咳・痰が出るものの、症状の悪化は長い人ですと10年という年月をかけることがあります。徐々に悪くなっていくのですね。
肺が病気に侵されていくことで、ガス交換が困難になることもあります。呼吸不全を起こす可能性がありますが、それ以前に痰などの症状がかなり出ていて、辛くなります。そのため、酸素を機械から取り入れる酸素療法を必要とすることもあります。
また、気管支やその粘膜に弱い炎症を発症し続けることもあります。これにより継続的な咳を発症し、患者を苦しめてしまうことがあります。気管支拡張の症状があれば、より悪化することもあります。風邪ではないけど、咳が続くときは感染症の可能性があるかもしれませんね。
呼吸がしにくくなり、全身の倦怠感や食欲不振と相まって、体はどんどんやせ細り、体力が低下していきます。病気が直接的な原因でなくとも、命を落とすこともあるので、注意が必要です。
原因不明の体調不良、呼吸器の異常、体重の低下。こういったことが徐々に起きているようであれば、一度検査をしてみるといいかもしれません。
肺mac症の原因とは
肺mac症は人から人へ感染しない、感染性が低いという特徴があります。肺mac症を発症してしまうのは、細菌がいる場所へ行き、そこで原因菌に感染してしまうことが考えられます。結核患者では周囲に感染を広めてしまうことがあります。
では、菌はどういった場所にいるのか。また、細菌に感染しやすい人にはどういった特徴があるのでしょうか。これらのことについてみていきましょう。
細菌の感染経路
肺mac症を起こすマック菌はとても身近にいます。それはお風呂や台所のぬめりやシャワーヘッドなどです。菌は42度前後の快適な温度があり、かつ、水気の多い場所に多く存在します。
例えばお風呂の浴槽やシャワー部に細菌がいることもあります。また、換気をしなければいつまでも水気は残ったままになりますから、細菌が繁殖してしまいます。そして、知らず知らずのうちに感染してしまうことがあるのです。
細菌はそのほか、土の中にも存在します。このため、趣味で園芸をしているなど、土をよく触る人は感染リスクが高いといえるでしょう。土埃などには気をつけたいものです。
細菌に感染しやすい人の特徴
細菌に感染しやすい人の第一の特徴はこまめに浴槽掃除をする人です。先ほど述べたようお風呂場は細菌が繁殖しやすい環境。マスク等をせず、そのまま掃除をしてしまうと、感染の可能性があるでしょう。
最近では肺mac症は40代以上の女性に多くみられるといいます。これは掃除をよくするということと加え、比較的免疫力が低下している、などのことが考えられます。生活環境の中で菌に感染する機会が多いといえます。
免疫力の低下は様々なことで起こります。単純なストレスによって低下することもありますし、生活リズムが崩れていても起こります。体調が悪いときは安静にして、体を休める方がいいでしょう。
また、土いじりをよくするようであれば、感染リスクが高まります。日常生活の中で土埃をよく吸ったり、衣類をあまり洗わないようでしたら、注意が必要かもしれませんね。
症状が長く続いているときは注意…
肺の病気の特徴はとにかく症状が長く続くことでしょう。風邪やちょっとした体調不良であれば、咳などは数日から1週間程度で治るものです。しかし、それ以上に症状があるようでしたら、肺に何かしらの異常が起きているでしょう。診断基準として考えてみてください。
また、それと同時に上記のようなことに心当たりがあるようでしたら、注意が必要です。知らず知らずのうちに感染していることもあるかもしれません。血痰・喀痰が出るようでしたら要検査です。
浴槽掃除、台所掃除をよくする。年齢が40代より上。体力が少し弱い。それでいて咳や痰などが長い間続いている。こういったことがあるようでしたら、一度病院へいってみることをおすすめします。
肺mac症の治療法
肺mac症は複数の薬を用いた化学療法・薬物療法を行なっていきます。抗結核薬を含むこともあります。細菌に対して効果を示す治療薬(クラリスロマイシンなど)・抗生物質を長期服用することで、症状の改善をしていきます。ただ、いくつか他の治療方法とは異なることがあります。
