アンドロゲン不応症というとやはり聞き馴染みのない病名でしょう。
この病気で苦しむ方は数多くいらっしゃいます。アンドロゲン不応症の実態とその詳細、そして患者の心のケアについて深く触れていきたいと思います。
この記事の目次
アンドロゲン不応症とは?
まずこの病気の詳細からご説明しましょう。
性分化疾患のひとつ
「アンドロゲン」とは男性ホルモンのことを指します。性分化疾患と言っても解りにくいと思われますので、もっと詳しく説明しましょう。
これは染色体に関わることです。男性の場合、染色体はXYで、女性の場合はXXを持っています。
女性が子供を宿す理由についてはご説明しなくてもご存知かと思いますが、どうやって男性か女性かに分かれるのかはご存知ではないでしょう。
簡潔に述べますと、胎児の時にホルモンの影響を受けて男性になるか、女性になるか、ということが決まります。つまり外性器もここに含まれます。男性の場合は、精巣や陰茎、女性の場合は、膣や子宮などがこれによって決まり、形成されます。
しかし、このアンドロゲン不応症の場合、染色体はXYで男性であるにも関わらず、男性ホルモンがうまく作用しないことによって、外性器が女性のようになります。つまり、身体も心も女性であるけれど、染色体、男性ホルモンの作用がうまくいかず、外性器のみがうまく作られない病気をアンドロゲン不応症と言います。
この病気の名称「精巣女性化症候群」と言いますが、近年、この病名は患者をとても傷つけてしまうとされ、「男性ホルモン不応症症候群」、「アンドロゲン不応症」と呼ばれるようになりました。
この病気は日本でも13万人に1人の確率で起こる可能性がある病気です。この病気でとても大切なことがたくさんありますので、順を追って説明したいと思います。
アンドロゲン不応症の原因
この病気を発症する原因はX染色体依存の伴性遺伝にあります。X染色体依存の伴性遺伝とな何か、と言いますと、母親が保因者、原因遺伝子を持っている場合、男児が生まれると発病する可能性があるということです。
つまり、これは遺伝性の強い病気であることがわかります。
上記項目でも述べたように男性の染色体であるXYと女性染色体XX、これの影響を受けて外性器が形成されますが、染色体XY、つまり男性ホルモンがうまく作用しないために、外性器がちゃんと作られないということが一番の原因であることがわかっています。
アンドロゲン不応症に気づくきっかけとは?
では、どうやって気づくのか、発見に至るまでの経緯をご説明します。
初潮が一番のきっかけ
アンドロゲン不応症の患者は染色体はXYで男性型の染色体を持っていますが、外見や外性器は女性のものを持っています。
ですが、女性のように膣を持たない例もあります。もしあったとしても盲端で終わっていて子宮などや卵巣がないために、月経が訪れることはありません。
なので、18歳を過ぎても初潮が訪れないのを不思議に思い、検査を受けて初めて自分がアンドロゲン不応症であるということに気づく、知るというケースがほとんどなのです。
これは主に完全型のアンドロゲン不応症患者に見られるケースです。完全型というのはアンドロゲン、つまり男性ホルモンが全く作用しないということで、解剖学的な性や性的指向の全てが女性型であるということです。
つまり性的な指向や解剖学的な性では女性であるため、月経が来ないなどの二次性徴の遅れに気づくまで知ることがないというのがほとんどであると報告されています。
問診や遺伝子検査で内分泌検査を行い、確定診断が下されます。最終的な検査結果は遺伝子検査が一番有力であることがわかっています。
アンドロゲン不応症の場合、男性ホルモンがうまく作用していないため、外見は女性であっても腹膣内に精巣を認められることができます。
外見や外性器が女性にも関わらず、膣内に精巣があるというのが認められるということが、その患者にとってどういう心境の負担を強いられるのか、それは計り知れないでしょう。
アンドロゲン不応症の治療法と、心のケアについて
ここでは、その治療法と、この病気で一番重要である心のケアについて触れていきたいと思います。
具体的な治療法
完全型の場合は解剖学的な性や性的指向が女性であるため、その病気に気づくまでに女性として育てられてきた方がほとんどです。なので出来るだけ女性として成長できる手助けをする治療法が用いられます。
具体的には、女性としての機能を保持するためにエストロゲンホルモンの補充を行なう治療法です。外見は女性であっても体内では十分な女性ホルモンが分泌されないため、エストロゲンホルモンを補充するということになります。補充を怠ると更年期障害などが起きる場合もあります。
また、外性器が女性であっても、体内に精巣を確認できるケースもあります。その場合、精巣を体内に残しておくとがん化する可能性が高いため、摘出する手術も行います。
膣が欠損している場合、膣形成術などで膣を広げたり形成する手術を行い、陰毛が欠損している場合には薬物療法や植毛を行います。
このようにして外見が女性であり、女性として育てられた方の手助けをし、今後の生活に出来るだけ支障を出さないようにする治療法が挙げられます。
ただ、子宮や卵巣はないので、妊娠はできません。ですが、膣形成術によって性生活は可能です。通常の女性のように性生活を送ることができます。
病気に気づいた時の本人への告知の配慮
