「急にお腹が痛くなった」「突然、太腿から睾丸にかけて激しく痛む」というような場合、もしかしたら精巣捻転(せいそうねんてん)かもしれません。精巣捻転は、精巣(睾丸)そのものがねじれるのではなく、精巣が回転して、精巣と腹部をつなぐ精索というヒモのような部分がねじれる病気です。精索がねじれるため、精巣へ血液が流れなくなります。
精巣捻転が怖いのは、精巣への血流が途絶えるために組織が壊死してしまうことです。精巣が腐ってしまうのです。激痛が生じてから6時間以内に手術をする必要があります。処置が遅れて精巣が壊死してしまうと、精巣を摘出しなければなりません。
精巣捻転の原因や症状、発症した時の対応について、お伝えします。
精巣捻転とは?
精巣捻転は、「精巣捻転症」「精索捻転症」「睾丸捻転」「睾丸回転捻転症」とも言います。
精巣(睾丸)が回転して、精巣と腹部をつなぐ精索(せいさく)というヒモのような部分がねじれてしまうのです。精索には、血液を運ぶ血管と精液を輸送する精管が通っています。精索がねじれると、血管が圧迫されて血流が止まってしまいます。
精巣に血液が流れ込まないようになり、酸素不足を起こし、精巣が壊死(腐ってダメになる)してしまいます。
[精巣捻転の原因]
精巣捻転の原因は、精巣(睾丸)周辺の形状の異常と考えられます。
精巣(睾丸)は、ふつう、陰嚢(いんのう)内に固定されて回転しないようになっています。精巣を包む鞘膜腔(しょうまくこう)の内部が広すぎる場合、精巣が十分固定されないことがあります。鞘膜腔の外側に陰嚢があります。精巣が十分固定されていないと、精巣が回転して、精索がねじれやすくなります。
精索が長すぎる場合も、ねじれを起こしやすくなります。副睾丸(精巣上体)の付着が異常な場合、大きさが不均衡な場合も、精索にねじれが起きやすくなります。
また、精巣の静脈に内圧変化が起きると、精索に捻転が起こります。
精巣捻転は左側の精巣(睾丸)に起きることが多いと言われます。65%が左側精巣に起きます。もちろん、右側に起きることもありますし、両側の精巣に捻転が起きることもあります。両側に精巣捻転が起きるのは1%程度です。
精巣捻転は停留睾丸といっしょに起きることが少なくありません。停留睾丸とは、陰嚢の中に精巣(睾丸)が収まっていない状態です。ふつう、睾丸は、胎児の時に腹部でつくられ、出産前に陰嚢に下りてきます。
これが、何らかの原因で腹部にとどまった(停留した)まま、あるいは下りてくる途中で止まってしまい、陰嚢に下りてこないことがあります。男児の先天的な疾患です。1歳になるまでに自然に下りてくることが多いのですが、1~2歳で手術が必要になることもあります。
[精巣捻転を発症しやすい年齢]
精巣捻転は、どの年齢の男性にも起こり得る病気ですが、特に、新生児と思春期から25歳くらいまでに起きやすいようです。
新生児は、精巣が陰嚢の中に十分固定されていないので、回転しやすく、精索がねじれやすくなります。停留睾丸との合併症は、新生児・乳幼児に起きやすくなります。
思春期になると、第二次性徴がはっきりしてきます。精巣(睾丸)も重量を増すようになります。精巣が重量を増したのに、陰嚢にしっかり固定されていないと、精巣が回転して、精索が捻転を起こしやすくなります。
しかし、25歳を過ぎても、精巣捻転が起こる可能性は0%ではありません。精巣捻転の原因は不明な部分もありますから、男性なら、いくつになっても精巣捻転が起こる心配があります。
[型による分類]
精巣捻転は、➀急性完全型②再発不全型③移行型の3型に分類されます。
➀急性不全型
突然、急激な痛みが生じ、精巣壊死(くさってダメになる)に至ります。
②再発不全型
突発的な痛みを生じるが、数十分から2~3時間程度で自然に痛みがおさまります。あるいは、医師の手で外部からねじれを整復できます。このような軽い症状を何度もくり返します。
③移行型
