「抜毛症(ばつもうしょう)」は、自分で自分の頭髪を引き抜いてしまう癖です。前頭部や頭頂部の毛髪が薄くなって、地肌が透けて見えるようになっても、引き抜くことをなかなか止められません。
人は「なくて七癖」といい、貧乏ゆすりや顎を撫でるなど、いろいろな癖を持っています。たいてい無意識に行うものです。その癖が止めたくても止められず、困った状態になると、治療が必要な「心の病気」と考えられます。「抜毛症」は、その1つです。
抜毛症の原因と症状、その治療法についてお伝えしますね。
抜毛症は心の病気?
「抜毛症=トリコチロマニア」は、自分で自身の頭髪を引き抜いてしまう性癖により、地肌が透けて見えたり、まだらな「脱毛斑」が出現したりする精神疾患です。「自己抜毛症」「禿頭病(とくとうびょう)」ともよばれます。
日常生活や社会生活に支障を生じる精神疾患なので、「癖」ではなく「症」と呼びます。
[抜毛症の症状]
抜毛症は、小学生頃から20代の若い年齢層に発症しやすいと言われます。思春期の患者さんが多かったようですが、最近は成人でも抜毛症に悩む人が少なくありません。発症率は0.6~3.4%です。
女性の方が男性よりも発症率が高いという説もありますが、男性は自分の癖を隠す傾向があるので、男性の患者さんが把握されていないようです。男女の別に関係なく、だれにでも発症する可能性があると言えます。
抜毛症の特徴
抜毛症の症状の特徴は、以下の通りです。
①無意識に自分で自身の髪の毛を引き抜きます。止めようとしても、癖になっているので、髪を引き抜くことがやめられません。「髪を引き抜くと、気持ちがスッキリする」と言います。
②前頭部から頭頂部の拾い範囲に渡り、髪が薄くなって地肌が透けて見えます。進行すると、まだら状の「脱毛斑」ができます。特に、利き手の側(右利きの人は右側)の抜毛が深刻な状態になります。ハゲてしまうこともあります。
③頭髪だけでなく、まつ毛や眉毛、腋毛・陰毛・手足の毛など体毛を引き抜くこともあります。成人男性の場合、ヒゲを引き抜く行為が止められなくなることがあります。
④読書中・勉強中・パソコン作業中・電話中・TVを見ている時・就寝前に抜毛することが多いようです。抜毛は、自宅で行われることが多いようですが、学校や職場、外出先でも、しばしば行われます。
⑤抜毛のために、学校や職場など生活の重要な部分で、苦痛や困難が生じます。そのために精神的ストレスが強くかかり、症状が憎悪する傾向があります。
⑥抜毛症では、引き抜いた毛髪を食べてしまうことが少なくありません。消化不良や深刻な胃腸障害を起こす可能性があります。
⑦子供の抜毛症では、指しゃぶり・爪噛み・チックを併発することが少なくありません。
⑧抜毛の原因は、皮膚疾患や免疫疾患ではありません。自分自身で引き抜くことです。
(チック)
「チック」とは、突発的・無目的に起こる不随意の動きや発声です。まばたき・首振り・肩上げ・顔しかめなど上半身の運動が多いのですが、飛び跳ね・足踏み・足蹴りなど、全身運動が起きることもあります。鼻を鳴らしたり、叫び声を上げたり、単語を連発したりすることもあります。
詳しくは、チック症の原因や症状について!治療方法はある?を読んでおきましょう。
抜毛症のサイン
抜毛症患者本人は、周囲の人に抜毛症という悪癖を隠そうとします。しかし、ちょっと注意すれば、家族や学校関係者、職場の人たちが、抜毛症に気づくことは難しくありません。
①抜毛症の患者さんの机周辺、TVなどを見るソファなどの周り、パソコンの周囲には、毛髪が散らばっています。いわゆる「抜け毛」という本数ではなく、かなり大量に見られます。
ただし、ベッドの枕周辺の抜け毛は、「抜け毛症」による可能性もあるので、ベッド以外の場所での大量の抜け毛が、抜毛症のサインになります。
②帽子やかつらで、頭を隠すことが多くなります。まつ毛や眉毛を抜いてしまう人女性は、目のお化粧を濃くして、隠そうとします。
③頻繁に頭髪を手で触ります。頭髪を指にクルクル巻き付けて引っ張ります。
④不安そうな顔つきで、落ち込んで見えます(抑うつ状態)。いつも何か考え事をしています。
⑤髪の毛が濡れたり、強い風に吹き乱されることを、極端に嫌います。
[抜毛症の2つのタイプ]
抜毛症は、①無意識に頭髪を引き抜いてしまうタイプ と ②頭髪を引き抜きたい気持ちを抑えられないタイプ の2タイプがあります。
無意識に毛髪を引き抜いてしまう
