「最近、手のふるえが止まらない⁉」「体がこわばってうまく動かない・・・」などなど、自分の体が、自分の思うように動かないという経験をされている高齢者の方も少なくないのではないでしょうか。
そんな経験をされている方は、もしかすると、パーキンソン病を発症している可能性もあります。
つらい症状にお悩みの方のために、ここではパーキンソン病についてお話しいたします。
パーキンソン病とは
パーキンソン病は、1817年、英国医師ジェームズ・パーキンソンが初めて報告した病気であり、その医師の名前が病名の由来となっています。現代でも、その原因は、まだはっきりと明らかにはされていませんが、ドーパミンの著しく減少することによって、脳が変性をきたして発症する疾患です。
- 「手先や指先がふるえる」
- 「筋肉が硬直する」
- 「全身の動作が減少する」
- 「姿勢の維持が難しい」
などが、主な症状です。
また、独特の顔つきとなることでも知られています。
パーキンソン病は、脳内にある中枢神経に異常をきたすことから発病します。特に、40歳から50歳以降の中高年の方々に発症することが多い病気です。
脳のしくみとパーキンソン病
脳のしくみ
脳は、大まかに、大脳と小脳、脳幹の三つに分けることができます。
脳には、神経細胞がたくさん集まっています。脳内では、多くの神経細胞間ネットワークを通じて、さまざまな情報を伝達し、人体バランスを保って生命を維持するようにできています。このような神経細胞間の情報伝達に、「ドーパミン」、「セロトニン」、「アセチルコリン」といった神経伝達物質が使われています。
脳のしくみとパーキンソン病
パーキンソン病を発症すると、脳幹にある中脳の「黒質」部分と、大脳にある大脳基底核(だいのうきていかくー大脳の下部部分)の「線条体(せんじょうたい)」部分に異常が現れることが明らかになっています。
すると、黒質に異常が発生して「正常な神経細胞」を減少させてしまうため、そこから生成される「ドーパミン」の量が低下してしまい、黒質から線条体への情報伝達経路が正常に機能しなくなります。
この情報伝達経路の不具合により、手先や指先がふるえたり、うまく姿勢を維持できなくなってしまったりする症状が現れてきます。
パーキンソン病は、このようにして発症すると現在では考えられていますが、まだまだ未解明な部分も多くあるのが、現実です。低下したドーパミンの量が、正常な人の20%程度まで減少してしまうと、パーキンソン病を発症すると言われています。
パーキンソン病の初期症状
パーキンソン病には、さまざまな初期症状がみられます。そのうち、よく見られる症状についてご紹介いたします。
- 手指のふるえ
- 筋肉の硬直
- 無所作(むしょさ)
- 姿勢障害
- その他の症状
手指のふるえ
「静止時振戦(せいしじしんせん)」と呼ばれる手先や指先のふるえは、パーキンソン病の主な症状の一つです。
静止時、つまり、体を動かさずにじっと止まっている状態のときに、手などがブルブルと震え出します。何らかの動作をしようと動くと、そのふるえはいつの間にか止まっています。
詳しい原因は不明ですが、もしかすると、静止したときの緊張感が伝達神経に対して何かしらの作用を及ぼしているのかもしれません。
筋肉の硬直
「固縮」と呼ばれる症状ですが、身体の筋肉がこわばってしまった結果、手足を滑らかに動かすことができなくなり、人体が固く縮こまってしまったような状態となります。
患者さん自身、無意識のうちに身体が小さくなってしまっているので、気づくとすぐに姿勢を正すこともあるようです。例えば、食事のときに、知らないうちに固縮しながら食事を摂っているなど、さまざまな症例があります。
無所作(むしょさ)
動作が極端に少なくなります。例えば、いすに座っているときに手脚をまったく動かしません。いつまでも「微動だにせず」の状態で、その姿勢を崩しません。
実際のところ、その姿勢を「崩さない」のか、それとも「崩せない」のかは不明ですが、長時間もの間、じっと身動きせずに座っているのです。
また、他の人より動作が少なくなるので、何人かで連れ立って歩くと「他人より遅れて歩く」ような症状があったり、他の人より「まばたきの回数が減る」といった症状が見られることもあります。
姿勢障害
姿勢障害では、スムーズに体勢を移動することが難しくなります。その結果、他人とすれ違うとき、あるいはぶつかったときなどに、身体のバランスを崩しやすくなり、転倒する可能性が高まります。
すると、歩くこと自体ままならなくなってきます。つまり、はじめの一歩を踏み出すことができなくなるのです。
たとえ、歩き出すことができても、腕は振らずに腰のあたりで曲げている状態であり、足を引きずるように小刻みな歩みとなります。
また、歩いているときに、急に進行している方向を転換したり、向きを変えたりすることができなくなる方も少なくありません。