1つは非常に長期間の服用が必要になるということ。例えば結核菌であれば、半年程度の服用で病気が治りますが、肺mac症では数年という単位での服用が必要になります。
2つ目は複数の薬剤を服用すること。これは細菌に対して、有効な薬が現在ないことから、複数の薬を併用して効果を高めていくという目的があります。
投薬治療の注意点
薬の服用で注意しなければならないのが、途中で服用をやめないということです。これは薬に対して耐性ができる、耐菌の発生を助長してしまう可能性があるからです。
薬の服用を始めて、一ヶ月程度で病気の経過は良くなりますが、MAC菌がまだ体の中にいることがあります。薬を飲み続けることで、この細菌をきちんと殺菌しなければなりません。薬を飲み、症状が治ったと思ってはだめなのですね。
定期的な検診を行い、体の状態を見極め、薬の種類や量を調整していきます。副作用で発疹や軽度の視力低下がでることもあるので、医師に相談することが大切です。血液検査でも異常が出た時も注意が必要です。自己判断で薬の服用をやめてしまったり、病院に行かなくなるということのないようにしましょう。
体力・免疫力を上げることも大事
病気の進行に伴い、食欲不振や倦怠感からくる体力・免疫力の低下が起こることがあります。これは病気進行において悪影響となるため、日々、体力を維持することが大切です。
そのためにはきちんとした食事と、定期的な運動をすることが大事です。どちらも体力・免疫を維持・向上させる効果が期待できます。寝たきりといった状況だけは避けるようにしましょう。
肺が深刻な症状があるケース
病気の進行によって肺に空洞などの病変がみられるようであれば、手術をすることがあります。薬では効果が薄いためですね。
生活の質の向上のためにも、早めの対策を打つ必要があるでしょう。
治療には個人差があることを理解する
細菌を殺すためとわかって薬を服用していても、症状が治まっている時に薬を飲む必要性を感じないことがあります。しかし、目には見えない細菌が体に残っていることもあるため、服用を続けなければならないでしょう。もちろん、やめてしまえば再発や耐性を持ってしまう恐れもあります。
治療を続けていくなかで、どうしても不安になってしまうことがあるかもしれません。ですが、将来も元気でいるためには、万が一ということを考えて、日々の治療に集中するしかありません。辛いこともあるかもしれませんが、一歩一歩進んでいくことが大事でしょう。
漢方のススメ
肺mac症を漢方で治すケースもあります。漢方では体の機能を向上させ、細菌に対抗する体力をつける目的があります。距離を置きがちな漢方ですが、興味があるという人は試してみるといいかもしれません。
肺mac症の予防・対策
では、肺mac症に感染しないためにどういったことができるのでしょうか。年々感染者の増えている肺mac症ですが、日々の習慣のちょっとしたことを改善すれば回避することができるでしょう。
風呂場掃除に気を払う
細菌は水気が多く温度の高い風呂によくいるというお話をしました。このため、お風呂を掃除するときは、そのまま掃除するのではなく、いくつかの注意点を心得て行う必要があるでしょう。
例えばぬめりや水垢といった細菌が繁殖しやすい部分は入念に掃除をする。また、お湯・水がでる蛇口やシャワーヘッドも合わせて掃除をするなどです。目が届きにくい部分の掃除は特に意識するようにしましょう。
できることであれば、マスクをすると感染予防効果が高まるでしょう。もちろん、掃除をするときは換気をしてください。水気を取るというのも、重要なポイントです。MAC菌の除菌については現段階でもわかっていない状態です。ですから、なるべく予防をして行くというのが、感染しないために大切なことでしょう。
体力を維持する
体力をつける・維持することは病気予防のためにできる重要なことです。病気の進行を抑えることもできますし、健康を維持することにつながります。仮に病気にかかったとしても、体力の維持には気を払いたいものです。