学童期から思春期にかけて、よく見られるタイプです。TVを見ていたり、本を読んでいたり、勉強したりしている時、なんとなく手持無沙汰で、無意識に頭髪を引き抜いてしまいます。
退屈感がきっかけとなって、抜毛が起こるようです。ただし、その行動の陰には精神的ストレスが存在します。
毛髪を引き抜きたい気持ちが抑えられない
思春期後半から成人以降に発症することが多いタイプです。
髪の毛をどうしても引き抜きたい・髪を引き抜かずにはいられない・とにかく髪の毛を抜きたい・髪の毛を引き抜かないと、気持ちが落ち着かない という強迫的なものです。
強い不安に駆られて、衝動的に髪の毛を引き抜いてしまいます。髪の毛を抜くと、一時的に気分がスッキリして、不安が収まります。しかし、再び不安に襲われると、また、髪を引き抜かずにはいられません。抜毛行為を繰り返し、しだいにエスカレートしていきます。
脱毛症状が目立つようになり、自分でも止めようとするのですが、止められません。自己抜毛の習癖のある自分を嫌悪するようになります。
髪の毛を引き抜かないようにしようとしても、無性にそわそわして、首から上がムズムズするように感じます。「髪の毛を引き抜きたい」という気持ちに囚われて、他のことが手につかなくなります。
人間関係の悩み・むしゃくしゃする出来事・考えがまとまらないことなど、精神的ストレスがきっかけになって、抜毛行為が起きるようです。
[抜毛症の原因]
抜毛症の原因は、子供でも思春期でも成人でも、精神的ストレスや精神的なショックです。精神の障害で、皮膚や内臓、免疫システムなどの病気が原因ではありません。
抜毛症は、不安やイライラ、心配、悲しみなどネガティブな感情に対処する行為で、自分で自分を傷つける「自傷行為」ではありません。
しかし、抜毛症の原因については、まだまだ不明なことが多いようです。
学童期(5~10歳未満)・思春期(10~17歳)の抜毛症
無意識に起こる抜毛症は、10~12歳頃に発症しやすいようです。両親との関係などで、もっと幼少期(5~10歳未満)でも発症することがあります。
この年齢の子供は、自分ではストレスの原因がよくわかりません。不満や不安の表現方法も、それを解消する方法もよくわかりません。そのため、精神的ストレスが溜まっていきます。自分で自身の髪の毛を引き抜く行為は、ストレスの対処法なのです。
(イジメや受験などがストレスになる)
学校での友人関係・イジメ・受験・親の厳しすぎる躾(しつけ)などによるストレスが長く続くと、発症するようです。近親者との死別や両親の不仲、離婚も、子供の心を傷つけます。
一人っ子・第一子・親の言うことをよく聞く子・おとなしい子に、発症することが多いようですが、こういう子供達は、周囲からのプレッシャーに影響されやすいのです。
(抜毛症は子供のSOS)
抜毛症は、自分ではとうにもならない不安や心配、イライラを長期間抱え込んだ末の、子供のSOSなのです。子供の抜毛症に気づいた時、御両親は叱ったり、責めたりしないで、温かい態度で接することが何よりも重要です。
成人の抜毛症
思春期以降成人の抜毛症は、女性の方が発症率が高いと言います。「思春期以降、男性は素直に自分を表現しながら生きていくのに対し、女性は自分の内面を隠す傾向があるため、男女差が生じる」という説があります。
しかし、社会に出てからは、男性も女性も、職場の人間関係・仕事上のトラブルや悩みなど、多種多様の精神的ストレスが絶間なくかかってきます。「自己抜毛」がストレス対策になる可能性は、男性にも女性にもあります。
ただ、男性は、自分の癖を隠す傾向があるだけでなく、若いのに薄毛やハゲに悩む人が少なくありませんから、自己抜毛が見つかりにくいのでしょう。
(情緒不安定な状態で、発症しやすい)
不安やイライラなど強い精神的ストレスを受けていたり、子供時代のトラウマ(精神的外傷)を抱えていたり、情緒が不安定な状態の時に、抜毛症は発症しやすいようです。
(うつ病の可能性)
自己抜毛癖のある人は、うつ病を発症している可能性があります。抜毛症の治療を開始する前に、うつ病かどうか、確認する必要があります。
抜毛症の治療法
抜毛症は、「自己抜毛」という悪癖に悩む精神疾患です。無意識に髪を引き抜いている人も、髪を引き抜きたい気持ちが抑えられない人も、自己抜毛の習癖を止めることができません。
しかも、抜毛することで気持ちが楽になります。脳内環境が異常になっているのです。