病状が進行していくと、まるで足がすくんでしまったかのように、足が地面に張りついたように突然立ち止まってしまうこともよくあります。ときには、患者さんの意図するところとは別に、次第に足早になっていき、転倒を避けるためにつまずくかのように小走りのような歩き方になる「加速歩行」と呼ばれる症状が出るときもあります。
特に、高齢者の方にとっては、危険な症状のうちの一つです。例えば、転倒後に骨折して入院したあとに、認知症を患ってしまうような場合も少なくありません。若いうちは、その可能性は低いかもしれませんが、ご高齢の方には生命にかかわる症状なのです。
その他の初期症状
パーキンソン病では、その他に表情を制御する顔面筋が動かなくなることによる「仮面様」と呼ばれる乏しい表情が出てくるので、うつ病とパーキンソン病の間で診断が難しくなります。また、ときには、そのどちらも発病している場合もあります。
表情が乏しくなり、口を開けたままの状態で、まなざしがうつろとなり、まばたきの回数も極端に減少します。さらに、喉の筋肉が緊張して硬直してしまうと、嚥下障害を引き起こすこともあり、食べ物をうまく飲み込めなくなったり、「よだれが出る」、「むせる」、「どもる」といった症状も出るときがあります。
その他にも、排尿の回数が増えたり、上記症状の悪化によって就寝中に寝返りを打つことができないなど、不眠症なども誘発することが多いようです。レム睡眠中の行動障害なども多く、正常なレム睡眠では、動かないはずの手足が突如として乱暴に動いたりすることもあります。
このような睡眠障害は、うつ病の発症、あるいは日中の眠気を引き起こしてしまうのです。
また、排尿の開始が遅くなり、持続することが難しくなることもあります。
さらには、摂取した食物を腸が送っていく蠕動(ぜんどうー腸がミミズのように動いて内容物を送る動き)が鈍くなり、便秘を起こしがちになります。この症状の原因は、運動不足とパーキンソン病の治療薬であるレボドバによってさらに悪化すると言われています。
その他では、急に立ち上がったりしたときに、血圧が急激に下がる「起立性低血圧」という症状が現れたり、頭皮や顔に鱗屑のような脂漏性皮膚炎が生じたり、ときには「認知症」を併発される方もいらっしゃるようです。
パーキンソン病の治療
パーキンソン病の治療には、患者さんの日常生活を支えるトータルな視野からの対処が欠かせません。患者さんの日常生活を支えるために、薬剤療法と日常生活支援プログラムの提供などが行われています。
- 薬剤療法
- 日常生活支援プログラム
薬剤療法
対症療法として投薬されるレボドパやカルビドパは、ある程度の期間、患者さんが日常生活を支障なく送るために有益ではありますが、パーキンソン病そのものの根本的治療薬ではありません。ときには、複数の薬剤が投与されることも珍しくはなく、高齢者向けには、薬剤投与量を減らすことが多いようです。
従来、レボドパとカルビドパの併用が薬剤投与の最初の選択肢とされてきたようですが、パーキンソン病の発症初期におけるレボドパの使用は、副作用の出現を早めることもあるようなので、抗コリン剤作用のあるアマンタジンや、ドーパミンに類する作用をそなえるドーパミン作動薬が、最初に用いられることもあります。
また、向精神薬など、パーキンソン病の症状を引き起こしたり、悪化させたりする可能性のある薬剤は、基本的には投与しないようです。
パーキンソン病が進行して、薬剤投与効果が現れなくなる、あるいは重度の副作用を引き起こしてしまうような場合には、手術することもあります。
日常生活支援プログラム
パーキンソン病の患者さんが、日常生活を送ることができるようにするためには、パーキンソン病をトータルな視野で捉え、対処する必要があります。
例えば、自分でできることはできる限り自分でやるようにして、最大限の日常生活を提供します。服のボタンをマジックテープに交換したり、マジックテープで留める靴を履くなど、日常生活にある動作を、患者さん自身が自分でできるように工夫します。
また、定期的に運動しましょうーもちろん、散歩やハイキングなどでもかまいません。
さらには、パーキンソン病の患者さんが安全な暮らしを送ることができるように、自宅などの環境を整えることも必要です。
例えば、患者さんがつまずかないように、カーペットを取り除いたり、浴室や廊下などに手すりを設置するなどの環境整備も、ときには必要かもしれません。
また、便秘対策としてプルーンやフルーツジュースなど食物繊維を多く摂り、適度な運動を心がけ、水分を十分に摂取するなどして、排便を促します。
まとめ
ご自分またはご家族の方などに、このような症状が出ていたら、早めに心療内科などでの受診をお勧めします。最近は、「老老介護」という言葉が示しているとおり、老年層の老人介護が急増しているとともに、「介護疲れ」から事件を起こしてしまっているケースも少なくないですよね。
そんな事件を起こさないためにも、お心当たりのある方は、デイケアサービスも合わせて提供している心療内科などで医師に相談しましょう。