「化膿性扁桃腺炎」という病気、ご存知でしょうか。罹ったことがある方もいれば、病名からはなんとなく想像がつく感じがするけれどはっきりわからないという方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。
化膿性扁桃腺炎とはどのような病気なのか、症状としてはどのようなものがあるか、また罹った時の対処法や予防法などをご紹介します。
扁桃腺炎とはどこ?どんな働きをしている?
化膿性扁桃腺炎の説明の前にまず扁桃腺とは何か、わかりやすく解説します。
そもそも扁桃腺とは?
扁桃腺とはどこのことを指すのでしょう
扁桃腺は口を大きく開けた時、のどちんこの両脇に見える膨らみです。「口蓋扁桃(こうがいへんとう)」とも言われます。昔アーモンドのことを「扁桃」と呼んでおり、扁桃腺がアーモンドの種の形に似ているところから「扁桃腺」と呼ばれるようになりました。
他にも実は扁桃があり、「咽頭扁桃(いんとうへんとう)」「耳管扁桃(じかんへんとう)」「舌扁桃(ぜつへんとう)」があります。ここでは「口蓋扁桃」の「扁桃腺」について説明しています。
「扁桃腺が腫れた」などというように今まで「扁桃腺」と呼ばれていたのですが、最近は「扁桃」と呼ぶことが多くなってきました。そもそも「腺」というのは「分泌」をする細胞の集まりを指します。例えば「唾液腺」「汗腺」などが挙げられます。
ところが「扁桃腺」は何も分泌はしていないことから「腺」はつけずに「扁桃」と呼ぶのが妥当ではないかとされているようです。分かりやすく馴染みのある「扁桃腺」で説明します。
扁桃腺の役割は
扁桃腺は、口や鼻からウイルスや細菌が入ってきた時に、それらが体に侵入しないように戦い、防御するリンパ組織で免疫に関わる器官と言えます。
扁桃腺は小さな子供の免疫の役割を担っています。その扁桃腺が大きく発達しているのは10歳くらいまでで、大人になるにつれ体の免疫が確立してくると徐々に小さくなっていきます。
一般的には化膿性扁桃腺炎になるのは小さな子どもが多いのですが、免疫力が弱っていると大人でもかかるので注意が必要です。
化膿性扁桃腺炎の主な症状や原因は?
では化膿性扁桃腺炎の症状にはどのようなものがあるのでしょうか。そしてどのような原因から化膿性扁桃腺炎になってしまうのでしょうか。
化膿性扁桃腺炎の症状
初期症状は「軽い喉の痛み」や「倦怠感」から始まりこれが「強い喉の痛み」となります。さらに「食べ物を飲むときの喉の違和感や痛み」「ものも飲み込めないくらい強い痛み」が見られます。喉の痛みは右か左のどちらか一方であることが多いようです。
また「38度以上の発熱」「全身倦怠感」「関節の痛み」「食欲不振」「吐き気」などの症状が見られます。さらに首のリンパ節の腫れが見られることもあります。ひどくなると口が開けにくくなります。扁桃腺は赤く腫れ、膿瘍といって白っぽい膿が付着します。自分で鏡で確認することができることもあります。
白い膿のようなもので「膿栓」というものが扁桃腺近くに付着している時があります。これは扁桃腺炎そのものの症状ではないのですが口臭の原因ともなるので、気になる時は耳鼻咽喉科で相談してみましょう。
喉の痛みや腫れがひどく食べ物だけでなく水分すら取れなくなることがあります。そうなると脱水症状となり身体が衰弱してしまいます。小さな子では特に脱水症状は重症になりやすいので特に注意が必要となります。
「扁桃周囲膿瘍(扁桃周囲炎)」になることも
ひどくなると「化膿性扁桃腺炎」から「扁桃周囲膿瘍(扁桃周囲炎)」となり口蓋扁桃の周りまで炎症が起きてしまうことがあります。喉の周辺の痛みも大変激しくなり飲み込むことが困難になり、脱水症状が出てきます。また高熱も出てぐったりしてしまいます。
原因はウィルスや細菌がほとんど
原因となるのは主に「細菌感染」や「ウィルス感染」です。
「細菌」は「化膿性レンサ球菌」「黄色ブドウ球菌」「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」「肺炎球菌」「インフルエンザ菌(いわゆる「インフルエンザ」とは異なります)」などが挙げられます。「ウィルス」では「アデノウィルス」「EBウィルス」などがあります。
