精巣腫瘍とは精巣にできるおできのことです。精巣腫瘍になる人は10万人1人程度で、比較的稀な腫瘍です。年代別には15歳から35歳代にかけて、発生のピークがあり、若年者に多い腫瘍が特徴です。
精巣腫瘍は年齢別にみると、5歳以下20歳から30歳代にかけてピークがあり、40歳以下で全罹患率が3分の2を占めています。男性は100万人当たり10~15人程度ですが毎年増加傾向にあり、日本より外国の人の方が多いです。欧州諸国の罹患率は日本の2倍です。
精巣腫瘍は国別、人種によって差がかなりあります。スカンジナビア(デンマークやノールウェー)やスイス、ドイツ、ニュージーランドで頻度が最も高いです。米国と英国は中ぐらいで、アフリカアジアでは頻度がとても低いです。また米国の黒人は白人の1/3ですが、アフリカの黒人に比べると10倍多いです。ハワイにおけるフィリピン人・日本人は、中国人・白人・現地のハワイ人の約1/10と、日本人は可なり少ないです。
精巣腫瘍について詳しく見てみました。
精巣腫瘍とは
精巣腫瘍とはどのような病気でしょうか?睾丸腫瘍や睾丸がんともいわれています。
精巣とは
精巣(せいそう)とは睾丸(こうがん)とも呼ばれて、男性の股間の陰嚢内部にある、左右一つずつある卵型の臓器です。きんたまと言われる人もいます。
精巣には男性ホルモンを分泌する役割の、男性ホルモンを産生するライディ細胞と、精子を作る役割の精母(せいぼ)細胞の2つが存在します。
精巣腫瘍とは
精巣腫瘍とは精巣にある細胞にできるおでき、つまり腫瘍を精巣腫瘍と呼びます。精巣腫瘍の多くは約95%は、精母細胞にできるものです。
精母細胞は生殖細胞または胚細胞と呼ばれ、生殖に直接関係がある細胞で、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍ともいわれています。いわゆるがん性のものが多いです。
精巣腫瘍のできやすい年代
20代から30代にかけて、最も精巣腫瘍のできる人が多く、このころがピークとなります。このころにできる腫瘍は固形腫瘍といわれ、白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍ができます。
精巣腫瘍は精巣にできる腫瘍ですが、悪性することが多く悪性腫瘍のがんであることがとても多いので、早期発見早期治療が予後を、良くするものと思われます。
精巣腫瘍の進行
とても進行が早くてすぐ他の臓器に転移してしまうので、放置していると命に関わることのある、とても怖い病気です。でも最近では治療法の進歩もあり、9割以上の人が完治するようになったことは、とても嬉しいことです。
転移を起こした人でも、7~8割の人が完治しています。進行した状態では治療が困難になって、精巣腫瘍を隠している患者もいますので、おかしいと思ったら恥ずかしがらずに、できるだけ早く泌尿器科を受診して、症状を医師に伝えることが大切です。
男性の不妊症の場合、特に精巣腫瘍では精密検査で異常のある、男性のリスクが高くなっています。
精巣腫瘍の生存率
生存率は予後が良好の方で、95%、予後が中程度で80%、予後不良で70%と予後不良の方でも70%の生存率が示されていますが、これは医療の進歩によるもので、BEP療法の化学療法がおこなわれる前は、もう少し生存率も悪かったです。
しかし現在は適切な治療を行えば、95%の人が完治する状況になってきています。
精巣腫瘍の原因
精巣腫瘍の原因はどこにあるのでしょうか?
本当の原因はまだはっきりとはしていません。家族に精巣腫瘍にかかった人がいる家庭歴や、停留精巣のように乳幼児期に精巣が陰嚢内に、納まっていない状態であることや、反対側の精巣に腫瘍が、あったことなど原因として挙げられます。
また精巣発育不全などの病気や、妊娠時にホルモン剤投与や、萎縮精巣などの病気を持っている人などが、精巣癌になりやすいと考えられています。
組織型
精巣腫瘍には性腺基質由来及び、その他からなる非胚細胞腫瘍と、生殖細胞由来の胚細胞腫瘍の2つに分かれます。胚細胞腫瘍が90%~95%と大部分を占めていますが、胚細胞腫瘍には精子をつくる細胞形成の要素が分化して、がん化したセミノーマと、胎児性癌や奇形腫や絨毛癌などの非セミノーマの2つの型に分けられます。
セミノーマ(精上皮腫・睾丸がん)
10歳以下
精巣腫瘍の組織型は年齢との関係がとても深いです。生まれて10歳ころまでに発症する、精巣腫瘍は奇形腫ですが一般的には良性です。時には小児の白血病の精巣浸潤もみられますが、精巣生検が行われ、治療効果や病態を調べたりします。
20歳~35歳
20歳~35歳頃までに発症する精巣腫瘍は、胎児性がんがほとんどで、進行症例で全ての患者がプラチナ製剤の有効性が発見されるまでは、2年以内に死亡していました。1977年に米国のEnihomらが精巣腫瘍に対する、プラチナ製剤の治療に着目して、PVB療法のプラチナ製剤を含む多剤併用療法の有効性を報告してからは、その治療成績が革命的に向上しました。現在ではBEP療法が標準的な、治療方法として第一選択の治療とされています。