再発不全型で、再発をくり返しているうちに、急性不全型に移行して、致命的な発作を起こすようになります。たいていの再発不全型は移行型に変わります。
精巣捻転の症状
精巣捻転の主な症状は、精巣あるいは下腹部から太腿にかけて、突然、激痛が起こることです。激痛が収まらず、緊急手術が必要となる場合が多いのですが、激痛が数十分から2~3時間でおさまり、再発をくり返す場合も少なくありません。
[回転とねじれ]
精巣は、右回り(時計回り)にも左回り(反時計回り)にも回転します。左回り(反時計回り)の方が、やや多いようです。
回転角度は、360度が一番多く、次いで180度が多いようですが、中には3回転4回転する場合もあります。
鞘膜の中で精巣のみが捻転を起こす「鞘膜内捻転」、鞘膜ごと精巣が捻転を起こす「鞘膜外捻転」、精巣と精巣上体(副睾丸)の接合部で捻転を起こす場合と、ねじれ状態にもいろいろあります。
[症状]
まず下腹部から太腿のあたり、精巣(睾丸)周辺に、突然、激しい痛みが生じます。陰嚢が炎症を起こし、だんだん腫れてきます。うっ血状態になり、触ると激しく痛みます。
吐き気がして、嘔吐することもあります。原則として、発熱することはありません。精巣の位置や角度に変化が起きる場合もあります。
精巣挙筋反射がなくなります。太腿の内側をこすると、精巣挙筋が収縮して、陰嚢内の精巣が上がることを、「精巣挙筋反射」といいます。陰嚢を持ち上げると、痛みが増します。これを「プレーン徴候」といいます。
感染症とは違うので、白血球数が上昇することはありませんし、膿状の尿が出ることもありません。血液検査でも異常がありません。
精索捻転で血流が悪くなるので、激しい痛みが生じるのですが、血行が絶たれると壊死がおこります。壊死は、発症後6時間で始まります。血行が12時間絶たれると、55~85%が壊死します。24時間後には、精巣の生存率は10%未満になります。壊死してしまった精巣は、もう元には戻れません。
精巣が壊死すると、痛みが軽くなります。
[精巣捻転の診断]
[症状]の中で書きましたように、血液検査で白血球数の上昇などの異常がありません。「精巣挙筋反射の喪失」や「プレーン徴候」を、触診で確認します。
超音波検査やシンチグラフィで血流を確認できなければ、「精巣捻転」の可能性が高くなります。
同じような症状の疾患が他にもありますが、時間が経過すると、精巣壊死を起こすことがあるので、あまり診断に時間をかけられません。「精巣捻転」の疑いがあれば、手術を行いながら診断と治療を同時に行うようにします。
[似たような症状の病気]
急に睾丸が痛み出す病気には、「急性睾丸炎」と「精巣上体炎」「睾丸梗塞症」があります。どれも、できるだけ早く泌尿器科の医師の診療を受ける必要があります。
急性睾丸炎(急性精巣炎)
細菌やウイルスが精巣(睾丸)に侵入して炎症を起こす病気です。精巣が急に赤く腫れ上がって、激しい痛みを発します。たいてい、流行性耳下腺炎(オタフクカゼ)にともなって発症します。炎症は両側の精巣に広がり、長引くと、不妊の原因になります。
発熱・炎症の拡大・耳下腺炎・白血球数の増加などの症状が、精巣捻転と異なります。
精巣上体炎(副睾丸炎)
精巣上体(副睾丸)に細菌やウィルスが侵入して起きる感染症です。
精巣上体に炎症が起こり、急激に腫れて大きくなります。腫れた精巣上体が精巣を覆ってしまうので、精巣が腫れているように見えます。陰嚢も腫れてしまいます。急激な疼痛が生じ、発熱します。
陰嚢を上方に持ち上げると痛みが和らぐので、精巣捻転と違うことがわかります。精巣挙筋反射の喪失もありません。
発熱・白血球数の上昇・尿による細菌検出・膿尿などの症状が、精巣捻転と異なります。
睾丸梗塞症
症状は精巣捻転と全く同じですが、精巣の回転や精索のねじれはありません。血栓や外傷、炎症などにより、急激に血流障害が起きて、精巣が壊死してしまう病気です。発症後5~6時間以内に手術をして、血流を回復させます。
精巣捻転の治療は、手術がベスト?