細菌の場合は「日和見感染」という感染があります。扁桃腺には実は普段からいろいろな細菌が住んでいますが、元気な時は特に何の症状もありません。しかし過労や様々なストレス、急激な気温の変化や風邪などが原因で体の免疫力が低下してしまうと細菌の活動が活発になり大暴れしてしまい、細菌感染の症状が出てしまうのです。
また「クラミジア」という細菌に感染した場合も扁桃腺炎になります。「クラミジア」は性病のイメージが強いのですが、扁桃腺に感染する場合もあるのでオーラルセックスなどの後の喉の痛みには気をつけましょう。
慢性化膿性扁桃腺炎になってしまうことも
急性の化膿性扁桃腺炎が長く続くと慢性化膿性扁桃腺炎になってしまうことがあります。症状としては一旦落ち着くものの、「喉の痛み」「全身倦怠」「軽い発熱」などの症状がずっと続いてしまいます。
また扁桃腺炎を何度か繰り返し発症していることで免疫が過剰になってしまい、「習慣性扁桃炎(反復性扁桃炎)」という扁桃腺炎になってしまうこともあります。年に4回以上かかると習慣性扁桃炎の可能性があり手術の対象になることもあります。
また「扁桃病巣感染症」といって扁桃腺炎が原因となって腎臓や皮膚、骨など他の臓器や組織に病気を引き起こしてしまうことがあります。例えば「IgA腎症」「リウマチ熱」「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」などという病名が挙げられます。
化膿性扁桃腺炎の診断や治療は?予防はどうしたらよい?
化膿性扁桃腺炎、何科にかかればよいのか、その診断や治療方法について説明します。
また予防はどうしたらよいのか説明します。
化膿性扁桃腺炎、その診断や治療は?
喉の痛み、全身の倦怠感、発熱などの症状が出たら「耳鼻咽喉科」や「内科」(子供は小児科)で必ず診察してもらいましょう。
高熱の時はもちろんのこと、熱があまり出ていない時でも喉の痛みで自分では気づかないうちに脱水になっていることもあります。また後から熱が出てしまうことも予想できるので、まずは病院で診てもらうことが大切です。
病院では問診のほか、喉、扁桃腺を直接診るという診察はもちろんのこと、場合によっては血液検査をしたり、喉を綿棒で拭って何の菌やウィルスに感染しているのかを調べたりすることもあります。腫れがひどく穿刺や切開で外科的処置をする場合は、出した膿から診断する場合もあります。
またCTスキャンなどを画像で膿の範囲などを診断する時もあります。治療期間は一般的には1週間程度ですが、慢性になってしまったり、入院したりなど人によってはもう少しかかる場合もあります。
ウィルスの場合は?
原因がウィルスですと、対症療法で鎮痛解熱剤やうがい薬などを使用し安静にしておきます。熱が高い、また喉の痛みがひどく水分が摂れないなど、脱水がひどいと点滴する場合もあるようです。なんとか自分で水が飲める場合はこまめに水分を摂るようにすると良いですね。
ウィルスの「アデノウィルス」は発熱期間も比較的長くなることが多いようです。「プール熱」と呼ばれて流行ることもあるので流行時には注意が必要です。
アデノウィルスは喉の痛みが強く大変つらくなります。症状が細菌感染と区別がつきにくいこともありますが、喉の粘膜を綿棒で拭って迅速診断を行うと、アデノウイルスに感染したことがわかります。
とはいえ抗生剤のようにアデノウィルスを攻撃してくれるお薬は今のところないので、先に述べたように鎮痛解熱剤やうがいなどで少しでも楽になるようにし、あとは水分補給をして安静にするしかありません。
「EBウィルス」は「伝染性単核症」を引き起こす「ヘルペスウィルス」の一種です。「キスウィルス」とも呼ばれ唾液から唾液で感染してしまいます。このウィルスは赤ちゃんの頃に感染してしまうと「不顕性感染」と言って症状が出ないことが多いのですが思春期以降に初めて感染すると、扁桃腺炎などの症状が出てしまいます。
このウィルスに感染したかどうかは血液検査でわかります。このウィルスに関しても今の所直接治す特効薬はありませんので、やはりお医者さんの指示に従って薬を飲み水分補給をし安静にしてしっかり治すことが大切です。
細菌感染の場合は?