このBEP療法は、PVB療法よりも副作用が少なく、有効性が高いと証明されています。稀な組織型の精巣腫瘍ですが、絨毛癌はこの年代に多く、卵黄嚢腫瘍は幼児の他、成人の混合腫瘍の一つと見れれています。
35歳~40歳
35~40歳の頃までの精巣腫瘍においては、セミノーマが多く、セミノーマはもともと放射線治療が有効で、比較的予後も良好なものとされていました。
セミノーマは現在ではプラチナ製剤を中心とした化学療法が、精巣腫瘍には効き目が高いため、ほとんどの症例で、全身転移の患者に対しても治癒が、可能なものとなっています。
50歳以上
50歳以上の精巣腫瘍は悪性リンパ腫の、精巣内浸潤である場合が多く、組織診断と診断されたら全身性悪性リンパ腫の、化学療法の治療が行われます。
非セミノーマ
非セミノーマは血液中のAFP(アルファフェトプロテイン)が、上昇する胎児性癌や卵黄嚢腫瘍や、特異的なマーカーがない奇形腫、また血液中のHCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の絨毛癌および、これらの組み合わせからなっています。精巣腫瘍には特徴的な腫瘍マーカーが、アルファフェトプロテインとヒト絨毛性ゴナドトロピンがあります。
顕微鏡でがん細胞を観察して、セミノーマには分類されないものは、全て非セミノーマとして分けられます。胎児性癌や卵黄嚢腫瘍、奇形腫、絨毛癌の様々な組織型があります。
非セミノーマの場合、放射線療法は殆ど効かないという特徴があり、化学療法が効果的に行われます。そのため非セミノーマは外科療法と、化学療法が中心に治療が行われていきます。
精巣腫瘍の症状
精巣の腫瘍の症状は、どの様な症状が出るのでしょうか?
進行が速い
片側の精巣の腫れや硬さによる変化が、精巣腫瘍の症状と言えます。しかし多くの場合痛みや発熱がないために、病気が非常に進行しないと、気が付かない人がとても多くいます。
精巣腫瘍は非常に簡単に、比較的短期間で腫瘍癌が、離れた臓器に転移するために、転移して起こる症状で病院に行って、そこで精巣腫瘍を見つけて診断されることがあります。
転移した部位の症状
症状は転移した部位により異なります。例えば肺転移した場合は、息切れや咳や血痰などの症状がみられ、腹部リンパ節の転移の場合は、腹痛・腰痛・腹部のしこりなどの症状が見られます。
泌尿器科の受診
病気が可なり進行して咳が出て胸が苦しいとか、お腹がポンポンに膨らんできたとか、精巣腫瘍の転移による症状で病院を訪れて、精巣が腫れていることを申告しないで、泌尿器科以外の科を受診して、原因がわからず他の治療を受けていることが実際にありました。
そして後で精巣腫瘍が原因だったと分かったのです。精巣に痛みが出る患者さんは1割ぐらいいます。ですから痛みがあるからと言って、癌ではないと決めつけないで、泌尿器科を受診することが大切です。
症状の認識
通常は一側の精巣内の小さな、限られた部分を触って認識したり、痛みのない精巣腫大で発見されます。下腹部や肛門、陰嚢の鈍い重い痛みを感じることがあります。
精巣腫瘍内や男性ホルモンを分泌する性腺基質由来の腫瘍は稀です。
小児の精巣腫瘍
小児例では男性ホルモンが過剰に分泌されるために、性的早熟が現われることがあります。悪性腫瘍において、高い特異性をもって産生されるもので、正常細胞や良質疾患ではほとんど見られない腫瘍マーカー(HCG)の過剰分泌のために、女性化乳房が起こることがあります。
精巣腫瘍の検査
精巣腫瘍の検査はどの様にして行われるのでしょうか?
診断方法
触診他
泌尿器科医が診察して、触っただけで殆どの場合、診断が付きますが、判断に迷う時もあり、懐中電灯を当てて、精巣の中身が詰まっているかいないかを調べ、超音波検査で腫瘍の内部を検査して調べます。
血液検査
精巣腫瘍だと確定すれば、すぐに血液検査をして、血液検査で腫瘍マーカーでがん細胞かどうか調べ、細かい検査は後に回します。そしてできるだけ早く精巣を腫瘍と共に摘出する、外科的手術の外科療法を行います。
以前は緊急手術が行われましたが、現在は医療技術が進んで、そこまでの緊急性を要していません。しかし進行が速いので、一刻も早く摘出手術をすることが必要となります。
CT及びアイソトープ
精巣摘出と前後して、がん細胞が他臓器に、転移していないか調べるために、全身のCTやアイソトープを使った検査が行われ、転移する多くの個所の肺やリンパ節、肝臓や骨、脳などを入念に調べます。
超音波検査
精巣内の腫瘍いわゆるがん細胞を明らかにするためには、超音波検査が最も適しています。精巣腫瘍は後腹膜リンパ節や肺に転移しやすいです。リンパ節転移を調べるためには胸部のレントゲンX線撮影や、CTまた腹部CTが必要となります。
病理検査
組織型腫瘍の病理検査は顕微鏡レベルでしか、調べて診断することができないために、精巣腫瘍患者に対しては、がん細胞が遠隔に転移をしていても、診断されないまま精巣摘除術が行われます。
精巣腫瘍の治療
精巣腫瘍の治療法にはどのような物があるんでしょうか?