精巣捻転は緊急の治療を要する疾患です。様子を見ているうちに、手遅れになることがあります。精巣が壊死してしまったら、もう元には戻らないのです。
[何科を受診すればいい?]
突然、精巣あるいは下腹部から太腿にかけて、激しい痛みを生じたら、「泌尿器科」へ行ってください。泌尿器科専門病院か、泌尿器科のある総合病院がオススメです。
緊急手術を行う確率が高いので、手術のできる病院へ行くことです。
[どんな治療をするの?]
検査の結果、「精巣捻転」が疑われる場合は、手術により捻転を整復する方法と、外部から手で捻転を整復する方法があります。
外部から手で整復して痛みがとれた場合は、再発する可能性があるので、後日、改めて手術して、精巣を固定するようにします。
外部から手で整復できない場合は、緊急手術となります。
陰嚢を切開して、捻転を整復します。捻転が整復されて血流が再開すると、精巣はきれいな色になります。精巣を陰嚢に戻し、回転しないように固定します。
切開手術をした時には、すでに精巣が壊死している場合は、精巣を摘出します。壊死した精巣をそのままにしておくと、もう片方の精巣に悪影響があります。手術を受ける患者さんの80%が、精巣壊死に至っています。また、ねじれが強すぎる場合も、精巣を摘出することがあります。
また、片方の精巣に捻転が起きれば、反対側の精巣にも捻転が起こりやすいと考えられます。予防のために、陰嚢切開手術をした時に、もう片方の健全な精巣も固定するようにします。
手術は約1時間程度です。新生児・乳幼児・小児は全身麻酔で手術します。中学生以上になると、下半身麻酔で手術できます。手術自体は、簡単なものです。
精巣捻転が疑われる場合は、速やかに手術を受けて、捻転を整復し、同時に再発予防のために精巣を固定することをオススメします。
[精巣捻転手術の予後は?]
精巣の血流が回復し、精巣を回転しないように固定すれば、再発も防げますし、何の問題もありません。
壊死してしまった精巣を摘出しても、片方健全な精巣が残っていれば、ふつうに生活できます。健全な精巣に捻転が起こらないように予防措置を行うことが大事です。
最近では、必要に応じて、インプラントによる精巣再建もできるようです。
まとめ
精巣捻転は、思春期から20代前半の若い男性に発症することが多い疾患です。突発的な疼痛を生じるので、気づかないで悪化させることはありません。ただ、軽症の場合は、自然に捻転が戻ってしまったり、医師が手で捻転を整復できたりします。すると、改めて手術を受けることに消極的になります。再発をくり返すうちに、強い捻転が起きて、精巣壊死という最悪な事態になることもあります。
軽度の発作であっても、泌尿器科の医師とよく相談して、根本的治療を受けることをオススメします。
精巣捻転の疑いがあれば、できるだけ早く手術する必要があります。受診や手術をためらっているうちに精巣が壊死してしまうと、不妊などダメージが大きくなります。その後の結婚生活にも影響が出る可能性もあるのです。
精巣捻転が起きた時は、必ず6時間以内に泌尿器科で適切な治療を受けてください。