やめたいのに、どうしてもやめられないことってありますよね。
自分でもなぜだかか分からないけれどやらずにはいられない…癖というのは、本来そういうものかも知れません。でも、心の底からやめたい、無意味だと思っているのにやめることができないのなら、それは強迫性障害かも知れません。
いつも悩まされている習慣、日常生活の悩みなど、もしかしたら、その原因は精神的なものから来ているかも知れませんよ?原因を知ることで改善できることもあります。まずは、強迫性障害についてお話しましょう。
強迫性障害とは
強迫性障害というのは、自分の考えとは反する、不安な思いや不快感が取り除けない状態、またはその状態から抜け出そうとして不可解な行動に走るなどの症状を言います。具体的には、寝る時にテレビの電源をちゃんと切ったかどうか気になり、何度も確認したり、火を消し忘れたような気がして、何度もガスコンロを見に行ったり、トイレのあと何度も手を洗わないと汚い気がしたりします。
頭では無駄なことだと分かっていても、気持ちがどうにも落ち着かず、確認しないと不安で仕方の無い状態になります。そんな状態ですから、睡眠不足になったり支度に時間がかかったり、仕事に身が入らなかったりと、日常生活に支障をきたすことも多いでしょう。割合としては100人に2人と言われますから、決して珍しい病気ではありませんよね。非常に厄介ですが、きちんと治療をすれば治すことは可能です。
心配性との違い
病気でない人も、心配事はありますし、それが気になって仕事に手がつかないことはあります。特に心配性の人は細かいことがいちいち心配になりますから、いつも不安がっているように見えるかもしれませんね。だからと言って、強迫性障害も気の持ちようだと考えてしまうのは危険です。そもそも、心配性と強迫性障害とでは全く違いますから、まずはその違いについてお話ししましょう。
日々の生活の中で、何かしら嫌なこと、心配なことはあるものです。しかし、気になっていたとしても、そのすべてが解決するまで他のことに手がつけられない、ということはありませんよね?どこかで折り合いをつけ、他にやるべきことがあれば対処することができるはずです。
しかし、強迫性障害の人は心配事が頭を支配してしまい、片時もそのことが頭から離れません。四六時中気になってしまうため、仕事に身が入らず、生活に支障をきたすことにもつながってしまうのです。
もしも些細なことが気になり、日常生活に支障をきたすほどの確認をしなくては気が済まないようなら、強迫性障害を疑ってみるとよいでしょう。
強迫観念と強迫行為
強迫性障害は、「強迫観念」と「強迫行為」の2つから成っています。
強迫観念
「強迫観念」というのは耳にしたことがあるかも知れませんが、具体的には「〜しなければならない」というような、強い思いが繰り返し沸き起こってくる状態です。強迫観念は、
- 唐突に、ある考えが繰り返し、何度も頭に浮かぶ
- 考えの内容はしばしば不快感、不安を伴う
- 普通ならば考え至らないようなとっぴな内容を考え付く
- 振り払おうとしてもなかなか頭から離れない
という特徴があり、1人で解決するのは非常に難しいです。
強迫行為
「強迫行為」とは、強迫観念によって何度も繰り返し浮かんでくる不安を打ちそうとして行う行動を指します。どんな行動に出るかは人によって様々ですが、大半は意味のない、端から見たらバカらしい行動が多いです。
強迫行為を行うことで安心し、一時的に落ち着きますが、時間が経つと再び不安に襲われるため、何度も強迫行為と強迫観念に襲われることになり、悪循環から自力で抜け出すことはかなり困難と言えます。
強迫性障害の特徴
強迫性障害でなくとも、人はある瞬間にふと頭にある考えが過ぎることがあります。「玄関の鍵をちゃんと閉めたかな?」「火を消し忘れていないだろうか?」というのは、家を留守にしている時にふと考えますよね。誰でも忘れることはありますし、おや?と思い返すことはあります。ここで普通ならば、「まぁ気のせいだろう」「たぶん大丈夫だろう」と思い、気にしすぎることはありません。
しかし強迫性障害になると居てもたってもいられず、最悪のケースを想像して不安になり、最終的には強迫行為に及びます。実際に家に帰って確認しないと安心できない上、この確認を何度も繰り返すため、確認行為自体に膨大な時間を割いてしまうのです。
強迫性障害の原因
では、無駄と分かっていながら何度も同じ確認を繰り返してしまうのはなぜなのでしょうか?