精巣は生命の源の男性生殖器ですから、精巣腫瘍の組織型は他の臓器の、腫瘍と違って多種多様であるため、組織型によっては治療や予後も全く異なります。病気分類の治療は以下のようになります。
I期の治療法
精巣腫瘍摘除術後再発防止のために、抗がん剤を投与したり、また何もしないで経過観察して様子をみます。再発転移がCTなどでないと診断されても、再発率は1~2割は目に見えない転移があり、1~2年以内に再発が確認されることが良くあります。その為に予防的治療として、抗がん剤の追加治療の、ガン剤治療を行うことがあります。
予防的治療の追加を行わない場合は、術後1~2年の間は毎日マーカーチェックを行い、3か月に1度CT検査などを行って、早期治療早期発見に尽力を尽くします。I期の場合は殆どが完治している患者さんが多く、治療成績は良好です。
Ⅱ期の治療法
腹部の大血管の周囲の転移状況により、リンパ節転移のがんが小さいときは、病理組織の形態によって治療方針が異なってきます。
1.セミノーマ(精上皮腫・睾丸がん)
転移が一つ確認された段階では、全身に転移しているものと考えて、多くは抗がん剤による全身化学療法が選択されます。セミノーマでは放射線療法が行われることがありますが、これはセミノーマは放射線治療が有効に効くため、また肺、肝、脳などの転移の、血行性転移が少ないからです。
治療方法としては放射線治療のみの場合は、成績はやや劣ります。放射線治療後の10年20年後に他臓器へのがんの再発は少し高くなります。そのために現在では化学療法が第一選択に行われることが多いです。
化学療法で腫瘍がなくなって、血液検査でマーカーの値が正常化したセミノーマ患者は、10%ぐらいがんの生き残りがあり、再発するのでこの場合は手術で、後腹膜リンパ節郭清術することで80~90%の根治が可能となります。
2.非セミノーマ
全身化学療法が第一選択として非セミノーマはなります。シスプラチンという抗がん剤によって治療成績は良くなり、約70~80%のセミノーマ症例で、外科療法との併用療法により、根治が期待されるまでに、治療方法が改善されてきました。
抗がん剤として現在では、シスプラチン、エトポシド及びブレオマイシンの3剤併用のBEP療法がおこなわれるようになりました。初期化学療法としては、シスプラチン、エトポシドの2剤を使って、治療を行うことが一般的になってきています。
化学療法が目指すものは、画像上の縮小が認められなくなることと、マーカーがあればマーカーの正常化することで、マーカーの正常化があって、画像上に残っているものは、奇形腫として扱われ、手術で摘出されます。
化学療法が行われた後に、腫瘍がなくなり、血液検査でマーカーの値が正常化すれば安心と思うことはできません。その中の再発率約20%は奇形腫以外の、悪性細胞がどうしても残るとされています。ですからマーカーが正常化されたら、転移あったとされる範囲を後腹膜リンパ節郭清の手術が行われます。これをすることで完治が見込まれます。
外科的手術の方法
精巣の外科的手術方法としては、精巣と腫瘍ごと摘出しますが、その場合高位徐精巣術(こういじょせいそうじゅつ)といって、陰嚢を切開せずにお腹の下の方に、傷ができる方法でやります。精巣は左右一対あるので、片方を摘出しても片方が正常であれば、精子は間違いなく作られますので、不妊症の心配はありません。
精巣腫瘍疾患の患者さんは、精巣を残す方も、精子を造る能力の低下が見られたりすることがありますが、精巣の機能として男性ホルモンを作る能力も重要です。勃起能は一つでも十分衰えることはありません。
転移のあるがん治療
血液の検査で転移が見つかった場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンの抗ガン薬3種の治療が追加されて、1回5日間の点滴を3~4週間おきに繰り返します。標準的治療として3~4回行うことで、病状にもよりますが大体治まります。
こちらの治療で進行したがんの睾丸がんの場合でも、7~8割の人が完治するようになりました。残りの2~3割の人は、標準的治療としてでは治りにくいので、薬を変えたり、薬の量を増やしたり、外科的手術を追加したりして、完治を目指します。初期のがんの人でも将来2~3割の転移が現われるので、予防的なガン剤投与や放射線の治療を行うことがあります。
まとめ
如何でしたでしょうか?少しは精巣腫瘍の知識を高めて頂けましたでしょうか?精巣腫瘍かなと思ったとき、また少し睾丸が変と思ったときは、迷わずに恥ずかしがらないで、泌尿器の診療科を訪れて、先生に相談してみてください。
進行が精巣腫瘍は早いので、自分で変と思ったときは、違っていてもかまいませんので、早めに医療機関を訪れることをお勧めします。
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