悪癖を修正し、脳内の環境を改善するためには、専門家の助けが必要です。
抜毛症は、頭皮や毛根に異常がないので、常に健康な髪が生え育っています。自己抜毛行為を止めれば、薄毛もハゲも治ります。
[精神科・神経科で治療する]
皮膚科や内科の診察を受け、薄毛や脱毛斑、ハゲが、皮膚疾患や自己免疫疾患、内臓疾患由来でないことを確認します。
「抜毛症」は精神疾患ですから、治療は精神科または神経科で行います。子供の場合も、小児科で他の疾患が原因でないことを確認して、小児精神科(児童精神科)・小児神経科を紹介してもらいます。
薄毛・脱毛斑など身体症状があるので、心療内科を受診する患者さんが少なくありませんが、治療は心理療法が主となりますから、精神疾患治療を専門とする医師の多い精神科・神経科を受診することをオススメします。
[抜毛症の診断基準]
イライラしたり、考え事をしたりする時、1~2本、髪の毛を引き抜くことは単なる癖で、心配は要りません。
自己抜毛行為を繰り返し行うこと、 抜毛行為により快感や満足感を得ていること、他の精神疾患がなく、日常の生活に支障が生じていること等が、抜毛症の診断基準となります。
自己抜毛行為を数十分も続けるのは、抜毛症の可能性が高いと言えます。
[心理療法]
抜毛症の治療の第一歩は、患者さん本人が、自己抜毛癖を自覚することです。抜毛癖のあることを自覚するだけで、症状が緩和する場合もあります。
抜毛症の心理療法は、①認知行動療法 ②習慣逆転療法 ③マインドフルネス が有効です。
抜毛症を自覚して、原因となるストレスを明らかにする
抜毛症という精神の障害(精神疾患)と向き合うことは、決して容易なことではありません。
抜毛症であることを自覚し、治したいと強く願いながら、無意識に毛髪を引き抜いてしまう患者さんが少なくありません。そのために自己嫌悪に陥り、精神的に落ち込みます。ストレスが増加して、抜毛症が憎悪する可能性もあります。
抜毛症と向き合い、その原因となるストレスを解明します。原因となるストレスが明らかになれば、取り除く方法も見つかります。心理カウンセリングが役に立つことがあります。
(子供の患者には、両親と学校関係者の協力が不可欠)
小学生・思春期の子供さんのケースでは、両親などの家族と精神科医、それに学校教師等学校の関係者の連携が、治療には必要不可欠です。子供さんとともに両親がカウンセリングを受けるケースもあります。
両親を含む家族全員や学校教師等周囲の人々が、子供に温かく接することが何よりも大事です。精神科医による治療の効果を高めます。
認知行動療法
「認知行動療法」とは、現実の受け止め方や物の見方など考え方(認知)のパターンを変えることで、感情をコントロールし、ストレスを軽減する心理療法です。うつ病など様々な精神疾患の治療に有効です。
抜毛症にも高い効果のある治療方法の1つです。不安やイライラなどを感じてつらくなった時に、考え方を柔軟にして、その時々のストレスを和らげる方法を学びます。楽な気持ちで、自分らしく生きる可能性を高めます。
習慣逆転法
抜毛症・チック・指しゃぶり・爪噛みなど、好ましくない病的な習癖を修正する有効な方法です。
抜毛癖を意識するために記録を取るようにします。抜毛癖を意識できたら、毛髪を引き抜く行動を別の行動で妨げるようにします。頭髪を引き抜きたくなったら、衝動が収まるまで両手を握り締めるなどします。抜毛行為を妨げる拮抗反応を新しく身体に覚えさせ、抜毛という古い習癖を消します。ここまでで、かなりの治療効果が上がります。
身体の筋肉を意識的に緊張させたり、弛緩させたりして、リラックスすることを覚えます。腹式呼吸もリラクゼーション効果があります。不安やイライラを、身体をリラックスさせて解消します。
抜毛癖をコントロールできた時は、自分に御褒美を与え、新しい習慣を強化します。抜毛癖が改善するメリットを再確認することも、御褒美になります。
マインドフルネス
呼吸を意識することにより、「今ここ」にある自分および他者をありのままに捉えます。心理療法の基本中の基本とも言えるポイントです。
元来、マインドフルネスは、禅や仏教の考え方に基づいています。仏教の「サティ」、漢語の「念」、日本語の「気づき」です。臨床心理学では、「第三世代の行動療法」と位置付けられています。うつ病や精神的ストレスによる疾患の改善に有効です。
瞑想を続けることにより、頭と心がスッキリして、不安感やストレスが軽減されます。考えすぎの傾向のある人、気持ちの切り替えが下手な人にオススメの方法です。