細菌感染の場合はそれぞれの細菌にあった抗生剤を内服したり、抗生剤の点滴をしたりします。またこの場合も脱水している場合は点滴治療をすることもあるようです。高熱が出たり、喉の痛みが強くものも飲み込めないような場合は鎮痛解熱剤も処方されることがあります。
大人でかかってしまった場合などは、抗生剤が効くと楽になり無理をして仕事に行ってしまったり、家事をしてしまうこともあると思いますが、なかなか治らず慢性の化膿性扁桃炎になってしまう恐れもあるのでしっかり休むようにしたいですね。
「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」の場合
もし細菌感染で「溶血性レンサ球菌(溶連菌)」と分かった場合はちょっと注意が必要です。一般的にはよく「溶連菌にかかった」などと言われ、幼稚園や小学校で大流行することもあります。
溶連菌にかかると喉の痛みはもちろん、皮膚に赤い小さな湿疹ができたり舌がイチゴのような状態になることが多いようです。また治る頃に「落屑」と言って手足の先の皮がポロポロむける人もいるようです。誰もが必ずこれらの症状が出る、とは限らないので自分で勝手に判断しないようにしましょう。
溶連菌の場合も抗生物質が処方されます。お薬が効いてくると喉の痛みや熱なども楽になってくるはずです。ここですぐに勝手に薬をやめてしまったり仕事や学校に行ったりするのはよくないことで、しっかり菌を退治するまで最後まで飲み続ける必要があります。お医者さんの説明をきちんと聞いて指示に従うことが重要です。
なぜなら溶連菌の感染には合併症の恐れがあるからなのです。合併症は「リウマチ熱」「急性糸球体腎炎」というものが挙げられます。
溶連菌の合併症とは
「リウマチ熱」の症状は高熱が出て関節痛が生じることが多く、さらに心炎を発症することがあります。心炎の治療がきちんと行われないと心臓弁膜症になってしまう恐れがあります。また勝手に手や足が動いてしまう不随意運動(舞踏病と呼ばれることもある)が起きることもあり、重大な病気の原因となります。
また「急性糸球体腎炎」というのは腎臓にある糸球体に炎症が起こってしまう病気です。簡単に説明すると、糸球体というのその名の通り糸が絡まりあったような形態をしており、「球」のような形です。糸球体は血液をろ過する役割をしています。役割とは体に必要なものを残し、あとは老廃物として尿にしているのです。
この糸球体に炎症が起きてしまうとろ過がうまく行えず尿がうまく作り出せなくなります。そうなると尿が出なくなってしまうのでむくみが生じ、排出されるはずだった体の塩分や水分が過多となり、そのため血圧も上がってしまいます。さらに血尿やタンパク尿が出てしまいます。
とはいえ溶連菌に感染した人が誰しもが必ずこれらの病気にかかるわけではありません。そしてリウマチ熱は今ではほとんど見られない病気です。ですから必要以上に心配しないようにし、お医者さんの指示にきちんとしたがい、薬を服用することが大切ですね。
溶連菌に罹った後、念のために2週間後くらいに尿検査をする場合もあります。2週間後に来るように言われた場合は必ず病院にいくようにしましょう。
外科的な処置は?