主な原因は、セロトニンが正しく働いていないためだと言われています。セロトニンは脳の情報を神経伝達物質から神経伝達物質へと伝える役割があるため、セロトニンに異常があると、正確な状況判断ができなくなるのです。
安全であること、清潔であること、これらの情報が正しく伝わないため、同じことを何度も確認しないと不安で仕方がなくなるのです。
強迫性障害になりやすい性格
セロトニンの働き以外にも、生まれ持った性格が関係している場合もあると言います。強迫性障害になりやすい人の傾向としては、以下のものが挙げられます(OCCWG調べ)。
完璧主義
何事も完璧にこなさないと気の済まない性格は、ストレスをため込みやすく、少しの挫折でも精神に支障を来すリスクが高くなります。完璧であることへのこだわりが、強迫性障害を引き起こす可能性は十分にあると言えますね。
心配性
小さな不安も大げさに受け止めてしまうため、何事も神経質になりがちです。ストレス耐性が弱く、些細なことでストレスを感じてしまいます。
責任感が強い
自分の負うべき範囲を超えて、何事にも責任を強く感じてしまいます。自分を責めやすいため、ストレスを抱え込みやすいと言えます。
あいまいなことが嫌い
物事をあいまいにしておくことに耐えられません。白黒はっきりさせないと気の済まない性格です。
思い込みが激しい
自分の考えていることが結果に影響を与えるという考え方です。悪い想像をしていると、本当に悪いことが起こると考えてしまいます。マイナスの思い込みが強いため、物事を冷静に判断することが苦手です。
コントロールすることへのこだわり
自分の感情や考えをコントロールしたいという欲求が強く、思うようにコントロールできないと不快感を覚えます。
このように、生まれ持った生活によって、どうしてもストレスを抱え込みやすくなり、その結果、強迫性障害を発症する可能性は高くなります。しかし、性格だけで発症するわけではなく、生活環境や心的ストレスに遺伝などの条件が重なって発症する場合が多いようです。
強迫性障害の2つのタイプ
強迫性障害と言っても、タイプは主に2パターンあります。それぞれのパターンに分けてご説明しましょう。
自己完結型
その名の通り、自己完結タイプの症状です。不安を感じても自分ひとりで抱え込み、強迫行為を繰り返すのが特徴です。鍵をかけたかどうか何度も家に帰って確かめたり、手が汚れていないか気になり、いつまでも手を洗うなどの行動に出ます。
自己完結型は人を巻き込まない分、1人で抱え込んでしまうため、精神的に追い詰められるリスクが高いと言えます。さらに、何度も確認をするという行為が尋常でない自覚はあるため、周囲にそれと気付かれないようにするのも厄介ですね。結果的に発見が遅れ、症状の悪化を招くことにもつながってしまいます。
巻き込み型
一方、巻き込み型は、自分だけの確認に留まらず、周囲を巻き込みます。鍵のかけ忘れや火の消し忘れなど、不安要素があると周囲に何度も確認し、同意を求めます。一緒に確認し、同意を得られることで一時的に精神は安定しますが、すぐに不安に襲われ、再び確認を促す、という悪循環に陥るのが特徴です。
さらに、この確認行為は徐々にエスカレートするため、始めの内は付き合っていた周囲も、徐々に手に負えなくなって人間関係の悪化を招きかねません。ただし、確認行動がエスカレートすることで、その異常さが周囲に伝わるため、強迫性障害の症状に気付きやすくなります。そのため、家族や周囲の人に促されて医療機関を受診するケースも見受けられます。
強迫性障害の治療法
強迫性障害を克服するためには、ストレスは大敵です。また、暇さえあれば不安に苛まれるリスクが高くなりますから、何かに熱中して、余計なことを考えないようにしましょう。
具体的な治療法としては、以下ようなものがあります。強迫性障害は1人では解決できない問題ですから、早めに医療機関を受診して、解決への糸口を探すことが大切ですよ。
カウンセリング
カウンセリングと聞くと構えてしまう人もいるかもれませんが、自分が不安に思うことを話すだけで大丈夫です。抱えている不安に対して、大したことはない、大丈夫だと言ってもらうことで、不安の元を取り除くのが目的ですからね。カウンセリングのポイントは以下の2つで、これを繰り返すことで改善を図っていきます。
- 「大丈夫」だと言い聞かせる
- 大丈夫な理由を伝える
非常にシンプルですが、そもそも普通ならば気にならないことが大きな不安になり、発症する病気ですから、「大丈夫」だと分かれば症状は治まっていきます。簡単なことかも知れませんが、繰り返し行うため、家族や友人には負担が大きすぎます。人間関係の悪化にもつながりますので、医療機関で行うようにしましょう。
薬による治療
SSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)という薬を服用することで、症状の改善を図ります。そもそも強迫性障害はセロトニンが上手く働かないことで起こります。セロトニンが減ってくると不安感が募り、不快な気持ちになるため、セロトニンの減少を抑えることを目的として使用します。症状に合わせて薬の量を増やし、改善してきたら徐々に減らしていきましょう。ただし、急に止めると逆効果になるため、医師とよく相談することが大切です。
行動療法(ショック療法)
これは、不安の元になっている行動をあえて行うことで改善を目指す方法です。強迫性障害は不安を払拭するために回避行動として強迫行為を繰り返しますが、行動療法は強迫行為を禁止します。つまり、不安を回避しなかった場合、どのような結果になるのか体験し、確認することで、不安を取り除こうというわけですね。
たとえば、
- ドアノブを触った後、手を洗わない
- 電気を点けっぱなしで外出する
始めの内は不安感が強く、すぐに止めたくなるでしょう。強迫行為を行わないことは、強迫性障害の人にとっては大きなストレスになります。しかし、苦しくても我慢することで、実際には何の問題もないのだと理解することが大切ですよ。
何科を受診するか
強迫性障害にかかってしまったら、何科で診てもらえばよいのでしょうか?ここに情報をまとめておきますので、受診される時の参考にしてみてくださいね。また、似たような名称でも、強迫性障害を診ていない科もあるので、事前に調べるか病院で確認しておくとよいでしょう。
強迫性障害を診てくれる科
- 精神科
- 心療内科
- 神経科
- 精神神経科
- メンタルヘルス科
強迫性障害を診ていない科
- 神経内科
- 神経外科
まとめ
強迫性障害は、周りから見たら些細なことを気にしているだけに見えるかもしれません。何度も同じことを確認するため、時間もかかればエネルギーも消費し、心身共に疲れ果ててしまいますよね。「大変ならやめればいいのに」と、周りの理解を得られないのは辛いことです。しかし、直す方法はあるのですから、悲観せず、早めに周囲に助けを求めましょう。
心配性やこだわり症、責任感の強い人など、人よりも些細なことが気になるからと言って病気とは限りません。しかし、日常生活に支障を来すほどに不安が強い場合、何度も同じ確認を繰り返してしまう場合には、1度病院で診てもらうことをオススメします。
早期発見・早期治療で、自分も周りも、健やかな気持ちで過ごしたいものですね。