アンドロゲン不応症であるとわかった際の告知についても十分な注意と配慮が必要です。これは本人だけでなく家族にもそれが言えます。
当然、本人は相当なショックを受けるのは間違いありませんが、その家族もショックを受けるでしょう。与えるショックを最低限に抑える配慮が必要です。
また本人への病名の告知は、家族に聞いてから行ないます。十分話し合った上で、本人伝えるのが今一番取られている方法です。告知の具体的な方法は、産婦人科医師や遺伝カウンセラーを持つ医師から家族とよく話をし、方針を決定します。アンドロゲン不応症は遺伝の病気です、本人や家族の告知以外にも、もう一つ重要なことがあります。
それは、親戚や姉妹にも、同じ病気を持つ方がいる可能性があるということを伝えなければなならないということです。遺伝性の病気は同じ血を引く方もその可能性を有しているということをどう伝えるべきかよく配慮をして伝える必要があるでしょう。
心のケアについて
この病気、アンドロゲン不応症は心のケア、つまり精神的な面の配慮も十分必要な病気です。
何故かと言うと、その事実を知らされるまでは本人はもちろんそのことを知らずに女性として育ってきているわけなので、ある日突然、とてつもない事実を突き付けられるというのはとても思春期の女性にとって軽いものではありません。
特に、染色体が男性であることや、妊娠ができないということ、それを知らされる本人は計り知れないほどのショックを受けることは目に見えています。
なのでその場の伝え方の配慮はもちろん、その後についても心のケアは十分必要であると言えます。
精神的なダメージというのはそう簡単なものではありません。一度傷を負ってしまえば二度と立ちなれないような深い傷になることもあります。それを考慮した上でどう伝えるべきか、今後どうメンタルケアをするべきかを考えなければなりません。
産婦人科医師だけでなく、心療内科などの通院を余儀なくされる場合もあります。本人がそう望んだわけではなく、たまたまそう生まれてきてしまったという事実をどうとらえるのかは本人にしかわかりません。なので、十分と配慮が必要になってきます。
この病気で苦しむ人たちはたくさんいます。周りにアンドロゲン不応症の方がいる場合はもちろん、対応などには十分注意が必要です。この病気を発症している方だけではなく、周りの人間もメンタル的な意味で十分な知識が必要だといえるでしょう。
停留精巣の摘出について
ここでは、体内にある精巣の適切な摘出時期やその詳細についてご説明します。
摘出時期
一般的に停留精巣の摘出については成人以降に行う場合が多いです。
理由は成人前にがん化するリスクが極めて低いためであること、そして、成人前に摘出してしまった場合、第二次性徴に必要なホルモン量が不足してしまうためです。
男性ホルモンの特定の部分は体の中で女性ホルモンに変換されて機能しております。なのでアンドロゲン不応症を発病されている方の精巣でもホルモンが分泌されるのです。分泌されたホルモンは乳房の発育や女性らしい体型を作るための重要な補給源となります。なので成人になるまでは残しておくことが多いそうです。
特に完全型の場合は成人以降も摘出せずにそのまま経過を見るという場合も少なくはありません。なぜなら、完全型の場合はがん化するリスクは(2%)とされていて、極めて低いと言えます。摘出してしまうと、女性ホルモンの補充を定期的に、一生涯に亘って行わなければならないため、そのまま体内に残しておくという選択もあり得るということです。
もちろん、定期的な検査は行う必要があります。がん化のリスクが低いとは言っても絶対にならないというわけではないので、定期的な検査は必ず受ける必要があります。
膣形成術について
では次に、女性として生きるために重要なことを順に追って述べようと思います。
性生活に必要な治療
まず一番に挙げられるのが、膣整形術、また造膣術です。元々無かったものを作る場合や、長さなどが足りない際に、その長さを伸ばすなどの手術です。一般的にこれは性生活を望まれる方がされる手術です。とは言っても、望まない方は滅多にいないのでほとんどの方がこの手術をされます。
今まで女性として育てられた方はもちろんですが、性生活というのは人間からは切っても切れないものと言えます。もちろん変な意味ではありません。一般的な人間の欲というものからこれは、アンドロゲン不応症の方にとってとても重要なことにもなります。
妊娠はできませんが、女性として男性と性行為を楽しむことができるというのは今後、生きるという上でアンドロゲン不応症の方の生きる意欲にも繋がります。心のケアとともに身体のケアも十分必要であることがわかりますね。
女性ホルモンの補充治療について
精巣を摘出した場合のみになりますが、一生涯に亘ってエストロゲンホルモンの投与が必要になります。これは女性ホルモンが体内で生成されないために行う治療です。
通常、女性はある一定の年齢から女性ホルモンの分泌が少なくなり更年期障害を発しますが、元々、女性ホルモンではなく男性ホルモンを持つアンドロゲン不応症の方は精巣摘出後は必ずこのエストロゲンホルモンの補充を行います。
女性ホルモンは女性にとって必要不可欠なものです。身体のバランスを保つ為に必ず必要なホルモンなので一生涯の補充が必要となってきます。
病気を発症し大変な上に定期的に病院へ足を運ばなければならないのはとても辛いと言わざるえないでしょう。
エストロゲンホルモンとは?