[薬物療法]
心理療法は薬物を用いない治療方法です。しかし、脳内環境が異常になっているので、薬物治療が効果的です。精神科医(神経科医)は、薬剤を投与して脳内環境を整えます。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
セロトニンは神経伝達物質の1つです。ノルアドレナリンやドーパミンなど他の神経伝達物質の暴走を抑制し、精神のバランスを整えます。心の安定をもたらします。
セロトニンが十分に分泌されていると、感情的にも社会的にも安定し、幸福感が生じます。セロトニンが不足すれば、不安やうつ状態、イライラ、睡眠障害など、様々な精神的障害が起きます。
(SSRIでセロトニンの量を増やす)
セロトニンは神経細胞内で産生され、脳に放出されると、再び、同じ神経細胞に取り込まれます。「選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI」は、神経細胞に蓋をして、セロトニンの再取り込みを妨げ、脳内のセロトニンの量を増やします。
不安が解消され、感情的に安定するので、抜毛症にも効果があります。
(副作用のない薬剤)
SSRIは抗うつ薬です。従来の抗うつ薬と違い、セロトニンのみに作用して、他の神経伝達物質には作用しません。そのため、副作用の心配がありません。
[皮膚科的治療も必要]
抜毛で皮膚に傷がつくと、細菌感染などが起こり、頭皮や肌に炎症が生じることがあります。精神科医と相談して、皮膚科的治療を受けることも必要になります。
薄毛やハゲが深刻な状況であれば、皮膚科で発毛促進剤や育毛剤を処方してもらうなど、脱毛治療を受けるケースもあります。しかし、自己抜毛の悪癖さえ止まれば、頭髪は元通りに生えてきますから、あまり心配は要りません。
抜毛症と関係のある病気
抜毛症と紛らわしい病気や関係性のある精神疾患があります。疾患によって治療法が異なりますから、最初に確かな診断を受けることが大事です。まず、皮膚や内臓の疾患かどうかを確認する必要があります。
[抜け毛症]
「抜け毛症」とは、異常脱毛のことです。
健康な髪の毛は、発生期・成長期・休止期・退化期というヘアサイクル(毛周期)を繰り返しています。退化期になると、髪の毛は自然に抜け落ちます(自然脱毛)。
ヘアサイクルの乱れ
加齢や頭皮の炎症、薬物の作用などにより、ヘアサイクルが乱れると、退化期に入る前に、髪の毛が抜け落ちてしまいます。健康な毛髪が育たなくなり、全体的に薄毛やハゲになります。ストレスが原因となることもあります。
細い不健康な頭髪
抜毛症との違いは、抜けた髪の毛でわかります。抜け毛症の場合は、髪の毛が細く、コシがありません。抜けた髪の毛根が痩せていて、皮脂や汚れが付着していることもあります。抜けずに残っている毛髪も細くて柔らかく、コシやハリ、ツヤがありません。切れ毛や枝毛も多くなります。
抜毛症は頭皮にもヘアサイクルにも異常がないので、抜け落ちた毛髪は健康です。
[円形脱毛症]
「円形脱毛症」とは、突然、頭髪の中に円形または楕円形の境界のはっきりしたハゲができる病気です。現在は、自己免疫疾患の1種と考えるのが主流です。ストレスが誘因となるという説もありますが、ストレスとの関係は、まだ不明です。
脱毛部分は1ヶ所から数ヶ所できる
豆粒大から500円玉大の脱毛部分が1ヶ所から数ヶ所できることが多いようです。ハゲた部分の周囲の毛髪を引っ張ると、痛みもなくハラハラと簡単に抜けます。
多数の脱毛部分がつながって帯状になったり、頭全体が脱毛したりすることがあります。
頭髪だけでなく、眉毛・まつげ・腋毛などが脱毛することがあります。重症の脱毛症では、頭髪から全身の体毛まで脱毛してしまいます。
軽症ならば自然治癒・長期化することもある
脱毛部分が小さく、1~2ヶ所程度なら、自然治癒することが少なくありません。本人が気づかないうちに治っていることもあります。
しかし、円形脱毛症は再発することが多く、急に重症化することもあります。治療が長引くこともあり、ステロイド剤を投与することもあります。なかなか毛髪が生えてこないので、患者さんはイライラしますが、毛包は休止しているだけで、破壊されていません。自己免疫疾患が治癒すれば、頭髪は再び生えてきます。
[強迫性障害]