化膿性扁桃腺炎がひどくなり、「扁桃周囲膿瘍」になってしまうと腫れや痛みもひどく、膿が扁桃腺だけでなくその周囲にもたまり、口も開けづらくなります。こうなると水分が自分では取れず脱水症状になってしまいます。
また膿が胸部や頸部に流れ込んで呼吸困難になるなどの危険もあります。こういった場合は膿を外科的に出す処置、「排膿」をすることがあります。局所麻酔を行い穿刺(せんし)をして膿を吸い出す、または切開をして膿を出します。穿刺は外来で緊急に行うことが多いのですが、切開となると入院して処置を行うことが多くなります。
入院・手術ということも
扁桃周囲膿瘍になり、腫れがひどく切開をして膿を出す場合、また脱水がひどく衰弱してしまった場合などは入院して治療することもあります。
また繰り返し化膿性扁桃腺炎になる場合も手術の対象になることがあります。毎月のように化膿性扁桃腺炎になったり、日常生活に支障が出たり、体調不良が続いたりする人は手術をする方が楽になるかもしれませんね。
また日頃から扁桃肥大でいびきがひどかったり睡眠時無呼吸症候群になってしまっている人も手術を勧められる場合があります。「扁桃摘出術」といって扁桃を摘出し、またアデノイドを取ってしまう手術で、術後はやや痛みがあるようです。入院はほぼ1週間から10日程度と言われていますが、症状や年齢などにもよりますので、医療機関とよく相談することが大切です。
化膿性扁桃腺炎は人に移る?
化膿性扁桃腺炎そのものが人に移ることはありません。家族が化膿性扁桃腺炎になったからといって近くにいた自分も化膿性扁桃腺炎になるわけではないのです。しかし原因となるウィルスや細菌そのものがくしゃみや咳、接触などで移ってしまう危険性はあります。
例えば溶連菌(溶血性レンサ球菌)は人に移ってしまいます。子供の病気のイメージが強いのですが、看病しているお母さんなど大人にも移ってしまうことがあるので注意が必要です。学校などで流行することもあり、流行時には子供だけでなく大人も気をつけましょう。
またアデノウィルスもくしゃみや咳などで人に移ってしまう危険性があります。便にもウィルスがでるので、赤ちゃんが感染するとおむつを替える時などに移ってしまう危険性があります。
過度に恐れる必要はありませんが、周りの人も気をつけておくことが大切です。また自分自身が罹ってしまった時は、マスクをするなど人にうつさない心配りをしたいものです。化膿性扁桃線炎に限らず喉の痛みや熱があるときはマスクをしておくとよいですね。
予防は?
予防はまずはストレスや疲れをためないようにすることが大切です。疲れがたまっているのに無理をしてしまったり、睡眠不足が続いたりしないよう日頃から気をつけるたいものです。
また食事が不規則、ジャンクフードが多い人、過度の飲酒をする人は食生活を見直し、バランスが取れた食事を摂るように心がけましょう。喫煙している人はもともと喉を痛めやすいので、禁煙をしていくと予防だけでなく身体にも良いですね。
化膿性扁桃腺炎は風邪がきっかけともなりますので、普段の風邪予防が化膿性扁桃腺炎の予防にもつながります。こまめな手洗いやうがいも予防になりますから日頃から心がけるようにしたいものですね。また口元を触る癖のある人は、そこから感染することも考えられるので指先を丁寧に洗うようにし、マスクをしておくと予防になります。もともと喉が弱く、頻繁に扁桃腺が腫れるという人は耳鼻咽喉科などで相談をしてみるのもいいかもしれません。
まとめ
化膿性扁桃腺炎は子供だけではなく大人もかかってしまうことがあります。喉の痛みも激しく高熱も出て大変つらいものです。まれに重症化してしまったり他の疾患の原因となることもあるので、早めに治療するようにしたいものです。
それには喉の痛みがあった時は無理をしないで、耳鼻咽喉科や内科など早めに病院に行くことが大切です。大人の場合は軽い風邪かな?などと思って見過ごしてしまいがちなので、特に気をつけましょう。
また赤ちゃんや小さな子は喉の痛みをうまく訴えることができないので、周りの大人が気をつけてあげることも大切ですね。
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