エストロゲンホルモンとは、女性に欠かせないホルモンのことです。
細かく言うのであれば、エストロン、エストラジオール、エストリオール、エストロールの総称です。エストロゲンは、オキシトシンに対する感受性を増幅させる効果があります。
「オキシトシン」とは、別名幸せホルモンと言って、9種類のアミノ酸から形成されるホルモンです。いわゆる様々なホルモンの調整役として体内で活躍するホルモンのことです。
エストロゲンホルモンは女性らしさを上げる作用があります。動物で例えると、動物は発情期になるとホルモンが多量に分泌され、身体の色や体毛が変わったり、声が出るようになったりなど、異性を惹きつける力を出します。人間にも同じことが言えますので、エストロゲンホルモンは女性の魅力を高める効果があるといえるでしょう。
主にエストロゲンホルモンが豊富に分泌される時というのは「恋」をした時です。体内でエストロゲンホルモンが分泌され美の向上に繋がります。
身体などにもその影響は現れてきます。女性らしい体格などを構成するのもエストロゲンホルモンの大きな役割の一つと言えます。
そしてエストロゲンホルモンは卵巣で作られます。別名卵巣ホルモンとも呼ばれています。なので、アンドロゲン不応症の方はエストロゲンホルモンが作られないということになります。
つまり総括すると、女性にとってエストロゲンホルモンはとても重要な要素を持っていると言えますね。
染色体について
では、ここで上記に亘って述べてきた染色体について詳しくご説明します。
染色体とは何か?
人間や動物、この世に生きる生物は、数々の細胞からできています。細胞の一つ一つには核母り、核の中には生き物が形作ったり生きていくために必要な情報がたくさん詰まっています。その情報を司ってるのがDNAです。DNAはタンパク質と一緒に折りたたむことによってX型のような形状になります。これを染色体と言います。
つまり人間の身体を構成するにあたってとても重要なものであるということがわかります。
染色体は核の中に複数個存在しますが、通常は二本で一組です。そして人間の細胞の核には23組、46本の染色体があります。そのうち1組、2本の染色体を性染色体と言って、男性か、女性かどちらになるかを決めています。
最初に述べたと思いますが、男性はXY、女性はXXです。つまり人間の性を司る重要な部分ということですね。
アンドロゲン不応症の方はこの染色体がうまく作用しなかったため、男性の染色体を持ちながら、外見や外性器が女性になってしまうという病気であることがここでわかります。
染色体がうまく作用しない事例に染色体異常というものがありますが、これは後天的な要因が大きく、アンドロゲン不応症との関わりは薄いと言えるでしょう。
染色体がうまく作用しない原因についてはわかっていないことが多いのです。人間の身体の大部分はまだ解明されていないこととも言えるかもしれません。どうしてこのようなことが起こってしまうのか、どうしたら防げるのか、それも今はわからないというのが正しい表現と言えます。
予めそれがわかっていれば、予防する手立てがあるのであればそれに越したことはないのでしょうが、人間の身体はまだ解明されていないことの方が多いのでしょう。現在のところは予防する手立ては見つかっていません。
まとめ
総括になります。
ここまでアンドロゲン不応症についてご説明してきましたが、やはり何と言っても一番重要なことは、患者とどう接するべきか、そして告知をした後の心のケアが一番大事になります。告げられた内容の重さを受け止めて生きていらっしゃる方はたくさんいます。その方々に対してどう接するべきか、そして知識を持って接するのとそうでないのでは大きく違います。
偏見などにとらわれず、相手の立場になって考えてみてください。
この記事を読んで今後のアンドロゲン不応症に対する意識を少しでも持って頂けたらと思います。