体力維持のためにできることは運動とストレスを溜めないこと。定期的な運動は筋力や内臓機能を向上させます。また、ストレスをうまく発散することができていれば、心身ともに健康を維持できます。
一方、生活習慣病や糖尿病の発病がきっかけで病気を起こしてしまうということもあります。体力・免疫力の低下は感染率をあげてしまう引き金となることがあるので、日常生活の過ごし方には気を配りたいものです。
症状が長引いていたらすぐ病院へ
病気と風邪と違うところは症状が長期に渡る点です。いつまでも咳が治まらず、体調不良が続く場合、肺になにかしらの異常が起きている可能性があります。喀痰検査やCT検査、胸部エックス線検査などの画像検査をすることで早く見つけることができます。
まさか自分が…と誰しも思いますが、そう思ったときこそ病院へいくべきでしょう。病院へ行くことを先延ばしにしていると、どんどん病気が悪化していく可能性があります。
肺マック症と結核
肺マック症を起こす菌は結核菌と構造が似ています。しかし、ちょっとした構造の違いだけでも、症状の進行が異なります。
では、結核はそもそもどういった症状を発症させるのでしょうか。肺マック症と対比してみていきましょう。
結核の症状
結核の症状は呼吸器を主に発症します。咳や痰、発熱が初期症状としてみられます。一見して風邪と判断してしまうことがあるでしょう。しかし、これら症状は一向に治ることはなく、長い間続きます。
症状が進行するにつれて、血痰や喀痰なども見られ始め、ことの深刻さに気づくでしょう。それに伴い、体重の減少、食欲の低下などもみられます。体全体の倦怠感も感じることがあります。
結核の感染力
肺マック症とは異なり、結核は比較的感染力が強いです。感染者が咳やくしゃみをしたときの唾液が何らかの形で他の人の体に入り込むことで、感染することがあります。
感染者が出た場合は、家族共々、検査を受ける必要があるでしょう。
結核の診断
結核では唾液や痰から菌がみつかります。しかし、人によってはその細菌の数が少なかったりすると検査でひっかからないことがあります。症状は長く続いているのに、結核菌は検出されない。そういうことが起こるのですね。
しかし、何度か検査をしていくうちに結核菌を検出することができます。それは根気強い検査をしていくしか判断することができません。どんな治療をしても症状が治まらないとき、結核の検査を再度受けてみるといいかもしれません。
結核の治療
結核の治療は肺マック症同様に、複数の治療薬を合わせることで治していきます。半年程度の長い期間、薬の服用を行っていきます。年齢や体調によって治療期間が左右することがあります。
また、薬の服用は医師の判断があるまで続けることが大原則です。途中で服用をやめてしまうと、結核菌が耐性を持ってしまったり、症状の再発の危険性があるでしょう。粘り強い治療が求められます。
結核予防のために
予防のためには体力のある体を作ること。そのためにはきちんと食事を食べ、運動をし、休息を取ることが大切です。反対に食事が不規則で、運動不足。ストレスが多く、なかなか休めていない人は注意が必要です。
また、当たり前ですが、感染者の近くに寄らないことも大切です。誰が保菌しているかはわかりませんが、不用意に人混みに近づいたりしないよう普段から心がける必要があります。
まとめ
肺mac症は聞き慣れない病名ですが、とても身近なところに原因があります。感染・発症してしまえば、長い付き合いとなりますし、精神的にも辛くなるかもしれませんね。
症状を悪化させないためには、普段から体力をつけておくこと。また、もし感染してしまったのであれば、きちんと医師の指導のもと、治療を続けることが大切です。
いつまでも元気でいるためには、日々体の状態に気を配る必要があります。咳・痰が続く、特に中高年の人は注意してくださいね。呼吸器内科・病院へ行き、検査を受けるようにしてくださいね
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