「脅迫障害」は「強迫神経症」ともいいます。自分の意に反して不安や不快な考えが浮かんできて、抑えようとしても抑えきれません。「強迫観念」といいます。強迫観念を打ち消そうとして無意味な行為を繰り返します。「脅迫行為」といいます。強迫観念や脅迫行為が起きる状態を「脅迫症状」といいます。
自分でも、その考えや行為が不合理とわかっていても、止めようとしても不安が募り、止めることができません。
抜毛症は脅迫性障害と重なる部分が多い
抜毛症は、昔は強迫神経症の1種と考えられていました。「髪の毛を引き抜きたい」という衝動が抑えられず、止めようとしても止められないためです。
しかし、抜毛症では、強迫観念がそれほど明確でなく、強迫行為も抜毛に限られています。そのため、抜毛症は、爪噛み・唇噛み・口の中を噛む・皮膚をむしるなど、「身体に対する繰り返し行動」の1種と考えられるようになりました。
身体に対する繰り返し行動BFRBs
「身体に対する反復的行動」ともいいます。抜毛症や「皮膚むしり症」などのことです。
皮膚むしり症では、皮膚の一部をいじり、爪などで皮膚をひっかいたり、はがしたり、傷つける行為を繰り返します。止めたくても止められないのは、毛髪を引き抜く行為と同じです。
抜毛症も皮膚むしり症も、進行すると、外見を損なったり、知覚が鈍くなったりします。
[パーソナリテイ障害]
パーソナリティ障害は精神疾患の1つです。本人の人格から生じる困難のために、日常生活に支障をきたす病気です。社会的規範に沿った行動様式をとることができません。
行為障害
パーソナリティ障害の子供版が、「行為障害」です。子供が、反復的・持続的にとる反社会的・攻撃的・反抗的行動パターンが特徴です。
原因はまだ解明されていませんが、神経伝達物質による脳内環境の異常や、親の愛情不足・両親の不仲・離婚が関係しているようです。これは、抜毛症の子供と同じです。
境界性パーソナリティ障害
「境界性パーソナリティ障害」は、パーソナリティ障害の1種です。感情が不安定で、対人関係を良好に保つことができません。抜毛症と似ているのは、両親との関係です。
境界性パーソナリティ障害の原因は、遺伝的要因と幼少期の虐待といいます。幼少期に両親特に母親との健全な愛着が築けないと、発症することが多くなります。抜毛症も、親の厳しすぎるしつけや、絶え間のない注意・干渉が、子供の不安や不満をつのらせ、精神的ストレスを溜めることで発症することがあります。
[パニック障害]
突然、激しい動悸・発汗・頻脈・息苦しさ・胸部不快感・めまい・ふるえなどの身体症状が起こり、死ぬかもしれないという不安に襲われる精神疾患を、「パニック障害」といいます。身体的には何の異常もありませんが、パニック発作を繰り返し起こします。
パニック発作を繰り返すと、発作を繰り返すことを恐れ、逃げ場のない場所や大勢の人が集まる場所には、怖くて行けなくなります。
治療法はセロトニンの量を増やす
パニック障害では、神経伝達物質のノルアドレナリンとセロトニンのバランスが崩れています。セロトニンの量を増やす薬物療法により、パニック障害が改善します。
抜毛症と同じように、薬物治療で脳内環境を整えるのです。
まとめ 抜毛症は精神的ストレスによる精神疾患
抜毛症は、自分で自身の髪の毛を引き抜いてしまう精神疾患です。頭髪を引き抜く癖が止められないので、薄毛になったり、まだらな脱毛斑ができたりします。まつげや眉毛、体毛を引き抜くこともあります。学校や職場など生活の重要な部分で、困難や支障が生じます。
小学生から思春期に発症することが多いのですが、最近は、成人の抜毛症も少なくありません。抜毛症の原因は、様々な精神的ストレスです。
抜毛症には、無意識に髪を引き抜くタイプと、頭髪を引き抜きたいという衝動を抑えられないタイプがあります。どちらも、髪の毛を引き抜くことで、精神的ストレスに対処しています。髪の毛を引き抜くと、一時的にスッキリした気持ちになれるのです。
自己抜毛行為は、自分では止められません。精神科医による治療が必要です。心理療法と薬物療法で治療できます。皮膚科的治療をすることもあります。皮膚や毛根に異常がないので、抜毛行為が止まれば、健康な髪の毛が生え育ち、薄毛もハゲも治ります。
できるだけ早期に精神科の治療を受けること、家族など周囲の人たちが患者に温かく接することが大事です。
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